4話 女子大
これまで女友達がいない中での女子大とはいえ、大学生活には明るい日々を期待していた。
家が近いのに面倒だとは思ったけど、この女子大は全寮制。
家にいればご飯とかママが作ってくれるのに、ここだと洗濯とか自分でしないといけない。
ただ、寮でずっと一緒にいることで関係が深まることには期待していた。
特に、同じ部屋で4年間、一緒に暮らす女性がいる。
性格がいい女性だったらいい。色々な相談もできると思う。
逆に性格が悪いと最悪だけど、一緒に暮らすのだから、最初は遠慮してくるはず。
お互いに譲り合い、一緒の生活をスタートするのが普通だと思うから大丈夫。
決まりだから、私は、今朝、キャリーバック一つで寮にやってきた。
家具は全て備え付けで、衣服等だけだから荷物は少ない。
それでも、キャリーバックはかなり大きいものになってしまい重かった。
冬用のコートとかは、自宅からそれほど遠くないので、秋になったら家から持ってくる。
とりあえずは、春用、夏用ぐらいかな。
寮は相部屋だから、どの棚、どのベッドを使うのか、同居する人と話し合いが必要。
先に来たからといって勝手に決めていたら、雰囲気の悪い人と思われるに違いない。
最初から、悪い印象になるのは避けないと。
だから、キャリーバックを部屋に入れるだけで、荷物は後で整理する。
仲良く、お互いに譲りあって決められる人だといい。
守衛さんに学生証を見せて大学の門を入ると、目の前の道には桜が咲き誇っている。
今は春休みでもクラブ活動をしているのか、多くの女子大生が道を歩いていた。
テニスコートでは女子大生が練習を始めようとしている。
私の部屋は3階。まず入口で靴をロッカーに入れ、スリッパで廊下を歩く。
お嬢様学校と言われていて、ロッカーには1人で5足は入る程の広さがある。
寮の内部は、大正とか昭和の雰囲気で、風格がある。
寮のおばさんに学生証を見せて、部屋の鍵を受け取る。
おばさんは寮のルールを徹底させようと厳しい顔つきだけど、優しさも滲む。
階段を上がり、板のドアを開けると、今風の清潔感溢れる、白を基調としたインテリア。
室内には二段ベッドと2つの机、テーブルがあり、窓を開けると爽やかな風が入り込む。
机の上には簡単な書棚もある。あとは湯沸かし器ぐらいかな。
炊事場や電子レンジとかは食堂にあると聞いていた。
部屋には、それしかないので、それなりに広く、ゆとりを持って過ごせそう。
まあ、女性の部屋にはドライヤーとかストレートアイロンとかが散乱しがち。
雑誌とか床に散らかす人は嫌だけど、大丈夫かしら。私は綺麗好きだから。
この建物は5階建てで、各階には50部屋づつある。この寮に500人が入るのだと思う。
同じように4棟の建物が並ぶ。各棟にいる女性の学年はバラバラだと聞いている。
4棟の中央に併設された筒形の棟には、共同風呂が2階に、食堂が1階にあるらしい。
そこには、各棟から廊下で繋がっていて、外からは歩いている人は見えない。
通常のワンルームマンションだと、廊下に出れば外だけど、ここは、学校みたい。
部屋を出ても壁があって建物の中。
女性用だからセキュリティが厳しいのかもしれない。
まあ、こんな女子大の中に男性を連れ込む人なんていないと思うけど。
まず、荷物を部屋に置いて外を散策し、外の状況を見ることにした。
まだ寮に来ている人は少ないようで、廊下には誰もいない。
廊下を歩いていると、1人、正面から歩いてきた。
「あら、こんにちは。1年生かな。私、2年生だけど、よろしくね。」
「こちらこそ・・・」
先輩らしき人が、手を振って通り過ぎていくけど、シャツと、下はショーツだけ。
女性ばかりの世界で、しかも春休みで人がいないと、女性は恥じらいはなくなる。
お嬢様学校の実態を男性が見たら驚くだろうと、久しぶりに昔を男性目線で考えていた。
道を歩いていると、テニスコートから、ボールをとってくださいと声をかけられる。
目の前にボールが転がってきたので、どうぞと上から投げる。
