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夜の帳を護りし者達  作者: 苺姫 木苺


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18/20

身体の異変



雪斗達は試験初日なのにヘトヘトになりながら初日を終えた。

「日の出も迎えたのでご飯をサクッと食べ夜に備えて寝ましょう」

疲れた顔をしながら雪斗は三人に指示をする。班長としての行動は合っていたのか内心不安だったが、三人とも素直に聞いてくれていたのが助かった。これが加茂達だったらこうも行かなかっただろう。

三人は雪斗の指示に返事をしながら濡れた隊服をギュッと絞った。絞られた隊服からボタボタと水が落ちる。四人が絞ったせいでそこには小さな水溜りができた。

「あいつら戻ってくると思うか?」と支給された鞄からパンを取り出しながら浜屋は雪斗に聞く。質問された雪斗は一瞬考え話し始める。

「多分、今日も戻ってこないでしょう。……僕なら明日の朝に戻ってきて妨害します」

「雪斗、何でなの?」

雪斗はおにぎりを一口食べながら「三日目の朝が一番疲労がピークになるからですよ」と口をモグモグさせながら答える。妨害のことより雪斗は咲間のことを考えていた。もういつ昇天してもおかしくないと咲間は分かっていたから、あの玄関でのお見送りだったのかもしれない。本音を言うと試験なんかほっぽって咲間の側にいたいと雪斗は思った。でも、そんなことは咲間は喜ばないのを知っているから、試験を抜け出すなんてことはしない。

「へえー。それより、あの壱盤隊の隊長の訓練を受けてたってまじ?」

「はい。それが何か?」

壱盤隊と夜帳(よとば)と由羅しか咲間が灰化にかかり、いつ昇天してもおかしくないことは知らない。壱盤隊の隊長が灰化になったと他の隊や見習い隊員達に知られたら指揮に関わるため、壱盤隊と由羅が他にバレないように隠している。だがこれは建前で、真実が知られれば雪斗が矢面に立ってしまうと咲間が建前を理由にした。

「一か月前までは本当に一般人だったのか?」と佐藤もご飯を食べながら聞く。

「はい。あることがきっかけで八咫烏に」

雪斗は両親が血だまりを残し失踪したのはもう一か月も前の事かと思い出す。訓練の合間を縫い、両親のことも調べたが何も出てこなかった。どうか無事に生きていていてくれと雪斗は願うしか出来ない。

「そうか。そういや、佐藤と宇佐は何でその歳で見習い隊員なんだ?普通十六歳で親が進めてこないか?」

「私の親と太郎の親は八咫烏になることも大事だけど、一般人の生活をちゃんと謳歌しなさいってなわけでこの歳にって感じ」

普通は十六歳で試験を受けるものなんだと知り、双子のことを思い出し雪斗は驚く。千夏と千尋は幼いながらに過酷の試験を生き延びたのかと。

「お喋りはここまでにして寝ましょう」

三人は雪斗に返事をして、五人まで入れるテントの中に入る。宇佐は女性だからと、衝立をして少し離れた所で寝られるよう雪斗が配慮済みだ。幾ら試験とは言っても、男ばかりで寝るのも不安だろうと雪斗は考える。でも、宇佐はそんなことはこれっぽちも考えていなかった。

四人は濡れた隊服のまま各々寝袋に入る。雨のせいで濡れた隊服は気持ちが悪く、四人は寝心地が悪く寝れない。式札で隊服を乾かすのを雪斗は考えたが、霊力は温存しといた方がいいと判断し式札を使わなかった。火を起して乾かそうにも、乾いた枝なんかこの大雨の中あるはずもない。


