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おじさん、女子高生になる  作者: 一宮 沙耶
第2章 女子高生へ

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9話 ばれる

あんな事件があっても時間が心を穏やかにしてくれるのか、最近は食欲もでていた。

大学の食堂でカレーを食べようとしている時に、目の前に怒った顔の女性が座る。

水が入った私のコップを握り、今にも私に水をかけようとしていた。


「あなたは誰?」

「え? なんのこと? そもそもあなたこそ誰なの? この大学の人?」

「佐久間 紬衣って私なの。どうして、私の名前を名乗ってるの?」


私は何を言っていいのか分からなかった。

どうも、自分と同姓同名の人がTVに出てるってことで、調べたらしい。

後をつけると、自分の家に入っていくことにびっくりした。

いつの間にか、自分の立場が乗っ取られているって。


目の前の女性は確かに私に似てる。

背が高くて、顔も姉妹とか言われれば、そう思っちゃうほど。

ただ、金髪の髪の毛は枝毛ばかりで、肌も荒れ、貧しい生活をしているように見える。


いかにも、インターネットカフェで寝泊まりをしているみたい。

それで、元の生活に戻りたいと考えたのかもしれない。

目には、絶対に負けられないと気迫がみなぎる。


「あなたは、パパとママの実の娘なの?」

「そう言っているじゃない。どうして、私になり代わってるのよ。」


これはまずい。

パパとママに引き渡すのが正しということは分かっている。

ママも喜ぶはず。私の思考は、しばらく、その正解の所で止まってしまう。


でも、彼女を家に戻せば、せっかく手に入れた戸籍を失ってしまう。

理恵は失ってしまったけど、大学生活は失いたくない。

どうしよう。今の生活を、正論で手放すことはできない。


「どうして、家から出たの。」

「そんなこと、あなたに言う必要はないでしょう。」

「でも、あなたが家を出たから私が呼ばれんたのよ。だから、そのぐらい聞く権利はあるでしょう。」

「私が何をしようと、あなたが私になりすますことが正当化されるわけじゃないのよ。誰なの、あなたは? どうせ、過去に悪いことやって、戸籍を変えなくちゃならないんでしょう。犯罪者って感じだものね。私が、あなたと交換になって、犯罪者として死ぬなんて嫌よ。」


実際に過去に闇バイトで詐欺をしてきたし、言っていることは間違っていない。

しかも、この女性の人生を私は奪っている。

返せと言われれば、今すぐにでも返さないといけない立場。


でも、返したくないし、今更返せない。

だって、もう何年も努力して過ごしてきた私の人生だもの。

そもそも、自分を捨てて家を出た人が悪い。そんな人にこの立場を返したくない。

私の心は、邪悪な気持ちに支配されていった。


「わかった。あなたの立場は返すから、少し待って。もともとパパとママにお願いされて、あなたとして暮らすことになったの。でも、いきなりあなたの話しをしたら困惑するでしょう。だって、もう2年以上も娘として一緒に過ごしているのよ。少し時間をもらいたい。ところで、あなたは家に戻る気があるの?」


まずは、同情を引き出し、時間稼ぎをしよう。


「長い間、家出をしていたけど、最近、分かったの。わがままだったって。だから、家に戻って、パパとママを大切にしたい。」

「分かった。少し待って。連絡先を交換しよう。」

「なんで待たなければいけないのよ。」


少し、自分を反省している様子だったけど、すぐに攻撃的な口調に戻る。

目の前の女性も、私を追い出さないと自分の人生を取り戻せないと、追い詰められている。


「あなたに、この人生を返した後、私が暮らす生活を用意しなければならないでしょう。」

「そんなこと、私に関係ないじゃない。」

「じゃあ、私に、水商売でもしろということ? それは酷すぎる。そんなことになったら、またTVで、あなたから水商売を強要されたと言うわよ。話題になると思う。」

「そんなの嘘じゃない。あたなは腐っているわね。あの事件も嘘だったの。でも、分かったわ。待っているけど、1週間が期限よ。」

「もう少し時間をくれない?」

「だらだらとしていてもだめでしょう。期限は1週間。」


その子とは別れた。

どうしよう。考えがまとまらなかった。

彼女と私が双方で合意できる落とし所が見つからない。


その晩、家に帰ると、いつものようにママが暖かく迎えてくれる。

家の光は、いつものように暖かく私を照らす。

誰も味方がいないのに、パパとママだけは優しい。


本当に、ずっとパパとママの娘でいたい。

特に軽井沢での事件からは、頼れるのはパパとママだけだった。

でも、本当の娘がいると知れば、私への愛情はすぐに消えるに違いない。


そんな事を考えているうちに、殺意が芽生えてきた。

そう、あの子がいなければいい。

そもそも、パパとママの気持ちを傷つけたのはあの子。


しかも行方不明で生きてるかもわからない。

だったら、この世から消えても誰も気づかないし、困らない。

そうすれば、パパとママの愛情は、ずっと私に向かうはず。


私は、自分が捕まらない殺し方を考えていた。

後から思えば、私はどうかしていたんだと思う。

でも、その時は本気だった。


ドラマのように崖に呼び出して突き落とす? それは無理。

そもそも、崖に呼び出したら警戒するでしょう。

私が突き落とされてしまうかもしれない。


電車のホームとか交差点で後ろから押す?

