表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋を始める物語

シュガー

作者: とぐさ
掲載日:2026/02/10

コーヒーは、ブラックに限る。そんなことはない。恋を始める物語第4弾。

 高山優也26歳、一般的に難関と呼ばれる大学を卒業し、大手と呼ばれる企業に、営業として、就職。仕事も順調で、30歳までに出世は確実だと言われている。自分で言うのも恥ずかしいが、それなりにいい生活を送れていると思う。

 ただ、不満があるとすれば、恋人がいないこと。恋人も大学までは、ある程度出来たが、長続きしないことがほとんどだった。

 両親がうるさいとか、周りが結婚していくとか、そんな事はないが、大学を卒業してから、ずっと一人で暮らしてきた。俺自身が、淋しさを感じていた。


-ピンポーン-


 インターホンが鳴った。モニターを見ると、お隣さんだった。


「こんばんわ、高山さん。ちょっといい?」


「藤川さん。どうされました?」


「ちょっとカレーを作りすぎちゃって、晩御飯がまだなら、どうかな?って。」


「ありがとうございます。ちょうど、何食うか、考えてたところだったんですよ。」


「それは良かった。じゃぁ、準備するね。」


 彼女は、部屋に入ってこようとする。


「ちょっと、藤川さん。なぜ入ってこようとしてるんですか?」


「えっ、一緒に食べようと思って。」


 俺は、必死に彼女を止める。


「いや、手に持ってるタッパを頂ければ、移し替えて、お返ししますから。」


「えー、一緒に食べようよ。」


「分かってます?いい年した女性が、男の部屋に、気軽に上がらないでください。」


「それは、高山さんがそういう人って事?」


「違います。俺はそんな事しません。」


「なら、大丈夫だよね。」


 彼女は、入ってこようとする。俺がそれを止める。


「今日は、友人が来るんです。だから、ご厚意はありがたいですが、また今度にしましょう。」


「じゃぁ、友達も一緒に、、、」


「食べません。」


 玄関で、すったもんだしていると、廊下に人が来た。


「た、、、高山、、、お前、、、」


「うげっ、山下。はぁ、、、」


 俺は頭を抱えた。その友人が来た。


「初めまして、山下です。高山と同じ26歳で、独身です。」


「初めまして、高山さんの彼女(になる予定)の藤川真奈美です。24歳です。もうすぐ高山になるので、気軽に真奈美って、呼んでください。」


 彼女は、満面の笑みを浮かべる。


「違います。ただのお隣さんです。というわけなので、また今度。」


 俺は、山下を部屋に入れ、ドアを閉めようとしたが、彼女の足がドアを止める。


「高山さん、ちょっと待ってよ。山下さん、カレーあるんですが、一緒にどうです?」


「マジっ!?ぜひぜひ!」


 山下は、「どうぞ、どうぞ」と勝手に彼女を、家に上げ、クッションを準備する。


「お邪魔しまーす。」


 彼女も遠慮なく、入ってくる。俺はため息を我慢しながら、彼女のカレーを鍋に移し、温めなおす。山下は、藤川さんと談笑している。

 ものぐさな俺は、米を炊く時に、5合炊いているおかげで、3人分のカレーには十分だった。


「高山は、大学の時から、こんな感じなんだよね。」


「お前、人の事言えないだろ。」


 俺と山下のノリを、藤川さんは、笑いながら、時折、参加する。食事の時間は、あっという間に終わる。


「私、片付けしますね。」


 彼女は、食器をまとめる。


「藤川さん、座っててください。俺がやるんで、いいですよ。」


「じゃぁ、二人でやろっか。」


 彼女はキッチンに入ってくる。一通り、終わり。藤川さんも、自分の部屋に戻っていった。


「なぁ、高山。」


「あぁ?」


「お前ら、本当に付き合ってないの?」


「ただのお隣さんだよ。」


 ビールを片手に、山下と晩酌をしていた。


「でも、あれはさすがに、、、」


「分かってるよ。でもなぁ、、、」


 俺は、ツマミを口に運ぶ。


「まだ引きずってんのか?何年前だよ。」


「しゃーないだろ。大学卒業したら、結婚まで考えてたんだからさ。」


 それからは、くだらない話にビールが進み、気が付けば、夜は明けていた。


「おい、山下。朝だぞ。帰れ。」


「おう、朝か。昨日は飲んだなぁ。」


「ビール買いに行かないとな。」


 山下は、フラフラになりながら、”また来るわ”と、帰っていった。


「さてと。」


 スマホをチェックする。藤川さんから、メッセージが来ていた。


-昨日は、ありがとう。またご飯食べようね。-


 昨日の山下の話じゃないが、メッセージを見て、少し憂鬱な気分になる。藤川さんに嫌悪感は無い。

 さっき、少し触れたが、俺には将来を考えた女性がいた。彼女とは、大学で出会った。2年の時に、俺から告白して、恋人になり、それから4年まで、順調に愛を育んでいると、思っていた。だが、卒業まで秒読みに入った2月、彼女の浮気が発覚。いや、その表現は正確じゃないな。俺が浮気相手だった。

