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おじさん、女子高生になる  作者: 一宮 沙耶
第2章 女子高生へ

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6話 噂話し

理恵との生活は笑い声の中で進んでいく。

もう、知らない間にお酒を入れられるなんてことはなかった。約束は守ってくれている。

朝起きると理恵の顔が横にあり、一緒に大笑いして過ごす。


夜は抱き合い、足を絡ませながら、お互いに温め合って眠りに落ちていく。

そんな楽しい時間が過ぎていく。


「理恵って、なんか趣味とかあるの?」

「本当は料理なんだけど、ここで自炊は難しいから、食べ歩きかな。」

「料理作れるんだ。すごい。尊敬しちゃう。私は作れないから、この大学出たら、教えてよ。」

「分かった。で、今度、一緒に、この辺のレストラン行こうよ。」

「そうね。どのジャンルがいい?」

「久しぶりにフレンチに行きたい。この近くに、ひらまつという人気店があるから、そこにしようよ。この5万円のコースなんて美味しそう。さすがに、大学の近くで、まだワインは飲めないけど。」

「そうね。じゃあ、私が予約しておくから。明日の夕方でいい?」

「お願い。」


この大学の学生は裕福な人が多い。

だから、1人5万円のコースもためらうことはない。

お金があっても、今を楽しく生きなければ意味がないと考えているのだと思う。

シックなインテリアの中で高級食材を使った料理がテーブルに並ぶ。


女性になって、こんな穏やかな時間を過ごせるなんて思っていなかった。

何もかも順調で楽しい日々。この日がずっと続いて欲しい。

理恵も、ずっと笑っていて、テーブルがいくつも並ぶフロアーは2人だけの空間に思えた。


帰りには、歩いて5分ぐらいだけど、手を繋ぎ道を歩く。

大きな交差点で赤信号で待つ間は理恵の顔を見つめ微笑む。

理恵は、私の耳元で、誰にも聞こえないようにつぶやく。大好きって。


交差点をすぎると、2階建ての飲食店が並ぶ明るい道路を通り、大学の正門に行く。

大勢が通り過ぎるけど、私には理恵しか見えなかった。

正門の前で手を離し、寮に進む。そして、部屋にはいると濃厚なキスをずっと続けた。


ところで、最近は、理恵が勉強とかで忙しくしていると、寂しいと思う自分がいる。

男性の頃には感じたことがなかった不思議な感情。

誰かの愛情に包まれていないと寂しくて、不安になる。


男性のときは、覚えている限りで、寂しいと感じたことがない。

むしろ、ぼっちの方が楽だと思っていた。

だから友達もいなかったし、できるだけ人との会話は避けていた。


男性として会社勤めをしている時も、その方が自然だった。

成績も上がらず、組織のお荷物として誰もがいなくなって欲しいと思っていたはずだから。

定年後は、私のせいで若者の給与を上げられないと言われるのが悔しく、一人で過ごした。


家でも、妻からバカにされ、娘は口も聞いてくれない。

私は何もしていないのに、妻は、嫌だ嫌だと嫌味を言って目の前を通り過ぎていく。

そんな中で、人と接することなく1人で過ごすことだけが心を平穏に保つ方法だった。


でも、どうしたんだろう。

理恵が勉強とかで忙しいと、邪魔してはいけないのに、つい話しかけてしまう自分がいる。

私を見て欲しいと思っている自分を不思議に感じていた。


でも、理恵はそんな寂しい気持ちをいつも、暖かく包み込んでくれた。

忙しくしていても、すぐに、私に微笑みかけてくれて、暖かい声をかけてくれる。

夜も、私が寝るまで抱きしめてくれて、その温もりで安心することができる。

理恵のそんな大きな愛情に包まれ、それが普通になっていたのかもしれない。


本当なら、女性同士で、こんな関係は、普通の人からは不潔だと思われてもしかたがない。

でも、私は、体は女性でも、まだ女性になり切れていないのだと思う。

だから、しばらくは、こんな関係を続けさせて欲しい。


園内ではバラが咲き誇る5月、授業に普通に出席していた。

窓からは、爽やかな空気が舞い込む。この時期は、暑くも寒くもなくて気持ちがいい。

教室を見渡すと、もちろん女子大だから女性ばかり。会話に花が咲く。


「紬衣って、この寮で、あの室井さんと同じ部屋なんだよね。あの人、変わっていない? なんか暗いし、話しかけても、あまり答えてこないっていうか。ハズレで残念だったね。」


