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夜の帳を護りし者達  作者: 苺姫 木苺


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八咫烏見習い隊員(改稿1月30日)



咲間と宮木はこのままここにいるわけにもいかないので、気絶してしまった雪斗を抱っこし八咫烏に戻ることに。雪斗は血濡れの床に倒れてしまったので、白い服は血で汚れてしまっていた。

咲間は自身が汚れるのも気にせず、雪斗をそっと横抱きにして持ち上げる。

雪斗を持ち上げた咲間は雪斗の軽さに驚く。身長の割に体重が見合っていないから。

まだ朝の早いことから、外にいる人は少なく三人は人目を避けて常闇ノ庭に戻ることができた。その道中、咲間に横抱きされている雪斗は「う、うう”」とうなされて苦しそうにしている。咲間も宮木も先ほどの現状を見ればこうなってしまうのもしかたないと思った。十五歳の普通の子があの惨状に耐えられるはずがない。

この時雪斗は夢の中で両親が血まみれでリビングで倒れているのを見た。助けに行きたいのに身体が動かないと雪斗はもがき苦しむ。

常闇ノ庭の中に入ると、昨日の夜とは打って変わって人が少ない。八咫烏の活動時間は夜のこともあり、朝は寝ている者が多い。八咫烏には学生や一般の会社で働いている人もいて、その人達は学校や会社に行くため起きて常闇ノ庭を出る。無論、学校にも会社にも八咫烏だという事はバレないように細心の注意を気を付ける。

治療室に行った方がいいのかも知れないが、雪斗が起きた際知らない人がいると落ち着けないだろうからと咲間は田中のいる検査室に向かった。

咲間と宮木はあの床の血の量から、雪斗の父親か母親は……または、二人とも生きていないかもしれないと思った。あの雪斗の家の惨状を見れば誰だってそう思うだろう。

咲間達三人は検査室に向かった。

検査室の引き戸を開け中に入ると「……何で会田君気絶してんのー?」と、田中が雪斗の顔を覗き込みながら咲間に聞いた。

「ちょっと、色々あってな……。アンリの仮眠用のベット借りるぞ」

「どうぞー」

咲間と田中は八咫烏に入ったのが同時期で友達なのだ。始めは咲間は田中のことが苦手だったのだが、ある事件から仲良くなったのだ。

検査室の端っこについたてで囲われている田中の仮眠用の簡易ベットに、咲間は雪斗を起こさないようにそっと簡易ベットに寝かした。

咲間は血で汚れている上着だけでも着替えさせて上げようと、雪斗の上着を脱がすと背中が露になる。

「これは……」と雪斗の怪我の跡だらけの背中を見て、咲間は痛々しそうに呟く。雪斗が起きないように咲間はササッと上着を綺麗なのに変える。雪斗の背中の傷跡はいじめの跡というより、拷問の跡のように見えるなと咲間は思った。

「咲間隊長、雪斗君どうするんですか?」とつい立の向こうから宮木が咲間に話し掛ける。

「……俺が面倒をみる」

咲間は田中と宮木の前に出て声は小さかったが力強かった。

咲間は寝ている雪斗の方を見て迷いなく断言するのを、宮木が見て頭を抱える。

田中はボソッと「出た、咲間の悪い癖」と椅子に座りキャスターをクルクルしながら呟く。

「雪斗君は八咫烏ではありません。ここに居れる理由がありませんよ!今まで拾ってきた犬や猫と違うんです!」

「宗主も許さないと思うよー」

宮木と田中に反対されたが、咲間はあの傷だらけの雪斗を放っておくことは出来なかった。

「何としても許可は貰う。今の雪斗君を一人にする事なんて出来ない」

三人の話し声で目覚めた雪斗は見たことのある天井を三秒程見てハッとし、簡易ベットからバッと飛び降りた。咲間に着替えさせられたのには気付いていない。

囲いからひょこっと雪斗が顔を出すと、三人は起きてきた雪斗を見る。

「ゆ、「失礼します!金城さんが……これから、昇天します」……分かった。すぐ向かう」

咲間が雪斗の名を呼ぼうとした時に検査室の引き戸をガラッとおもいきり開かれ、男性の隊員が検査室全員に向けて言い放った。雪斗以外の三人が昇天という言葉を聞くと顔をしかめる。

「起きたばっかでごめんな。ここに雪斗君を一人にするわけには行かないから一緒に来てくれ」

男性の隊員は他の部屋にも金城という者が昇天することを伝える為、四人よりも先に検査室を出ていった。

「は、はい」

四人は急ぎ足で夜香木(やこうぼく)の間と書かれた部屋に着いた。

夜香木(やこうぼく)の間はその名の通り夜香木(やこうぼく)の匂いが充満している。この部屋だけ照明が暗くなっていて、ゆっくりとした音楽が流れている。

沢山の隊員が布団に寝かされていて、ある隊員が悲しい顔をした大勢の人に囲まれていた。

雪斗が小声で「あの方はどうかされたんですか?」と咲間に尋ねる。

「……あの者は炭化してしまったんだ。炭化が悪化して……これから昇天……死んでしまうんだ」

「え、……」

夜香木(やこうぼく)の間にいる全員が合掌し「月と太陽の身元で安らかに眠れ」と言い終え暫くすると、大勢の者に囲まれていた金城が一瞬で灰になった。すぐにその灰から蔦がスルスルと伸び淡い赤い色の光を発している鬼灯が一輪咲く。

