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おじさん、女子高生になる  作者: 一宮 沙耶
第1章 若返り

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6話 痴漢事件

闇バイトの組織から、最初の仕事の指示が来る。

悪い大学教授を失脚させるために、その教授のもとに入り込み、痴漢事件を起こせと言う。

最初だから、まずは簡単な仕事だとのこと。

先日の男性トレーナーから、ハニートラップの腕は満点だと聞いているとも言っている。


その教授は帝都大学で国際政治を専攻している。

中東紛争の関係で毎日のように、コメンテーターとしてTVに出ている。

国際情勢に精通しているだけではなく、紳士で女性にも人気があるらしい。


そんな海外でも有名な教授から性的暴行を受けたという事件を起こす。

女子高生がお金をもらって、電車の中で男性から痴漢されたと叫ぶ感じの仕事。

まあ、誰も見ていない所で痴漢されたと、服が乱れた女性が騒げば男性に勝ち目はない。


その教授は、世間から大きな注目を浴びて、もう再起不可能になる。

誰も見ていない所で私が騒ぎ、警備員が教授を捕まえる状況を作り出すのがポイント。

組織が、教授秘書のアルバイトに私を送り込むという。


男性として会社勤めをしていた頃は、誰からも褒められたことはなかった。

でも、ここで成功すれば、褒められ、多額の報酬を得ることができる。

人生をやり直すには、これほど良い機会はないし、失敗する気がしない。


匿名でのDMでのやりとりが続く。


「暴行を本当に受けたり、エッチはしなくていい。あくまでも、その事件が起きたと社会的に思わせるだけだ。最初の仕事としては、ちょうどいい。シナリオとか、この教授の情報を渡しておくから、目を通して、イメージアップしておいてくれ。その人と会う日時、場所は後で連絡する。」

