第九話 学長の説明会
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コンコン
「カタフ学長。三人を連れてきました」
『おぉ、入ってくれ』
俺達はあの後学長室に連れてこられ、今現在ようやく学長室に辿り着いた。
実はキース先生が迷子になりかけたのを、俺が学園の地図を奪い取ったのだ。
「おぉ、一週間ぶりじゃのぉ」
「はい、学長」
俺の後ろについて入ってきたニーナ達は、何故自分たちが学長に呼ばれたのか分かっていないようだ。
「それで、学長。約束通り、説明してください」
「わかっとるよ。キース君、もういいぞい」
「はい。分かりました。三人とも、くれぐれも失礼のないようにね」
「分かってますって」
「一番レイ君が不安なんだけど……」
ブツブツ言いながら、キース先生は学長室を後にした。
大丈夫かな、あの先生。一人で帰れるのか?
キース先生の心配をしていると、学長から声を掛けられた。
「さて、レイよ。お主に聞きたいことがあるのじゃが」
「なんです?」
「お主、あのバハムートと戦った時、何か違和感を感じなかったかのぉ?」
「違和感?」
俺はバハムートとの戦いを思い返した。
「……たしか、バハムートって危険度SSSランクなんですよね?」
「そうじゃ」
「それにしては、弱かった気がします」
いくら俺がチート級の力を持っていようが、危険度SSSランク相手にあの程度で済むはずがない。
「そうじゃ、その通り。あのバハムートは本物ではない」
「……どういうことです?」
「あれはレプリカのバハムートより劣っている、土塊から出来た人形じゃ」
「え?人形?」
「左様。魔力を動力に動くカラクリ人形じゃ」
……うーむ、どういうことだ?
「あのー、まったく話が見えないんですが……?」
その時、ニーナが声を出した。
「おぉ、すまんのぉ。お主らは気絶しとったからのぉ。知らんのも仕方ない。これを見なさい」
学長は水晶を箱から取り出し、それからスクリーンのようなものに画像を映し出した。
そこには俺とバハムートが対峙していた場面が映し出された。
「お主らの記憶はここで途切れてるはずじゃ」
「一ついいですか学長。これはどうやって?」
俺は映像を指差して説明を求めた。
影から撮っていたのか、コレ?
「これはの、あの場所で起きたことを画僧として保存できる水晶なのじゃ。貴重な物なのじゃ、事が事だったんでのぉ。惜しんではおられんのじゃ」
そして、学長はニーナ達に事の経緯を軽く説明した。
「では、ここからが本題じゃ。ディグリス・モール。この男の事を話そうかの」
学長は一度深呼吸をした。
「ディグリスはわしの教え子じゃった」
「教え子?」
「あぁ。わしがここの学長になったのは五年前。それより前は一教師として働いておったのじゃ」
「その時にディグリスを受け持ったと?」
「うむ。ディグリスは非常に優秀な魔人じゃった。ただ、召喚系の魔法はからっきしだったがのぉ」
「「魔人!?」」
「やっぱり魔人か……」
ニーナとサフィは、映像の中のディグリスをもう一度見た。
「でもこの人、褐色の肌じゃないですよ?」
「かといって獣人でも精霊でもないですし……」
「おそらくじゃが、試験会場に潜り込むため人に扮したのじゃろう。ディグリスは悪知恵が働く男だったからのぉ」
学長は苦い顔をして、そう言った。
「じゃが、優秀すぎたディグリスは、謙虚さというものを忘れ、どんどんつき上がって行ったのじゃ」
「なるほど……」
「そして、ついにディグリスは禁忌を犯した。今から思えば、あの時からディグリスは狂い始めていたのかもしれんのぉ……。禁忌を犯したディグリスは学園から追放された上に、プラン大陸に飛ばされたのじゃがの」
禁忌と聞いただけで、だいたいの想像はついた。
禁忌とは、魔術におけるルールである。
新術を開発する際、禁忌に触れないように気を付けなければならないと、昔本で読んだ事がある。
例えば。
人体実験を行ってはならない。
環境に悪影響を与えてはいけない。
等々、心構えをはじめとした施行してはならない魔術までも細かく決められているのだ。
「それでその、き、禁忌っていうのは、な、なんですか?」
ニーナは学長に恐る恐る聞いていた。
「……新術開発のために、人体実験を始めたのじゃ……」
「「「っ!?」」」
さすがに驚いた。
人体実験ってどういうことだよ……。
「そして、わし等が気が付いたときには、既に十人近く被害が出ておった」
「うぅ……」
サフィは口元を押さえながら、青い顔をした。
おそらく想像して、気持ち悪くなったんだろう。
「ディグリスの開発していた新術ってのはなんです?」
「……少し違うのじゃが、簡単に言うと死霊術の一つじゃ」
「死霊術!?」
「おや、知っておるようじゃの」
「ありゃ禁忌中の禁忌じゃないのか!?」
さっき話した施行してはならない魔術の中でも、もっとも危険な部類に入る魔術だ。
死んだ魂を呼び起こすため、世の理を無視する魔術なのだ。
施行者にはそれなりの代償をささげる義務があるはずなんだが。
まさか……!
