それぞれの……想い。
しばらく経っても加茂達が戻らず、日の入りがしてしまった。ポツポツと雨が降り始め、ザアザアと強くなり始める。
「あいつら何考えてんだ?!」と浜屋は大声で怒鳴る。浜屋の怒鳴った声で茂みに隠れていた小動物がびっくりとしガサッと音を立てて逃げて行く。
「どうする会田?」
佐藤は雪斗が班長だからどうするか聞いた。
雪斗は帽子と隠し布を付けながら、「もう、いつ夜喰が出てもおかしくありません。この大雨の中、加茂君達を探すのは危険なので捜索に行くのは止めましょう。ここで、日の出まで耐えます」と指示をする。加茂という恐怖が無いからか、雪斗スラスラと指示を出せた。初日からこんなで五日間試験を耐えることができるのか雪斗は内心不安に思う。でも逆に宇佐と佐藤は何か企んでそうな加茂達がいない方がいいと思っていた。
「確かに、そのほうがいいね!!」
「浜屋君、宇佐さん、佐藤さんの武器は何ですか?」
雪斗は戦い方を決める為に使っている武器をそれぞれに聞いた。浜屋は「式札と拳銃だ」と式札と拳銃を見せた。
「私はね、鞭!」
先端に石の付いた黒い鞭をビシッと音をさせ宇佐は武器を自慢するように見せた。鞭をビシッとさせたことにより、先端に付いていた青い石が揺れて綺麗に見える。佐藤は「刀だ」と腰に差している一本の刀に手を置き言う。
「なるほど……。僕も浜屋君と同じ式札です。フォーメンションは、前衛に佐藤さん、中衛に宇佐さん、後衛で僕と浜屋さんでいきたいと思います。どうでしょうか?」
雪斗が全員に意見を聞くとそれぞれが「それでいい」と答えフォーメンションが決定。
「浜屋君は結界を張れますか?」
「いや、俺が使える式札は火球と氷柱に土壁だけなんだ」
雪斗は難しい顔をしながら「僕もあまり式札は使えないんです。結界も張れて十五秒だけなんです」と言った。それを聞いた三人はとても「すごっ!」や「すげえな」と驚く。結界が十五秒だけでも張れることが凄いことだから。
最初は二秒だけしか張れなかった結界も雪斗は十五秒も張れるようになったでも、雪斗はそれが凄いことだとは自覚が出来ていない。自信がないのではなく、長時間結界を張れる喜馬の側にいたから気づけないだけである。
「夜喰は近づいて来た奴だけ倒しましょう」
「え?何で?沢山倒した方が良くない?」と宇佐は疑問に思い口に出した。すると佐藤が「さすが脳筋バカ」と宇佐に聞こえるか聞こえないか位の声量で呟く。だが宇佐の耳に聞こえていたのか、ギロッと佐藤を睨む。
「じゃあ、太郎は何で雪斗がああ言ったのか分かるの?」
宇佐は苛立ちながらどうせ佐藤も分からないだろうと内心思いながら言った。
「当たり前だろ。試験は五日間あるのに体力温存しないとか有り得ないからな。分かったか脳筋バカ」
宇佐が「はあ?!」と言い、喧嘩になりそうな雰囲気を雪斗は察し「ストップ。いつ夜喰が出て来てもおかしくないと言いましたよね?」と冷静に割り込んだ。
年下の雪斗に注意された宇佐と佐藤はうっとバツの悪い顔をする。続けて雪斗は「いつでも戦闘が出来るように集中ですよ?」と笑って言った。雪斗は別に怒っていなかったが、喜馬から注意と怒る時は笑って言うといいと言われたから笑ったのだ。雪斗のオレンジ色に変わった瞳は不思議な魅力を持っている。
喜馬は雪斗が顔の良さを利用したほうがいいと思い、試験の為に雪斗に色々教えた。
それを実行した雪斗は周りからすると、凄く怒って見える。
身体がゾッとしたような感覚にその場にいる全員がなった。すると、雪斗達の少し遠めの前にスーッと遠めからでも分かるくらいの細長い夜喰が現れる。
「出た」と宇佐はギュッと鞭を強く握りしめ呟く。
「後ろも警戒しつつ夜喰が近づいて来るのを待機」と雪斗は三人に指示し、「小雪」と真っ白の土佐錦を顕現。続いて「小雪。上から警戒よろしくね」と万全の態勢を築く。
夜に現れた淡く光っている小雪は、星のように輝いていてとても神秘的で綺麗だ。小雪を見た宇佐は「綺麗」と呟く。言葉にだしていないが佐藤も浜屋も小雪の神秘的な綺麗さに一瞬心が奪われた。
