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おじさん、女子高生になる  作者: 一宮 沙耶
第2章 女子高生へ

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2話 高校生活

1時間くらいした頃、ドアをノックする音が聞こえる。お父様だと思う。

私は、ハイと答え、ドアを開けた。プライバシーは守られているみたい。


「さっきは仕事の電話で外してしまい、すまなかった。」

「お仕事なんですから、お気にされずに。」

「もう、うちの娘なんだから敬語なんていらないよ。いずれにしても協力してもらって、ありがとう。本当に助かる。我々を、パパ、ママと呼んで欲しい。紬衣もそう言っていた。もう出ていって1年になるかな。これだけ時間が経っても音信一つないからには、紬衣は、どこかで事件に巻き込まれて死んでいると思っている。」


顔は歪み、目は潤んでいる。

口からはそんな言葉がでるものの、認めたくないのだと思う。

数秒後には笑顔に戻り、私に話しを続ける。


「まあ、そんなことは気にせずに、うちの子として生活してもらいたい。服とかクローゼットにあって、背格好もぴったりだから着れると思う。高校には、手続きをしておいたから、3年生の1学期から編入してもらうことになる。高校2年までの経験はあるんだよね。」

「ええ、大丈夫です。」

「娘は文系受験だったけど、君は文系、理系どっち?」

「文系です。同じだから大丈夫だと思います。」


念の為と確認しているけど、常に笑顔で紳士な対応をしている。

とてもいいパパなのだと思う。

血が繋がっていないからと冷たくせず、本当に娘のように見てくれている。


「慣れるまでは大変かもしれないけど、1年留年したことになっているから、クラスメートはみんな君と会うのは初めてだ。同学年だったクラスメートはみんな卒業しているから、会うことはないと思う。あと2週間あるけど、まずは、この家の子として馴染んてもらいたい。」