最近は監視カメラや車載カメラがあるからバレるかも。

そもそも、気づかれずに後ろに迫るのは難しそう。


何か嗅がせて気を失った後、車に引きずり込む?

ネットで調べると、すぐに気を失うような液体はないとか。あれはTVだけの話しだった。

じゃあ、どうすればいいのかしら。


私は禁断の手を思いついた。

昔、闇バイトをやっていたときの組織に頼めばいい。

暴力団とも縁がありそうだったし。


でも、脅されてしまうのも困るので、昔の名前で連絡した。

信じてもらうために、過去のやり取りを添えて。

いかにも、昔の私から依頼したように。


その時だけに新しく作ったフリーメールから送る。

殺してくれたら、組織にまた戻るとも伝えておく。

ここまですれば、50歳過ぎの女性からの依頼だと思うでしょう。

大学生の私に辿り着くことはない。


ただ、50歳過ぎの女性が、どうして20歳前後の女性を殺すのか理由はいる。

一緒に働いていたけど仲間割れをして、私の素性を警察にバラすと言うからと伝えた。

あの女性が、大学生の私を脅しているなんて、組織が分かるはずがない。

これで、女子大生の私が組織に追われることはないと思う。


組織は驚き、これはチャンスだと思ったに違いない。

また、行方不明だった、あの、詐欺の能力に長けた女性を再び使えるって。

そのためには、まず、依頼を実行し、恩を売ればいい。


万が一、今の私に辿り着いても、昔の私との関係は分からないはず。

私の顔写真は組織にはバレてるから、血縁関係があると思うかもしれない。

でも、戸籍からは、全く関係のない人としか分からない。

そのためにも、戸籍は絶対、守らなければいけない。


私がこの世にいるとすれば50歳ぐらいで、今の私より30歳以上、老けている。

見つかるはずがない。これならいける。

私は、もう逆戻りすることはできないと思っていた。


あの子からは、会った日から毎日連絡が来ている。

早くしなさいって。


でも、3日目から連絡は途絶えた。

多分、組織が消してくれたんだと思う。

探したけど、どこにも報道された気配はない。


コンクリート詰めにされて海に捨てられた?

山中に埋められ、白骨化に向かっている?

それから、しばらく悪夢にうなされた。


生気がなくなったあの子の目が私を睨む。あの子のお腹から、ウジがわいている。

骨だけになったあの子の腕が私を掴む。そんな悪夢に毎晩、苦しめられた。


でも、今更、戻れない。

このことは、死ぬまで私が背負っていくしかない。

パパやママ、そして誰にも言わずに。


いずれにしても、私は、あの子から開放された。

せっかく得た人生なんだから、しっかりと生きていく。

これから明るい未来が待っているはずだから。


これまで、女性として生きるために一生懸命生きてきた。

そんな努力を続けてきた自分を褒めてあげたい。

そんな私の人生を邪魔するのが悪い。そんな人は、この世の中から排除してもいい。


そもそも、あなたが自分の人生を捨てたのが悪い。

それを私が拾っただけ。もう、捨てた時に、あなたのものじゃなくなっている。

今更、戻してくれなんて都合のいいことを言って、悪いのはあなた。

だから殺されても文句は言えないし、私は悪いとは思っていない。


もう、あの女性のことはなかったと忘れるしかない。

今更、何もできないのだから。

生きていくことで、誰にも言えない罪が増えていく。


すでに背負える重さを超えていて、日々が辛い。

あれだけ、理恵と笑いで溢れる日々だったのに、今はねっとりとした黒い闇に包まれる。

パパとママには嘘の笑顔を向けるのも苦しい。苦しい。


一方、組織からは連絡がなかった。結局、私のことを探せなかったんだと思う。

まさか、連絡した50歳過ぎの女性が、女子大の寮に住む学生だなんて思うはずがない。

もう、私の将来を邪魔する人はいない。


私は、空を見上げた。雲に覆われている。

私の将来は、不安に包まれているけど、明るい未来もあるはず。

私だけの秘密にしておけば、誰にもばれないはず。


ただ、悩みが1つあった。

あれだけ強姦された女性として騒がれ、顔もでてしまった。

こんな私を雇ってくれる会社なんてあるのかしら。


どんな職業だったらいいのかしら。

そう、正義に向けて戦う検事はどうだろう。

正論の世界だから、強姦されたと言っても拒まないでしょう。


それから法学部に転入して必死で法律の勉強をした。

これしか道はないと思ったから、必死になるしかなかった。

あの女性の命を奪っても守り切った私の人生。大切にしないと。


そして、司法試験予備試験に受かり、大学卒業までに司法試験にも合格した。

世の中の動きを実体験してきたことも役立ったのだと思う。

どうして、そのような仕組みがあるのか、裏の社会も知っている私にはよく理解できた。


そして司法修習を経て検事になる。

私のことは誰もが忘れているみたい。

それがバレても、検事の地位は失われない。


そして、最初の赴任地は横浜だった。

その頃の私は絶好調の人生に酔いしれていた。

これから何が待ち構えているかを知らずに。

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