 結局、彼女とは別れたが、それから恋人は出来ていない。トラウマになるというほどではないが、恋愛に消極的になるには、十分な経験だった。


 あれこれ考えているうちに、部屋の掃除を済ませ、テレビを点ける。土曜日の朝、コーヒーを入れ、ベランダに出た。背中からは、天気予報が聞こえる。春の陽ざしが心地よく、コーヒーから上がる白い湯気を揺らしている。


「今日は、何すっかな。」


 コーヒーを一口。


「デートしようよ。」


「あっっち。」


 隣のベランダから、藤川さんの声が聞こえてきた。びっくりして、コーヒーが余分に流れ込む。


「おはようございます。」


「おはよう!」


 彼女は、朝から元気だ。


「何してるんですか?」


「ベランダで、景色見てたら、高山さんが来たんだよ。」


「それは、失礼しました。邪魔するといけないんで、自分の部屋に戻りますね。」


「ちょっと待って!」


「何ですか?」


「デートしようよ。」


「大声でやめてもらえます?じゃ、戻るんで。」


「暇なんでしょ?さっき、”何しようかな”って、言ってたよね?」


「言いましたっけ?」


「デートし、、、」


「ちょっと、声!大きい!分かったから、ごめん。」


「私の勝ちだね。」


「勝負してたつもりはないんですけどね。で、どこ行くんですか?」


「デートは、男性がリードするものなのですよ。」


「しようって、言ったのに、丸投げですか。とりあえず、外出ましょうか。」


「じゃぁ、そっちに行くね。」


「何でだよ。用意できたら、迎えに行くので、準備しててください。」


「私はもう出来ているのだよ。今日は、高山さんとデートする予定で、準備はバッチリだよ。」


「俺に用事あったら、どうしてたんですか?」


「今日、何もない事は、山下さんから、バッチリリーク済みだよ。」


「はいはい。分かりました。15分で行きますね。」


 山下の野郎。俺は、飲み掛けのコーヒーを、シンクに置き、準備を済ませ、隣の部屋のインターホンを押す。


「はーい。あっ、高山さん!どうしたんですか?」


 呆れてしまう。


「行きましょうか?」


「えっ、どっか連れて行ってくれるんですか?」


「さっきベランダで話してましたよね。」


「はぁ、高山さん、、、こういうのは、雰囲気だよ。休みの日に、何をしようか考えてた女性のところに、突然、デートのお誘いに来た男性って、設定だよ。」


 帰ろうかな。


「藤川さん。今はスマホもある時代ですよ。気軽に連絡が取れる時代に、女性の部屋に、突然来る男なんていませんよ。」


「身も蓋もない。私の止まらないロマンティックを返してください。」


「止まってないなら、そのままノンブレーキで、事故ってください。」


 彼女が部屋から、出てきた。


「高山さん、デートなんですから、こういうのは、雰囲気がですね、、、」


 車に向かう間、彼女の力説が止まらない。なぜ説教される側なのか、頭が痛い。目的地が決まらないまま、車は走り出す。彼女は、「デート、デート」と訳の分からない連呼を繰り返し、ウキウキしている。