何を言い出すのかしら。理恵の悪口なんて。


「そんなことないよ。いつも笑ってるし、楽しく話しているよ。」

「そうなんだ。でも、気をつけた方がいいよ。なんか、雰囲気の悪い男の人が周りにいて、気に食わないと、乱暴されるとか聞いたこともあるし。」


そんなことはしないと思うけど、お酒の件はある。昔、何か事件を起こしたのかしら。

でも、理恵に限って、相手を貶めるようなことはしないはず。

少なくとも、私だけは理恵を守らないと。


「本当? そんなことないと思うんだけど。」

「紬衣って、天然だから、気づかないだけだよ。」


その日、お風呂から帰ってきて、髪にドライヤーをかける理恵に話しかける。

ドライヤーの音がうるさいのか聞こえない様子なのでソファーで少し待つことにする。

ドライヤーが終わったのか、理恵が私の横に座って、微笑みを私に送る。


「今日、友達が、理恵は雰囲気の悪い男を使って、気に入らない女に乱暴しているとか、ありもしない話しをしてたんだよ。ひどくない?」

「私、昔から、よく言われないし、気にしない。でも、言ってくれて、ありがとう。私、前にも言ったけど、男性とはあまり近づきたくないし、女性も私のこと好きって思ってくれる人って少ないし、あまり人に溶け込めないんだ。だから、紬衣がいてくれて、本当に助かってる。」

