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おじさん、女子高生になる  作者: 一宮 沙耶
第2章 女子高生へ

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1話 なりすまし

暴行を受けたその足で、女性へと整形をお願いした医師の病院に向かう。

医師は、独立して街の整形外科になったと聞いていた。

近いうちに、話したいことがあるから来て欲しいと連絡があったから、ちょうどいい。

でも、話しとは何だろう。私の体に関する悪い情報ではないかと心配していた。


身体中が痛いけど、組織にこの医師が見つかれば秘密がバレるから慎重に行動する。

関係ない駅で降りてタクシーに乗り、暗い公園に入り、別の出口から出てタクシーに乗る。


そんなことを繰り返していたから、時間もかかった。

あの医師とはしばらく会っていないけど、私の女性人生はそこから始まったから懐かしい。

ただ、女性の体になれて嬉しさを感じた後、最近は、邪の道に染まっている。


お金のためとはいえ、私は何をしているんだろう。

なんとか、この悪循環から抜け出さなければならない。


夜の2時に、その医師の病院のドアベルを鳴らす。

迷惑そうに寝ぼけた医師が出てきたけど、私を見て再会を嬉しそうにしている。

この先生でないと話しは通じない。


「あれあれ、すごい怪我ですね。手当をしましょう。でも、派手にやりましたね。どうしたら、こうなるんですか? 」

「ちょっと、言えないことがあって。夜遅くにすみません。」

「まあ、プライベートな事情にまで関与しませんが、DVとかだったら訴えた方がいいですよ。まずは骨が折れていないか念の為、レントゲン写真を撮ってみましょう」


レントゲン室に入ると、トップスの上からホックを外しブラを抜き取る。

男性の時とは違う動作にも、もう慣れた。まあ豊胸手術をした医師に見られてもいいけど。

レントゲン写真を撮り、10分ほど廊下の椅子で待つと、再び診察室へと名前が呼ばれる。


「肋骨が1本折れていますね。でも、肋骨は治療できないので、しばらくは痛いですけど、安静にしておいてください。1ヶ月ぐらいすれば自然に治りますから。」


痛いのには理由があった。肋骨が折れている。

あの国会議員、とんでもないことをしてくれた。

あいつも、相当のダメージは受けたのだけど。


「まずは、血が滲んでいる顔や体を消毒します。塗り薬をだしておきますから、数日すれば、腫れも引くはずです。ところで、もう、昔の面影はないですね。計算だと18歳になりました。」


医師は不思議な生き物でも見るように、私を見つめる。

目線はバストに集まり、もうこの体に男性の影を感じていない。

女子高生の体の魅力に勝てないように見える。男性って、バカな生き物。


一方で、何か企みがあるような笑いが口元に滲む。

何なのかしら。医師の本心が読めない。

少なくとも深刻そうではないので、この体の悪い情報ではないと思う。


「顔は、ぷっくりとして小顔になっている気もする。まあ、腫れているのかもしれませんけどね。ただ、すっかり女子高生にしか見えません。まず、当面は、治療するにして、1週間後に再検査をさせてください。今後、どこまで若年齢かするかも確認したいですし。」

「分かりました。」


私は、体の治療をし、血液採取、心電図等の検査を受ける。

1週間後、再度、医師を訪問する。


「そろそろ若年化は止まってきたようですね。私の仮説は正しかったようで、卵巣が感じる年齢と、見た目の年齢が同じになった時に、若年化は止まるということなのだと思います。そうすると、これから歳をとることになるかもしれません。」

「よかったです。これ以上、若返るとどうしようと困っていたので。」

「ところで相談があるのですが。」


急に医師の目から悪い企みの気配が漏れる。

今更、何があるのかしら。こんな私と付き合いたいとか? それは気持ちが悪い。

私は、疑うような目つきで医師を下からゆっくりと見上げる。


「なんですか?」

「私の知り合いに、女子高生のお嬢様が行方不明の親がいまして。捜索願も出したらしいのですが、警察も、死亡した事実もないので、家出をしたんじゃないかと、今は何もしれくれません。そんな中、お母様が、お嬢様が亡くなったんじゃないかとノイローゼになってしまい、お父様が困ったと悩んでいるんです。」