「鬼灯?何で……」

雪斗は不思議な鬼灯をじーっと仰視し、妙にきれいな鬼灯に魅了された。

「灰化した者は……最後に鬼灯を咲かすんだ。このまま移動するから、雪斗君も付いてきてくれ」

「はい」

顔をぐしゃぐしゃにし泣いている女性が、割れ物を触るように灰から鬼灯をそっと掬い移動をし始めた。手からはパラパラと灰が零れ落ちる。複数の隊員が「グスグス」と泣いていることから、昇天した金城という隊員は大勢の人から親しまれていたことが分かった。夜香木(やこうぼく)の間を出て、少し廊下を歩き外に出ると、暗闇の中淡い赤い光を発している鬼灯の群生地に着いた。

雪斗の目は一瞬、一面が綺麗な赤い絨毯のような光景に釘付けになる。でも、直ぐに残酷な現実にも気付いてしまった。

「咲間さん、これって……あの、」

「そう、ここの全ての鬼灯は昇天していった者達だ」と咲間は悲しそうに鬼灯の群生地を見ながら雪斗に教えた。

「こんなに……僕、知らなかった。八咫烏の人達はこんなにも命掛けなんて……」

田中が咲間と雪斗の真ん中ににゅっと顔を出し、「当たり前だよ。八咫烏は全てを隠しているからねー」と言う。

「そ、うなんですね。何で……八咫烏の人達は命を掛けることができるんですか?死ぬの怖くないんですか?」と雪斗は感謝もされないし、逆に悪の組織だなんだと言われているのに何で戦うことができるのか不思議でしょうがなかった。

「八咫烏全員がってわけではないが、護りたい人の為だな。後は何世代にも渡って八咫烏だからという者もいるな」

「そうなんですね……護りたい人……」

雪斗は両親はどうしているんだろうか、無事なのかと不安になってきた。あの惨状を目撃してしまえば誰だって不安にもなる。

鬼灯を持った女性がボロボロと泣きながら土に鬼灯を埋めていく。鬼灯にはその女性の涙がポタポタと当たる。その雫が地面に落ち、まるで金城の鬼灯が泣いているように見えた。

「……鬼灯も植え終えたから俺達は検査室に戻ろう」

「はい……」

三人が前を歩く中雪斗が鬼灯の群生地に振り返り、もしかしたら自分もああなっていたかも知れないとブルッと身震いをした。

四人は誰も喋らないせいで、コツコツやキシッキシと廊下を歩く音がやけに大きく聴こえる。

検査室に着き「俺、この空気苦手ー」と引き戸を開けながら言う。続いて「その空気ここには、持ち込まないでよねー」と三人に言い放つ。田中も悲しいと思うがいつまでもこの空気は流石に嫌だから言ったのだ。

「アレンはいつも通りだな」

「いつまでも悲しむと故人は報われないでしょー。それに、そんなことに時間を割くのは時間の無駄ー」

「田中先生ってマイペース過ぎ」と宮木はボソッと呟いたが、田中は宮木に「聞こえているからねー?」と言い椅子に座った。

「湿っぽい空気より、会田君を本当にどおすんのー?」

急に話題の主になった雪斗はビクッとして両手をぎゅっとさせた。さっきまでは色々とドタバタしていて、雪斗はこれからのことを考えるのを放棄していた。だが、田中の発言のせいで雪斗は残酷な現実に引き戻される。

「雪斗君、頼れる親戚はいるか?」

雪斗は「……いないです」と地面を見ながら震えながら咲間の問いに答えた。雪斗の心の中はこれからどうしようと両親は生きているのだろうかという思いで一杯だ。

「嫌じゃなければ、両親が見つかるまでは俺の家に来ないか?」

「咲間隊長?!常闇ノ庭は八咫烏以外は住めないんですよ!?」

「あ、あの……僕、」

雪斗は急展開に付いていけずどうすればいいのかオロオロとしてしまう。それを「嫌か?」と咲間はしゃがみ込み雪斗の顔を見て聞く。

「い、いいんですか?僕何も役に立たないですよ?」

「あのなー、子どもがそんなこと気にすんな!大人は子どもを護るのが当たり前だ」

雪斗は考えたすえに咲間の提案に乗ることにした。八咫烏は分からないことも多いが、自分一人で情報収集をするより八咫烏で情報を集めた方が両親を見つけることができるかもしれないと雪斗は考えた。

「よし。じゃあ宗主に報告しに行くか」と咲間は雪斗の戸惑いを無視し、ずかずかと夜帳(よとば)の間に雪斗を引きずりながら向かう。


雪斗を引きずりながら咲間は夜帳(よとば)の間に着くなり、挨拶も無しに襖をスパーン!と思い切り開け放った。因みに宗主に大目玉を食らうのを分かっている宮木と田中は、咲間について行かず研究室で大人しく留守番していることを選んだ。

