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呪手記  作者: 青黒水龍
呪手記 ―Ancient documents of a nightmare and hope―
2/21

オープニング

あかん、いきなりミスった。今回は文章量も少ない上にクオリティも低いですが、次はこんなんじゃありません!(約束です)

 深い森の半ばにある小さな広場の中心で、たき火が赤々と燃え上がる。左後ろでは馬が小さく鳴き声を上げ、右後ろにある大きめのテントの中からは肉の香ばしい匂いが漂ってきた。それと共に、ワインの香りも肉のそれに混じって白水霧夜の鼻孔をくすぐった。


 昔は、このクレーターのようになっている空地の真ん中にさる貴族の屋敷があったという。しかし、時代の変化と共に屋敷は廃れていき――今は瓦礫がいくつか残るのみだ。

 いつからか、日本にも貴族が再び現れ始め、瞬く間に腐敗していった。同じように復活した軍隊にも貴族の権力がはこびり、それが政府の猛烈な衰退を招いた。


 ふと足元に目を向けると、野菜サラダを入れていた食器の中は既に空っぽになっていた。

 大きなあくびを一つして、たき火から少し離れた丘の半ばで寝転がる。ここ数日睡眠が浅いせいで少しでも体を休めるとたちまち眠気に襲われる日が多くなった。今日の夕食はまだパンを一切れと野菜サラダしか食べておらず、まだ腹を満たしたとは到底言えないが、どうやら脳は食欲よりも睡眠欲を欲しているらしい。と、目を閉じようとした時、まだ半分ほどしか閉じていない目を何かが塞いだ。こんな所でそんなことをする者は一人しかいない。霧夜の一つ年上の幼馴染、水沢優璃愛だ。顔を上に向けると、彼女の大人びた綺麗な声が聞こえてくる。


「はい、持ってきてあげたわよ、まだ食べたりないでしょう?」


 と言うと、霧夜の頭の右側にサンドイッチが二つ入った深皿を置いた。彼のすぐ隣に足を伸ばして座り込んだ優璃愛はそのうちの一つを無理矢理持たせて、もう一つは自分の口に頬張った。仕方なしに霧夜も一口かじる。

 さすがに暑い時期とだけあって、肉の焼き加減はレアではなく、ややウェルダンなくらいにしっかりと火を通されていた。その上下を挟むレタスはとても新鮮で、シャキシャキと実に良い音を立てる。更にその上下を挟むパンは上下で大きさが若干異なっていて、少し歪な形を成していた。

 しかし、それに対して霧夜自身は内心で微笑を零すだけで、片手にすっぽり収まる程度のサンドイッチをもう一口かじる。

 すると、早くもサンドイッチを食べ終わっていたらしい優璃愛は体ごと向き直り、左手の人差し指で霧夜のわき腹をツンとつついた。


「わっ、な、何すんだ」


 まったく予想していない方向からの不意打ちに彼の背中が一瞬すくみあがった。租借していたサンドイッチを飲み込んだ直後のタイミングだったのが幸いだ。

 ジト目で睨む霧夜に対し、優璃愛は複雑そうな、困っているような表情を浮かべて、


「霧夜も、もう少し緊張を崩したら? 最近眠れてないでしょ。それに、その軍服も脱いだらいいじゃない。暑いでしょう?」


 どうやら優璃愛は、何でもお見通しらしい。違うテントで寝ているはずなのに、なぜそこまで分かるのか。若干呆れていると、優璃愛は唐突に立ち上がり、ホットスリットに付いた草葉を払い落して、駆けるようにして斜面を下りて行った。

 今は夜だから彼女が何を着ているのかよく分からないが、昼だとエメラルドグリーンのブラウスを着用していて、肩とへそを露出している。

 霧夜は再び草むらに寝転がると、たちまち睡魔が襲ってくる。以前までの癖が相変わらず抜けないのか、無意識のうちに周囲を見渡していた。


(何か、いるな……)


 元軍人としての勘が襲撃者の来訪を知らせる。右手をポケットに突っ込んで、中に入っている鈍色の石を取り出した。片手に収まる程度の小石だ。

 刹那、その小石が光を反射するように光り、次の瞬間一メートル半はある大ぶりの帯剣に姿を変えた。霧夜の右手は革の巻かれたグリップを握っていて、鈍色に光る刀身の峰を肩に担いで森に向かって歩き出す。


「ケーキャキャキャ!!」


 耳をつんざくような奇声を上げながら機の陰から飛び出てきたのは、体長五十センチほどの子鬼だ。その数は三匹。額に小さな角が生えていて、それぞれ手に小振りの棍棒を持っている。体の大きさからして人を狙っているのではなく、家畜……ここだと、馬を狙ってきたのだろう。