「とりあえず、カフェでいいですか?」


「あー、高山さん!」


「いきなり大声出さないでください。びっくりする。」


「デートだから、敬語はやめようよ。」


「これは癖ですよ。」


「逃げた。”これは癖ですよ”って、言えば、”まぁ、癖なら、しゃーないか”ってなると、思ったか!あまーい。ミルクコーヒー、砂糖とミルク抜きより、あまーい。」


「それはブラックでは?」


「ふっふっふっ、高山さんは、気付いてないかもだけど、君はすでに私の術中にハマっているのだよ。」


「なっ、なんだって!」


「私が、ボケることにより、高山さんがツッコむという構図を作り出し、会話が途切れない。私は、なんという策士。」


「ぷっ、、、、」


 確かに、ベランダから、ずっと会話が途切れていないな。


「あっ、今、バカにした。」


「ごめんごめん。敬語はやめるよ。これでいい?」


「無礼者!」


「どっちだよ。ハハハハ」


 二人で笑った。社会に出てから、女性と出かけることはあったが、いつも俺が一歩引いてるせいで、お通夜のような雰囲気だった。当然、次にお誘いが来ることはない。

 女性と一緒にいて、こんなに笑ったのは、久しぶりかもしれない。


 目的のカフェに到着する。


「あっ、新作出てる。高山さぁん、これ飲みたい。」


「頼めばいいじゃん。」


「ちょっと、そこは優しく”いいよ。”って、優しくするんだよ。」


「イイヨー」


「ぐぬぬ、終わってる!終わってるよ!私は、これが飲みたいの!」


 俺たちのやりとりを、店員が微笑ましく、見守っている。


「すみません。コーヒーとさくらラテ、サイズはレギュラーでお願いします。」


「無視するなぁ!」


「はいはい。」


 適当にあしらいつつ、商品を受け取る。目的地も決めないまま、車は走り出す。


「リアルで、”ぐぬぬ”って言う人、初めて見たわ。」


「にがっ!」


 彼女は、さくらラテを一口、含んで、舌を出す。俺はそれを見て、笑う。


「やってるよ!高山さん、やってるな!」


「だって、言わないから。シュガーがいるなら、いるって、言ってくれないと。」


「私は、甘党なんです!乙女心を弄びやがる。」


「知らないよ。初めて聞いたわ。」


「初めて、言いましたよ。だって、高山さん、私の事、何も聞いてくれないでしょ?」


 彼女は、少し真剣な表情だった。突然のマジな顔に、戸惑いを隠せなかった。


「そうだな。よく考えたら、2年くらいお隣さんで、交流もあるのに、お互い何も知らないな。」


 少し沈黙が流れる。


「えっ?」「えっ?」


「私は、高山さんのこと、いっぱい知ってますよ。」


「なに、どういう事?」


「高山さんが、カレーが好きで、大手に勤めてて、お金はあるのに、服は安物ばっか買って、、、」


「安物ばっかで悪かったな。って、俺がカレー好きなの、言ったっけ?」


「言ってないよ。」


「ちょっと怖いよ。なんで知ってるの?」


「私の情報網を甘く見ないで。君が小さい頃の話も全部、こっちは把握済みなのだよ。高山さん、あなたは把握されている。」


 子供のころの話を知ってる?


「初恋は小学生で、同じクラスのゆかりちゃんだった事も、調べはついている。」


「バカやろう、分かったわ。てか、いつ俺の母親と、知り合いになったの?」


「勘のいい高山は嫌いだよ。」


「俺限定かよ。で、いつなんだよ。」


「んー、よく覚えていないけど、先月の15日。高山さんの部屋に入ろうとする怪しい女の影を見たから、声掛けたんだよね。」


「ばっちり覚えてるし、その勇気は何?あと、人の母親を怪しい女判定すんなよ。」


 ため息が漏れる。


「だからか、最近、母親からの電話で、やたらと孫の話をされると思ったんだよな。」


「君は完全に包囲されているのだよ。ふっふっふっ。」


「変な組織の幹部かよ。」


「私は、本気だよ。」


「そんなに鈍くないわ。分かってるよ。」


「良かった。なんか漫画とかアニメとかで、よくある鈍い系男子じゃないかと思って、これから100通りの攻略ルート考えてたよ。」


「恋愛猛者かよ。仕事柄、相手の感情を汲み取るのは、得意だからね。逆に鈍感だったら、今の仕事できねぇよ。」


 車は、まっすぐ進む。コーヒーを飲み終わり、二人の間に置いてあるゴミ箱に捨てようと、手を伸ばした時、


「あっ、ごめん。」


 彼女の手に触れる。


「わざとです。」


「言わないほうがロマンチックだったな。」


「言わないと、そのままスルーでしょ?」


「そりゃそうだ。」


「奥手グランプリ、優勝者は伊達じゃないよね。」


「強敵ばっかりだったから、大変でした。やかましいわ。」


 車は、街が見下ろせる公園に着いた。昼には少し早い。


「こんな場所あったんだ。」


 彼女は、街を眺めながら、目を輝かせている。


「車無いと、中々、来ないよね。」


 彼女の隣で、街を見る。


「ごめんな。藤川さんの気持ちは、分かるんだけど、昔にちょっと色々あってさ。」


「知ってますよ。私のじょうほ、、、」


 山下だ。


「あいつだな。」


「昨日、深夜まで、高山さんの情報を吐いてもらいました。」


「吐いたって言うな。取り調べかよ。連絡先までちゃっかり交換してんじゃねぇよ。」


「でも、私は、その女性ひととは、違うので、安心してください。やりませんよ。」


「どっかの芸人みたい言うな。」


 彼女は、あははと笑う。


「分かってるよ。藤川さんは、まっすぐだな。」


「こちらとしては、そろそろ折れてくれると助かるんですけど、これが中々ね~。」


 沈黙が訪れ、公園で遊ぶ子供の声が、すり抜けていく。


「今、キスのチャンスですよ。」


「台無しだな。」


「まだです。まだ、助かる。まだ、助かる。マダガ、、、」


 俺は、彼女にキスをした。


「・・・」

「・・・」


 彼女は、赤くなる。


「攻略ルート1つで良かったな。」


「む、無駄になりました。考えた時間は、これから返してもらうので、いいです。」


「敬語になってるぞ。さては、照れてるな。」


「そりゃ、私だって、乙女ですから、照れますよ。」


「さて、もう一回、カフェ行くか。」


 さくらラテ、シュガー多めで。

もう付きあっっちゃえよ!は言わない約束

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