「わかりました。」


パパは私が実の娘でないと理解している。

でも、女子高生でないなんて疑ってもいない。

最近は、姿だけでなく、声も女性らしい柔らかくなっていると思う。


パパは、ママが納得すれば、もう実の娘のことは諦めている様子だった。

私の過去を詮索しない。

他人の娘になる人なんて、まともな過去がないことぐらい分かっているはず。


おそらく、親に虐待されて家出をし、ひとりぽっちで暮らす女の子だと見ているみたい。

でも、そんなことを責めて、出ていかれても困ると顔から読み取れた。

もう、お互いに一蓮托生という決心ができている。


その日は家庭だんらんの時間を過ごす。ママが言っていたグラタンを囲んで。

ママは、本当に、私を疑う気配は全くない。

娘が帰らない事実を無理に忘れたいのかもしれない。


ママからは、今度、一緒にお買い物に行きましょうと楽しそうに言われる。

クローゼットにも、多くのブランド品の洋服が並んでいたのを思い出す。

娘の嗜好を知ってからでないと、怪しまれるから、もう少し先にと答えておいた。


食事が終わり、部屋に戻ってきた。

机の引き出しも全て見たけど、日記のようなものはない。

授業のノートもほとんど記載はなく、勉強は不得意だったのかもしれない。


パパから、クレジットカードを渡され、買いたい物があれば何でも買っていいと言われた。

この部屋にあるブランド品は、そうやって買ったのだと思う。

清楚なものから派手なものまである。清楚なお嬢様ではなかったように見受けられる。


ドレッサーデスクの上にあるジュエリーボックスには、数えきれない装飾品が並ぶ。

生活には苦労していないことは明らか。

女子高生にしてはあまりに高価なものばかり。


ただ、物欲が満たされても不幸なことはある。

また、ブランド品を見せびらかすから、誰かに狙われて殺されたとも考えられる。

スマホはなかったけど、机の上にはPCは残っていた。


PWはかかっていなかったから、すぐに見ることができる。

SNSに投稿はない。ただ、インスタのDMに、彼とのやり取りが数多く見つかった。


どうも、卒業した先輩と付き合っていたみたい。

エッチもしていたと思う。朝まで過ごしたことを嬉しかったと書かれていたから。

でも、先輩は大学で彼女ができて、紬衣は振られる。


そこには、先輩への怒りが綴られていた。

でも捨てないでと、すがる気持ちがいたる所に溢れている。

高校生の女性らしく心が揺れ動く様子が切ない。


でも、ある日を境に、ぷっつりとやり取りは途絶えてしまう。

あまりに不自然な形で。何があったのかしら。

部屋の静寂が不気味な雰囲気をかもし出す。


パパとママは、このDMは見ていないんだと思う。

さすがに、娘のプライバシーまでは覗き込むことはできないはず。

それよりも、DMのありか自体に気づいていないのかもしれない。


結局、今の段階では何も分かっていない。

私は、成り行きで、高校3年生の生活を始めることになった。


女子高生と上手くやっていけるかしら。

でも、今更、そんなこと気にしてもどうしようもない。

もう、ここまで来てしまったのだから。


スマホも含め、これまでの生活は全て捨ててきた。

だから、闇バイトの組織では、私の消息は途絶えている。

かなり私で稼いだと思うから、稼ぎ頭を失い、必死で探しているはず。


でも、私に辿り着けるはずがない。

45歳のおばさんが女子高生として、松濤で暮らしていると想像できる人なんていない。

私にエッチを指導した教師でさえ、道で出会っても、もう分からないと思う。


お金は全て現金にして、キャリーケースに入れてある。

大金をこんな女子高生が持ち運びしているなんて誰も思わないから狙われたりしない。

全てが順調に進んでいる。


「行ってきます。」

「紬衣、気をつけてね。今日は、紬衣の好きなすき焼きだから、楽しみにしていてね。」

「分かった。じゃあ、行ってくるね。」

「待って、お弁当忘れてるじゃない。おっちょこちょいなんだから。」

「忘れてた。ありがとう。」


私の頭に手を添えるママの顔には笑顔が溢れている。

嘘をついている罪悪感と、幸せに貢献できていると思う気持ちで複雑。

でも、全体的には、いいことをしているはず。


高校の正門が目の前に現れた。正門から入口までは桜が満開。

こんな私を受け入れてくれているように見える。

多くの女子高生の笑い声が満ち溢れる中を歩いて校内に入る。


女性になってから何年が経ったのかしら。

4年ぐらいだけだけど、その間に、闇バイトで詐欺をして、多くの経験をした。

最近、おじさんだった頃の記憶は消えかけている。


そして、朝起きて寝るまで、女性として何一つ違和感なく過ごしている。

朝起きて、いつの間にか、かがみながらブラを付け、制服のスカートを履く。

毎月の生理も、また来るわとナプキンを用意する。どこから見ても普通の女子高生。


学校の建物に入ると、廊下では、誰もが笑顔で挨拶している。

でも、私に挨拶してくる人はいない。

誰も知らない私は、恐る恐る教室に入っていった


「あなたが紬衣ね。家出して1年留年したんだって。年上だからって、先輩づらしないでよね。」


態度が悪い女性が私の席の後ろから話しかけてくる。

山本というクラスメートらしい。髪を金色に染め、ミニスカート。

どう見ても、問題児という感じ。


私を睨み、今にでも髪の毛をつかまれ、叩かれそうな雰囲気。

これがクラスメートとの最初の会話なんて、先が思いやられる。

でも、最初が肝心。


「先輩づらなんてしないわ。でも、攻撃してきたりしたら、ただじゃ済まさないから覚悟しておきなさいよ。」

「ふん。」


こんな小娘にがんを付けている自分には驚いた。

いつのまにか、本当の女子高生になっている。

でも、生きていくには、それしか道はない。


その女性は、別に恐れた風もなく自分の席に戻り、座って、周りの友人と笑い合う。

それから、ちょっかいをだされることはなかった。対応は正解だったのだと思う。

でも、聞こえるように私の悪口をいう人たちはいた。


「なに、あの巨乳女。下品じゃない?」

「悪口言わないの。でも、こっち睨んでるよ。怖いよね。」


こんな悪口は無視していればいい。

友達は大学に入ってから作ろう。

この1年は大学に入るための過渡期なんだから。


それでも、男子生徒は優しくしてくれた。


「紬衣は綺麗だね。モデルのバイトとかしているとか?」

「そんなことないよ。でも、ありがとう。櫻井くんも、かっこいいじゃない。サッカー部だって。今度、部活見に行ってみるね。」

「3年から女子マネジャーになるのは無理だけど、ぜひ、見に来てよ。紬衣を見たら、ゴール決めるからさ。」

「楽しみにしている。」


なんか、男性とは話しやすい。

というか、男性たちは、みんな私に優しくしてくれる。チヤホヤしてくれる。


40代の女性だった頃とは想像がつかないぐらい。若いだけで、これだけ違う。

それとも、私自身に魅力があるのかしら。そうかもしれない。

昔よりも、女性としての魅力が溢れ出ているのだと思う。


男性とばかり話して、男性が私を囲むようになっていった。

男子生徒5人が常連となり、女性である私を囲む。

いつも、私の周りで大きく笑う声が溢れる。


なんか、最近は、男性への気持ちが、少しだけど変わった気がする。

なんだろう。男性と一緒にいると楽しいというか、安心できるというか。

男性は私に優しく接してくれることを知り、男性から大事にされたいというか。


でも、まだ、抱きしめられることには抵抗感がある。

これまで男性に抱かれていたのは仕事だからで、表情とは違い、気持ち悪かった。

すぐにはそんな関係になる感じではないし、まずはこの仲良しクラブで過ごそう。

微笑ましい暖かい風に包まれ、穏やかな気持ちでいられる。


私は、この男子生徒達のお姫様になっていた。

授業が終わると、よく男子5人組とカラオケに行っていた。

私を中心にしたこの世界に浸って夢中になっていた。本当に楽しい。

天井にぶら下がるミラーボールの光を浴びて歌う私を、男子達が掛け声で応援する。


私が嫌だなんて笑いながら男子生徒の肩を軽くたたく。

それを見て、男子生徒は大笑いする。

もう、楽しくて周りが見えてなかった。


それを見て、女性たちは更に、私から遠ざかっていく。

男性にだらしない女性だって。


反論なんてしない。

あなた達が冷たいから女性達には近寄らないだけ。

私は、男性にモテるし、それで楽しいのだから十分。


最初に言い返したことが女性に広まっているのかしら。

誰も、私に攻撃はしてこなかった。

というより、女性は誰も私に話しかけてこなくなった。


だから、ますます男性と話す時間だけが増えていく。

これが女性達の反感を買い、負のスパイラルへと。


生理で貧血になって体育の授業を途中で抜けたことがあった。

でも、保健室に行くときに、ふらつく私を誰も手助けはしてくれない。

女性のクラスメートとは、結局、誰とも仲良くできなかった。


1年留年していて1歳年上というのもあったかもしれない。

みんなは、2年間一緒に過ごしてきたのだから、仲間に入れないなんて仕方がない。

よく考えてみると、1歳年上の私と会話しなくても、彼女達は何も困らない。


男性の時に定年を迎えた時の職場を思い出した。

誰もが、腫れ物に触るような、無視するように見てきた。

だから、こんな対応には慣れている。大丈夫。


でも、こんな私が、男性に恋心を抱くなんて、その時には考えていなかった。

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