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こんな夢を観た

こんな夢を観た「売り切れの札がかかる」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/09/21

 デパートの屋上で開かれているビヤガーデンも、今日が最終日。

 中谷美枝子、桑田孝夫、志茂田ともる、それとわたしで、まだ昼間だというのにテーブルに着いていた。

「明日から秋だって言われても、なんだかピンと来ないよね」中谷はジョッキを傾ける。

「8月も終わり、新しい月が始まる、そう表現すればわかりやすいのではありませんか」志茂田が言った。彼は飲むよりも食べる方がいいらしく、取り皿がすでに枝豆の皮でいっぱいだった。

「プハァッ、秋になったからって、いきなり寒くなるわけじゃあるめえ? おれは明日もビールを飲むぜ」鼻の下についた泡を手の甲で拭いながら桑田が言う。

「でも、ビアガーデンは、どこも今日でおしまいだろうね」わたしは、グラスの残りを一気に空けた。


 夏も終わりだというのに、空は少しも秋らしい気配を感じさせない。

 綿菓子のような雲が地平線から湧き上がり、相変わらずの太陽がギラギラと照りつける。

「夏が過ぎると、どうして涼しくなるのかな」誰にともなく、中谷が聞く。

「そりゃあ、夏は太陽がぐーんと近づいてくるからだろ?」と桑田。わたしも、うんうんとうなずく。

「ばかなことを言ってはいけませんよ、桑田君。地軸が傾いているからに決まっているじゃありませんか。夏と冬、日本ではどちらが日照時間が長かったですかね?」すかさず志茂田が正す。

 あ、そうか。理科の授業で習った覚えがあった。

「へへっ、そうだっけ? 勘違いしてたわ」桑田は照れ隠しか、またジョッキに口をつける。

「ほんと、桑田っていい加減なんだから」口を尖らせる中谷だったけれど、相手を非難する資格はないと思う。


 志茂田とわたしがジョッキ1杯を飲む間に、中谷と桑田は2杯ほどのペースで進む。とにかく、この2人は酒に強かった。

 わたしが2杯目を飲み終え、お代わりを頼もうとすると、まだ半分以上残っていた中谷も、

「じゃあ、あたしもっ」と言って、飲み干す。

「よっしゃ、もう一杯っ!」なぜか、桑田も対抗心を燃やし、ガブガブと水のように流し込んでいる。

「ふう、桑田君達につき合うのも、なかなか大儀ですね」仕方なくジョッキを空ける志茂田。わたしと違って、飲めないわけではない。のんびりと味わうのが好きなのだった。

「すいませーん、大ジョッキ4つっ!」桑田が大きな声で店員を呼ぶ。


 運ばれてきたビールには、どうしたわけか泡が入ってなかった。

「泡のないビールって、どうしようもなく侘びしいもんだわね」グラスをじっと見つめながら、中谷が悲しそうな声を出す。

「おーい、店員さん。うちらんとこのビール、泡が入ってねえぞーっ」桑田が不機嫌そうに叫ぶ。

 店員が飛んで来る。

「あ、これは申し訳ございません。すぐに泡を入れさせていただきますので」

 背中に大きなカゴを背負うと、天高くそびえる梯子を、慣れた様子で登り始めた。

 やがて入道雲にまで達すると、せっせと摘み取ってカゴに放り込んでいく。


「へー、ビールの泡って入道雲でできてたんだ」わたしは感心しながら見上げていた。

「なるほど、だからビアガーデンは夏限りなんですか」志茂田もしきりにうなずいている。

 入道雲はどんどん少なくなり、ついに最後の一切れもカゴに収まった。

「とうとう、なくなっちゃったね」と中谷がつぶやく。

「これでいよいよ夏も終わりかぁ」いつになくしみじみとした口調の桑田。

 店員は「何にでも書けるマジックインキ」で、空いっぱいに、


 〔今年の入道雲は、これにて売り切れ〕


 と書き記した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夏が終わると雲模様が変わるのはそういうわけだったんですね!Σ(・□・;) 泡の池があったかと思うと、今度は泡のないビール…夢野さんの夢はパズルのようで面白いです。 私はお酒が飲めませんが、入…
[良い点] まさに夢で見そうな内容ですね。雰囲気が僕好みです!そしてビールが飲みたくなりました。
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