何を言い出したのかしら。私との関係が全く分からない。

でも、話しがあると言っていたから、何かの関係があるのだと思う。


「で、私とどう関係があるんですか?」

「お父様が、誰でもいいので自分の娘として一緒に暮らして欲しいと言っているですよ。」

「普通、娘はまだ死んでないって、信じ続けるんじゃないんですか?」

「お母様が、このまま何もしないと自殺しちゃうと心配しているらしいんです。」


何を言いたいのか分かったけど、奥様にはすぐにバレてしまう。


「いくらなんでも、私が娘じゃないってすぐに気づくでしょう。」

「いや、買い物に出ても、出会う女子高生に声をかけて、娘に向けて言うように、帰ってきなさいとしがみつくらしいんですって。君と暮らしても気づかないと思いますよ。それに、お父様からは、君の写真を見せたら、実の娘さんと似ているって言ってました。背も高めで、偶然、あなたと同じぐらいらしい。」

「もう、そこまで話しが進んでいるんですか?」


この医師は、蚊一匹殺せそうもない顔をしていながら、結構、悪どいのかもしれない。

よく考えてみると、日本で認められているか分からない私の手術をその場で決断した。

結構、肝が据わっているのだと思う。


でも、私にも、この医師にもメリットはない。

いえ、何かあるから提案を持ちかけているのだと思う。

私への違法手術で大病院をクビになり、私を使って、お金稼ぎをしたいのかもしれない。


「まあ、君が嫌だったら断りますけどね。でも、この家の娘になれば、君の戸籍問題はなくなるんですよね。今、君は戸籍上、何歳でしたっけ? 女子高生として人生を再出発できるんですよ。これからは見た目と、社会上の年齢が一致する。保険証だって持てるでしょう。世の中で堂々と女性として暮らしていけるって、素晴らしいことじゃないですか。これまでの生活で、それがお金に変えられないことぐらい分かったでしょう。」


たしかに、戸籍の問題は残っていた。

闇バイトの組織からも逃げられる。

何があれば私が同意するのかも、きちんと練っている。


ただ、お金という言葉も出てきた。

何か、医師にとってお金になるのだと思う。お父様から大金を貰えるとか?


「先生は、そのお父様のご友人なのですか?」

「いや、実は飲み屋で、たまたま横に座っていて、悩みを大声で話しているのを聞いたんです。それでぴーんときたんです。あなたを紹介すればいいってね。それで相談なのですが、私もメリットを得たい。みんながWin-Winになれるようにね。」

「やっぱり、慈善活動じゃないんですね。それで、何をして欲しいんですか?」

「あなたの年金をもらいたいんです。私を年金受取の代理人として指定して欲しい。あなたはまだお金をたくさん持っているようだし、これから社会人になって、まだまだ稼げる。誰も損しない、いい提案だと思うんですけど。」


この診察室を見渡す。

大病院から独立をした理由は知らないけど、それほど裕福ではなさそう。

あまり儲かっていないのかもしれない。お金が欲しいんだと思う。


私とお父様両方からお金を貰うという算段なのかもしれない。

再会した時に嬉しそうだったのは、ネギを背負ったカモが来たと思ったからだと思う。

深夜なのに、嫌な顔一つしなかった。


私を呼んだのは、この提案をするためだったに違いない。

まあ、私としては、戸籍が手に入れば十分だとも言える。

でも大丈夫かしら。何か、落とし穴があるかもしれない。


「でも、問題とかないんですか? 例えば、私が娘さんを殺した罪で捕まるとか。」

「問題は、ないんじゃないですか。お父様は、まだ会っていないから疑うのも仕方がないですが、紳士で、とってもいい人ですよ。奥様のことを心配して、手伝ってくれたあなたを犯罪者なんて訴えることは考えられません。誰もが幸せになれる案なんですよ。」


