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夜の帳を護りし者達  作者: 苺姫 木苺


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19/20

試験三日目突入



雪斗は一人テントの外で身体を冷やしていた。風邪を引いてしまい身体全体が熱いと感じ風に当たっている。「ゴホッ」と雪斗は小さく咳をする。夏とはいえずっと雨に当たっていたことにプラスで、霊力を消費し過ぎて雪斗の体力が減って風邪を引いてしまった。幸か不幸か熱はあるだろうが、風邪のせいで疲れに鈍くなっている。

「はあ……まずいな」

雪斗は暴風雨で視界の悪い森をジッと見つめた。体力的にも三日目からがキツイのは分かっていたが、この暴風雨は予想していない。きっと今日は試験をリタイアする人が続出するだろうと雪斗は思う。もしかしたら、自分もその一人かもと……。

テントの方からガサッと音をさせ眠そうな顔をした佐藤が起きて来た。

「会田?何をしているんだ?」

「いえ、何も。ただボーっとしていました」

そんな雪斗をジッと見て佐藤は何か雪斗がおかしいと感じる。雪斗は一見のほほんとして見えるが、今の雪斗は動作がゆっくり過ぎると佐藤は思ったのだ。

「昨日怪我でもしたのか?」

聞かれた雪斗は立ち上がり後ろで腕を組み「怪我してるように見えますか?」と言った。だが雪斗は内心佐藤に風邪を引いてることがバレるのではないかと不安になる。

「いや、見えないな」

「でしょ?」

自分が雪斗を班長に推してしまったが為に、重荷を年下に背負わしてしまったと佐藤は思っていた。だから、雪斗のことは自分がしっかりサポートしようと佐藤は決めている。

いくら最強と言われる壱盤隊の隊長の弟子とはいえ、雪斗はまだまだ幼いと今の雪斗を見て佐藤は思う。

「……班長になるの嫌だったか?」

「うーん……嫌では無かったです。戸惑いはしましたけどね」

雪斗は少しにっこりと笑い佐藤の質問に答える。佐藤は雪斗の笑みを見て「ちゃんと笑えるんだな」と言った。それを聞いた雪斗は「笑わない人間に見えました?」と思わず聞いてしまう。

「お前はどこか俺達に壁を作っているとは感じていた。でも、今日のお前は壁が無いっていうか……なんだろうな」

「もう、三日間も一緒にいるので佐藤さんに慣れたんですよ。宇佐さんと浜屋君にも」

三日間一緒にいて佐藤、宇佐、浜屋は悪い人間ではないと雪斗は気づいた。加茂のこともあり雪斗は他人に壁を作ってしまう。でも、この三人は自分のことをとても心配をしてくれる良い人と分かった。

「そうか」

「あれ?二人共起きるの早いねぇ」と目を擦りながら宇佐が起きて来た。その後ろに浜屋もあくびをしながらテントを出てくる。

「二人で何話してたんだ?」

佐藤と雪斗は目を一瞬合わせ「色々と」と答えた。全員起きて来たからご飯にすることに。

雪斗は鞄からみそ汁の素を出し、それと水を鍋の中にいれ火の式札で温め始めた。

「雪斗、そんなの持ってきてたんだ」

「はい。食材と調理器具だけは持ち込み可能と聞いていたので」

食料や飲料水は用意してくれると雪斗は聞いていたが、温かい食べ物も食べたいと雪斗は思い持ち込んだ。温まったみそ汁を紙コップに入れ、雪斗はみそ汁を「どうぞ」と三人に渡す。辺りにみそ汁のいい匂いが漂う。

「え?いいのか?!」

温かいみそ汁を受け取った浜屋は心の底から喜んだ。試験官達が準備したパンは保存期間を優先させたもので味はあまり美味しくはない。不味くもないのだが、そのパンをずっと食べ続けるのは飽きる。それを咲間達に聞いていた雪斗はなるべく日持ちするようにおにぎりも調理し自分で用意した。みそ汁も疲れた時に温かい物を飲むと落ち着けるという理由で準備。