六時間もするとテントの中は全員眠っていた。

雪斗はブルッと寒気を一瞬感じ、パッと目を覚ます。何か身体に違和感を覚えたが気のせいだろうと気にしないようにした。

寝袋を開ける音で他の三人も眠そうにしながらも起き始める。

「んー……今、何時……?」と宇佐が目を閉じたまま眠そうに聞いた。

「お昼の十二時だ」

佐藤が腕時計を確認し答えた。それを聞いた宇佐は「もう十二時なのー……まだ寝てたいぃ」と願望を口に出す。その願望はここにいる全員が心に思っている。

寝袋から出た雪斗は外に出て天気を確認した。昨日よりも雨の勢いが少しだけ強く、視界が見づらくなっている。

テントの中に入り雪斗は「昨日よりも戦闘しづらくなるかもしれません」と三人言った。

「雨強くなってんのか?」

「はい。風は昨日と変わらずですが、雨の勢いは昨日よりも強いです。でも、今日よりも明日が問題かもしれません。このまま雨の勢いが強くなったら……」

全員黙り込み、これからの戦闘のことを考える。昨日はなんとかなったとしても今日、明日はそうもいかない。

「会田、どうする?」と佐藤が雪斗に意見を聞いてきた。一瞬雪斗は考え「昨日と一緒か……」と途中まで言い口を閉ざす。

「一緒かなんだ?」

「僕が全員に気配消しを使い明日に備えて体力温存をするか、ですね」

それを聞いた三人は自分が楽ができるのに難しい顔をした。もし二つ目の案になると、雪斗の負担がとても大きいから。でも、作戦としては気配消しを使い体力温存が一番良い。

「それだと雪斗だけ負担でっかくない?」

「うさみの言う通りだな」

浜屋が名案を浮かんだとばかりに顔をパッと明るくさせ、「零時まで頑張って貰って、後は俺達が警戒で会田は休憩なんかどうだ?」と提案をする。それを聞いた佐藤と宇佐はその案がいいか考え、浜屋の提案を採用することに。

「雪斗って式札何が使えるの?」

「威力抜きにしたら使えないのはほぼ無いですね」と、顎に手を当てこれまで使ってきた式札を思い出しながら雪斗は答える。

それを聞いた浜屋は自分と雪斗の才能の差が大きいことが分かり内心落ち込む。式札だけは才能で力量が決ってしまうのは浜屋も分かっていた。でも、ここまで才能の差があるとは浜屋も予想していない。

「そういえば、何で僕が咲間さんの訓練受けていたの知っているんですか?」

「え?それ噂になっていて、逆に知らない人の方が少ないよ。ね?」

「ね?」と聞かれた佐藤と浜屋は「ああ」と答えた。それを聞いた雪斗はまさか自分が噂の中心人物になっているとは思わず驚く。

そうこう作戦会議や雑談をしていると日の入り時間まで残り僅かとなった。



やはり日の入りしても加茂達は雪斗達の所に戻って来ない。

昨日と違い雪斗達は大きい木の上で周りを警戒していた。木の上にいることで沢山の枝と葉によって雪斗達の姿が周りから分かりにくい。

「じゃあ、気配消し使いますね」

気配消しの式札を人差し指と親指で挟み、「消」と唱え雪斗は気配消しを発動させる。気配消しを使ったことにより、この場にいる四人は夜喰と人からも気づかれにくくなった。

雪斗達が気配消しを使って人間の気配が無くなったからか、近くにいたリスが四人の側で雨宿りをしている。これを見た雪斗以外の三人は、ここまでの精度の気配消しを発動させている雪斗の集中力に驚く。気配消しの式札は才能はあまり必要ないのだが、自分がいかに空気のような存在かと思い集中するのが大事なのだ。

この場が静寂に包まれ、ここだけが世界が切り取られたようになった。

「すごっ」と宇佐は思わず口から出てしまう。その声に気づいたリスは雨に濡れるのも気にせず脱兎のごとく逃げていく。

それを佐藤が「声がでかい」と小声で宇佐を注意しながら頭を軽く叩いた。宇佐は佐藤をギロッと睨んだが、自分が悪いのは理解していたので言い返せない。

しばらくすると夜喰が雪斗達の側に現れたが、夜喰は雪斗達の存在に気付いていない。

四人は夜喰が側にいることにより心臓がドクドクと早く鼓動する。皆心の中でどっかいけと思っていると、馬鹿な班が大量の夜喰を引き連れ逃げ回っていた。その馬鹿の班に気づいた雪斗達の側にいた夜喰もそっちの方に行く。

「あの馬鹿な班は何を考えているんだ?」

「さあ?何も考えていないんじゃない?」

佐藤と宇佐は小声でさっきの班のことを話す。いくら夜喰が動くのが遅いからといって、動き回るのは得策ではない。

「なあ、あれ助けなくて良かったのか?」

「万が一の場合は試験管が助けてくれると思うので、大丈夫だと思います」と、目を閉じ集中をしている雪斗が答える。気配消しに集中をしている雪斗の額には薄っすらと汗がにじんでいた。

「そうか」

佐藤が浜屋に「その正義感は大事だが俺達も試験中なの忘れるなよ」と忠告をする。忠告をされた浜屋は「そうだな。悪い」と謝った。

「太郎、言葉足りなさすぎ!太郎は健生のことを心配しただけだよ」

「そうなのか」

宇佐からの言葉を聞き、佐藤は俺自身のことも心配してくれたのかと浜屋は理解した。佐藤はたまに言葉が足らない時がある。それを幼馴染の宇佐が補うという。

「へっくしゅ」と雪斗は小さくくしゃみをした。そのくしゃみを聞いた宇佐が「誰か雪斗のこと噂してるのかもね」と言う。

「……そうかもですね」



四人は小声で喋りながら夜喰の警戒をしていた。その時一体の夜喰が目の前にスーッと現れる。

宇佐が「ねえ、あの夜喰さ私達に気づいてない?」と小声で言った。それを浜屋と佐藤はそんなことはないと否定をする。でも、宇佐の直感であの夜喰は自分達に気づいていると思った。

