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夜の帳を護りし者達  作者: 苺姫 木苺


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八咫烏の本拠地(改稿1月30日)




夜に家をでなければ、僕は自分の出生の真実を知らなくて済んだのに……。

この出会いが、八咫烏という闇を護る者達を知る始まりになるなんて。




「今から雪斗君には検査をしてもらう」

咲間は雪斗の絞められ跡になっている首を見て、もっと早く駆けつけ助けることが出来ればあんな跡等付かなかったはずなのにと後悔していた。それに、一般市民を八咫烏の本拠地に無断で連れて来たから、宗主に怒られるな·····とも考えている。

一方雪斗はそんな咲間を不思議そうに見ていた。

宗主とは八咫烏のトップで咲間の上司で堅物だ。怒るととても怖く咲間は宗主のことが、少し苦手としている。

雪斗は小さな声で「家に帰りたい」と呟いた。普通の高校生が襲われ死にそうになれば、誰だって家にも帰りたくなる。それにここは雪斗の知らない世界だから。

咲間はしばらく無言でその顔を見つめ、それからゆっくりと口を開いた。

「夜喰に触られた者は、体がだんだんと炭になりやがて全身が灰になり崩れ死ぬ。それを“炭化”って呼んでる」

八咫烏の隊員の多くが夜喰に触れられ、灰化になり身体が脆く崩れサアーと死んでいった。そして、その場に残るのはただ一凛の花だけ。

「……炭化?」と雪斗は聞きなれない言葉に不思議に思う。

「そうだ。だが、雪斗君にはその兆候が全くない。……だから俺達は、驚いてるんだ」

咲間が先ほど聞いた発熱と痛みは炭化の初期段階なのだ。普通の人間は夜喰に触られた者は体のどこかが一部黒くなり、発熱と激痛が走りおかしくなってしまう。だから、その兆候が全くない雪斗を見て咲間ともう一人の八咫烏の宮木まおは驚いている。

宮木まおは咲間の部隊に所属しており、いつも咲間のいじりに弄ばれていて本人は辟易している。

「僕……いつ家に帰れるんですか?」

雪斗はこの異世界のような所にいる人達から、チラチラと見られているのを気付いているせいで居心地が悪い。いじめを受けていたせいか、雪斗は視線恐怖症気味と対人恐怖症になってしまっている。

周囲の視線は、雪斗ではなく咲間に向けられていた。

二十七歳にして壱盤隊の隊長、若くして異例の昇格。

宗主からも一目置かれる存在ゆえ、視線を集めて当然だった。だから周りの人達は咲間を見ているのあって、雪斗を見ているわけではない。雪斗が勘違いをしてしまっているのは、咲間が近くにいるせいで自分が見られていると勘違いしてしまっている。

だが、こんな状況なら雪斗が自分が見られていると思ってしまうのは仕方ないことだと思う。

「うーん……検査もそんなに時間は掛からないと思うから……明日の昼前には家に送ってあげられるかな」

「そ、うですか。明日……」

咲間は目的の場所に着き足を止め、雪斗を見た。

「検査も痛いことはしないはずだから大丈夫だ。あ、採血はするかも。でも、大丈夫だ」

「……はい」と雪斗は地面を見て、小さい声でポツリと咲間に返事をした。検査も心配だが、家を飛び出してきたから両親が心配しているだろうなと雪斗は思う。

そんな雪斗をみた咲間は雪斗の頭をポンポンと気遣う。宮木を見て「俺は宗主にこの件を報告しなけばならない。宮木、お前が雪斗君のそばにいろ」と言った。雪斗は咲間から手が伸びてくる度に殴られるのではと体を一瞬強張らす。でも、咲間はそんな雪斗の過去を知らないので人見知りなのか?と思う程度だった。

「はっ!」

咲間は宮木の返事を聞いて、八咫烏の本館の中に雪斗達より先に入っていった。内心不安がっている雪斗のそばを離れるのは申し訳ないなと咲間は考えていた。宮木はそんな咲間の後ろ姿を見て少し嫌な予感がしていた。