「わかりました。まずは、やってみます。」

「初めて人を騙すのは勇気がいると思うが、1人でやれるシンプルな仕事だから、まずは実力を見せてくれ。お手並拝見だ。」


資料が送られてきてPCに保存すると、やりとりしているDMは消える。

組織は存在がバレないように手を抜かない。


資料には、その教授のどこが悪いのかは書かれていない。

もしかしたら、別の教授がその人を失脚させたいだけなのかもしれない。

国際政治を専攻する教授だから、何か政争が絡んでいるのかもしれない。

でも、今の私には、そんなことはどうでもいい。


ただ、最高の演技で仕事をやり切るだけ。

正しいこと、正しくないことなんて、立場によって変わってしまう。

だから、私は、組織の期待に応えればいい。


男性の頃は、失敗を恐れ、小心者と誰からも言われていた。

でも、今は、この体以外は失うものがない。家族もいない。

この案件では、殺されるなんてことはないから、何の心配もなく前進するだけ。


今回の役割は、郵便物の授受や、コピー取り、研究費の事務手続き、何でもやる教授秘書。

教授の日常的な雑務を行い、その教授の世話をする。

私の履歴書は組織が用意して、すんなり大学に入り込めた。


年をとった女性なので、教授秘書としてもある程度実績があるように見せる。

教授秘書に応募するのは、30代、40代のパート主婦が多いという。

まさに、今の私なら疑われない。


事前に情報があるから、会社で働いていた私には、それ程難しくない。

組織も、この歳なら、それぐらいはできると思って、この仕事を指示したのだと思う。


最初、教授は、40歳前後の女性である私には関心を示さなかった。

20歳前後の女子生徒達をからかい、単位を餌にちやほやされて有頂天になっている。

でも、トレーニングの成果を活かし、彼を知らず知らずのうちに虜にする。

日に日に、彼が私といる時間が増えていった。


彼が休んでいる時には、お茶やお菓子を、最高の笑顔でお持ちする。

尊敬しています、本当に大変ですね、憧れています等と頻繁に声をかけた。

谷間とかもあえて見せながら、興味を引くようにする。


さらに、ネクタイが曲がっていますとバストを近づけて直したりもする。

やっぱり彼も一人の男性。彼の目は私の体に釘付けで、見られているのって分かる。

周りの女子学生達は、教授のようなおじさんは、できれば避けたいから邪魔をしない。

私のようなおばさんに、彼の面倒を押し付けられれば、それにこしたことはない。


ある時は落とし物を探すフリをして、床に体を下ろし、うつぶせになる。

ヒップを上げて彼の方に突き出し、真っ赤でセクシーなショーツが見えるように。

そして見つかりましたと、彼の方に飛び跳ね、ペンをバストの前で握りしめる。

自然とバストに視線が集まるように。


高い声で話し、タイトなシャツとミニスカートでボディーラインをアピールする。

トイレから出てくる彼にわざとぶつかり、バストから彼の胸に飛び込む。

もう、毎朝のミーティングでは、彼は、隠しながらも私しか見ていなかった。


ただ、1人になった時、周りには、少し、困惑しているような表情も見せる。

何があったのだろうと、彼には内緒で、学生の間ではひそひそ話しが広がっていく。

数日が経ち、みんな帰ろうとしていた夜に彼から声をかけられる。


「佐久間さん、今日は、研究費の申請書作成で、お願いしたいことがあるんだけど、残業、お願いしてもいいかな。」

「もちろんです。」


教授室にいた准教授や学生達は、一瞬ざわつく。

でも、誰も関わりたくないのか、彼から私を守らずに帰っていく。

あなたが魅惑的に振る舞うから、手を出されるのは当然だと言わんばかりに。


彼は、自席に座って資料を片付ける間、私にずっと話しかけていた。

下心丸出しで、冷静に男性を見ると、本当にバカな生き物だと吐き気がする。


自分が学生のころ、この世の中をよくしようと燃えていたこと。

教授になったばかりの頃、足を引っ張る人ばかりで苦労したこと。

それを乗り越えて、国際政治の動向を指南する総理のブレーンだと。


ずっと、彼は、自分の自慢話しを繰り広げていた。

私は、そんな素敵な教授に憧れていますと、ずっと作り笑いをしながら聞いていた。

仕事で、お金をもらうための演技だと思えば、嫌なことはひとつもない。


1時間ほど経った頃、彼が声をかけてくる。


「お腹も空いただろう。お弁当を用意したから、ビールでも飲みながら、一緒に食べよう。」

「教授にお気を使わせてしまってすみません。でも、尊敬している教授とご一緒できるなんて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。では、コップを用意しますね。私は、お酒は弱いので、コップ1杯ぐらいしか飲めませんが。」

