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その公爵令嬢は泡沫と消えた

作者: 豆月冬河
掲載日:2026/05/13

懲りずにチャレンジ婚約破棄。

今回はだいぶ婚約破棄モノっぽく出来た。と思う。


 「フレデリカ・ド・モンフォール! お前との婚約は、本日を持って破棄させてもらうぞ!」




 ああ―――

 学園の卒業式が終わったこの瞬間に、王国の主だった重鎮達が来賓として揃う前で、王太子・テオドール様は何故このような愚行を…。


 しがない平民である私、アニー・ローレンですが、畏れ多くもご学友として親しくさせて頂いた公爵令嬢・フレデリカ様に向かって、婚約破棄宣言を堂々と行うとは―――


   ◇   ◇   ◇


 ―――卒業式の半年前。


 学園生徒会の書記である私・アニーと、子爵令嬢ですが気さくで気配り上手な、生徒会副会長のソフィー様、それから生徒会長であるフレデリカ様。

 学園行事の翌年度予算も決まり、後輩への引き継ぎや卒業式などの事前調整も手配し終えた私達は、学園の中庭で小休止も兼ねて、ささやかなお茶会を開いていました。


 「そういえばアニーは、冒険者ギルドへの就職が決まったのよね?」


 フレデリカ様に問われ、私は満面の笑みで、


 「ええ、卒業したらフェルンディアにあるギルドの職員になるんです。…ウフフ、デューク様に会えたら嬉しいなぁ♡」


 デューク様とは、この国にいる数少ないS級冒険者チームの一つ『黎明の翼』ウィングス・オブ・ドーンのメンバーで、聖光を纏った細剣の使い手。

 魔法にも長けている上、金の髪に翠玉(エメラルド)の瞳、気品を纏った見目麗しい美丈夫、という噂の方で、私の憧れなんです。

 …まだ会ったことはありませんけど。


 「まぁ、そんな不純な動機なの? アニーったら…」


 そばで聞いていたソフィー様が呆れていましたが、フレデリカ様がフフ…、と微笑まれて、


 「アニーの情報精査と事務処理の能力、それに正確な計算スキル…、それらを鑑みても優秀な人材だもの。超難関のギルド組織構成員試験を突破したのは、この学園でもアニーだけよ?」


 そう褒めて下さいました。

 入学当初から、平民出身ながら成績の良かった私に目をかけて下さり、フレデリカ様は生徒会長となった折に、私を生徒会の一員にと推薦されたのです。


 …まさか卒業までご一緒させて頂けるなんて。

 時々他の貴族の令嬢に「平民のくせに」と言い掛かりをつけられましたが、しばらくすると言われなくなるんですよね。

 その令嬢達が時々、怯えた目で私を見て足早に逃げていくのですが…。


 チラッ。


 フレデリカ様…、ううん、まさかね。側で控えているフレデリカ様の護衛の方々も、そしらぬ顔をしていますが、…まぁお仕事中ですからね。


 気品を称えた美しい所作でお茶を頂くフレデリカ様。今日も変わらず美しい金の髪に翠玉の瞳…、あれ? 噂に聞いたデューク様と同じ…。実はご親戚? …なんてね。




 「―――あ! あれは、テオドール様…? …っ、またあんな…」


 ふいにソフィー様が、校舎のそばの遊歩道を女性と腕を組んで歩く王太子・テオドール様を発見してそう言い、眉間に皺を寄せました。


 テオドール様はこの国の第一王子。いちおう(・・・・)次期国王筆頭候補で、フレデリカ様は幼い頃に彼の婚約者と定められたのだそうです。


 何においても非の打ちどころのないフレデリカ様と違い、少し(どころじゃない)残念なテオドール様。

 ただ、唯一顔面は秀でてらっしゃるので、女子生徒に人気はありますよね。

 ………でも、


 「あの、テオドール様とご一緒の方…、ブルーム商会のご息女、ミア・ブルームさん、ですよね」


 「ええ、そうね」


 私が問うと、フレデリカ様は至って平静にお茶を飲まれながら答えて下さいました。ソフィー様がテオドール様達を見ながら、


 「ミアさん、フレデリカ様とも親しかったですよね? フレデリカ様がテオドール様の婚約者だと、知らないはずはないでしょうに…」


 ―――そう、ミアさんはお父上の仕事内容にも明るく、頭の回転も早い才女でありながら、何というか…、男性の庇護欲をそそるような可愛らしい容姿と甘ったるい声。

 私達ですら「可愛い」と思っていましたもの。


 ですが、そういう方にありがちな(偏見かしら?)、我が儘を言ったり癇癪を起こしたり、などということは一切なく、私達も最近まで仲の良いご学友だったのに…。


 「どういう心境の変化かしら? ミアさんは人の婚約者に手を出すような人じゃ…、…はっ! もしかして、テオドール様からちょっかいを出した、とか?」


 あり得るわ。この学園に入学した頃からテオドール様は、色んな女子生徒に声をかけ、つまみ食いと称しては手を出すという、とても口には出せないいかがわしい噂が多いんだもの。


 私がそう考えて言いましたが、フレデリカ様は変わらず至って平静に、


 「……………さあ」


 それだけ言って微笑んでらっしゃいました。


 すると、…え!?

