第五話 ヴェルス学園の入試 その三
一日に二つ目投稿!
~テスト科目「知略」~
午後、今度は知略のテストが始まった。
テスト内容は、以下のような感じ。
殺人の犯人が逃走。
それを追いかける騎士団とは別に、待ち伏せ班が用意され、その待ち伏せ班が受験生たち。
もちろん、これは実際に起こるわけではなく、シュミレーションでする。
で、知略のテストでは、どこで、どんなふうに待ち伏せをするか、それが問われる。
あらかじめ、逃走劇が行われる街の地形は教えられる。
地図も渡されるため、地の利は関係なくなる。
「次のチーム!」
「お。俺達みたいだぜ」
「よーし、頑張っちゃうぞ!」
「私も頑張ります!」
再び試験会場に足を踏み入れた。
武器はすでに取ってある。
「では、試験開始です」
試験官がそう言うと同時に、周囲の風景が変わった。
「なるほど、シミュレーションってこういうことか」
魔法で作り上げるとは。
「犯人が逃走を開始するのは、今から十分後です」
試験官の声が聞こえて来た。
「よし、じゃあ、その十分の間に作戦練るぞ」
「りょーかい!」
「分かりました」
俺は地図を開き、犯人が逃走を開始する地点にマークを付けた。
「ここが開始地点らしい」
「私達の現在地は?」
「ここですね」
サフィが指差したのは、マークを付けた地点と真反対ぐらいの位置だった。
「ここか……」
俺は地図を眺めた。
まず、犯人が最初に逃走出来る道は、真っ直ぐな大通り、入り組んだ裏道、そして曲がりくねった通り。
曲がりくねった通りは、大通りほどデカくは無い。
そして、騎士団本部は真っ直ぐな大通りに面している。
つまり、大通りは通らないだろう。
―犯人逃走が成功する場合は、どういう時だ?
この街は海に面している。
―ということは、海に到着すればいいのか?
いや、それはいくらなんでもわかりやすすぎる。
もっと考えろ……。
逃走経路は海じゃないなら、空か?
空は目立つな……。
じゃあ、地下?
地下……?
「っ!」
俺は急いで地図を確認した。
「あるな……」
「どうしたの?」
「ちょっと待ってくれ、もう少しで出てきそうなんだ」
確かにここを通れば、安全に逃げれるな。
ということは……!
「よし、こっちだ!」
「ちょ、ちょっと!?」
「レイさん!?」
俺は急いで駆け出した。
時間は無い。
「レイっち、説明してよ!」
「走りながらな」
「それでもいいから」
「分かった。まず、犯人の逃走が成功する場合だが、どこに逃げれば成功すると思う?」
「え?えーっと……海かな」
「そうだ。最初は俺もそう思った。だけど、それだとリスクがデカい」
「なんでですか?」
「ここは海に面してる街だ。海に逃走用の何かを置いている可能性を思いつかない騎士はいない。つまり、海には別の騎士達が配置されるはずだ」
「じゃ、海じゃないの?」
「あぁ、海じゃない。地下だ」
「地下、ですか?」
「あぁ。地下に行くには、一か所しかねぇ」
「それって……」
「ウェールだ」
ウェールとは、簡単に言うと井戸だ。
ただ井戸とは違って、海と井戸を地下でつなげて、海水をくみ上げれるようにしている。
つまり、犯人はウェールを使って海に出て、そのまま別の場所に逃げるだろう。
それで、この街にあるウェールは一か所だけ。
「だから、待ち伏せするなら、ウェールの近くだ!」
「なるほど!」
「急ぎましょう!今、逃走が始まったようです」
俺達は急いでウェールを目指すのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「サフィ、大丈夫か?」
「は、はい……」
サフィは苦しそうに走ってる。
大丈夫かな?
「もう着くぞ!」
よし、時間的にも間に合うはずだ。
「見えたぞ!」
「どうするの、レイっち!」
俺達はウェールの設置されている、ちょっとした広場に着いた。
「まずは、ウェールを隠す」
「え!?」
「魔術でですか?」
「あぁ、インビシブルで隠すぞ」
俺は魔方陣を描きだした。
「唱えればいいんじゃないですか?」
「念には念を押して、な」
魔法は大抵唱えるだけで使えるが、魔方陣を描いた方が同じ魔術でも威力が変わるのである。
「よし、できた。インビシブル!」
そして、ウェールは誰の目にも見えなくなった。
「これで、犯人も慌てるだろ」
「そうですね……」
「後は配置だ。俺たち三人が固まるのはまずい」
俺は物陰に隠れ、犯人の後ろを取る役目。
ニーナは真正面から犯人を迎え撃つ役目。
サフィはもしものために、海側の通路に待機。
「よし、行くぞ!」
「おっけー!!」
「頑張ります!」
よし、気合十分!
そして、待つこと五分。
広場に一人の男が駆けこんで来た。
その顔には焦りはなく、余裕ある笑みを浮かべていた。
だが、ニーナを見て、ウェールが無くなっているのを見た瞬間、焦りを見せだした。
「な、なんでここが!」
「いっくよー!!」
「ちぃっ!」
男は魔術を使い、ニーナを吹き飛ばそうとした。
しかし、俺がそれを許すわけもない。
「ハァッ!!」
「ンな!?」
詠唱途中に、後ろから攻撃された男は、そのままニーナの横を通り抜けた。
「あっ!」
「チッ!」
「あばよっ!ガキども!」
勝ち誇ったような表情で、海側の方へ駆けだした。
「サフィ、頼んだ!」
「はいっ!アイスキューブ!」
男はアイスキューブにそのまま突っ込み。
ガツッ
「いってぇぇぇぇぇぇ!?」
「はい、逮捕完了」
「ンな!!!」
男は力なく、うなだれた。
「そこまで!試験終了です。お疲れ様でした」
試験官の先生の声が聞こえた途端、周囲の風景は先程の試験会場に戻っていた。
「ふぅ……」
「やったー、捕まえれたね!!」
「レイさんのおかげです!」
「そんなことは無いさ。お前ら二人がいたから出来たんだ」
こうして、二日目の試験日程を終えたのだった。