でも、全然違う方に行ってしまった。そういえば、ボールなんて久しく投げてはいない。
別の方向にいったボールまで歩いていって、今度は下から投げる。
学校を出ると、駅に向かう道には、おしゃれなレストランがいくつもあった。
こんなカフェとかで、上品に女子学生とかがゆっくりと流れる時間を楽しむのだと思う。
でも、その裏路地には、コンビニ、スーパーもあって、この街には庶民的な雰囲気もある。
今日は少し遠出をして、有栖川記念公園にまで来てみた。
大使館がこの辺に多いのか、上品な外国人も多い。
気品のある奥様達が、笑顔で走り回る子供の姿を微笑みながら見守る。
池の辺りで着物を着た女性がたたずみ、その周りに男性達が集まって写真を撮る。
撮影会かしら。あの女性はモデルなのかもしれない。
桜をバックに、美しい写真が撮れているに違いない。
だいぶ歩いて疲れた。もう学校に帰ろう。
今夜は、同じ部屋の人から食事でも誘われるかもしれないから、コンビニには寄らない。
まずは、部屋に帰って、その人を待つことにする。
春風のせいか、体には砂埃が少し残っている。
歩いたから、足は少し汚れていて、汗もかいた。
まずは、温かいお湯に浸かって、くつろいで考えることにしよう。
部屋に戻り、共同浴場に向かう。
もう17時だし、誰かと会ってしまうかもしれない。
でも、温泉にも行ったし、今の私なら何の不安もない。
共同浴場に行くと、更衣所に1人の着替えがあって、1人は入っている。
最初は湯気でよく見えなかったけど、先に入っている人が湯船に浸かっているのが見える。
おじゃましますと小さな声をかけて、浴場に入り、背中を向けて体を洗っていた。
湯船に浸かっている女性は暑くなったのか、湯船から上がってきて、私の横に座る。
こんな広いお風呂なのに、どうして、ここだけ人口密度を高くするのかしら。
そして、その女性は、何もないように自然に話しかけてきた。
「私、今年入る1年生ですけど、先輩ですか? 同じ1年生ですか?」
「1年生です。」
なんの恥じらいもない、明るい声が浴室に響く。
私も、最近は、女性の体を見ても何も感じないし、外で会うのと変わらない。
バストを丸出しで風呂椅子に座って、さっきと変わらず体を洗い続ける。
相手も、そうなのだから、恥ずかしがる方が不自然。
「やっぱり、そうなんだ。初々しいものね。よろしく。いつこの寮に入ったの?」
「今日。」
「私は昨日から。広尾って、おしゃれなお店とかいっぱいあるから楽しみだよね。でも、なんか警戒してる? 食べたりしないから安心してよ。」
「警戒してるわけじゃないけど、なんか、初めてで。」
どんな女性か分からないし、私からは話しかけない。警戒してるのは、そのとおり。
人によっては、相手の領域にずけずけと入ってきて、迷惑なこともある。
「そうなんだ。温泉とか銭湯とか来たことないのね。だから戸惑ってるんだ。ところで、私は紗奈。よろしくね。あなたの名前は?」
「私は紬衣。よろしく。」
かなり、私の気持ちなんて考えずに話してくる。
でも、悪気はなく陽気だから、薄く付き合うには良い人かもしれない。
「ところで、ここって、ムダ毛剃っていいんだよね? 昨日は人がいなかったから剃っちゃったけど、どうなのかな? 知っている?」
「よく分からない。」
「そうだよね。共同風呂初めてじゃ、分からないか。まあ、他で剃れないし、剃っちゃうしかないね。」
私のことは全く気にせず、剃り始める。
足とか、脇だけじゃなくて、おまたの周りも剃りはじめた。
びっくりして見てると、おまたには、つるつるで毛がない。
そういえば、そんな女性が増えていると聞いたこともある。
「そんなに見ないでって、言ったじゃない。あ、そうか、あなたパイパンじゃなくて毛がもじゃもじゃだもんね。ごめん、悪気はなくて、言い方間違えた。毛がない方が清潔だし、最近は、結構、そういう人って多いんじゃないかな。それが気になったのね。私は、剃ることを薦めるわ。」
「そうなのね。今度、やってみる。」
「剃ると、最初は毛が生えてきて、ちくちく痛いから、脱毛とかの方がいいかもよ。」