 テオドール様がミアさんと腕を組みながら、こちらにやって来ました。一体どういうつもりでしょう…。


 「―――よぉ、フレデリカ」


 王太子というお立場にも関わらず、まるで平民のような砕けた態度。ですがフレデリカ様は、スッ、と立ち上がり、公爵令嬢らしく毅然とご挨拶なさいました。


 「これはテオドール殿下、ご機嫌うるわしゅう…」


 「…相変わらず堅苦しいな。そんなだから可愛げがないんだ。少しはミアを見習ったらどうだ?」


 テオドール様はそう言ってフレデリカ様を嘲笑いますが、フレデリカ様はやはり毅然と、


 「王太子殿下の婚約者という立場であれば、その振る舞いも仕事のうち…、と愚考致しますが」


 するとテオドール様はうんざりといった表情で、


 「ああ、本当に可愛げがないな! このオレに意見するな! オレは次期国王だぞ! 口答えするヤツはいつでも処罰出来るんだ! それも王の仕事だからな! …お前も不敬罪で処罰してやろうか!?」


 ?! な、何を言っているのでしょう、言いがかりだわ! いくら王太子でも、何もしていないフレデリカ様を処罰なんて、出来るわけないのに…。


 すると腕を組んでいたミアさんが、甘えた声でテオドール様の腕を引っ張りながら、


 「んもぉ、テオ様ぁ♡ 早く行きましょーよぉ♪」


 そう言われると、テオドール様の表情がコロッと変わって、


 「あ! ああ、ミア! そうだな、こんな生意気な女とムダな時間を過ごすヒマはない! 君のオススメのカフェに行くんだったな!」


 そのまま笑いながら行ってしまいました。

 フレデリカ様…。どこか遠くを見るようにテオドール様達を見てらっしゃる…。

 …そりゃあ傷つきますよね。婚約者があんなひどい態度を取るんですもの。


 …ですがフレデリカ様は柔らかく微笑まれて、


 「さあ、私達もそろそろ戻りましょう」




 ―――その後もテオドール様の態度は相変わらずで、ミアさんとの距離も一層縮まったご様子でしたが…。


   ◇   ◇   ◇


 ―――そして今。

 テオドール様はミアさんの腰を抱き寄せながら、声高らかに婚約破棄宣言をなさいました。


 「……………」


 ああ、フレデリカ様…。このような仕打ち、あんまりで………、…あ、あれ? フレデリカ様…、


 ………笑ってる?


 すると、テオドール様の隣にいたミアさんが突然、


 「―――ッ、ヤッッター! 言質(げんち)頂きましたよ! フレデリカ様ぁ♡」




 ………は?


 私だけでなく、この場にいた全員の頭のうえに「?」が浮かんでいます。

 そんな中、誰かが卒業式の会場であるこの講堂に、カツカツ、と早足でやって来ましたが…、あれは確か宰相を務めてらっしゃる、アシュレイ・ド・モンフォール卿…、フレデリカ様のお兄様?


 「…くっ、フレデリカ。賭けはお前の勝ちだ」


 すれ違いざまに声をかけられたフレデリカ様は、クスッ、と笑って、


 「フフ、そうですね、兄上。お務めご苦労様です」


 フレデリカ様の笑顔を受け、アシュレイ様は壇上に駆け上がり、一枚の書面を広げて読み上げました。




 「―――伝令! 国王陛下よりの伝令である!」


 ! 国王陛下から!?


 「我が息子であり第一王子、テオドール・フォン・リヒト・グランツライヒであるが、兼ねてよりその行動に問題多し、と諸方からの訴えもあり、それらを鑑みて、万が一モンフォール公爵が息女、フレデリカ・ド・モンフォールとの婚約を破棄した場合、これ以上庇い立てる必要無しと判断し、テオドールが持つ第一王子の身分と、次期国王筆頭候補の権限を剥奪する!」


 え、えええ!?