宇佐の言葉を聞いた雪斗がスッと目を開け、「万が一あれが特殊個体で、僕達に気づいていたら危険なので浜屋君式札で倒して貰えませんか?」とお願いをする。その言葉を聞いた浜屋は氷柱で夜喰の胸を貫いた。貫かれた夜喰うは貫かれた所からパキパキと凍っていき、バリン!と音を立て砕け散る。

「これ風も強くなっていない?」と砕け散った氷が飛んでいくのを見た宇佐が言葉にした。

さっきまで風はあまり吹いていなかったが、ビューと音を立て葉を揺らしている。

「そうですね」

全員音と葉の揺れ方を見てさっきよりも風が強くなったのを感じた。

またしても夜喰が雪斗達の前に三体現れる。

「ねえ、あいつらも私達見てない?」

「うさみ、気にしすぎだ」

佐藤に気にし過ぎと言われた宇佐はそんなことないと思った。隠し布越しだけど、夜喰と目が合っている気がすると宇佐は感じる。

ユラユラと揺れていた夜喰はピタッと止まり、なんと大きくジャンプをし雪斗達の所へ。

全員やばいと思い、三体の夜喰に攻撃をし撃退をした。

「やっぱりあいつら私達に気づいてたんだよ!!」

「何でこんなに特殊個体が出てくるんだ?!」

宇佐と浜屋は連続で出てきた特殊個体にうろたえる。だが佐藤だけは冷静に先ほどのことを考え、「もう気配消しは使わないで、警戒したほうがいいかもしれない」と雪斗に提案した。

腕時計を見て雪斗は頷き気配消しを解く。時刻は二十三時四十五分になっていたから丁度いいと思い気配消しを雪斗は解いたのだ。

「雪斗はなるべく休憩してて!今度は私達が頑張る番!」

「分かりました。お願いします」



宇佐が雪斗に休んでいてと言ったが、雪斗がゆっくり休めない状況になるくらい夜喰が現れてしまった。

原因は先ほどの馬鹿な班のせいである。馬鹿な班がまた四人がいるところまで逃げて来たせいで、大量の夜喰が四人い気づいてしまったから。馬鹿な班は夜喰が四人に気づいたのを知り、なんと四人に夜喰を押し付け逃げて行った。

「あいつらの顔見た?!笑ってたんだけど!!」

宇佐は隠し布越しの馬鹿な班の笑い顔を見て、ぶちギレながら夜喰と戦っている。それを三人は気持ちは分かるがうるさくしないでくれと思った。戦闘の音だけでなく、宇佐の怒鳴り声でも夜喰が集まってくる。

「へっくしゅ、風車」

雪斗が円を描きながら周りに鋭い風を巻き起こす式札を使い夜喰を粗方掃討した。討ち漏らした夜喰を三人は手分けして倒す。

馬鹿な班が引き連れて来た夜喰とそれに釣られて集まってきた夜喰も倒し終えた。

気づけばもう日の出をしている時間になっている。でも、この大雨と厚い雲で空が覆われているせいで太陽が少しも見えない。

「やっと朝だあ!!」

「そうですね」

雪斗は自分の身体がおかしいことに気づいた。いつもより体が重く、動かしづらいと感じる。

「会田?どうしたんだ?」と、雪斗の様子がおかしいことに気づいた浜屋が自分の隠し布を取りながら聞いた。

「いえ、疲れたなと思って」

「あの馬鹿な班のせいだよね!!」

佐藤も「そうだな」と宇佐の言葉に同意した。話の流れが変わったと雪斗は安心をする。自分の不調はこの三人にバレないように気を付けないといけないと思った。

誰にも迷惑を掛けられないと……。


四人はサッとご飯を食べ寝袋の中に入り夜の試験に備えることにした。

三人はしっかりとご飯を食べたが、雪斗は一口おにぎりを食べただけ。ちゃんと食べようと思ったが、食欲が無かったのだ。

二日目の試験をA班は誰もリタイアすることなく終えることが出来たが、雪斗の身体に異変が起こっていたのを誰も気付いていない。

気づいていればあんなことにはなっていなかったことだろう……。


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