04
るように、静かな嗚咽を漏らしていた。
僕とさやの中にある、消えない傷。僕はそれがどんなモノか分かっていて。だからこそ、泣いている彼女にこの言葉を投げかける。
「どうして、泣いてるの?」
「ッ……ぃっ…………」
何故か僕の心は凪いでいて、すらすらと言葉が浮かんでくる。
「ぇっ、くっ……」
「僕はさやと一緒にいれて、ずっと楽しかったんだ」
さやは静かに泣いていて。けれど僕は、言葉を紡ぐ。
「困ったりもしたけれど……。楽しくて、愉快で、面白くて……それでいて、とても安心できたんだ」
「……」
「わがままかも知れないけど、さ。僕は、これからもずっと一緒にいたいんだ」
これが僕の、素直な気持ち。
「ねぇ、さや」
「……っ」
「僕と、付き合ってください」
「でもっ、わた、しのせ――」
ドン、ドドン――
痛みを伴う言葉は、それ以上の安らぎをもつ音によってかき消された。
打ち上げ花火が、始まったのだ。
「―――っ」
彼女は夜空に浮かぶ大輪の花に目を奪われ、文字通り言葉をなくす。
ドン、ドドン、ドン―――
彼女はそれを呆然と眺めていたものの、はっと思い出したように僕の顔を見た。僕は、約束は守れたんだよ、という代わりに、彼女の目を見て頷いた。彼女の頬は涙に濡れていたけれど、照れくさそうな微笑みを浮かべて、おずおずと、僕に右手の小指を差し出してきた。
僕も右手の小指を差し出して、互いの小指を絡める。
そして二人合わせるように、あの日の言葉を繰り返す。
「「 」」
その言葉は、花火の音にかき消されてしまったけれど。僕たちは、指を絡めたまま笑いあっていた。
花火が終わって、丘から降りて、屋台の通りを歩く道すがら。僕はふと思いついて、ちょっとした意地悪をすることにした。
「ねぇ、さや」
「なに?」
「どうして、泣いてたの?」
「――――――っ!」
彼女はその言葉に固まると、なんとも恥ずかしそうに俯いて。
「嬉しかったから、かな」
と、精一杯の強がりを言うもんだから。僕が声を上げて笑って……。彼女の顔が朱に染まったのは、言うまでもないだろう。
そろそろ季節は秋。赤とんぼを見かけるようになりました。
このお話は、甘~い空気というか二人の空間というか、そういうを短編で表現したらどうなるのだろう? という疑問から書き始めたお話です。
いかがでしたでしょうか? 「甘っ!!」と感想を持たれたなら、私の勝ちです(←何が?)
では、今回はこの辺で。また他の小説でお会いできればと思っています。それでは、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!