 「!? な、何だと!?」


 テオドール様も驚いてらっしゃいます。アシュレイ様はさらに、


 「今後は、次期国王筆頭候補を第二王子・セドリック・フォン・ノエル・グランツライヒと定め、その後見を…、………あー、コホン、私、アシュレイ・ド・モンフォールとその、つ、妻であり、我が娘、第一王女・セラフィーナの夫妻とする!」


 まあ…! そういえばフレデリカ様のお兄様は、王女セラフィーナ様と昨年ご結婚されたのですよね。

 お二人の熱愛をモデルにした小説が話題になり、今度舞台劇になると聞きました。


 第二王子のセドリック様は、確かまだ12歳。後見は必要ですよね。

 …あら? まだ続きが…。


 「尚、元・王太子となるテオドールの身柄は、ブルーム商会への預りとなり、ブルーム商会長ジェイル・ブルームには、この件についての謝意と恵贈を兼ね、男爵位が授与されるものとする!」


 え、ええ!? ミアさんご一家、き、貴族に…!


 …というかこの王令の内容、もしかして、以前から決められていた、こと? なのかしら…。

 わ! ミアさんがテオドール様に抱きつきながら、


 「さあ、テオ様ぁ♡ これであなたは我が家のものですからね! これから早速私のお父様に、お仕事のイロハを叩き込んでもらいますよぉ♪」


 「え!? あ、ちょ、ミア!? い、一体どういう…」


 慌てふためくテオドール様を引っ張りながらミアさんが、


 「ウフフ♡ 我がブルーム商会が新規参入するご婦人向け事業なんですけどねぇ、インパクトのある俺様キャラのイケメンスタッフが必要だったんですよぉ。…だ・か・らぁ♡ テオ様にはこれから、うーんと頑張ってお仕事覚えてもらいますからねぇ♪」


 テオドール様は、はぁ!? と納得いかないご様子でしたが、「テオ様に向いてるお仕事だと思いますよぉ♡」と嬉しそうなミアさんに、ズルズル… と引っ張られていきました。

 スゴイ力持ちだったのね、ミアさん…。…って、感心するのはそこじゃないわ!




 …それにしても、テオドール様が廃嫡されて、既に婚約も解消されたフレデリカ様は今後、どうなってしまうのかしら…?


 あ? あら? フ、フレデリカ様…、い、いない?

 どこへ行ってしまわれたのかしら―――


   ◇   ◇   ◇


 ―――あれからひと月。

 フレデリカ様は遠い国へ留学したまま、そちらに永住する…、なんて噂を聞きました。


 テオドール様はブルーム商会が手掛ける事業…、ご婦人方をお酒や料理でもてなし会話を楽しむ、接待クラブ? というお店の、No.1ホスト? として励んでいらっしゃるそうです。


 ご本人曰く「天職!」だそうで、経営においてもミアさんのお父上の厳しい指導もあって順調に売上げを伸ばし、先日もグラスを積んでシャンパンを注ぎ、お客様である貴婦人方に大金を使わせたとか何とか…。

 私にはよく分かりません。




 …私はフレデリカ様にお別れの挨拶も出来ず、しばらく悲しい気持ちで過ごしていましたが、学園も卒業したことだし、今日はフェルンディアの冒険者ギルドへの初出勤です。

 気持ちを切り替えて、いざ! …って緊張しますね。一応王都のギルド本部での研修は済んでいますが。


 そういえば研修最後の日、王宮の文官となったソフィー様と、たまたま王都の街中で会ったのですが、


 『初出勤の日、少し早めに行くといいわ。冒険者ギルドに向かう途中にある楡の木辺りを通ると、良いことあるわよ』


 ―――そんなこと言ってましたね。…あ、楡の木! …ん? 人影…、えーと、あの紋章は………。


 …はっ! あの羽根の模様は『黎明の翼』ウィングス・オブ・ドーン! ま、まさか…!


 「………ん? おい、デューク、君の想い人が来たみたいだぞ」


 一番大柄で年上の、あれは恐らくリーダーのクロード様ですね。…って今、デューク、って…、え? ええ!? デューク様、いらっしゃるの!?


 …あ! でも今、想い人って…。…そうよね、ステキな方って噂だもの。彼女がいない方がおかしいわ。一体どんな(ひと)…、? あ、あれ? 後ろに人、いない…?


 「やあ、アニー」


 わわ! 急に声をかけられ…? な、何で私の名前…?