「さて、雪斗君。改めまして、私は宮木まお二十歳です!そして、ここが八咫烏の本館で周り建物は分館だったり住居だよ!」

「あ、……はい」

宮木は雪斗が壁を作っているなと思い、大人の自分がどうにかしないとと考える。雪斗は宮木が元気すぎてこの人苦手かもと思っていた。

顔が見えないから雪斗が壁を作っているのかもと思った宮木が顔を覆っていた布を取った。だが、雪斗は宮木の意図が読めずポカンとしている。家族以外に気遣われる経験がない雪斗は、宮木が自分に気を使っているとは思いもしない。

宮木の顔は猫目で美少女でモテるのだが見た目と違い性格が残念の為、本人が知らない所で残念美少女と周囲から言われていた。

「え、えと、じゃあ、中に入ろうか!!」と宮木は雪斗の腕を引っ張り本館の中に入る。

「……はい」

本館の中は和式と洋式が混じった感じで、見た目に反して近代に合わしてリノベーションされているみたいだ。材質は木が多く使われているせいか、木の匂いが微かにする。

「この本館はね場所によって土足厳禁な場所があるんだけど、今から私達が行く所は土足で大丈夫!」

「は、はあ」

咲間はいなくなったが、宮木が顔を隠していないせいで本館の中にいた人達が宮木を見ている。そのせいで雪斗は視線が自分達に集まっているせいで居心地が悪い。

カツカツと足音を立て宮木は雪斗の手を握りながら検査室に向かう。手を握られた雪斗は年上の女性に手を握られたのと、これからどうなるんだろうという心境でドキドキとしていた。

検査室と書かれたプレートが掛かっている部屋の前で宮木は足を止め、ドアを三回ノックをすると中から「どうぞー」と男性の声が聞こえた。

宮木はガラッと引き戸を開け、雪斗の手を引き検査室の中に入る。

検査室の中は色んな薬剤の匂いと、コポコポという薬を煮ている音が聴こえる。

雪斗は薬剤の匂いと謎の緑色の液体を煮ている音のせいでより一層不安になってきた。宮木は先ほどの声を掛けた自分達に背を向けて座っている、白衣を着た金髪ぼさぼさ頭の田中アンリを睨む。

「田中先生!」

「あれ?宮木君?」と言いながら田中は椅子をくるっとし宮木と雪斗を見た。

「八咫烏の一員として見た目ちゃんとして下さいよ!田中先生のせいで私まで雪斗君に怪しく思われちゃうじゃないですかー!!」と宮木は田中の白衣を両手で握り揺さぶる。

「えー。研究しているからそんな時間無いから無理だなー」

田中は宮木に揺さぶられながら、置いてけぼりにされている雪斗に視線を移し「君はー?」と声を掛けた。

「あ、えと。会田雪斗、です」

「会田君ねー。俺、田中アンリね。アンリはカタカナね。日本とアメリカのハーフ」

「田中先生には雪斗君のことを調べて欲しいんです」

「えー?何でー??」と田中は椅子をクルクルと周りめんどくさがっている。田中は研究が趣味といった変わり者で、食事や睡眠よりも実験を優先させる。

「雪斗君は夜喰に触られたのに炭化の兆候が出ていないです」

「え??マジで?!?!?」

田中は宮木の雪斗が炭化の兆候が出ていないというのを聞くと、椅子からガタッと立ち上がり驚いている。田中は根っからの研究者の為、炭化の兆候が出ていない雪斗に興味を持ち始めた。

田中は雪斗に駆け寄り、雪斗のシャツをグワッとまくり上げてきたので雪斗は田中の手を抑える。

「ちょっ!!離せ!!」

田中の手をバシッと払い雪斗は田中から離れる。雪斗は内心こいつ変態なのか?!と思っていた。断りもなくシャツをまくり上げるとか普通の人はしない。それに、背中を田中に見られるところだったと雪斗は恐怖した。

