第七話 ヴェルス学園の入試 その五
たまたまランキングチェックをした所
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でした。
読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
~テスト科目「総合」~
ようやく最後のテストだ。
最後は「総合」。
これは人間の俺にとっては、得意科目である。
そして、テスト内容とは。
「迷宮を抜けることらしいよ」
「迷宮か」
「途中には色々な仕掛けが施されているようです」
俺達は待機会場にて、そんな話をしていた。
なんと、俺達は最後まで残っていたのだ。
「最後とか、なんか嫌な予感がする」
「そう?迷宮とか、楽しそうじゃん!」
「いや、俺が言ったのは順番のことであってだな……」
「?」
「……いや、なんでもない」
「では、最後のチームの方。こちらへ」
そんなことをしていると、試験官の先生が呼びに来た。
「あれ?」
「どうしたの、レイっち?」
「いや、試験官の先生が今までと違うから……」
「あぁ、それはさっきまでの先生がちょっと倒れてしまいましてね……代わりに私がしてるんですよ」
「そうなんですか」
なんだろう、この嫌な予感。
当らなきゃいいけど……。
「最後の試験はここです」
試験官の案内に従って着いた先は、屋外だった。
そして、地面に魔方陣が描かれていた。
「?」
俺は何故か違和感を感じた。
「ここから、試験会場となる迷宮に転送します」
「わかりました」
―ま、気にしててもしょうがない。今はテストに集中!
俺達三人は、その魔方陣の中に立った。
「では、試験開始です」
その言葉と同時に、俺達の体は転送された。
side ?
「では、試験開始です」
俺のその言葉と同時に、ガキ共を迷宮に飛ばした。
当然迷宮っつっても、試験用なんかじゃねぇ。
俺特製の、バケモノ共が徘徊している迷宮だ。
あのガキ共が、無事に帰ってくるとは思えねぇ。
「……だが、念には念を押しておくか」
俺は迷宮の出口に陣取ることにした。
「クハハハ!」
ようやく、ようやくこの学園に復讐できる……!
side out
気が付くと、そこはすでに迷宮の中だった。
「なんだか、不気味だね……」
「そ、そうですね……」
「……」
俺は耳を澄ませてみた。
ズル……ズル…………ズル………
いたるところから、何かを引きずっている音が聞こえてきた。
「この迷宮、殺気が満ちているな……」
「殺気、ですか?」
「あぁ。とてもじゃないが、テストのために作られたとは思えんな……」
まさか、転送先を間違えたとか……?
いや、それは無いだろうな……。
「とりあえず動こう。一か所に留まるのはあまりよろしくない」
「そうだね」
「分かりました」
俺達は迷宮を脱出するため、動き出した。
本来、地図の無いテスト用の迷宮を抜け出すためのヒントがそこらじゅうにある。
しかし、この迷宮には一つとしてなかった。
「どうやって抜け出せってんだ」
「ここは野生の勘を使おう!」
「それができるのはごく少数だ。俺達がやったら迷うに決まってんだろ」
「う……それもそうだね」
「どうしましょう?」
「そうだな……って、なんか来たな」
考えていると、通路の先から何かが近寄ってきているのが分かった。
そして、その姿が認識できたとき、俺は愕然とした。
それは鎌を引きずっていた。
ズル……ズル……ズル……
「アウ……ゥウゥ………」
「な、なんでこんな奴が、ここにいるんだ!?」
「レイっち?どうしたの?」
「ありゃ、死神だ!危険度Sランクのモンスターだよ!」
「「え!?」」
こいつはまずいな……。
俺一人なら余裕だけど……。
「……二人とも、奴の鎌には何があっても触れるな。あれで斬られたら、動けなくなるぞ」
「りょ、了解」
「わ、わかりました」
「とりあえず、逃げるぞ。死神相手に真面目に戦ってたら、命が幾つあっても足りん」
俺達は死神に背後を見せないように、後ずさりしながら距離を取った。
「あの曲がり角まで行ったら、全速力で走るぞ」
二人は黙ったまま頷いた。
そして、曲がり角を曲がった瞬間、俺達は全速力で走り出した。
ズル……ガリガリガリガリ!
「ち……!追ってきやがった!」
「「えぇ!?」」
突然鎌を引きずる音が変わった。
死神は背後を見せた瞬間、ものすごい勢いで追いかけてくる。
俺はその場で止まり、振り返った。
「レイっち!?」
「レイさん!?」
突然俺が止まったことで、二人が驚きながら止まった。
「ホーミングレイ!!」
俺は死神めがけて、光属性の魔法を放った。
死神はそれを避け、そのまま俺に近寄ろうとした。
が、俺が放ったのは追尾性のある魔法。
死神は避けきれず、魔法が直撃した。
「行くぞ!今のは足止めにすぎん!」
「分かった!」
「はい!」
俺達は無我夢中に、迷宮を走り回った。
奇跡的に一度も行き止まりに会うことは無かった。
だが、何度も別の死神に遭い、そのたびに同じような手で足止めをしていた。
―でも、この死神たち、なんかおかしいような……
俺達は、気が付けば広場に出ていた。
―まさか、この運も自称神のチートが関係してんのか?