 …あ、この(ひと)がデューク様…、金の髪、翠玉の瞳…、少し中性的な細面の柔らかなお顔立ち…、涼やかな声…、噂以上にステキな方だけど…。

 やっぱり、フレデリカ様に良く似てらっしゃるわ。


 「…あ、あなたが、デューク様…、なのですか?」


 目の前のデューク様が頷くと、その後ろで仲間の方々のうちの一人が、


 「じゃあフレデリック(・・・・・・)、先にギルドの受付に行ってるからね!」


 そう言って、他の方々と一緒に行ってしまわれました。私は少し驚いて、


 「…フレデリック?」


 「うん。デュークっていうのは愛称なんだ。この姿(・・・)の本来の名前は、フレデリックさ」


 びっくりです。私は思わず、


 「あ、あの! …やはりあなたは、フレデリカ様と関係があるのですか? 私のこともご存知のようですし…」


 するとデューク…、フレデリック様はにっこりと笑い、


 「…分からない?」


 ! 一瞬、何が起こったのか、私は自分の目を疑いました。目の前のフレデリック様が、…縮んだ?

 まさか…! フレデリック様は、フレデリカ…、様?


 「この姿と声なら分かるでしょ? フレデリカとフレデリックは、同一人物なの」


 え…、えええ!? ど、どういうこと!?

 フレデリカ様はまたフレデリック様の姿に戻って、


 「私の母方の血筋で、ごく稀に両性を持って生まれる者がいるんだ。今代のモンフォール家は男しか生まれなかったからね。たまたま両性で生まれた私を、父は体よく『女』と定めてしまったんだ。ある程度年齢を経ると、いつでもどちらかになれるんだけど」


 そ、そうだったのですね…。でも…。


 「フレデリカ様…、いえ、フレデリック様、それじゃあこれからは、女性でなく男性として…?」


 するとフレデリック様はいたずらっぽく笑って、


 「君のせいだからね」


 !? …え、え!? ど、どういうこと!?


 「私は子供のうちに王太子の婚約者と定められてしまったから、公爵家の宿命と半ば諦めていたのだけど…、テオドールはあんなだったし、私はどちらかといえば男の姿の方が性に合っていたんだよね。…それに私は、学園で君と出会って、その…」


 ? フレデリック様…、お顔が赤く…?


 「………運命、だと思った」


 ボン!

 ま、まま、待って! え? え? わ、私!? …わあ、今の私、きっとフレデリック様より真っ赤になってるわ…。


 「幸い君は、可愛らしい上にとても優秀だったし、男女の仲になれなくとも、女同士の友情を育もうと、…これでも呑み込んだんだよ? でも、ミアがね―――」




 ―――何と、ミアさんはテオドール様を見て、


 『う〜ん、王太子様じゃなかったら、最高のホストに仕立て上げられるのになぁ…』


 と、世間話感覚でフレデリカ様に話したのをきっかけに、お二人での計画が始まったのだそうです。




 「―――まぁ、結果はあの通りさ。これからは冒険者一本でやっていけるし、私達の拠点はフェルンディアだからね。これからよろしく頼むよ」


 そうだったのですね。私はフレデリック様が差し出された手を握り、


 「はい! こちらこそ、改めてどうぞよろしくお願い致します!」


 そう言って握手を交わすと、フレデリック様が、


 「…あ、そうそう。実はこの両性、最初に、その…、行為をした相手の性によって、その後の性別が確定するんだけど…」


 ? 行為? ………あ! そ、それってつまり…、えーと…、…わ! フレデリック様、私の耳元にお顔を寄せて………!


 「………私は、最初の相手は、君がいいな。…もちろん、その後もずっと…」




 ボボン!

 ひ、ひえぇ…、………もう、これから初出勤だっていうのに! ここ、こんな状態で私…。




 初日から、仕事になりません―――っ!


アニーちゃん、たぶん仕事になってなかったけど、二人のことはギルド中に知れ渡ったとか。

みんなに生温かく見守られたと思います(*´ω`*)

………いたたまれないね!(笑)

ちなみにこの世界、ギルド職員は貴族と同等の扱いになるそうです。官僚寄りの公務員←テキトーw


ひとまず公式企画参加の目標達成(*´ω`*)

これでお絵描きに専念出来ます♪

ココまで読んで下さったそこのお方、ありがとうございましたー!

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― 新着の感想 ―
いろいろあっても、みんなうまく収まった感じで、よかったです。 読み終えた後にタイトルを見ると、消えた公爵令嬢の行方を考えさせられて、面白いですね。 アニーちゃん、お幸せに。
お、お、お、お、あ、あ?ん?うう…ん。 おお? おおん。うん(笑 適材適所でハマったですね! 結果、悪い人いない(笑 良かった!
需要と供給って大事よね……!!!ꉂꉂ(ˊᗜˋ*) タイトルの回収はあのあたりか、はたまたこのお話の後か……なんて考えてしまいますね……。 うん、きっとお話の後の方だよな、うんうん。いいぞやっちまえ!…
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