02
思わず間抜けな声が出た。
今日は八月二日、夏祭りの当日で。
あの日の約束を果たそうと、画策してきた日々の本番でもあった。
「やっと思い出した?」
さやは僕の計画を露とも知らず、やれやれと肩をすくめている。
「あ~、ごめん。寝過ごした」
時計を見ると、既に夕方の六時。どうやら、明け方まで続いた祭りのセッティングの所為で、爆睡してしまっていたらしい。
「もう。そっちから誘ってきといて寝坊ってどうなのさ、どうなのよ?」
「ごめん。それで、どうしてさやがここに?」
「どうしてって、一樹が迎えに来てくれるっていう話だったのに来ないから、私がわざわざ来てあげたんじゃない。そしたら一樹のお母さんが、まだ寝てるから起こして来てって……。だから仕方なくよ、しかたなくっ」
「そっか。ありがとう」
「べ、別にそんなことはいいけど……」
彼女は照れくさいのか、そっぽを向く。僕はポリポリと頭をかくと、ベッドを降りた。
そっぽを向いている彼女はというと、彼女は僕の幼馴染で。……遠い日に指きりをした、女の子だった。
「と、とにかく、玄関で待ってるからっ」
彼女はそう言い残し、パタパタと部屋から出て行った。
「……変わらないな、さやは」
今見ていた夢は、僕たちが小学生だった頃の出来事。
その日僕らは、一緒に夏祭りにでかけ、一緒に花火を見ようと指きりをした。花火の時間が近づいて、神社の裏手、僕たちが偶然見つけた小高い丘を目指してる時。僕は足を滑らせて、坂から転げ落ちてしまった。
さやは泣くばかりで、僕の体は全然動かなくて。いつの間にか記憶が途切れて、次に気づいたときはこの村の診療所だった。
僕たちが住むこの村は、山間の小さな村だ。だから、僕が怪我をしてしまったということだけで大騒ぎになってしまい……。打ち上げ花火はそれ以来中止になってしまった。
それから何年も過ぎ、僕たちが高校一年生になった今年。
今まで中止とされていた花火が、今年から有志が集まり再開する運びになった。けれど、それはその時まで秘密にされていて、まだ一部の人しか知らない。祭りのプログラムには、打ち上げ花火の時間が青年部の太鼓披露と偽装表示されている。