第四話 ヴェルス学園の入試 その二
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~入試二日目~
「ふぁ……」
現在、俺はあくびをかみ殺すのに必死だった。
実は昨日の夜、緊張して寝れなかったのだ。
―俺は小学生か!
「ふぁ……」
あくびをかみ殺しながら、ヴェルス学園に向かった。
今日は、今日明日の試験のパーティーメンバーが発表される。
俺は馬の合う奴等がメンバーになってくれることを、切に願っている。
発表方法は、ヴェルス学園の中にある掲示板に張り出される紙に、受験番号がチームごとに区切って張り出される。
そして、十チームごとに割り当てられた教室に向かい、そこでパーティーメンバーとの面会。
俺はヴェルス学園に着いたらすぐに、掲示板の方へ向かった。
そこには黒山の人だかりができていた。
「み、見えねぇ……」
掲示板に書いてある文字を読もうと思ったら、これをかき分けて進まなきゃならんのか……。
めんどいからもうちょっと待つことにしよう。
十分程すると、人もさっきより少なくなってきたので、俺は掲示板へと向かった。
俺の受験番号は「14764」。
「12523」
「14764」
「02157」
「Ⅰ-Ⅴ」
掲示板の端っこの方に書かれていた。
俺はそれを確認し、待機場所であるⅠ-Ⅴに行った。
待機場所では基本的に、試験の作戦とかを立てる。
俺は結構遅めに学園に着いたし、二人はもういるだろう。
「しっかし、でけぇな……」
校内は「バカ」が付くほどデカかった。
俺は少し驚きながら地図を見ながら目的地に向かい、教室のドアを開けた。
三人そろったチームもあったのだが、俺よりも遅い奴がいるらしく、十チーム中五チームがまだそろい切ってなかった。
俺は片っ端から声を掛けて行った。
「ちょっといいか?残りの奴の番号分かるか?」
「え?えーっと、『14764』だったかな」
「あぁ、やっと見つかった」
「ということは、君が『14764』番さん?」
「あぁ」
「やっとそろったー!」
お、最初っからビンゴだった。
俺が来たことに喚起する、目の前の女の子。
彼女には獣の耳と尻尾が生えていた。
「獣人か」
「そうだよ!」
凄く元気だな。
あ、種族によって外見が少し違っているから、わかったんだぜ?
獣人ならこの子のように、獣の耳と尻尾が生えている。
精霊ならエルフみたいに、耳がとがっている。
魔人なら褐色の肌。
人間はそれ以外。
ただ、人間と魔人の見分けが未だにつきにくい。
ただ単に日焼けしてるようにしか見えないからなぁ。
「それで、もう一人は?」
「あぁ、それならこの子だよ!」
そう言った獣人の子に、引っ張られたのは窓の外を眺めていた女の子。
「きゃっ!?な、なんですか?」
「後の一人も来たんだよ」
「え!い、いつの間に……」
「さっき来た所。気付かなかったの?」
「はい……緊張で……」
わかる、わかるぞその気持ち。
俺だって緊張してる。……柄じゃないけど。
「魔人……か?」
「え……?」
俺が発言したのがそんなに不思議だったのだろうか?
彼女にめっちゃ見られてるンすけど……。
すると、獣人の子が代わりに答えてくれた。
「そうだよ、この子は魔人だよ」
「そうか」
「そうだ、自己紹介しとこうよ!」
獣人の子が突然そう言いだした。
まぁ、確かに名前を知っておいた方が、何かと便利だろう。
「いいぞ」
「……」
未だに魔人の子がこちらを見てきている。
なんだ、俺なんかしたか?それか、俺の顔になんかついてるとか……。
「じゃ、私から!私はニーナ・クォルツ。ニーナって呼んでね!」
「……犬?」
ニーナの尻尾や耳を見た時から、そう思っていたのがついつい声に出てしまった。
「犬じゃないよ!オオカミだよ!」
「悪いな、見間違えて」
オオカミか。
頬を膨らまして怒ってくる姿が、なんとも様になっている。
「じゃ、次は俺かな。見ての通り人間で、名前はレイ・サイズニアだ。好きなように呼んでくれ」
「……!」
俺の名前を聞いた途端、さっきまで俺の事を見ていた魔人の子が何故か驚いた。
しかし、それに気づかなかったニーナは、マイペース。
「じゃあ、レイたん!」
「却下!」
「えー、好きなように呼んでいいって言ったじゃん」
「だからって、たんを付けるってどういうことだ」
「ぶーぶー!」
「別の呼び方にしなさい」
「じゃ、レイっち!」
「……(´Д`)」
まぁ、さっきよりはマシだが……。
コイツのネーミングセンスはどうなんだろうか……。
「あ、反論が無いということは、決定?」
「……好きにしろ」
「やたー!」
俺は深いため息をつかざるを得なかった。
「じゃ、最後は君だね!」
「え!?あ、わ、わかりました!」
緊張しすぎじゃないか?
