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夜の帳を護りし者達  作者: 苺姫 木苺
第1章

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壱盤隊咲間隊長の……昇天



「咲間さん!!」

雪斗は全速力で夜香木の間に急いで来た。宮木は雪斗の速さについて行けず少し後に到着した。

夜香木の間には暗い顔をした隊員しかいない。そのせいかこの場はジメジメとした空気が流れている。

「ゆき、と」と咲間は少しだけ雪斗が来た方に顔を向けた。

咲間の呼吸は浅く、肩がかすかに上下するだけだった。そんな咲間を見た雪斗は現実を受け入れられないでいる。咲間の側に座り「咲間さん……僕、合格しました」と目に涙を溜めか細い声で言った。

「おめで、とう。おま、えは絶対、ご、うかくすると、思って、いた」

咲間はもう息も絶え絶えで、目の前にいる雪斗の顔は目が霞んでよく見えていない。頑張って来た雪斗の顔をみたいのに見えないのを咲間は悲しんでいる。弟子が頑張って来たのに成長をちゃんと見れないなんて……。

「……はい」

咲間は意識もうろうとなりながら「おま、えが隊員、として、活躍する、のを……見た、かったなぁ」と言った。悔しさでポロリと咲間の目から涙が零れた。

「い、ちば、んたい、の…みん、な……こん、な俺、に着い、てきて、くれ、てあり、が…とう」

初めてこんな弱々しい咲間を見た雪斗も我慢の限界で涙がポタポタと畳に零れる。他の隊員も咲間の最後の言葉でシクシクと泣き始めた。誰よりも強く、誰よりも優しく、面倒を見てくれた壱盤隊咲間隊長が消えてしまうのだから。

田中がもう咲間の昇天が近いと悟り、「もう時間だ。……月と太陽の身元で安らかに眠れ」と言うと全員がボロボロと泣きながらスッと礼をした。全員が礼をしたのを見た田中が「咲間は昇天するのを見られたくない。全員ここから出て行くんだ」と無表情で言う。

隊員達は最後まで居たかったが最後の咲間の願いと思い、渋々田中の指示に従うことに決めた。

ぞろぞろと隊員達が夜香木の間から出て行き最後に残ったのは雪斗だ。

「ひっく……絶対立派な隊員になります。だから……うっ」

腕がブルブルと震えながら咲間は雪斗の頭に手をポンッと置いた。「がんば、れ……よ」と言い残し咲間の腕がぱたんと力なく雪斗の足へ。もう昇天すると分かり雪斗はボロボロと泣き、その涙は咲間の黒く変色した腕にポタポタと。

「会田君、君も出るんだ」

いつもののんびりととした喋り方でない田中はなんでか常識人のように見える。おそらく咲間の昇天を取り仕切っているからかもしれない。この瞬間に大事な友人を見送るのだからいつものようにはいれないのだろう。

「……はい」

雪斗は夜香木の間を出る際深く一礼し「立派な壱盤隊の隊員になります!」と言い残し部屋を出た。

「未来、立派な弟子を持ったね」

普段田中は咲間のことを苗字呼びなのだが、隊員としてではなく友人として語りかけた。もう咲間が喋ることも出来ないのを分かっていながら。


夜香木の間を出た雪斗は呆然としていた。身近な人の昇天を後何度見送ることになるのだろうかと……。

「雪斗君、正隊員試験合格おめでとう」と目を真っ赤にさせた宮木が無理やり笑顔を作りながら言った。

「ありがとうございます」

正隊員試験を合格し隊員になれたことは雪斗は心の底から嬉しかった。でも、師匠である咲間にずっと見守っていて欲しかった思いで雪斗は喜べない。

「合格者たちはもう各自帰宅しているから雪斗君も帰りな。五日間も頑張ってきて疲れたでしょ?」

「……はい」

雪斗はトボトボと咲間の家に帰る。トボトボと一人で歩いているから雪斗はこの一ヶ月間のことを振り返ってしまう。合格して普通なら気分も上がるはずなのに、上がることはない。