「もちろん、それでいいよ。さあ、食べよう。」


こんな安いコンビニ弁当で女性を釣ろうなんて、本当に生活レベルが低くてケチな人。

40歳前後の家族がいない寂しい女性なんて、一言かければ自分になびくと自惚れている。

さっきの自慢話しも、相当盛っているに違いない。


私が男性だったころ、女性はみんな私をバカにし、話そうなんて気にはなれなかった。

既婚者が女性と2人きりで一つの空間で過ごすなんて考えたこともなかった。

でも、こんな風に自分に自惚れ、女性は自分に惚れるなんて誤解する男性が目の前にいる。


先生に目をやると、女性に人気があるらしいけど、どこにもオーラがない貧相なおじさん。

自分の自慢話しをする度に、神様からご加護を受けていると、手を天にあげるのは笑える。

あなたなんて神様は見ていないし、見ていたらとっくに罰を下している。


もちろん、今回は私が騙して教授として失脚する。

でも、多分、これまで多くの女性に手を出し、問題にならずに過ごしてきたに違いない。

もしかしたら、単位をちらつかせて多くの女子学生を泣かしてきたのかもしれない。

この世界は、やったもの勝ちというか、地位が高い程、得していることを改めて知った。


そんな世界は変えなければならない。真面目に努力している人が報われる世界に。

まずは、目の前にいる醜態をさらす男性に、そんな甘いものじゃないことを知らしめる。

私は、男性として暮らしてきた頃に損をしたと怒りがつのり、彼に敵意を感じていた。


今の私は女性だから、嫌らしく、プライドだけは高い彼を失脚させることができる。

そのゴールに向けて冷徹に演技をすればいいし、そのスキルは身につけた。

思いっきりの笑顔で、彼をよいしょする。彼に、私の本心は分かるはずがない。


教授室のソファーに座りながら、体を寄せて、缶ビールを彼のコップに注ぐ。

バストが彼に当たるようにして注いだ。

缶ビールを2本ぐらい飲んだ頃に、少しよろけて、彼の膝に倒れかかる仕草もしてみた。


そのうち、彼は、やや酔っ払った様子を見せる。

俺はすごいんだ、これからも俺について来いとか声が大きくなってきた。

そんな彼を横目に、少しスカートの裾を上にずらし、ももを見せて擦り寄ってみた。


そうすると、彼は、私のももに手をおいて、可愛い子だねと呟いた。


「きゃー。乱暴しないで。」


私は、下着が見えるように、ブラウスのボタンを引き裂いて、廊下に逃げ出した。

ボタンがなくなったブラウスから、ブラも取れかかり、バストが顕になる。

もちろん、この時間に、教授室の前に警備員が見回りをしに来ることを知っている。


「乱暴されたんです。」


泣きながら警備員に助けを求める。

これをみた警備員は、酔っ払った彼を確保し、警察に引き渡すことになった。

私は、翌日、組織から紹介された週刊誌の記者を前に、さめざめと泣く。


性的暴力を彼から受け続けてきたと。

教授室でも、2人だけになると、横に座れと強要され、ももをさすられたと。

もうゴミのようなおばさんなんだから、それぐらいできるだろうと脅されたと。


みんなの前で色目を使って、自分が女性からモテると見せつけろとも言われた。

歳のことを持ち出され、いつも、おまえは人生の敗者だとバカにされ続けたと。

口に出せなくて苦しかった、許せないと訴えた。


TVコメンテーターとしてひっぱりだこの性犯罪事件として大話題になる。

大学には抗議の電話がなり続け、彼は大学教授の資格を取り消されてしまう。

数日後、彼は、誰もいなくなった教授室で首を吊り自殺したと報道された。


主人を亡くし、論文等の書類が散乱する教授室を、清掃員が掃除をする。

教授室の窓からは、どこまでも続くビル群が広がる。

廊下では、教授室のネームプレートが別の人の名前に変えられていた。

1人の教授が亡くなっても、何も変わらないとでも言うように。


でも、世の中はそんなもの。

誰かが損をして、誰かが得をして、結局最後は何も変わらない。

だから、自殺したのは後味が悪かったけど、私は悪いとは思っていない。


むしろ、期待の成果が出せたことに満足した。

この前まで、おじさんだった私が、女性になって、何でもできる気がみなぎっている。

男性として暮らしてきた頃は、なんで、うだつが上がらない人生で終わったのだろう。


男性の頃は、周りから批判されるだろうと気にしすぎていた。

だから、なにかやろうとしても、やる前に諦めることが多かった。

結局、何をやってもダメだと思うことで、何もやらなかったことが悔やまれる。


その結果、さらに何もできないやつ、やる気がないやつと誰もが見ていたのだと思う。

お客様も、依頼しても何もできない、やる気がない私に依頼するはずもない。

自分の可能性を自分で潰していた。

でも、女性になり、やればできることを知った。全て自分の気持ち一つだと気づく。


60歳定年で、人生が終わったと感じたからかもしれない。

これからは、恥や周りへの配慮なんて気にせずに生きていこうというきっかけになった。

これまで、周りの期待に応えたいと思いながら、逆に期待もされない人になっていた。


女性になり、自分なんてという固定概念が取り払われたからかもしれない。

なりたい姿になれた、ただ、それだけの簡単なことだったのかも。

これまで老化していた体が、女性ホルモンで若年化しているのも影響があるのだと思う。


私は、これから誰もが振り向くような素敵な女性になってみせる。

通常なら、闇バイトなんて、捕まらないように隠れて過ごすもの。

でも、若年化している私なら、気づかれても別人だと言い張って逃げられる。


むしろ、自分が素敵な女性だと周りの人達に見せつけてやりたいし、その方が捕まらない。

その意味でも、女性として磨きをかけていく。

私は、裸になり、鏡に映る女性の姿にうっとりする。そして、この体が、どんどん若返る。


男性の時に、本当に嫌だった股についた棒、貧弱な胸、今は、そんなものはない。

艶やかで大きな魅惑的なバスト、ムダ毛を処理したツルツルの肌、ヒップの曲線美。

どこをとっても美しいし、これから、どんどん若返り、髪も艶やかになる。


家族もいないから、組織から縛られることはないし、男性は女性の魅力には弱い。

それが自信になり、このハニートラップの仕事は、今の私には向いている。

組織も、私の成果を褒めてくれる。今は、私を応援する環境が整っている。


最近は、女性が生きることに制約も少なくなっている。

力が弱いということも、戦争とかで力を使う場面が少なく、弱点となることはない。

むしろ、男性が女性の言いなりになっていることも少なくない。


そんな時代に、憧れていた女性になれたことは本当に良かった。

いずれにしても、今なら、なんでもできる気がする。


シナリオがあったのは大きいけど、私の変身力、演技力も侮れないレベルだと思う。

でも、これって快感。悪い人を懲らしめているのだから。

私は、女性になってから、初めて世の中に貢献できていると実感している。


この世に生まれ、価値のある存在になれたのだと初めて思えた。

しかも、私の体を見るたびに、素敵な女性だと自信がみなぎる。


しかも、1,000万円が私の口座に振り込まれたことを確認する。

私は、その晩、タイトなチャイナドレスに着替え、スリットから素敵な足をのぞかせる。

高級寿司屋のカウンターに一人で座り、お寿司を前に、日本酒で乾杯をした。

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