「わ、私は、サフィ・アンダーハートです……」
ん?サフィ?何処かで聞いたことのあるような……。
「…………………………………………………………あ」
思い出した。
五年前、お婆さんを助けようとした女の子だ。
まさか、あの子が魔人だったなんて……。
「……あん時の」
「え!?」
俺がボソッと言っていた言葉に反応したのか、サフィは何かを期待するような目をこちらに向けて来た。
「お前、あん時の女の子だったのか」
「え?二人とも顔見知り?」
ニーナは何が起きているのか分からないようだった。
「あぁ、顔見知りって言うほどでもないけど……」
「どゆこと?」
「五年前に私のお婆ちゃんを助けてくれたんです」
「で、そん時に一度だけ会ってたってわけ」
「あぁ、なるほど!」
「あの時は本当にありがとうございました……」
「いいって、別に。それより、もうそろそろ試験開始みたいだぜ?」
俺は教室の入り口を指差した。
そこには試験監督官である先生が立っていた。
いつの間にかほかのチームも全員揃っており、試験開始時間となっていた。
「諸君!これより、入学試験の二日目を行う!呼ばれた番号のチームは来るように!」
そして、二日目の入試が始まった。
~テスト科目「魔法」~
ついに俺達の番が回ってきた。
「はぁ~……緊張します……」
「大丈夫だって!リラックスリラックス!」
俺達は案内に従い、試験会場に入った。
ちなみに試験会場は全部で二十ヶ所ある。
一ヶ所で、待機教室三クラス分やることになっているらしい。
「武器を選んでください」
試験官が指差した方には、様々な武器が並べられていた。
「私はトンファーだね!」
ニーナは迷わずトンファーを手に取った。
「俺は剣だな」
俺もオーソドックスな剣を手に取った。
「わ、私は、短剣で……」
サフィも短剣を手に取り、準備が整った。
「それでは、テスト科目『魔法』を開始します。これから召喚するモンスターはレプリカですので、本物よりは力は劣ります。ですが、だからといって気を抜かないように」
試験官が呪文を唱え、あらかじめ地面に描いてあった魔方陣から悪魔を呼び出した。
「あ、あれは?」
「デーモンだな。本で見たことがある」
たしか、主な攻撃方法は強力な魔法を連発することだったはず。
でも、レプリカだから魔法自体の威力はそんなに強くないのか。
「さて……どうするか……」
「来ます!!」
サフィが声を上げた。
それと同時にデーモンが魔法を放ってきた。
「おっ……」
「うわわ!!」
「シールド!」
サフィが魔術で作りだした盾で、相手の魔術を防いだ。
「シールドか……」
デーモンの弱点は、白兵戦ができないところだったはず。
つまり、白兵戦に持ち込めば、確実に仕留めることだ出来る。
しかし近寄るには魔法の雨を避けて、近づけなければならない。
「……」
作戦を考えている今も、デーモンの魔法は止まることはない。
「シールドで白兵戦に持ち込む……のは無理だな」
防御系の魔法は動くことが出来ない。
なら、一度だけすきを無理矢理作って、そこを一撃必殺で仕留める、っていう作戦で行くか?