「はい。具無しですが……」

「ん?具無しとは思えない美味しさなんだけど?!」

ポットを持ちながら雪斗は「出汁入りなんですよ」と言った。それを聞いた佐藤がみそ汁を一口飲み、「脳筋バカより料理上手だな」と呟く。

「私だって雪斗くらい料理できる!」

「味噌風味のみそ汁を作った奴がか?」

味噌風味のみそ汁と聞いた浜屋は「それはみそ汁じゃないのか?」と疑問に思い言った。

「確かに、そうですね」

「うさみが作ったのは、ほぼお湯の味しかしないみそ汁だ」

それを聞いた雪斗と浜屋は何とも言えない顔になった。続いて「多分会田は昆布やかつお節から出汁を取っているだろ?それとうさみが作った味噌風味のみそ汁と会田が作ったみそ汁を比べるのは、会田に失礼だな」と佐藤はズバッと言った。

「え、えと、お味噌汁が冷めないうちに食べましょうか」

気まずい空気に耐えられなかった雪斗は空気を変えるように言った。温かいみそ汁を飲んだことにより雪斗はさっきよりも元気になれた。

「おい、あれ」

先に食べ終えた浜屋が森の方を指さす。三人が浜屋が指差した方を見ると、隊服を着た四人の隊員見習いがこの暴風雨の中ゆっくりと歩いてくる。

「あれさ、加茂達だよね」

「たぶんな」

やはり雪斗達の所に来たのは初日に分かれた加茂達だった。加茂や和田に佐々木は少しだけ疲れたような表情をしていたが、柴田だけが疲れ切った顔をしている。

「お前らこんな所にいたのか!」と加茂はいけしゃあしゃあと言った。それを聞いた雪斗達は嘘だなと分かっている。

「どこに行っていたんだ?」

「私達、奥に行き過ぎちゃったみたいで迷っちゃったの。それで、他の班に聞いてここに来れたってわけ」と佐々木は佐藤の質問に答える。でも、予め用意されていたような返答に雪斗達は騙されない。

「そうですか」

加茂は柴田を見て早くやれと言う視線を送る。それを柴田はビクビクしながら雪斗に近づき、誰にも気づかれないように式札を雪斗の足元に落とす。

「ね、え。式札、落ちてる」

「え?あ、本当だ」と言いながら雪斗は式札を拾い自分の懐にしまい込んだ。式札をしまい込む雪斗を見た加茂は「やっぱ、俺達は俺達だけで行動する。柴田、お前うざいからそっちにいけ」とほくそ笑みながら言う。

「え……あ、……うん」

加茂達は柴田だけを残しこの場を去ったフリをする。実際は雪斗達から少し離れた所に身を潜めているだけ。

「柴田君、大丈夫ですか?」

見るからに青い顔をした雪斗は心配になり声を掛けた。でも柴田は「平気だから、放っておいて」と雪斗を冷たくあしらう。雪斗の手元に式札が渡ってしまい、柴田はもう引き返せなくなる。もう、八咫烏の隊員にはなれないばかりか、家を追い出されるだろうと柴田は覚悟をした。

「おい、渚。お前なにか加茂に言われたか?」

「……健生。……別に」

相馬に命令を受けたはずの浜屋は何で雪斗と仲良くしているのか理解不能だった。そして、自分とは違う浜屋を羨んでいる。同じ相馬家の分家で、式札使いなのが一緒なのになんでこいつとはこうも違うのだろうかと。

「言っておくが相馬様に命令されたことはこいつら知っているからな」

「え?!は、はあ?!な、なんで言うんだよ!!」と柴田はどもりながらも浜屋に怒鳴る。まさか雪斗に相馬からの命令のことがバレているとは思うはずがない。てことは式札のことも雪斗にバレていて、わざと拾ったのではないかと思った。

「俺はあんな命令に従うつもりがないからな。実力不足で試験に落ちんのは当たり前だ。でもな、会田には実力が足んないとは俺は思わねえ。会田に足んねえなら俺なんかもっと足んねえ」

