1.窓全開にするべき。
ある児童養護施設の経営破綻。
それに加えて、人助けによる支援の積み重ね。
結果――借金総額十億円。
『借金返せ。働けドイルバー。諦めて社畜になるんだ』
俺の名前は、ドイルバー。
ちょっと甘党な壮年だ。
今日からまた、東京都大田区黒猫空港ラプラス航空便での仕事が始まる。
『甘辛くて悪かったな。寝てるのか起きてるのか、ハッキリしろドイルバー』
部屋に鳴り響くこのやかましい騒音は、奴の仕業だ。
音声を録音した目覚ましとは、実に手の込んだ嫌がらせをしてくれる。
テーブルに放置していた飲みかけのココアを喉へ流し込み、散らかった制服の山へ手を突っ込む。
臭いを嗅ぎ分け、その中から比較的マシな一着を選んだ。
『洗濯しろドイルバー、汚部屋には入りたくないぞ。
ちゃんと歯を磨いたか?』
方向を変え、洗面所へ向かう。
歯ブラシを口へ突っ込み、ごしごしと適当に磨く。
ガラガラ――ペッ。
アパート前のゴミ集積所へ黒い袋を突っ込み、そのまま駐輪場へ向かう。
そこに停めてある愛車――マイカーの山田さんへ跨がった。
キイキイと錆びた悲鳴を上げながら、山田さんは今日も俺を勤務先へ運ぶ。
視線を上へ向け、流れる雲を眺める。
空は自由であるべきだ。
――だが、自由には危険が付きまとう。
空から生まれる異形。通称『亡き物』。
奴らは飛行するものすべてを敵とみなし、墜落するまで攻撃を止めない。
亡き物に乗じ、航空貨物便を襲撃する火事場泥棒――青の愚連隊。
連中は墜ちる飛行機から、最後の荷物まで奪っていく。
俺は、それを決して見逃せない。だから俺は、黒+便に入ったのだ。
そうこうしているうちに、職場に着いた。
「おはようございまーす」
引戸を開き、部屋へ足を踏み入れる。いつもの甘い香りが……アルコール臭っ。
部屋の端に視線を向ける。茶色の古ぼけたソファには、毛布の塊が見えた。
「くぉーらー、またお前か、部屋を酒臭くしたのは!?」
棚に手を突っ込むと、ガサガサ探り当て、
例のあれ?消臭スプレー(ココアの香り)をかける。
勢い良く、部屋中へ容赦なく噴射した。
「ココア臭カムバック!!」
毛布の塊からふんふんと、この煩い寝息がピタッと止まる。
毛布から頭がぬっと出た。
熱心にスンスンと鼻を鳴らしていた。
鼻を摘んだレッドLと、目が合う。
「匂いが混ざって、逆に臭いわ。止めろ、このココア馬鹿」
「ココアは臭くない。酒飲んで下着姿の奴に言われたくない。
この変態め」
「変態!?へん…エヘヘー」
コイツ、本物の変態だな…ドン引きですわー。