それをしようと思ったら、打撃力が一番あるはずのニーナが適任だろうな……。
……え?俺?ムリムリ。あんまり力見せたくないし。
すきは作ろうと思えば作れる……。
あとの問題は、ニーナの打撃力がそこまでなかったらどうするか、ということだ。
―それに失敗すると、それぞれが孤立して、サポートどころじゃなくなる……
その時、俺の目に入ったのはデーモンを呼び出した魔方陣。
「そうだ、魔方陣だ!ニーナ!」
「な、なに?」
「両手を出せ」
「え?」
「いいから、出せ」
「う、うん」
俺はニーナの両手の甲に魔力で魔方陣を描いた。
「な、なにこれ?」
「気にするな。サフィ、いいか?俺が合図したらシールドを解け」
「い、いいんですか?いくら力が弱いといっても……」
「いいから。あと、シールドが解けたら、ニーナはデーモンに近寄れ」
「え?でも……」
「俺も一緒に突っ込んで、前でデーモンのすきを無理矢理作る。ニーナは俺の後ろについて来い、サフィは俺達のサポート。いいな?」
「わ、わかった」
「わ、わかりました」
二人とも納得いってない顔をしているが、ここはさっさと片付けるに限る。
デーモンは今も魔法を次々に飛ばしてきている。
だが、それが一瞬途切れた。
「いまだ!!」
俺の合図と共に、サフィはシールドを解き、ニーナも飛び出した。
デーモンは飛び出してきた俺達に照準を合わせたのか、再び魔法を放ちだした。
「ハァァァァ!!」
俺はニーナの前を駆けながら、剣で次々に魔法を払っていく。
普通ならこんな芸当は軽々できないが、さすがはチートの持ち主である俺。
剣に魔力で薄い膜を作り、それで弾いているのだ。
これぐらいの力なら、使ってても目立たないし、使おうと思えば魔術が苦手な獣人以外なら誰だってできるし。
そんな俺を見てデーモンは焦ったのか、威力よりも連射の効く魔法ばかりを打ち始めた。
「これぐらい捌けるっつーの!!」
俺は腕を振る速さを上げ、的確に魔法を捌く。
「サフィ!動きを一瞬止める魔法でなんか使えそうなのあるか!?」
「は、はい、あります!でも、レプリカのデーモン相手でも、一瞬も効かないかもしれません!」
「それでいい!すぐに使ってくれ!」
「わ、わかりました!スタン!」
サフィが唱えた魔術をくらったデーモンは、ほんの一瞬動きを止めた。
俺はすかさず、後ろを走っていたニーナの腕を掴んだ。
「え?」
「行って、こぉぉぉぉい!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
―さすがは獣人、俺に投げられたのにもう空中で体勢を直していた。
俺はニーナを投げ飛ばし、動き出したデーモンに斬りかかった。
「はぁぁ!!」
デーモンを俺に照準を合わせ、魔法を打ち出した。
俺は一撃目は避け、二撃目を剣で受け止め、わざと後ろに飛ばされた。
「ニーナ!そのまま殴りつけろ!!」
俺はニーナに向かってそう叫んだ。
ニーナはデーモンに向かって落ちながら、腕を後ろに引き絞った。
そして、デーモンが俺に投げられたニーナに気が付いた瞬間。
「インパクト」
俺はニーナの手の甲に描いた魔方陣を起動させた。
誰一人それに気づかず、ニーナはそのままトンファーを振り下ろした。
ドゴォォォォン!!
「「「え?」」」
試験官を含め、ニーナとサフィの三人は驚いた。
ニーナのトンファーは、デーモンを掻き消していた。
その上、試験会場にクレーターを作った。
「…………し、試験終了です。お、お疲れ様でした」
「よーし終わったな」
俺は剣を鞘にしまい、試験会場を後にした。
その後に、慌てて残りの二人がついてきた。
「ね、ねぇ、レイっち。さっきのって、あの魔方陣のせい?」
ニーナは恐る恐るといった感じで聞いてきた。
「あぁ。あいつは瞬間的に打撃力を上げる魔方陣だ」
「あ、そうなんだ……よかったぁ……」
「何がよかったんだ?」
「いや、もしあれが私が出した力だったら、私の体っておかしくなったのかと思って……」
「そいつはすまんかったな」
「あ!それより、なんで突然投げ飛ばすの!前もって言ってくれないと!」
「悪い悪い」
こうして、テスト科目「魔法」は無事に終了した。