「そうじゃ、レイ。お主の思っている通りじゃ。ディグリスはさらった者の命を代償に、死霊術を施行したんじゃ」
「な、何のために……!」
「何の罪もない人達を、犠牲にするだなんて……!」
ニーナとサフィは静かに肩を揺らして憤っていた。
「死霊術とは少し違うってどういうことです?」
「そうじゃのぅ……この映像で言えば、あのバハムートかの。あとはあの迷宮におった死神たちもじゃな」
「え?」
「あの様子じゃと、最近あの術が完成したようじゃの……」
「ど、どういうことです?」
「先程、あのバハムートは人形じゃと言ったじゃろ?あれは土塊に死霊術で魂を移し、動かしていたようじゃ。おそらく、宿らせれるのは一人分の魂が限界じゃったのじゃろう。バハムートの活動時間があまりに短すぎる気がするのじゃ」
「ということは、バハムートとか死神は人の魂を動力に動いていたってことですか……?」
「うむ……あまり考えたくないことじゃがの……」
「……」
重たい沈黙が学長室を支配した。
「しかし」
不意に学長が声を発した。
「元凶であるディグリスは捕えられ、騎士団の特別牢獄に幽閉されておる。もう二度とこんなことは起きないじゃろう」
「特別牢獄?」
聞きなれない単語に俺は聞き返してた。
「うむ。その中では魔術は使えない上、魔力は吸い取られる。決して逃げ出すことはできん」
「そうですか……」
「うむ。安心せい。この学園にもしものことがあれば、わしが全力で生徒全員を守るからの」
不思議と学長のその言葉を聞くと、安心できた。
それはニーナとサフィも同じだったらしく、安堵の色が顔に浮かんでいた。
「ときにレイよ。お主、本気を出せばどうなるのじゃ?」
「え?」
一瞬、何故かドキリとした。
そんな後ろめたいことも…………な、い、よな?
別に俺がこのチート級の力を望んでたわけじゃないし。
「いやなに、お主を最初に見た時、素人ではないと思ったもんでな。気にしないでいいぞぃ」
「は、はぁ……」
「さて、今日は帰って部屋の片づけをしなさい。引っ越ししたばかりじゃから、大変じゃろ?」
「そ、そうだった!」
ニーナは学長の発言にギクリとなり、慌てだした。
「今日中に終わりそうにないよ~……」
「あの、手伝いましょうか?」
「いいの、サフィ!?」
「はい、私はもう終わってますし」
「はやっ!」
「では学長。これで失礼します」
「うむ」
「あ、学長、失礼します!!」
「あ、失礼します……」
「うむ」
そして、俺達は学長室を後にしたのだった。
side ?
レイ達が学長の説明を受けたその日の夜。
ディグリスが捕えられている特別牢獄がある騎士団の近く。
「ここか……」
「うむ、わらわの情報が正しかったらのぉ」
闇夜に溶け込むようにして、静かにたたずんでいる二つの影。
「あのバカは手間がかかる……」
「そう言ってやるな。早速助けに行こうではないか」
「……」
二人は特別牢獄に向かい始めた。
正面から堂々と。
しかし、門番である騎士はまったく気づかない。
そして二人はそのまま特別牢獄の前に辿り着いた。
「これを壊せばいいんだな……」
「うむ、ただ激しくはしないようにの」
「わかった……」
そして一歩前に踏み出した男は、牢獄の扉に手を置いた。
『融けよ……』
男の声と共に手をかざした場所が、ドロドロと溶けだした。
そして、十秒も立たないうちに、扉は跡形もなくなった。
「おい、ディグリスよ。わらわ達が助けに来てやったぞ」
「く、おせぇよ……」
「随分とやつれておるの」
「魔力が根こそぎ持ってかれてんだよ……」
「仕方ないのぉ、出てこい」
ディグリスは牢獄から這い出してきた。
「よし、転移するぞ」
「……」
「く……クソジジィ、覚えてろよ……!」
そして、三人の姿は転移独特の音と共に消えたのだった。
side out
さて、ここからどういう展開にしていくか……