「咲間!!挨拶をしてから入室をしろと何度も言っているだろう!」

「宗主、すみません。あ、雪斗君を俺ん家で世話することに決めたんで」

「何を言っている!その子どもは八咫烏ではないから、常闇ノ庭に住むのは許可出来ん!」と由羅は顔を真っ赤にして咲間に怒っている。

夜帳(よとば)様、駄目でしょうか?」

咲間は由羅が許可してくれないだろう事は始めから分かっていたことなので、宗主よりも偉い夜帳(よとば)に許可を貰おうと思っていたのだ。夜帳(よとば)は許可してしまえば、由羅は反対出来ない。

「ふむ、八咫烏ではない者は常闇ノ庭に住むのは許可出来ん。だが、八咫烏なら許可しよう」と夜帳(よとば)は楽しそうな声で咲間に答える。夜帳(よとば)も何故か雪斗に強い親近感を抱いていたから助言をした。

咲間は助言を聞き何か閃いたかのように「なるほど!」と言い、雪斗を夜帳(よとば)の間に置き去りにして部屋を走って出ていった。

雪斗と由羅はそんな咲間を見てポカンとなってしまう。咲間がいなくなり取り残された雪斗は物凄く居心地が悪い。昨日は懐かしさを感じたが、雪斗は今日は何も感じない。由羅は咲間への怒り六割雪斗への哀れ四割で頭が一杯になり「はあぁー……」と深いため息をつく。

「由羅も大変よのお」とコロコロと夜帳(よとば)は笑いこの部屋の静寂が切られた。由羅は簾の奥の夜帳(よとば)に「夜帳(よとば)様が咲間を甘やかすからそのしわ寄せが私に来るのですが?」と返した。

「戻りました!」と少し息の乱れ、手に書類を持った咲間が夜帳(よとば)の間に戻って来て雪斗に近寄る。

「雪斗君、ここに名前書いて!」

「え?は、はい」と雪斗は用紙に何が書いてあるのかも確認せず用紙に会田雪斗と書いてしまった。そう、これから自分がどうなるかも知らずに……。

夜帳(よとば)様、これで雪斗君も常闇ノ庭に住めますよね?」

咲間はニッコリと笑い簾の奥にいる夜帳(よとば)に向かって紙を差し出した。

「そうよのお……許可しよう」と夜帳(よとば)が言うと、由羅は「八咫烏ではない者は住めない決まりですぞ!」と夜帳(よとば)に反論した。

「宗主、雪斗君は八咫烏の隊員見習いになったので住むことができますよ?」

咲間はしたり顔で宗主を見てニッコリと笑った。咲間の発言を聞いた雪斗と由羅は驚愕し、目を大きく開き咲間を見る。

「何だと?!」

「はい?!」

咲間は由羅に近寄り夜帳(よとば)に見せた紙を渡し、「ほら、ここに八咫烏見習い隊員入隊書って書いてあるじゃないですか」と言った。その言葉を聞いた由羅はわなわなと体を震わせ怒りをあらわにする。

「由羅、今回は咲間の戦略の勝ちじゃな」

「……は、い」と由羅は不服そうに渋々夜帳(よとば)に返事をした。

「あ、あの!隊員見習いって……」

「雪斗君は今日から八咫烏の見習い隊員になったんだ」

雪斗は大声で「え!!僕、極普通の高校生ですよ?!」と言い咲間に詰め寄る。雪斗は昨日まで普通の生活をしていて戦闘訓練なんかしたことなどない。

「咲間、ここは遊び場で無いぞ」

「宗主、雪斗君は俺がしっかり鍛えるんで大丈夫です」

「え、ちょ、」と雪斗が戸惑っているのを気にせず咲間はどんどん話を進めていく。咲間は昔からこうと決めたらどんなことも押し進める悪癖がある。それを知らない雪斗は咲間に対して戸惑うばかりだ。

「分かった。だが、今見習い隊員になることは分かっているのか?隊員見習いでいられるのは来月にある試験までの一か月間だけだ。その後はどうするつもりだ?」

「正隊員にするつもりです」

「正隊員試験を受けさせるのだな?」

由羅は雪斗を一瞬見て、雪斗が正隊員試験を合格することは不可能だと判断した。こんな弱弱しそうな子どもが過酷な試験に挑戦させるのも酷なことだと由羅は思った。

「壱盤隊の俺が付きっきりで鍛えるので合格しますよ」

「……分かった。もう、行ってよい」

咲間は呆然としている雪斗の手を引っ張り夜帳(よとば)の間を出ていく。

そんな後ろ姿を見ていた由羅はこれからの雪斗が心底可哀想に思った。咲間は八咫烏で一番強いと言われているが、それは過酷な訓練のたわものだからだ。そんな過酷な訓練を咲間はこれから雪斗にしようとしている。だから、由羅は雪斗を可哀想に思ったのだ。

雪斗はこれから地獄の訓練が始まるなんて知らない……。





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