ところで、私の年金は失うけど、これで戸籍の問題はなくなる。

そのお父様も、お母様も幸せな生活を送れる。

何かあれば、この医師が勝手に私の年金を搾取したと警察に行けばいい。

まあ、こんな姿では、61歳の男性とは主張できないから娘と言うしかない。


そうなるとリスクはほとんど考えられない。

私には、まだ両親の家も闇バイトで稼いだお金もあるから、生きていくことはできそう。

たしかに、いい案ではある。私は、同意し、医師が出した委任状に記名押印をした。


翌日、指定された家に来ていた。渋谷の松濤にある大金持ちの家。

松濤は渋谷にこんなに近いのに、渋谷の喧騒が嘘みたいに豪邸が並ぶ。初めて来た。

この周辺は大金持ちが多く、地区で警備員を雇っている。


高い塀で中の生活は隠されて、どんな暮らしをしているのか分からない。

歩くだけで警備員に睨まれる、そんなエリア。

ただ、私は、この辺に住んでいる女子高生の友達と思ったのか、笑顔で挨拶をする。

普通であれば、こんな女子高生がする犯罪なんてたかが知れている。


医師が指定した住所の家に来た。

表札には佐久間とあり、威圧的な塀が外からの来訪者を遮断する。

厚いコンクリートの壁にあるインターフォンを鳴らしてみた。


「南崎先生からご紹介を受けた者ですが・・・。」

「おお、来てくれたんだね。里見、紬衣が戻ってきたよ。早く、来て。」


私は、佐久間 紬衣として生活をするみたい。

佐久間って、闇バイトに伝えていた時の名前と同じなのは縁を感じた。

紬衣、男性の頃には考えられないぐらい若い名前。でも、響きはいい。


門の扉が開き、階段を登っていくと、玄関は二重扉となっていた。

玄関が開くと、目の前はそれだけで20畳ぐらいある玄関。

ドアの上にある大きな窓から陽が入り、明るく開放的。


「え、紬衣、戻ってきてくれたのね。これまで大変だったでしょう。これから、使用人に、紬衣が好きなグラタンを作ってもらうから、待っていてね。それまで、自分の部屋でゆっくりしていて。」

「これまで身勝手に家出をしていて、ごめんなさい。」

「いいの、いいの。帰ってきたんだから。」


私のことを見ても、紬衣だと疑うことはなく、涙を流す。

普通なら、どうして家出をしたのか聞くと思うけど、笑顔でその点には何も触れない。

いえ、自分のせいで家から出ていった娘から、今度は嫌われないようにと必死の様子。

不思議な感覚。全く血の繋がりもない女性を娘だと喜んでいる。


リビングの奥にある赤い絨毯に覆われた階段を上がる。

階段は2方面から湾曲して2階で合流する作りで、洋館みたい。

リビングは吹き抜けとなり、その上には2階がない開放的な空間。


2階にあがると、部屋は3つと、お風呂、トイレがあるようだった。

その下に、キッチン、リビング、使用人部屋、倉庫があるらしい。

これからは金持ちとしての生活が保証されている。


お父様が私の部屋に通してくれた。

女の子らしいピンクが基調の部屋。しかも広い。

窓からは、陽の光が溢れんばかりに差し込む。


ベットは、キングサイズで、シーツには可愛らしいヒラヒラもある。

防音になっているのか、大きな音響セットもあった。

そして、クローゼットには多くの可愛い服やブランド物のバックが並んでいる。


部屋に入った途端、お父様のスマホに連絡が入る。

仕事の電話だから、1時間後にまた来ると言って部屋から出て行った。

この部屋にある娘の物は、今から何でも使っていいと言いながら。


引き出しを開けると、アンダーウェアが綺麗に畳まれて並ぶ。

使用人が綺麗に扱っているのだと思う。見たこともない美しいレースの物ばかり。

こんな美しいものを身につければ、それだけで内面から自信が溢れるに違いない。


恵まれた環境なのに、どうして家出なんてことをしたのかしら。

親に暴力を振るわれているなんて感じはない。

学校でいじめられているとか?


それとも、何かの事件に巻き込まれて、本当に殺されているの?

バラバラにされた体が、大きなキャリーケースに詰められ、山中に捨てられる。

さっきまで明るい日差しが差し込み、暖かく感じていた部屋に怪しげな空気が漂う。

まだ女子高生で死んでしまった悔しさや悲しみが渦巻ているように感じる。


でも、この生活を引き受けた以上、全うするしかない。

考えても分からないことは忘れよう。

むしろ、明るく女子高生として振る舞うことで、そんな怨念は払ってしまおう。


私は、制服やアンダーウェアが体に合うのかチェックを始める。

偶然なのか、驚くことにどれもピッタリ。バストも大きい女性だったのには驚く。

スカートから見える素足は、女子高生らしくて感激する。

今の私の体には、女子高生の制服が似合っている。


これなら、明日から何も不安なく、学校に行けると思えた。

この部屋では、少しでも明るく振る舞うことにしよう。

それしか道はないのだから。

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