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おじさん、女子高生になる  作者: 一宮 沙耶
第1章 若返り

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3話 外出

レディースの洋服を着たり、メイクすることは男性のときから慣れている。

ただ、今の私の体はレディースの洋服の曲線とぴったりと合うのが嬉しい。

昔は腰のラインとかが合わず、目の前を歩く女性のヒップをみて羨ましかった。

でも、今はそんなことを悔やむ必要はない。


男性器を無理やり下に押し込め、歩きづらい不便さを感じることもない。

素直に、レディースのショーツが体にぴったり合う。

スカートはトイレの時に意外に便利だと感じた。パンツよりは使いやすい。


なんだったらビキニ姿で海岸を歩くこともできる。

昔だったら、男性器は隠せなかったけど、今は堂々と。

おばさんにビキニが似合うかは別だけど。


レギンスを履いてみると、昔にはなかった割れ目も見える。

本当に女性になれたんだと感動する。

ただ、最終的には外では目立つので、おりものシートで目立たなくした。


髪もすこし伸びたから、ヘアサロンに行って、おしゃれなスタイルにする。

ヘアサロンの店員が髪を切り揃えると、どこから見ても女性にしか見えない姿が鏡に映る。

もしかしたら、顔も、少しづつ女性らしく変わっているのではないだろうか。


今回が初めてだから、みっともない髪型を店員に見られてしまった。

髪がただ下に伸び、痴呆性老人のようにぼさぼさだったから、自分で切って来た。

それでもひどい姿。自分で髪の毛をカットするには限界がある。

今後は、揃えられた髪型から伸びた部分を切ればいいので、恥ずかしい思いはしない。


一応、店員は、最後に上品な奥様ですねと語りかけ、私の対面を保ってくれる。

旦那さんを亡くし、長い間、暗い部屋で塞ぎ込んでいたと思ったかもしれない。

痴呆症を発症し、徘徊している人だと思ったのかもしれない。


単に、おばさんだから、家に閉じこもり、おしゃれを気にしないことも不思議ではない。

いずれにしても、お客の気持ちを傷つけずに、笑顔で接してくれるのは立派。

また来るわねと笑顔で言って、ヘアサロンを出る。


その後、ブティックに行き、レディースの洋服を着ていたら3時間も経っていた。

今回は少しチャレンジをして、女性らしいラインが際立つ、チャイナドレスも買ってみた。

店員もマダムにはお似合いだと褒めちぎる。


こんなおばさんに本心でないことは分かっているけど、嬉しさが口元からこぼれてしまう。

最初は歩きづらかったけど、ハイヒールの靴も新調する。

本当に楽しい。女装なんていわれずに、女性としてドレスアップができる。


男性だった時は、女装して外を歩くなんて、怖くてできなかった。

ばけものが道を歩いていると指をさされるのではないかと恐怖が先に立つ。

なんだったら、変態だと言われ、逮捕されるかもしれない。


でも、今日は、女性として自信を持って外を歩き、誰も違和感を感じていない。

素敵な人だと振り返られることまではないけど、変態だと指をさされることはない。

びっくり、ワクワク。おしゃれな55歳ぐらいの女性にみえる。


もっと、私のことを見て欲しい。

おばさんでも、念願だった素敵な女性になれたのだから。

少し疲れたので、カフェで紅茶をいただき、優雅な奥様になりすます。

今まで居酒屋しか似合わなかったおじさんが、女性ばかりのカフェにいても違和感がない。


そんな時、ふと今朝のことを思い出し、メイクの肌へののりが良かったと気付いた。

顔つきもそうだし、肌がきめ細やかになったみたいだ。

なにげに、バストがむずむずするけど、少し大きくなっている気もする。


3ヶ月ぶりに定期検診に行って確認してみる。

久しぶりに訪れた病院は懐かしい。私の夢に溢れる生活はここから始まった。

周りをみると、病気や怪我なのか、暗い雰囲気が漂う。


私の周りだけが、ほのぼのとした暖かい空気に包まれる。

周りも、病気は治り、術後の経過観察だと見えているのだと思う。

しかも、誰もが男性から女性に変わったと想像もせずに。

そう、手術で、私の生活は一変した。それも素晴らしい方向へと。


腹痛で駆け込んだ時が懐かしい。

あの時は、不安でいっぱいだったし、生活に何も希望が持てなかった。

その頃の自分に言ってやりたい。素晴らしい未来が待っているんだと。

世間体を気にして、諦めなくて良かったと。


30分程、椅子に座って待っていると、私の名前が呼ばれる。

名前も女性のものに変えてあるから、周りも違和感を感じている様子はない。

診察室に入ると、医師は私を見上げ、大声をあげた。


「おぉ、3ヶ月だけなのに、すっかり女性らしくなりましたね。声は少し低いけど、喋り方も女性と違和感ないし、どこから見ても女性です。びっくりしました。」


医師は、本当に驚いた様子で、笑顔を私に向けている。

恥ずかしげに下を向いたことに、自分でも、仕草が女性らしくなっていることを実感する。

そして、上目遣いに医師を見上げると、医師も照れ笑いをしている。


「それは嬉しいです。ところで、最近、肌がきめ細やかになった気がするのですが、やっぱり卵巣からでる女性ホルモンのせいですかね。」

「たしかに、61歳の男性肌にしてはつややかですね。調べてみます。」


血液検査とかして1時間ぐらい経って、先生と面談をする。


「すごいですね。手術前の体年齢は実年齢と同じ60歳でしたが、今は57歳と出ました。血圧、血糖値等も改善されています。測ったら、バストも大きくなっているじゃないですか。エコーの検査だと乳腺が発達してきています。すごい。」


