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2.スタート地点を目指すきっかけ

死なせたくない詐欺師が、生きたがらない猫に出会いました。

結構鬱系なので、笑いを求めての閲覧は厳しいかもしれません。

ご承知おきの上、おつきあいください。

 一番強い快楽は、身体ではなく脳を刺激されることなのだと思う。猫…彼女と知り合って、今さらながらにその事実を強烈に知る事になった。しかしながら、彼女と何かしら特別なことをしたわけではない。ただ、会話を重ねただけのことだ。


 彼女の問いには何にでも答えた。彼女に何を聞いても答えを得られた。ただそれだけのことなのだが、淀むことなく留まることのない、究極のストレスフリーな雑談は脳を強く強く刺激して、ただそれだけを延々、時間を惜しむことなく貪り続けることができた。知りあって数日も経てば、脳はすっかり中毒状態になっていた。


 彼女はほんの少し、人生に躓いていた。

 彼女は、どこの酒場にも居そうな「酒の席でデカイことを吹聴する男」に騙されて、彼女自身の人生計画みたいなものを狂わせてしまったのだ。だが、身を崩す・破滅するという類のものではなく、私から見たら「些細な計算違い」にしか思えない程度のもので、だから彼女が何故連日引き籠って酒浸りになっているのかを理解することができなかった。話の端々から推測して探ってみるものの、どこから見ても致命的な事態とは思えなかった。


 一方で、私は人生に退屈していた。

 とっくに人生の躓きは感じていたし、しかしながらその躓きも受け入れて消化してもいたし、「人生消化試合中」のように恙無く毎日をフツウに生活していた。交際している人もいたが、相手は年々と強欲さを増していた。人間、年齢を重ねると擦り減り薄くなるものもあるが、厚みを増していくものもあるのだ。化粧とか。色々な欲とか。面の皮とか。そういうものを厚くするには、何かしら手持ちのリソースを費やさなくてはいけない。化粧をするなら金を費やすし、欲にまみれるなら恥入る心を費やし捨て去ったりするわけだ。

 まあ、強欲とは言っても甘えると称する傲慢な態度さえ気にしなければフツウにやり過ごすことができる程度のものだから、やっぱり私の人生に大きな影響はなかった。私はやっぱり無難にやり過ごしていたのだけども、それもある意味作業的で退屈にすら思っていた。

 ああ、すごく簡単に纏めるなら、私はきっと「カッコ良さを求めていない中二病」みたいな状態なのだと思う。


 話が逸れた。


 そんな平凡な日々の中、彼女との会話はとても中毒性が高すぎて、私にとっても彼女にとっても、その行為は強烈な現実逃避となっていた。夢中で会話を貪っているうちに、久しぶりに「やりたいこと」が自分の中に湧きあがってくるのを感じた。

 お節介にも、彼女が「彼女の歩いてきた、そしてこれからも歩くべき元々の道」へ戻る手助けをしたくなってきたのだ。正確には、彼女はあまりにも聡明な人だったから、単に戻るきっかけ、しかも「機会」のような具体的なものですらない、ただの「心の風向きの修正」程度のことができればよいと思ったのだ。


 それは、ほんの軽い気持ちだった。彼女の躓いたきっかけは、言っては悪いがよくあることでもあったので、会話を楽しみ気分を変えているうちに、彼女自身が自力で充電をしてまた歩き始めるのだろうと考えてもいた。しかしその目論見はまったく的外れにも程がある程の的外れで、結果的には、その後の私の人生を大きく変えることになった。


 私は「詐欺師」になったのだから。

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