過去を思い出していると雪斗はいつの間にか家の前に着いていた。

「ただいま」と返事が返ってこないのを分かっていながら雪斗は癖で言ってしまう。

「無事帰って来ました……ちゃんと生きて……」

玄関にいるから六日前に宮木と咲間とした会話を雪斗は思い出す。

「雪斗……行ってらっしゃいと行ってきますの意味は知っているか?」

「え?知らないです」

「行ってらっしゃいは生きて無事に帰って来て、行ってきますは生きて無事に帰って来ますなんだ。だから、……行って来い!!」

この時の咲間は死期が近いのに笑顔で雪斗を見送っていた。もう、見送ることも出来ないと分かっていながら。

「はい!!行ってきます!!」

「「行ってらっしゃい!」」

六日前のことなのにもうずいぶん前の事のように雪斗は感じていた。

いつまでも玄関でにいるわけにもいかないからリビングに移動する。

「え?手紙?」

リビングの机には咲間の少し癖のある字で雪斗へと書かれた封筒が置かれていた。

雪斗は手を震わせながら封筒から手紙を取り出す。

雪斗へ。

試験お疲れ様。お前のことだから合格しているんだろう。

この手紙を読んでいるってことは、俺は昇天したんだろう……ごめんな。

お前をまた独りにさせて、ごめんな。師匠として最後まで面倒見れなくてごめんな。

俺はお前の良い師匠になれてたか?雪斗、お前は最高の弟子だ。最高の弟子の師匠になれて俺はさいっこうに幸せだった!

師匠として最後のアドバイスだ。なにがあっても前を向いて歩け!!

最後に俺をお前の師匠にさせてくれてありがとう。

咲間より。

雪斗へ向けられた手紙には涙の乾いた後が点々とある。「咲間さんは何も謝ることなんてないのに」と手紙を持ちながらポツリと呟く。



何度も手紙を読みながら雪斗は咲間との日々がよみがえった。

咲間は料理が目玉焼きとスクランブルエッグしか出来ず、新しい料理を挑戦して火事を起こしかけたこととか。

「あの、咲間さん何でずっと目玉焼きかスクランブルエッグなんですか?」

「あー、じゃあ今日の昼は別の作る」

咲間はついに別の料理を挑戦しないといけないかと冷や汗をかきながら考える。

キッチンにエプロン姿の咲間が料理本を片手に立っていた。その姿を雪斗は心配そうにリビングから眺めている。最初は雪斗も手伝おうと「僕も一緒に作ります」と言ったのだが、咲間から「上手いの作ってやるから座って待っていろ」と断れてしまった。だから雪斗はリビングで咲間の後ろ姿を見守るしか出来ない。そう……咲間が両手で包丁をおおきく振りかぶって玉ねぎをみじん切りにしていても。

「みじん切りってこう……だよな?」

「あ、あのー?咲間さん?手伝いますよ」とひょこッと顔を覗かせて雪斗は言う。あのままだとゲテモノ料理を作り出してしまうと心配になってきたから。

「いいから座ってろ」

「え?あ、はい」

雪斗は咲間がずっと目玉焼きとスクランブルエッグしか作って来なかった理由を知った。あの二つしか作れないからずっと同じだったのだ。

「次はフライパンに油を入れて……玉ねぎを飴色まで炒める。は?飴色?」

咲間は火元に近い所に料理本を置き、フライパンに大量に油を注いだ。そしてすぐに玉ねぎを入れると大きく火柱が立つ。「おわっ?!」と驚き咲間は火を消さなければと焦り、なんとフライパンに水を入れてしまった。そのせいでもっと大事になり、近くにあった料理本まで燃え始め火事寸前に。

「咲間さん?!」

雪斗はすぐ火元を止め、タオルを濡らしフライパンを覆う。「咲間さん!燃えてる本に水をっ!!」とあわあわしている咲間に雪斗は指示を出す。

「あ、わかった!」

燃え始めた料理本に咲間はすぐに水をバシャッと掛け火を消した。火が消え「ふう」と一息着くと、雪斗が「咲間さん?」と言う。呼ばれた咲間は雪斗の声からして怒っているのが分かり思わず一歩後ろに下がった。

「あー、その……」

「咲間さん?正座しましょうか」とニッコリと笑い床を指さし言った。咲間はキッチンで正座をしてこんこんと怒られ始める。

「フライパンに焦って水を入れてしまったのはしょうがないですけど、火の側に燃える物を置かないとか子どもでも知ってますよ?」

「はい。すみません」

「隊長ー?雪斗くーん?」とドーナツを持った宮木が家に入ってきた。続いて「あれ?なんか……焦げ臭い」とクンクンと嗅ぎながらキッチンにずかずかと入ってくる。

そして仁王立ちしてる雪斗に正座をしている咲間を目にした。

「え?隊長?雪斗君?キッチンで何してるんですか?」

「宮木さん、こんにちは。今火事を起こしかけた咲間さんを説教中なんです」

宮木は火事を起こしかけたと聞き、周りを見るとコンロが凄いことになっているのに今気づいた。咲間がキッチンで正座しているのがおかしすぎて気付かなかったというわけである。