そんなことを思いつつも、広場で息を整えていた。
すると、そこへ声を掛けられた。
「まさか、本当にここまで来るとは思ってなかったな」
「「「!?」」」
声がした方を見ると、そこに立っていたのは俺達をここに飛ばした「人」の試験官だった。
「……アンタ、試験官じゃねぇな?」
「何でそう思う?」
「試験官がこんな所に受験生を飛ばすわけがねぇ」
「間違えたとは考えなかったのか?」
「間違えたらすぐに迎えに来るだろ」
「そりゃそうだな」
「それになんで試験会場の魔方陣じゃなくて、屋外に描かれた魔方陣を使う?」
「ま、確かに違和感だらけだな」
試験官(偽)はおもむろに手を掲げた。
その手には、宝石のような物が握られていた。
「まぁ、違和感云々はどうでもいい。お前らを始末する」
「なんで俺達を殺そうとする?」
「お前たちにゃ恨みはねぇ。俺はただこの学園を潰したいだけだ」
「潰したいだと?」
「あぁ、この俺を、俺様を追放したこの学園をな!来い、バハムート!!」
試験官(偽)がそう叫んだと同時に、後ろの地面に描いてあった魔方陣からバハムートが召喚された。
「危険度SSSランクのバケモンだ……抵抗しない方が苦しまずに死ねるぞ?」
「「「っ!?」」」
俺は無意識に剣を握りしめた。
だが、残りの二人は、バハムートの放つ殺気に中てられたのか、気絶して倒れていた。
「おいおい、そっちの二人は見ただけで卒倒かよ」
「くっ」
「お前は見どころありそうじゃねぇか」
「黙っとけ」
―無理な戦いだってのはよくわかってる……でも
「何もせずにおとなしく殺されるなんてことは、したくねぇ!」
俺は二人の周囲に防御魔法をかけ、バハムートと対峙した。
戦い始めて十分。
「くそ……!」
もう限界が近づいていた。
「まぁ、バハムート相手によくやったと思うぜ?」
男は笑いながら、バハムートに向かって命令した。
「じゃ、最期ぐらいは楽に行かせてやるよ」
バハムートは口の中で何かを溜め始めた。
「バハムートのブレスをくらえば、一瞬であの世だ」
くそ、いい気になりやがって……!
―仕方ねぇ……か
あんまし前世でやってたことをこっちではやりたくなかったけど、そんなことも言ってられんな。
「調子に乗るなよ……」
「あン?」
俺は剣をバハムートに投擲し、それがバハムートの目にクリーンヒット。
「グアアァァア!?」
バハムートは思いもよらぬ痛みに混乱し、溜めきれてなかったブレスを途中で吐き出した。
それは地面に大きなクレーターを作った。
その間に俺は空中に魔方陣を描き終えていた。
「……来たれ、南雲!」
俺の言葉に反応した魔方陣からは、俺が前世に使っていた居合い刀が姿を現した。
俺の前世の名前は「神木聡」。
神木家は先祖代々、武術の名門として知られていた。
俺は様々な神木流武術の中でも、最も居合いを得意としていた。
そして、俺の居合いの師匠から受け継いだのがこの刀、南雲である。
南雲は刀身幅が広く、重ねも厚い刀である。
俺が前世の最期で一人旅をしていたのも、修業の一環だったのだ。
そんなことはさておき。
俺は刀を納刀状態で腰辺りに構え、体勢を低くした。
「神木流居合い術、三十六代目『神木聡』の名に懸けて、貴様を潰す!」
俺はあえて前世の名を名乗った。
それは、この居合い術を使う時は神木聡でなければ、師匠に顔向けできないと思ったからだ。
バハムートは駆けだした俺に向かって、尻尾を振ってきた。
「神木流居合い術……牙狼!」
俺はその場でとどまり、右上から迫ってくる尻尾を迎え撃った。
ザシュッ!
「グギャァァアアァ!!」
俺が放った居合いは、バハムートの尻尾を二つに裂く。
俺は刀を鞘に納めながら、俺が使える魔法の中で最強な魔法を唱えた。
「デッドエンド!!」
これは大量の死神を呼び出す魔法だ。
ただし、先程の死神達とは違い、召喚者の言うことのみを聞く。
また、死神の鎌で斬りつけられると、生ける物はたちまち絶命してしまう。
バハムートは死神を鬱陶しそうに翼や腕で弾き飛ばしていた。
だが、数には勝てなかったようだ。
ザシュ!