「あー、もうちょっと見たかったのにー」

「田中先生!!」

「……はいはい。ちゃんとしますよー」

雪斗はもう何がなんだが分からず家に帰りたいとしか思わなかった。宮木は元気過ぎて一緒にいると疲れるし、田中は変態かもしれないから近づきたくもないと雪斗は思っている。

小学校と中学校はちゃんと言っていたが、雪斗は友達が一人しかいなくてあまり人と関わっていなかったから今こんなに他人と喋るのは珍しい。

「雪斗君!田中先生は研究馬鹿なだけなの。そう、悪気は無いの」

「宮木君、それフォローになってないよー」

「え?事実じゃないですか」

「はあ……会田君、そこの椅子座ってー。検査するから」と田中は丸椅子に座るように雪斗を促す。

雪斗は恐る恐る座り、田中を見た。ぼさぼさヘアーで前髪が僕と同じように目を覆っている。動くと金髪の影から見える翡翠色の瞳が魅惑的だ。

この翡翠色の瞳に見つめられると、何だか心の中まで覗かれている感じがして怖いと雪斗は感じる。



「あ、あの」

「んじゃ、まずは……本当に体が熱くなっていたり、痛い所は無いー?」

田中は雪斗が戸惑っているのは分かっていたが、自分の研究心を優先させ問診をする。長年色んな人間を診てきたが、炭化しない人間はいなかったから、田中は雪斗が人間では無いのか?と少し思っていた。

「ない、です」

「そっかー。じゃあ、口を大きく開けてー?」

口を大きく開けた雪斗を田中はライトで照らし詳しく診て、「どこも異常無いなー」とボソリと呟いた。もしかしたら口の中が一部炭化しているのではないか?と田中は考察したがそれも違った。

「次、目を診るから触るねー」

田中は優しく雪斗の右瞼を上げ左手で引っ張り下も同様に。雪斗は田中の手が顔に触れ冷たくてヒヤッとして少し驚いた。右目も左目と同じで田中は雪斗を診たが両目とも異常無し。だが、目を見た時黒色の瞳に若干オレンジ色が混ざっていて不思議な色をしているなと田中は思った。

「田中先生どうですか?」

「それがねー、見た目は異常が無いんだよねー。後は血液検査かなー」

「そうですか」

雪斗は血液検査と聞き少しビクッとした。雪斗は普通の人と同じように注射が苦手なのだ。

「血は普通の人と同じ色だねー」と田中は注射器に入った雪斗の血を天井の電気で透かし見ている。

一応光に当てた時に何か変化が現れたりしないか田中は確認したのだ。

雪斗は無言で注射で刺された所をガーゼを受け取りしっかりと押さえた。

「雪斗君、大丈夫?」

「·····まあ、はい」

「じゃあ、この血検査するねー」

田中は雪斗の血を持ってランランとスキップしながら、血を検査する機械の中に血を入れた。

「田中先生、結果が分かるのはどれくらいですか?」

「えっとねー、15分後かなー。それまで会田君のこと聞きたいなー」

雪斗は前のめりになっている田中のことを気味悪くて内心引いている。それに田中は距離感が近く雪斗はどうすればいいかわからなくなる。

「雪斗君はまだ16歳の子どもなんですよ!田中先生、雪斗ちゃんを怯えさせないで下さい!」

「えー。あ、そっか!俺の事知らないからかー」

「え?」

田中は雪斗や宮木の反応を気にせず「29歳で男ね。三人兄弟の長男だよー」と喋ると、宮木が「えっ!嘘!?これで長男?!」と驚きの目で田中を見た。

「えー?これでって酷くないー?そう思わない?会田君?」

「えっと·····その」

「あ、15分経ったー」

雪斗に喋りかけたのにそれを無視し、血液検査機に向かい検査を見た。田中が血液検査の結果をみながら、雪斗には何かあるんだろうなと思っていた。雪斗は田中に背中を見られていないと思っていたが、田中は背中がちらりと見えてしまっていたのだ。