「アドバイス、ありがとう。」
「笑顔はとっても可愛いから、もっと話した方がいいよ。また、今度、レストランとか一緒にいこうね。」
女性になった時、手鏡で自分の割れ目を見たけど、それ以来、見たことがない。
今、目の前の女性が毛を剃るのを見て、おまたがまる見えだった。
なんかグロテスクで汚らしいというか、昔、憧れていた姿とはだいぶ違っている気もする。
人によってだいぶ変わると聞いたこともあるし、私のものは造り物。
それとも、どこかで、気持ちが変わってきているのかしら。
でも、なんか、1人、友達ができたみたいだし、近いうちに誘ってみよう。
初対面で、女性との関係がまっさらで作れるのは良い。
女性の笑顔に包み込まれ、穏やかに時間が過ぎていく大学生活に期待が膨らむ。
部屋に戻ると、今夜、私の部屋に同居する学生が引っ越してくることを思い出した。
お互いに、初めての大学生活で、仲良くできるんじゃないかとワクワクする。
いつも一緒にいる、親しい女友達ができるんじゃないかって。
最近、本当に自分ことを不思議に思う。
今、誰かが私をみたら、友達に会いたいと飛び跳ねる女子大生にしか見えないと思う。
顔から笑みが溢れ、手をバストの前で重ねて、ドアの方に乗り出す。
部屋のベルが鳴る。
同居する女子大生がやってきた。
「こんにちは。今日から、同じ部屋で過ごす室井 理恵 です。よろしくね。」
「理恵ね。聞いてる。私は、佐久間 紬衣 って言います。こちらこそ、よろしく。大学生活って初めてで、分からないことも多いけど、一緒にやっていけばできることも増えると思うから、仲良くしてくれると嬉しい。」
「こちらこそ。私、付属高校からの推薦入学だから、少しは知ってることもあると思う。そうはいっても、大学は初めてだし、不安も多いから、紬衣が仲良くしてくれると助かる。よろしく。じゃあ、荷物を入れるので、少しうるさいけど、ごめん。」
「まずは、荷物の搬入を手伝うことから始めるわね。」
「助かる。じゃあ、お願いするわね。」
少し地味な感じだけど、感じはいい。これなら友達として期待できる。
自分のクローゼットを決める。私は二段ベッドの上になった。落ちないようにしないと。
その後、引っ越しが終わって夕方になる。
「今日は、二人で引っ越し祝いということで、この部屋でパーティーでもしない?」
「いいわね。部屋じゃ料理できないけど、料理とかどうする?」
「ポテチとかでもいい。あと、炭酸系の飲み物とか。一緒に買いに行こう。」
「じゃあ、行こう」
買い物から帰ってきて、テーブルにスナック菓子を広げ、パーティーを始めた。
ところで、理恵は懐かしい感じを受ける。なんだっけ。
そう、男性だったころ高校生の時に憧れていたアイドルに似ている。
丸顔だけど、何もかも受け入れてくれそうで、つぶらな瞳は美しい。
女子校で私を責めていた、痩せ目でとんがったような、攻撃的な表情とは違う。
八重歯も整っていないからこそチャームポイントだと思う。
エクボも可愛い。最近は、そんな顔を見ることが少ない。
そういえば、地味と感じたのは、私の昭和の時の記憶に近いのかもしれない。
でも、その分、理恵の笑顔を見ていると心が和む。
理恵とは気が合いそう。
久しぶりに女性どうしで心から笑った。
これまでの闇バイト、高校時代に女性から嫌われていたこと、全てが許された気がする。
しばらく大声で話し、大笑いをしていたのか、少し疲れたのだと思う。
体がふらつく。
「どうしてかな。少し、フラフラするけど。」
「疲れたんじゃない。今日、手伝わせてしまって、ごめんなさいね。」
最初、テーブルで向かい合って座っていた理恵は、横に椅子を持ってきて座っている。
腕も組んでくるし、理恵に私の胸が触れて、肌のふれあいを感じる。
女友達は初めてだし、女性どうしの距離感は分からないけど、こんなものかもしれない。
女性どうしが2人で手をつないで歩いていることを見かけることもあるし。
でも、理恵は、思ってもいなかったことを言い出した。