浜屋は三日間一緒にいて雪斗のすごさに圧倒された。すごすぎて妬むことも出来ない。どんなに才能があっても、一か月でここまで式札を使いこなすには至難の業だから。

「相馬様の命令だぞ!!」

「だからなんだ?俺はズルいことはしたくない」

普通こういう争いは狙っている本人の前では普通しない。でもこの争いを見たことにより、浜屋は本当に自分を罠に嵌めようとしていないことに雪斗は気付けた。

「言い争い止めたら?夜に備えてさ」と宇佐が仲裁に入る。柴田は怒りからハッとし、雪斗達から離れた所に座った。


なんとなく気まずい空気が流れ、そんなこんなしていると日の入り時間に。


「取り敢えず、体力消費を抑える感じでいきましょう。柴田君、僕の命令に従うつもりが無いようでしたら邪魔だけはしないで下さいね?」

雪斗は頭がボーっとなりながらも必死に平静を装い話す。風邪は昼よりも悪化しだるさが出始めている。でも、そんなことは誰にも言えない。

柴田は小さく「ちっ」と舌打ちをして雪斗を無視した。

「お、さっそく夜喰らのお出ましだね~」

宇佐は夜になったばかりなのに大群で現れた夜喰に謎にテンションを上げている。普通あの大群を見たら、テンションが下がるのが普通だ。

「僕が風車で一気に倒しちゃいますね」

雪斗が一歩前に出て「風車」と唱えた。だが、風車が発動されるよりも早く「ボォーン!!」となんと爆音を立て雪斗が爆発。

周りは突然爆発した状況に追いつけず呆然となる。

「え?雪斗?」

すると突然監視をしていた試験管が雪斗達のいる木の枝に現れ、「お前ら!!しっかりしろ!まず、夜喰を倒せ!!」と指示をする。いち早く状況判断できた佐藤が近くにいた夜喰を倒す。それに続き浜屋と宇佐もどんどん夜喰を倒していく。

その近くで試験官は火に包まれている雪斗を救い出そうとしている。火を消そうと奮闘しているが何故か火は消えない。

自分一人では手に負えないと判断した試験官は「沖田さん!!至急こちらに来ていただけませんか?!」と無線で応援を呼ぶ。試験官の無線連絡で緊急な状況が沖田に伝わり、「すぐに行く」とだけ。

「おい、お前ら!!一人は夜喰警戒、その他はこっち手伝え!!」

「は、はい!!」、「わ、わかりました!」と返事をしながら宇佐と浜屋は試験官と共に雪斗を包んでいる火を消そうとしている。

火に焼かれている状況の雪斗はピクりとも動かない。そんな状況にこの場にいる全員が焦る。

「おい!そこのボーとしているお前も手伝え!!」と立ち尽くしている柴田に試験官が怒鳴った。

全員で火を消そうと奮闘していると、シュタッと木の枝に飛んできた沖田が「どんな状況だ?」と聞く。

「副組長、水を掛けても火が消えません!」

「……まずいな。もしかしたらこれは業火かもしれない」と難しい顔をしながら言う。

それを聞いた浜屋が「業火って……対象物が燃え尽きるまで消えない火……だろ」と呟く。何かを察した佐藤が柴田の所に行き、柴田の左頬をガッと全力で殴った。殴られた柴田は軽く吹き飛ばされドサッと尻餅をつく。

「これの原因お前だろ?」

「あ、いや、……その、」

柴田の口元は血が出ていた。佐藤に殴られたことにより口の中が切れてしまったのだろう。大事になると思っていたが、実際にことが進み目の前の惨状に柴田は茫然自失した。

「誰か水系統の式札を持っている奴は?」

「沖田副組長、氷柱の式札なら……」と浜屋は遠慮がちに言う。それを聞いた沖田は難しい顔をしながら「しょうがない」とひとり言を呟く。

「おい、その氷柱を火に向かって全力で放て」

雪斗に向かって氷柱を放てと言われた浜屋は「え?!氷柱をですか?!」と驚く。

「いいからやれ!あいつが死んでもいいのか?」

一瞬この場がシーンと静寂に包まれ、佐藤が「頼む」と浜屋に頼む。ゴクッと唾を飲み込み浜屋は「分かりました」と気合いを入れ、「氷柱」と唱える。氷柱の大きさを見た沖田が「その大きさじゃ足りない。お前らもこいつの持っている式札に霊力籠めろ」と指示をする。

「は、はい」と柴田以外が返事をした。

浜屋の持っている式札に四人分の霊力が集まったことにより、氷柱は巨大になる。初めての大量の霊力操作に浜屋は汗を垂らしながら、氷柱が爆散しないよう精一杯集中した。

「よし、放て!」

指示をされた浜屋は巨大な氷柱を雪斗に向かって放つ。


氷柱が火に当たるとジュワアという音を立てながら、大量の水蒸気がこの場を充満した……。





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