「·····何も異常無しー。会田君の親って八咫烏?」

田中は検査結果を見ながら、宮木に質問をする。答えはわかっていても、もしかしたらがあるかもしれないから一応。

「いえ、一般人です。だよね?」

「あ、はい。母は専業主婦で父は議員なので·····」

「夜喰に触られたの服の上からだったとかー?」

雪斗は「いえ、首を締められたので·····」と言いながら軽く首を摩った。雪斗が夜喰に首を絞められてからかなりの時間が立っていたが、まだ雪斗の首には線のように黒く跡が残っている。死ぬかもしれないという恐怖も色濃く残ってしまった。でも、初めて誰かに助けてもらえたと雪斗は少し嬉しかったのもある。

「そうだよねー」

この時田中は一瞬だけ不思議な霊力を雪斗から感じていた。でも、一瞬だったからその霊力がなんなのか考えていると、検査室の電話が「プルル」と鳴り響いた。田中は雪斗の不思議な霊力がなんなのか考えながら電話に出る。

「はい。·····了解しましたー」

「どうしたんですか?」

「宗主様がねー、会田君を連れて夜帳(やとば)の間に来いってー。あ、この検査結果も持って行ってね〜」と田中 は雪斗の検査結果が載っている紙を宮木に渡し部屋から二人を追い出した。

田中は一刻も早く雪斗の血を使い実験をしたくて、実験をするのに邪魔の二人を検査室から追い出したのだ。

「ちょっと田中先生!!·····ごめんね、雪斗君」

「いえ、大丈夫です」

「これから、夜帳(やとば)の間って言うところに行くよ。その間には宗主様·····八咫烏の1番偉い人がるんだ」

雪斗は「宗主、ですか?」と宮木の目を見ないよう質問をした。雪斗は宮木がすごい目を見てくるから精神的に疲れると思っている。

宮木は少し雪斗が自分を苦手としているのではないか?と気づき、歩きながら話すことにした。雪斗はその後を追う。

「そう。あ、八咫烏ではないんだけど宗主様より偉い人?がいるから言葉使いには気を付けてね」

「宗主、様が一番偉いのにそれより偉い人、ですか?」

偉い人と聞いた雪斗は父の上司のように偉い人なのかと考える。実際は雪斗の両親よりも偉い人物だ。

「うん」

歩くとキシっと音が鳴る廊下を通り、土足厳禁と書かれた看板がある所まで宮木と雪斗は来た。

雪斗は歩いてる最中、窓を見て空は真っ黒なのに街灯も無いのに何で外は暗く無いんだろう?と考えていた。



5分程歩くと顔を強張らせた宮木は立ち止まり、雪斗をしっかりと見る。

「ここが夜帳(やとば)の間だよ。雪斗君は中入ったら、正座してお声が掛けられるまでお辞儀したままで」と先ほどよりも緊張した声で話し掛ける。

「はい、分かりました」

雪斗もこの夜帳(やとば)の間の前に来てから妙な威圧感を感じガチガチに緊張している。

襖の前に浮かんでいる鈴を鳴らし、「壱盤隊所属中級位宮木まお、到着致しました!」と右膝を立て宮木は座り頭を下げた。

部屋の中から「入れ」と重々しい男性の声が掛けられ、襖が自動でスパンと開く。

「はっ!失礼致します!」

宮木と雪斗は緊張をしながら夜帳(やとば)の間に入った。宮木は右膝を立て座り顔の前で左手をパーにし右手をグーにして組む。この姿が八咫烏では正式の礼だ。

雪斗は正座をし頭を下げてから、先程より強い謎の威圧感と緊張で冷や汗が出てきている。

夜帳(やとば)の間の中に入ってから雪斗は威圧感と懐かしさを感じていた。でも、雪斗は夜帳(やとば)の間どころか八咫烏の本部にすら来たことが無い。だから懐かしさを感じた雪斗は不思議に思う。

その懐かしさを感じたせいか雪斗の目から一粒ポロリと涙が零れる。ここに合わなきゃいけない何者かがいると雪斗は心から感じた。



……この夜帳(やとば)の間で、雪斗と八咫烏の運命が静かに動き始めた。




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