「上からは僕の式神が警戒してくれます。ですが油断しないように」
三人はハッとし雪斗の指示をちゃんと聞く。今は集中をしなければならないと三人は心を入れ替える。
そんな三人とは違い雪斗は内心夜喰近づいてくるなととても怖がっていた。恐怖で雪斗の手がブルブルと震えてしまう。死にかけた恐怖と咲間の件もあり、雪斗はこの場にいる誰よりも怖がっていた。でも今あの時のように怖がっていたら、また咲間のような被害者を出してしまうと恐怖と戦っていながら夜喰を見つめる。
「あの細長い夜喰三体、近づいて来ないな」と浜屋が呟いた瞬間、細長い夜喰がものすごいスピードで近づいて来た。
「え?」
「は?!」
雪斗は「結界!!」と式札を使う。するとバンッ!!と細長い夜喰が物凄い音を立て、雪斗の張った結界にぶつかった。結界が解けないよう霊力を式札に流すのに雪斗は全力で集中をする。
雪斗以外の三人はあの速さに何も動けなかった。雪斗が結界を張っていなかったらどうなっていた事かと三人は内心恐怖する。
「三人とも!攻撃を!」
指示された三人はハッとし、浜屋は式札の氷柱で攻撃、宇佐と佐藤は鞭に刀で各自一体ずつ細長い夜喰を撃破。撃破された細長い夜喰はサーッと塵のように散っていく。
佐藤が「あいつら特殊個体だったな」と散っていく夜喰を見つめながら言う。三人は眉を寄せ、顔をしかめた。一か月前に隊員見習いになった雪斗しか瞬時の対応をできなかったから。
特殊個体とは普通の夜喰とは違い様々な動きや攻撃をしてくる。特殊個体とは違い、通常個体は動きがのろまで腕を伸ばし攻撃をしてくるだけ。
「全方位注意を怠らないように。そして、全ての夜喰が特殊個体かもしれないと頭の片隅に」
「ああ」
「分かった!!」
「了解!」
三人はそれぞれ雪斗の言葉に返事をした。
雪斗は結界を解き、無駄な霊力消費を抑える。結界を解いたその分、全員は夜喰の気配に集中を高めた。
全方位警戒をしつつ宇佐が「雪斗、加茂とどんな関係なの?」と聞く。だが佐藤が「それ今聞くことじゃないだろ」と注意をした。佐藤も雪斗と加茂の関係が気にはなっていたが、今それを聞くべきではないと思う。
「……クラスメイトです」
「そうなんだ」
雪斗の態度からして、加茂が普通のクラスメイトではないことは三人とも気づいていた。でも、誰も口には出さない。
無言が続きザアザアと雨の降る音に、ザアーと風の吹く音がやけに大きく四人の耳に入る。
「この大雨の中、日の出まで……。初日からやばいでしょ」と宇佐が隠し布の下に雨を手で拭いながら呟く。それを三人は「確かに」と同意した。いつ襲ってくるか分からない夜喰にプラスでこの大雨は最悪の展開。
「日の出まであとどれくらいかな」
疲れ切った顔をした宇佐がひとり言のようにボソッと呟く。
雪斗は腕時計を見ながら「後四時間ほど……ですかね」と答える。今の現在時刻は夜中の十二時三十分。
「まじか……誰かこの場所検討ついた奴いる?」
「恐らくだが、屋久島かもしれない」と佐藤は予想を言葉にする。他にも北海道にある森かもと思ったが、夜中になっても暑くじめッとした空気で違うと佐藤は判断した。そこから導き出された答えが屋久島ということ。
「ねえねえ、太郎~。屋久島って?」
「一か月の間の天気は雨が多く、最古の森と言われる」と佐藤は全方位夜喰を警戒しながら説明をする。三人は一か月の大半が雨と聞き、今回の試験は例年よりも厳しいかもしれないと思った。
「……作戦を変えます。僕一人で二時間警戒をします。なので三人は少し休憩をしてください」
「え?雪斗だけで?」
雪斗はルキ、クロ、クラオカミを顕現させながら「僕にはこの子達がいますので」と言った。同時に四体もの式神を顕現させている雪斗を見た三人は、目を大きく開き雪斗の式札の才能に驚く。
「本当に大丈夫か?」と佐藤はどんなに雪斗が才能を持っていても心配で聞いた。
「大丈夫です。夜明けまでの二時間は休ませて貰うので」