「大丈夫、大丈夫。私は理恵のこと、信じてるから。」


本当か嘘か分からないけど、他人から聞いたと言って、噂話しするのは女性の悪いところ。

自分自身が聞いたとか見たとか、話すことはほとんどない。

翌日、好きな歌手のコンサートに行くと話していた女性達に話しかけてみる。


「ねえ、ねえ、スピリットのコンサートに行くって盛り上がっているみたいだけど、私も話しに混ぜてくれない?」

「紬衣さんね。あの、室井さんと仲良しの。」


なんか、みんな知っているみたい。

たぶん、この大学の中で理恵の悪口は広く知れ渡っているのだと思う。

理恵と会ったこともないのに、そんな噂でグループの外にいる人を除け者にするのが女性。


「そう、室井さんとは仲良しだけど。」

「あなたは、あの女が男を使って女をいじめていることを知っているの?」


また理恵の悪口ね。理恵は、こんないじめに苦しんでいたのだと思う。

その中で私という協力者を得たので、今は笑顔で過ごしている。

どうして、理恵をそんなにいじめるのかしら。悪い人じゃないのに。


いえ、女性は誰かを除け者にすることで自分を守ろうとする生き物。

女性社会には、どこでもスケープゴートは必要。

理恵は、中学からずっと女子校にいたことを思い出す。


「室井さん、そんなことしていないよ。それって、根も葉もない噂だって。そうそう。いつ、どこのコンサート? あ、これ、夏に横浜アリーナでというやつ?」

「ふ〜ん。あなたも、室井さんと一緒に、私たちを攻撃する側の人間なのね。」


理恵のためなら嫌われてもいい。

ただ、このグループも学校では浮いていて、周りから好かれているようには見えない。

メイクもけばけばしく、素行が悪いという話しも聞いたことがある。

どちらを取るかと聞かれたら、私は、絶対に理恵の味方。


「そうね、怖い、怖い。がんとかつけられたら危ないし、みんな、行こう。」

「そうね。今日のランチ、不味くなっちゃった。」

「あれ? 行っちゃうの?」


それ以降、このグループの女性達と話しても、はぶられ、無視されてしまう。

さらに、私は男性にだらしないとか噂になっている。

男性なんて好きじゃないんだから全くの嘘なんだけど。女性って関係が難しい。


理恵に相談すると、昔の嫌な思い出を語り始める。

最初は、クラスメートに馴染めなかったことから始まったという。

自分の顔って暗いし、つまらないから好かれるはずがないと思っていたらしい。


1人で席に座っていても、誰も話しかけてこない。

話そうと女性の輪に入ると、なんか雰囲気が悪くなったとか言って、みんな去っていく。

仲良くする方法が分からず、悩んでいた。


そのうち、理恵の教科書にマジックでいたずら書きされることがあった。

ここまでされるなら抵抗する姿勢を示した方がいいと思い始める。


そんな時、体育の時間に向けて、教室ではみんなが体操服に着替えていた。

理恵は、自分のブルマがないことに気づく。

朝は、確実に袋に入れて、袋は破れていないから、ここにあるはず。

これは、いじめに違いないと感じたと言う。


体育の先生に、絶対にあるはずのブルマがないって話す。

これは誰かが盗んだに違いない、いずれにしても今日の体育は出れないと怒りをぶつけた。

昔の記憶がよみがえり、思っている以上に語気が強まってしまったらしい。


担任の先生は、夕方のホームルームで、残念な事件が発生したと伝える。

今回は、犯人は探さないから、理恵にきちんと返すようにと。

そして、このようなことは二度と起こさないようにと注意をした。

なんで犯人を探さないのかと、理恵の顔は怒りに満ちていたんだと言う。


そんな姿を見て、理恵は、それまでにも増して、みんなから嫌われるようになっていった。

帰るときに、クラスのゴミ箱を見たら、私のブルマが見つかる。

どうして、こんなことするんだろう。何が面白いんだろう。

理恵のことが嫌いなら、放っておいてよと思ったと、今更ながらに憤っていた。


それ以降、物がなくなるとか、教科書にいたずら書きがされることはなくなった。

でも、みんなは、理恵を敬遠するようになり、誰も話しかけてこなくなる。

理恵が話しかけても、みんな逃げていく。理恵は完全に孤立してしまった。


その後、電車に乗っていると、突然、お尻を触られたらしい。

満員電車で、振り向くこともできずにいたけど、続けて触ってくるので手を握る。

そして、理恵は、次の駅で、駅員さんに、痴漢ですって、その男を突き出す。

男性はホームから逃げ出したけど、周りの人に押さえつけられ、警察に連れて行かれた。


そんな事件が校内でも、噂になる。

理恵は、正義ぶって、つまらない女性、冷たい女性、暗い女性と陰で囁かれる。

嘘で男性を痴漢に陥れた、ひどい人とも囁かれる。

気に食わない人がいると男性を使って暴力を振るうらしいとみんなが噂するようになる。


痴漢する人が悪いと、理恵は教室の前でみんなに大声で叫んでた。

悲鳴のような声だったからか、理恵は気が狂ってるって、陰でみんなが言うようになる。

先生も理恵の味方をしないから、腫れ物に触るような風に、クラスメートは離れていく。


ブルマ盗まれた時だって、痴漢された時だって、私が悪いわけじゃないと語気を強める。

どうして、みんな、私のことが嫌いになるのと理恵は下を向き、涙が机に滴る。


せっかく大学では心機一転できると期待していた。

そして、私と出会い楽しいひと時が訪れる。

でも、高校時代のクラスメートが、せっかくできた友達や知らない人に悪い噂を広める。

自分が、暴力を振るうとか、柄が悪い男性を使って、周りの女性を強姦してるとか。

ありもしない噂が広まっていった。


そんな自分のようにはならないでねと、私の手を握り、真剣な顔を向ける。

自分は失敗したけど、嫌いでも、うまく付き合っていくことも大切なのかもと。

自分への変な噂は気にせずに、そのうちにみんなは忘れていくものだと。


「紬衣、なんか悪い噂流されているよ。男性にだらしないって。そりゃ、男性にモテるってことだよね。いいことじゃない。気にすることないよ。」

「ありがとう。」

「そのうち、誰も言わなくなるって。あのグループって、本当に柄が悪いっていうか、いずれ、みんなから相手にされなくなるね。」


そんな、理恵の気持ちは暖かく、嬉しかった。そして、そんな理恵のことは守りたい。

翌日から、学校では、理恵は、優しい、理性のある素敵な女性だと言い続けた。

少しは、悪い噂は減ったように見えた。


そういえば、最近は、生理による感情の起伏への影響が大きい。

男性の頃とは思考の形態が変わったような気がする。

もう、見た目だけじゃなく、脳も大きく変わったのかもしれない。


それに加え、男性への憧れ、好きな気持ちが抑えられない。

不思議な気分だけど、これは明らかに女性ホルモンによるものだと思う。

卵巣が子供を欲しがっているのかもしれない。


よくわからないけど、今は、1人の女子大生に染まってしまっているみたい。

なにをしても楽しい。何をしていても笑顔でいられる。

人と話していても、相手の気持ちに共感し、時には心が震えて、時には苦しくなる。

お互いの気持ちの波長が重なり、豊かな気持ちになれる。

そして、次の瞬間には不安に襲われている。

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