自分でも、体がどんどん女性らしくなっていくのを日々感じている。

顔のシワやシミも消えていっている。

医師はデータを見ながら、おどろいた表情で話しを進める。


「痩せたことも関係があるのかもしれませんが、むしろ、動き始めた卵巣が、この体を12歳ぐらいだと思って女性ホルモンをいっぱい出しているんじゃないかと思います。これからも、定期的に来てください。もしかしたら、これからも若返りが進むんじゃないでしょうか。どうか見極めていきましょう。」


医師は何度もデータを見返し、明るい未来があるとでも言うように声がはずむ。

学会発表でも考えているのかもしれないけど、見せ物になるのは勘弁してもらいたい。


「そうなんですよ。最近、なんとなく、体から力がみなぎるというか、活気を感じます。ところで、これから若い女性にもなれるということですか?」

「よくわかりません。時間をかけて様子を見ていくしかないですね。」


医師も初めてのことなのか、断言できることはほとんどないように見える。

でも、若返っていることは実感できていて、データもそう言っている。

やはり、高齢者になると、若さというものがとっても貴重なものだと気づいた。

その若さを再び手に入れられることに期待が増す。


せっかく女性となったのだから、できれば、若い女性として暮らす経験もしたい。

でも、そんなに期待しすぎると、そうならなかった時の落胆は大きい。

だから、期待をせずに、なりゆきで前に進んで行くことにしよう。


それにしても医師の対応が、男性の時に比べて優しくなっている。

同性に対するよりも、異性に対する方が男性は優しくなるのだろうか。

自分が手術をした患者を自分の子供のように思っているのかもしれない。


いずれにしても、事情を知っている医師もそうだから、他の男性も優しくしてくれるはず。

これまで世の中の女性のわがままを聞き、我慢ばかりしてきた。

でも、これからは、自分の気持ちを開放し、少しぐらいわがままに振る舞ってもいい。


私は、病院を出て、明るい日差しを見上げた。

6月中旬で、新緑の葉も深い緑に変わりつつある。

もう少ししたら暑い季節になるのだろう。


木々の葉からは陽の光が漏れる。

こんな爽やかな気分で外を歩いたのは何年ぶりだろう。

会社に入ってから、そんな時はなかった気がする。


会社では、単調な仕事ばかりの毎日だった。

定時までには作業が終わらず、週末も、考えることは仕事のこと。

特に、感染症で家で仕事するようになってから、365日が仕事になった。


定年になると、仕事は一層単調となったけど、逆に仕事がなく暇な毎日が続いていた。

どちらにしても、楽しいと思ったことはない。

ただただ、死ねないから生き続けるという毎日だった。


でも、今後は、お金が残っている範囲では楽しい人生が待っている。

その意味では、これまでの自分の働きを褒めてあげたいし、親にも感謝をしている。

私はエプロンを付け、盛り上がるバストに笑みが溢れ、晩御飯を作る。


諦めずに女性になれて良かった。

これからは常識に囚われずに、自分が思う方向に進んでいこう。

もう私の体には常識というものがない。せっかく授かった、新たな人生なのだから。


ただ、いずれはお金も尽きるだろう。

とは言っても、今、働き始められる感じはしない。

まあ、将来は想像できないし、その時に考えることにしよう。


戸籍は、すぐ女性に変えた。

そのために、先生とその友人の先生2人に認定してもらう。

性同一性障害で男性器はないことを。


女性の名前になった時、名実ともに女性になれたと身体中に喜びが溢れる。

もう、男性だったことの痕跡はどこにもなく、戸籍も女性だと証明してくれる。

妻と娘の戸籍は分たから、この戸籍を見て驚くこともないと思う。


ただ、戸籍上の年齢は61歳。これでは履歴書を出せないという問題は残った。

年齢をごまかしてもいいけど、経歴詐称で解雇になるリスクはある。

表通りで仕事をすることは、諦めるしかない。


まあ、当面は、贅沢しなければお金は5年以上は持つ。

友達はいないし、今更、昔の知り合いにも会えないから、お金を使うこともない。

おばさんだから、流行とかは気にせず、女性になったことだけを楽しめばいい。


周りからは、寂しい1人暮らしの女性と見えるだろう。

家からもほとんど出ないので、印象もないかもしれない。

でも、そんなことは全く気にならない。これまでもずっと、一人で過ごしてきたのだから。


最近は、だいぶ女性らしくなって外にも出かけることも増えた。

顔も更に女性らしい形に変わっている。

そろそろ温泉旅行とかに行ってみよう。昔から温泉旅行が趣味だったから。

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