三人は雪斗の言葉を聞き、お言葉に甘えて休ませてもらう事にした。
雪斗達にバレないように監視していた試験管は雪斗を高く評価をする。このままでは初日で全員がリタイアもあり得ると判断し、試験なのに班の為に行動をしたから。
「流石、咲間隊長の弟子」と試験管は呟いた。一方でこちらに戻って来なかった加茂達の評価は下がる。
知らず知らずのうちに評価の下がっている加茂達は、全員木の上で夜喰に見つからないように身を潜めていた。
「いいか?三日目に仕掛けるぞ」と加茂はニヤリと笑いながら言う。
「何するつもりなの?」
「おい、柴田。この式札をあいつの懐に忍ばせろ」
加茂は式札の適正がないのに何故か式札を持っていた。その式札を柴田に押し付ける。万が一バレた際に柴田一人のせいにする為に、加茂は忍ばせるよう指示をした。
「淳也、その式札……」
「ああ」
加茂は式札を親指と人差し指で挟み、ヒラヒラさせ悪い顔をする。
「え、これって……」と式札を押し付けられた柴田はその式札を見て顔を青くさせた。この式札を雪斗の懐に忍ばせたら、自分は隊員にはなれなくなると柴田は理解する。でも、加茂の指示を柴田は無視ができるはずない。
「ちゃんとやれよ?」
加茂は万が一が無いように柴田を脅す。それを柴田は「はい」としか返事が出来なかった。
柴田はこの大雨を見つめながら何で自分はこうも弱いのだろうかと考える。
家族の誰からも期待されない生活にこうして脅される日々。それもこれも全部雪斗のせいだと責任天与をする。でも、雪斗は何も悪くない。家族から愛されないのも脅されるのも雪斗は何も関係がないことだ。
悪いのは柴田を愛さない家族と脅す加茂達。
加茂達は持ち込み禁止のはずのスマホを出し、「圏外かよ」と呟いていた。
「ちゃんと夜喰の警戒しといてよねー」
柴田以外はスマホを見て夜喰の警戒をしていない。夜喰がどこから来るか分からないため、柴田は三人よりも見晴らしのいい所に立っている。そのせいで柴田だけが大雨でずぶ濡れだ。
「何で……僕だけ……」
柴田のひとり言は大雨でかき消され、誰にも届かなかった。鳩を顕現させ、柴田は自分の目が届かない所を警戒させる。
雨の中頑張って飛んでいる顕現させた鳩を柴田は写し鏡だなと思った。
すると急に柴田の顕現させた鳩が「ポッポー!!」と鳴く。
「夜喰が近づいてます!」
夜喰が近づいていると聞いた三人は立ち上がり、各々武器を取り出す。
「淳也と優奈は座ってて。二体くらいなら俺だけでいいよ」
和田の言葉を聞いた加茂と佐々木は座り直す。「そこどいて」と和田は柴田を押しのけ、長距離型夜銃星弾を構え夜喰に向け撃つ。五百メートルも離れていた夜喰は和田の撃った銃が頭にヒットし塵のようにサーと消えていく。長距離型夜銃星弾の形状はバトルライフルに似ている。でも長距離型夜銃星弾は八咫烏独自で開発された。
消えていく夜喰を見つめながら和田は「よし、完璧」と呟いた。
「さすが駿だな」や「さっすが~」と加茂と佐々木は和田を褒める。
「ねえ、駿。あの鳩も撃ち落とすことできるの?」
「んー……あの距離は星弾では難しいかな」
自分の鳩を撃ち落とせれるのかと話しているのを聞いた柴田は、こっそりジェスチャーで鳩に少しだけ高度を上げるよう指示した。その行動に加茂達はお喋りに夢中で誰も気付いていない。
日の出が何時か気になり柴田は腕時計を出し確認をすると、あと一時間もしないで日の出あろう時間になっていた。
柴田が一時間も一人で夜喰の警戒をしていると、厚い雲の隙間からほんの少しだけ太陽が見えた。
「やっと、日の出だ」と柴田は呟くまだ試験は初日を終えたばかりだというのに、この中で柴田だけが物凄く疲弊している。
「さて、今日の夜どうすっかなー」
加茂は日の出を見ながら雪斗達の所に戻るか考えていた。でも、戻らない方が面白いかもと思い雪斗達の所には戻る気はあまりない。
見習い隊員達は無事正隊員試験を全員初日を終えることが出来た。初日と違い二日目は、もっと過酷だ……。