 だが、所詮子鬼。軍人として腕を鳴らした霧夜の敵ではない。自然体のままだらりと下げた剣を左下から斬り上げると、先陣切って突っ込んできていた子鬼の胴体をまっすぐ斬り裂いて、空中に吹き飛ばした。

 吹き飛んだ子鬼は一瞬の間、呻くような断末魔を上げて、直後に全身が青色の炎に包まれた。炎は勢いを増し、子鬼を焼き尽くしていくが、下の草には一切燃え移らない。これが子鬼等の妖魔の死。命を散らした妖魔は血を流すことなく炎に包まれて完全に消え去る。


「クキャキャキャ!」


 仲間の死を何とも思っていない――いや、そういう概念のない低級な妖魔共は、一瞬も怯まずに棍棒を振り上げる。


「フッ!」


 今度は帯剣を一度肩に担いで、右上から左下に袈裟切り。ジャンプして頭を殴ろうとしていた子鬼の胴を一閃し、子鬼の傷口から青い炎が噴き出した。炎は子鬼の全身を包み込み、剣にも少し燃え移る。別に放っておいても問題はないが、霧夜は鬱陶しそうに剣を一振りして炎を払い落した。

 三匹目の子鬼も、状況を見ずに俺に棍棒を振りかざす。木から飛び降りるその姿は胴体ががら空きで、振りも大ぶりなものだった。

 霧夜が半歩右に動くと、頭を叩くはずだった棍棒は地面を虚しくぶっ叩く。手が痺れたのか、かわされたのが心外だったのか――子鬼は地面に棍棒を当てたまま固まっている。霧夜は冷たい目で子鬼を見下ろし、帯剣を振り下ろした。

 ギャアァッと小さな悲鳴が上がるのと同時に、割れた頭部から炎が噴き出た。炎は両断された胴からたちまち全身を包み込んでいく。

 霧夜はその見慣れた光景を最後まで見届けた。


「寝るか」


 辺りから妖魔の気配が消え、ざわついていた木々も落ち着いてきたようだ。霧夜は帯剣を石に戻して草むらに仰向けで寝転がる。両手を組んで枕代わりにし、足を放り出した。

 草むらのベッドは僅かにやわらかくて、寝心地はかなり良い。当然、睡魔も足早に襲ってくるわけで、遂には考えるのも大変なほどに眠くなってしまったので、思考を止めて意識を落とした。そういえば優璃愛が今日こそ解読作業に来なさいとか言ってたような気がするが、寝てしまったものは仕方がない。メンバー全員が集まる大きな集会だが、唯一人だろう霧夜は今まで一度もその解読作業に参加していない。別に、解読作業と言っても古文書を読むのは谷田という考古学者の老人だし、目的は旅の進路だ。別に何も知ったことではない。

 今夜も作業への参加をバックれることにして、霧夜は明日の依頼の為に早々寝ることにした。明日は霧夜の顔なじみの貴族から依頼が舞い込んできている。それと共に夕食会もするという。そこに、優璃愛も同席させることになったのだ。


(昔からお節介なだけなんだけどな、あいつ)


 あいつ、というのはもちろん優璃愛のことだ。こうやって寝ていると――


「テントで寝なさいよ」


 と、優璃愛がこの先の言葉を代弁するかのように霧夜に声を投げかけてくる。


「涼しいし、ここで寝させてくれ」

「風邪ひくわよ」

「そんな柔が軍人なんてできるわけないだろ。外の方が好きなんだよ」

「じゃあ好きにしなさい。その代わり、はい」


 ばさりと霧夜の顔の上に薄手のかけ布団が投げられた。手でそれを払いのけ、仰向けのまま目を閉じる。

 霧夜はテントが嫌いなわけではないが、今のように星空の下で寝ている方を好むのは事実だ。軍隊の暑苦しい空気から解放される時間だったこともあり、よくベッドを抜け出して近くの森にあるハンモックで寝ていた。

 夜の涼しい風が霧夜の黒髪になびき、ボタンが三つ外された軍服の隙間から全身を冷まさせた。後で優璃愛が薄手の布団をかけていたことには気づかなかったが、彼女の表情は呆れる一方で優しかった。


 ――翌日、岩瀬伯爵の邸宅に向かう。彼は趣味の良い男ではないために霧夜は苦手意識を持っていたが、おそらく軍を辞めたことをまだ知らないのだろう。

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