「あれは確かに火事起こしかけに見える」とボソッと呟いた。それを咲間は聞こえ、正座をしながら宮木をギロリと睨む。

「咲間さん?」

雪斗は冷酷な笑顔をして、怒られているのを忘れた咲間の名を呼ぶ。「今説教中なの分かっていますか?」と雪斗が言うと、咲間はビクッと肩を揺らす。

十五分程咲間を説教して終わりにすると、宮木はリビングに移動していた。宮木は自身が持って来たドーナツを口いっぱいに頬張っている。

それを見た咲間が「他人事だと思って」と恨めしそうに言う。雪斗は咲間が反省していないと思い「後一時間説教しましょうか?」と冗談を言った。

「は、反省している!」

火事を起こしかけ大変な出来事ではあったが、今思い出すと笑える話だなと雪斗はキッチンを眺めた。


「明日からは……置手紙もないのか」

持っている手紙を再び見て、咲間も少しだが読める程の字にはなったなと思った。咲間の元の字は物凄く汚く何かの暗号か下手な筆記体のようにも見える字である。今雪斗が持っている咲間からの手紙は字の練習をした努力の結晶だ。この家に雪斗が来て最初の頃に咲間が雪斗に置手紙をしたことがある。

内容は「会議があるから帰りが遅くなる。昼飯は食堂にしよう」という物だった。でも字が汚すぎて雪斗は「暗号??」となった。

いつまでも食堂に来ない雪斗を向かいに来て咲間はここでやっと自分の字が下手くそ過ぎることに気づく。

「俺の字そんなに読めないか?」

「……何かの暗号かへt、ど、独特な筆記体かなと思いました」

雪斗の言葉を聞き咲間は「あれはからかいじゃなかったのか」とぽそっと呟いた。咲間は普段壱盤隊の幹部から字がミミズみたいと言われている。それをからかっていると咲間はずっと勘違いし今まで改善をしなかった。

「雪斗も俺と同じで字が汚いんじゃないのか?」

「いえ。僕は父が字に関しては口うるさかったので」とその辺にあった紙にサラサラと会田雪斗と習字などに載っているような綺麗な字を書いた。

「ま、負けた」

「字もその人の個性だと思うので……その、読めればいいと思います。読めれば」

咲間の字を悪く言わないようにしようと頑張った雪斗だが、咲間の字は改善しないといけないレベルだ。

「よかったら綺麗な書き方教えましょうか?」とこれからの自分の為に雪斗は提案をする。あの字で置手紙をされても読めないし、大事な書類に署名するときとかあれでは周りも困るだろうから。

「頼む」

咲間はまさか大人になってから字の書き方を教わることになるとは思わずへこむ。

「じゃあ、一回何も気にせずフルネームを普段のように書いて下さい」

「分かった」

咲間がボールペンを右手で持ち咲間未来とスラスラと書く。それを横で見ていた雪斗は持ち方もちゃんと綺麗なのにミミズを描いていく咲間が不思議でならない。

ボールペンを置いた咲間に「えっと、それは咲間未来と書かれているん、ですよね?」と聞く。返事はやはり「そうだ」と返ってきた。

「咲間さんの漢字は比較的書きやすいはずなんですよね。基本横線と縦線だけなので」

自分の書いた字をジッと見ながら咲間は今回は比較的綺麗に書けたほうなのだと思っていた。でも雪斗からするとミミズを描いたようにしか見えていない。

「何でこうなるんだろうなー」

「字に関して今まで何にも言われなかったんですか?」

自分が書いた字を見ながら咲間は「言われてたがからかいだと……あ、もしかして俺だけが署名の上に判子押してたのこれが理由か?」と言った。

周りが一番困っていたんだろうなと雪斗は宮木さんと喜馬さんに少し同情する。判子を押さなくていいものに判を押していたのは苦肉の策だったんだろう。

「周りの為に早く字を綺麗にしましょう!」

「んー、のんびりでいいじゃないか?」

「手紙書く時苦労しますよ」と咲間をジッと見ながら言った。それを咲間は雪斗の方を向き「そん時は雪斗頼んだ」とニカッと笑う。

最後の手紙の字を見て雪斗はやっぱり字の練習させて良かったと思った。でも、あのミミズのような字でも何とかして解読するのも楽しかったかもしれないと思う。

「こんなに字綺麗になってたの別の形で知りたかったな」


手紙を何度も読んでいたらいつの間にかかなりの時間が経っていた。

いつまでも泥んこのままでいるわけにもいかないと雪斗が着替えに行こうとした時にピンポーンとインターホンが鳴った。



咲間の家に来た人物は驚きの人物だった。その人物は……だ。



最後まで読んで下さりありがとうございます!(´▽`)

ここで第1章は終わりになります。

第2章からは壱盤隊で奮闘していく会田雪斗隊員です!

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