一体の死神バハムートを斬りつける音が聞こえた。
「グギャァァアァア!!」
一度しか斬りつけられていないのに、バハムートの動きは格段に鈍った。
それを見た死神たちは、一斉にバハムート目がけて集結した。
これでようやく終わるように思えた。
だが。
「ホーリーボム!!」
なんと、男が一か所に集まった死神を、光属性の魔法で消滅させてしまった。
あの男の魔術の威力、普通の人が出せるもんじゃない。
―まさか、魔人なのか?
「なにしてやがる!さっさとそいつらを殺せ!!」
「グオォォオォォ!!!」
バハムートは苦しみながらも、俺に向かってレーザーを吐き出した。
バハムートの溜めブレスより威力は劣るものの、直撃したら即死。
「神木流居合い術、滅呷!」
居合い切りでレーザーをなんとか横に逸らし納刀した。
バハムートは俺がレーザーを逸らしている間に、ブレスを溜めきったらしい。
「カッ!!」
バハムートのブレスが俺に向かって放たれた。
俺は神木流居合い術の中で、禁忌扱いされていた技を放った。
「……神木流居合い術…………真空刃!!」
居合いの剣圧で作りだした真空の刃を飛ばした。
俺の体はそれを放った時の衝撃で、思いっきり踏ん張ったにもかかわらず後ろに吹き飛んだ。
その中であっても、俺はしっかりと自分の放った技がどうなったかを見届けた。
真空刃はブレスとぶつかり、ブレスを突き破った。
だが、軌道がずれたのか、それはバハムートに当たることなく、迷宮の天井を抉っただけだった。
―こりゃ、確かに禁忌扱いされるわな……
俺は体勢を立て直し、着地して男の方を向いた。
「……」
俺が今できるのは、ただ黙って睨み付けるだけ。
さっき真空刃を放った時、もうすでに体力の限界を超えていた。
「な、なんでバハムートのブレスに打ち勝ってんだ!?」
一人で盛り上がっちゃってるよ……。
さて、どうしたもんか……と考えていると、突然周囲から転移魔法独特の音が聞こえてきた。
そして現れたのは、ヴェルス学園の先生達だった。
そのうちの一人が俺に、もう一人がニーナ達の方へ向かった。
「大丈夫かね?」
「え、あぁ、はい……」
俺の方に来てくれた老人は、雰囲気だけで只者じゃないというのが分かった。
「そうか。ならば、あやつを捕縛せねばな」
そう言って老人は、男の方を向いた。
「ディグリス・モール。おとなしく捕まってくれるな?」
「……ハ!ふざけんなよ!おい、バハムート!」
シーン……
「は?な、なんで動かねぇんだ!?」
バハムートは空中に浮いたまま、固まっていた。
そして、次の瞬間、バハムートの体が砂になっていった。
「な、なんだ!?なんで消えてんだ!」
一人パニくる男。
「……もう一度問おうかのぉ。おとなしく捕まってくれるな?」
男は老人の言葉に動きを止めた。
「くそ……テレポート!」
「キャンセラー!」
「くっ!?」
男は咄嗟にテレポートを唱えたが、老人の妨害魔法でキャンセルされた。
「くそがぁぁぁぁぁぁ!!」
その後、男は暴れようとしたところを取り押さえられ、騎士団へと連行されたのだった。
そして、ひと段落ついた頃、俺は老人から声を掛けられた。
「すまんかったのぉ……危険な目に遭わせて」
俺は改めて老人をじっくりと見た。
「あなたは……学長、ですね……?」
「うむ、いかにも。よくわかったのぉ」
「学園関係者で只者じゃない人って言ったら、学長ぐらいしかいないでしょう」
「ほっほっほっ、そうじゃのぅ」
やっぱり只者じゃなかった。
しかし、学長がわざわざここに出てくるってどういうことだ?
「学長。一つお聞きしたいんですが」
「何かね?」
「学長は、あの男と知り合いですか?」
「……よくわかったのぅ」
「やっぱり……あの男はなんなんです?」
「うぅむ……巻き込まれたお主らには話さねばならんな……じゃが」
学長はそこでニーナ達と俺を見やり、優しい笑顔を浮かべた。
「また後日にしよう。今日は疲れたじゃろ。ゆっくり休みなさい」
そう言われると、今更のように疲労感が体を襲った。
「一週間後、合否の発表、その後始業式じゃ。お主らなら問題なく合格するじゃろうから、その時に話そう」
「分かりました」
こうして、俺達の最後の受験科目「総合」を終えることが出来たのだった。
昨日のPVが一万を超えてまして、感激いたしました!
重ね重ね、ありがとうございます!




