8話 強姦
理恵が見えなくなる。これからどうなるの。理恵も困っているに違いない。
というより、横の部屋から理恵の悲鳴が響く。
私と同じように、無理やり抱きしめられているのだと思う。
理恵を助けるためにも逃げないと。
先輩の手を払ったけど、強い力で壁に押し付けられる。動くことができない。
「嫌。」
「そんなこというなよ。いいだろう。紬衣だって、僕が欲しいんだろう。だって、さっき、合意するサインを出していたじゃないか。理恵のことなんて、あいつに任せておけばいいんだよ。後で、きっと理恵もいい思い出になったと言うさ。」
その時だった。
いきなり、乱暴に服を脱がされる。抵抗しているのに、無理やり。
昔、国会議員に乱暴されたときの記憶が蘇ってくる。
ブラウスは乱暴のあまり、ボタンがいくつか外れ、床に飛び散る。
ブラも上げられ、片方のバストは顕になってしまう。
スカートも降ろされ、今、ヒップに手を入れてショーツを脱がそうとしている。
もうすぐで全ての衣服が脱がされてしまう。
「嫌、こんなひどいことはやめて。」
私は、バストを腕で隠す。でも、先輩は私の手を上げ、ブラを取って床に投げる。
「紬衣、とっても綺麗な体じゃないか。ボディーラインなんて素晴らしい。しかも、パイパンなんて、初めて見たよ。」
国会議員との時は、エッチについて、まだ男性目線だったのかもしれない。
でも、最近は、エッチについて女性の立場で感じ始めていた。
女性として長く過ごすことで。
エッチをすると子供ができちゃうかもしれない。
未婚の母なんて大変だし、周りからの目はこの時代でも厳しい。
堕ろすこともできるけど、体が傷つくのは女性だけ。
だから、エッチに踏み切るにはそれなりの覚悟がいると初めて感じた。
ピルとかで避妊していれば別かもしれないけど、私は今、避妊していない。
この人の子供を産むという覚悟がないと、エッチは怖い。
女性が男性を受け入れるには、男性に大きな愛情を持たないとできないことを知る。
この男性の子供が欲しいと思えないと、体を許すことはできない。
元妻も、私にそんな気持ちを持っていた時があったのだろうか。
そんなことを思い出している時ではない。
国会議員から受けた暴力がトラウマになっていたから、体がすくむ。
抵抗をするけど、女性の体では男性の力にはかなわない。
こんなふうに上から力で押さえつけられたら、もう何もできない。
私は、恐怖で動けずに、悲鳴をあげていた。
「嫌、やめて。」
「紬衣も、したいんだろう。キスだってしてたじゃないか。」
「先輩が強引にキスをしただけでしょう。痛い、肩を押さえつけないで。」
「ここまできて、お預けなんてできないよ。胸が大きいな。前から見てみたかったんだよ。」
バストを揉まれてつつも、体は恐怖でこわばっている。
先輩は紳士だと思っていたのに。こんなに野獣みたいな人とは思わなかった。
でも、そんなことに気づくのは今更で、もう遅い。
もしかしたら、これまで闇バイトで人を陥れてきた報いなのかもしれない。
神様が私に罪を与えている。許してください。
もう、あんなことはせずに、清く生きていくから。
でも、そんなお祈りをしても、事態は何も変わらない。
「怖い。お願いだから、離して。」
「男性とは初めてと言っていたよな。僕が最高の経験をさせてあげる。多分、気持ちよくて、後で感謝すると思うよ。だから、暴れないで力を抜いて、僕に任せてよ。ほら、もう乳首が立っているじゃないか。うぶなふりをして興奮させようなんていう感じか。無理をするなよ。」
いつの間にか両足は上げられ、私の敏感なところを先輩は舐め始める。
やめて。私は、感情がある人間なの。あなたの性欲を満たすための道具じゃない。
でも、穢らわしい先輩の力は強過ぎて抵抗ができず、そのうち思わず声が出てしまう。
「ほら、気持ちいいだろう。濡れてきたじゃないか。やっぱり女だな。嫌なんていいながら、その気なんだろう。この感じだと、初めてじゃないんじゃないか。そうなら、そんなに嫌がるなよ。やりたいんだろう。燃えちゃうね。」
「だめ。」
その気なんてことはない。気持ちに反して強引に犯されるなんて嫌なの。
抵抗できずに、こんな恥ずかしい姿で押さえつけられている自分のことも許せない。
手で下半身を覆うけど、すぐに両腕は握られ、バンザイをする格好にさせられる。
先輩は、大事な所を私の敏感な所に擦り付けている。もう逃げられない。
もう、私を守るものはどこにもない。
大声で悲鳴をあげるけど、この近くに助けてくれる人は誰もいないし、聞いていない。
理恵も同じ状況なのだと思う。
「やめて。本当にお願いだから。」
「ここでやめられないだろう。」
「痛い。入ってる。だめ。」
もう、何も考えられないし、抵抗できる力はない。
こんなに屈辱的な状況なのに。
減量して筋肉も落ちている私は、男性の力には逆らえない。
というより、強くて逆らえないという恐怖で体がすくむ。
どうして、こんなことになっているの。本当に嫌なのに。
「だめ、子供ができちゃう。」
「でたらめを言うなよ。どうせ嘘なんだろう。もう逃げられないから諦めろよ。生の方がお互いに気持ちいいぞ。」
先輩は中に出し切るとスッキリした顔つきになっていた。
おまたから何かが流れ出る感じがする。シーツを見ると、白い液体が私の体から滴る。
体の中に穢らわしい先輩の液を受け入れてしまったことに呆然とする。
でも、今更、どうしようもない。私の体は汚れてしまった。全てを洗い流してしまいたい。
先輩は、再び、大きくなった自分のものを再び私に入れてきた。
嫌なのに体は抵抗できないし、もう力も入らない。
私は諦めるしかなく、ただ天井を眺め、この時間が早く終わらないかと思うしかなかった。
「紬衣ちゃん、気持ちいいよ。」
もう、泣き叫ぶ力も残っていなかった。ただ、今回の旅行を悔やんでいた。
なんで、こんな旅行に来てしまったのだろうか。
「楽しかったな。じゃあ、記念に写真とるから。今夜のことは誰にも言うなよ。言ったら、この写真を学校にばらまくから。」
「そんなことやめて。」
「ほら、掛け布団で隠すなよ。」
布団は剥がされ、スマホを私に向けて何度も写真をとる。
何も付けていない私の体が写真に写る。
「じゃあ、俺達はこの部屋で寝るから、君達はさっきの部屋で休んでね。あいつからも、終わったとメッセージがきたし。理恵ちゃんも、声を上げて、気持ちよかったらしいぞ。」
元の部屋に戻ると、理恵は月明かりが窓から差し込む真っ暗な部屋で泣いていた。
今から思うと不用心だった。しかも、理恵は、男性が好きでないのに。
お互いに、子供ができていないことを祈る。
せっかく手に入れたこの体を暴力に晒してしまった。
私の意思に反して、男性のおもちゃに。
なんてことをしてしまったのだろう。
パパとママには言えない。謝りたい。
あんなに私のことを大切にしてくれてるから。
翌朝、私達は、先輩達が起きる前に家を出た。
ぎこちない歩きで駅に向って帰る。
それから数ヶ月経ったけど、生理が来ないことが心配だった。
あまりに来ないので、病院に行くと妊娠してると言われる。
おめでとうと言われたけど、その場で、中絶をお願いした。
だって、あんな人の子供なんて産めないでしょう。
病院には、強姦されたと言って1人で中絶することにした。
先生からは、警察とかに訴えないのかと聞かれたけど、今は、そんなことを考えられない。
気持ち悪くてしかたがなかった。
汚い先輩の精子が体の中で大きくなっていくことを。
はやく、この体から出してしまいたい。
でも、先生には堕胎した子どもについて1つのお願いをした。
子供のDNAデータは残しておきたいと。
その場で中絶の手術を受ける。
おまたに金属のようなものが入れられる。
痛みよりも、悔しさを感じていた。
病院からの帰り道、私の顔は涙でボロボロだった。
周りの風景も何も記憶に残っていない。
でも、パパとママには笑顔を見せよう。心配させたくないから。
私の反撃はそこから始まった。
警察と大学に、先輩の非道を訴えた。
中絶の証明書と堕胎した子供のDNAを添えて。
思っていたより、ニュースで大きく取り上げられた。
顔出しはしない方がよかったんだと思う。
でも、私は許せないと報道陣に訴えた。
パパとママにもバレたんだと思う。
でも、パパとママは何も言わずに、笑顔で包み込んでくれた。
ありがとう。そう思っても、私は、部屋では、いつも泣いていた。
しばらくは私の顔がTVに毎日のように報道される。
そして、先輩たち2人は逮捕され、大学も退学になった。当然の報い。
私の体は、もっと痛めつけられたのだから。
でも、勝った気分にはなれなかった。
だって、先輩たちが逮捕されても私の体が元に戻るわけじゃない。
理恵も一緒に強姦されたことも噂で広がる。
何もかも失った気持ちで、大学の食堂で座っていた。
周りの女子学生達は、強姦されたバカな女達だと軽蔑の目で見てる。
しかも私は堕胎したと、根拠もなく噂を広げる女性達もいた。
いえ、私が誘ったんじゃないかとも。私が悪くて、先輩は騙された被害者じゃないかって。
私は被害者なのに、なぜ、そんな目でみるの?
やっぱり顔を出したのは失敗だった。
理恵は、メンタルになり寮の部屋に閉じこもっていた。
もう私たちの部屋には明るさはどこにもない。
理恵は、目は虚ろで、髪もぼさぼさ。
自分の嫌いな男性からおもちゃにされ、強姦されて汚れた女性だと批判される。
そんなことは誰からも直に聞いていないのに、責められていると一方的に苦しんでいた。
夜中に、泣くことも許されないと私に叫ぶ時もあった。
最初は、同じ被害者として私と支え合っていた理恵。
でも、言葉数は減り、食事ができなくなって痩せ細り、ベッドから起き上がれない。
最後には、小さな声で、なんで公表したのよと私を責めた。
ごめんね、理恵。
あの時の被害に加えて、私の行為で理恵を傷つけてしまった。
そんなつもりじゃなかったのに。
次の日、理恵は大学を辞め、部屋からふらつきながら去っていく。
次の1年生が入ってくるまで、この部屋は一人部屋になる。
戻ると、暖かい光が迎えてくれる人は、もうこの部屋にはどこにもない。
私のことをずっと支えてくれた理恵はいない。
理恵は、これからも自分を責め続ける人生を過ごすのかもしれない。
そんな理恵にしてしまったのは私のせい。
私は、ずっと自分を責め続けた。
そんなことをしても、時間が戻ることなんてないことを知りながら。
理恵とはそれ以来、連絡がつかず、私たちの関係は自然消滅してしまう。
授業が終わり、寮に戻っても、真っ暗な部屋だけが寂しく待ち構えている。
せっかく手に入れた幸せが、もろく崩れ去ることに、今更ながらに実感していた。
一旦壊れてしまうと、元には戻らない。
翌日、気を紛らわせるために、全ての授業に出ていた。
お昼になり、食堂の椅子に座っている、その時だった。
考えもしていないことが起きる。




