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夜の帳を護りし者達  作者: 苺姫 木苺


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14/20

残酷な現実



「……え?」

「雪斗、無事か?」

ザアザアと叩きつける雨の中、咲間は雪斗を抱きしめたまま動かなかった。

雪斗をかばい夜喰の攻撃を受けた咲間の肩の部分の衣服が破け血がにじんでいる。

「さ、くまさん、なんで……」

雪斗は自分のせいで咲間が怪我したのが分かり声がブルブルと震える。

咲間はスッと立ち上がり「そこにいろよ?」と言い、怖い顔で夜喰に向き直った。

「ちっ、あいつ特殊個体だったのか……」

「……咲間、さん……血が……」

夜喰の攻撃からかばってくれたおかげで雪斗は無事だった。でも、そのせいで咲間は怪我をしてしまった……いや、怪我だけで済んでれば……。防護服の袴が破けた即ち、夜喰に触られ炭化が徐々に始まる。

咲間は身体全体に霊力を纏わせ、グッと足に力を入れるように曲げ空に向かって飛び跳ねた。

空高く飛び跳ねた咲間は身体を軽く捻るように夜喰に刀を思い切り振る。刀で切られた夜喰はサラサラと体が消えていく。地面には咲間が刀を思い切り振った為、鋭い斬撃の跡が地面に残っていた。

「よし、完了。雪斗、え?泣いてるのか?」と咲間は雪斗の方に振り返るとびっくりした。この大雨に紛れても、雪斗が泣いていることははっきり分かる。

「さ、くまさん、ひっく、僕のせいで、ひっく、ごめんなさい」

「……今すぐ炭化が重症化するわけでは無い。だから、泣くな」

刀を鞘にしまいながら咲間は雪斗に近づき励ます。雪斗を守れた安堵感と共に死への恐怖で咲間の心はいっぱいだった。でも雪斗を庇った後悔だけはない。

「隊長ー!無事です、か……え?その肩の傷……え?」

咲間が急ぎどこかに向かうのに気づいた壱盤隊副隊長の影浦くうは咲間の肩の傷に驚き言葉を無くした。

雪斗は地面を見て項垂れることしかできない。いや、自分を庇い炭化になり始めている咲間の顔を見ることが出来ないから地面を見ているのだ。

「影浦、これは誰にも言うな。命令だ」

「え、あ……は、い」

咲間は放心状態の雪斗を抱えて、「俺は先に戻っている。日の入りまで……あと頼む」と言い残し常闇ノ庭に繋がる壁を開き中に入っていった。

その咲間の背中をジッと見つめて影浦は「隊長」と呟く。

影浦は咲間が隊長になる前から壱盤隊の副隊長を勤めているベテランだ。咲間のことをよく知っているから、咲間が炭化が始まるのが信じられない。



常闇ノ庭に戻って来た咲間と雪斗は家に戻らず、田中のいる検査室に向かう。

検査室に向かう道中、雪斗はずっと泣いていて咲間はどうしたものかと悩んだ。悩みながら歩いているうちに、いつの間にか検査室へ着いていた。

ガラッと研究室の引き戸を開き、咲間と雪斗は中に入る。

「ノックしてよねー。え?咲間、その肩の傷どうしたの?」

咲間の肩の傷を見た田中はいつもの喋り方を忘れたのか動揺している。

「夜喰の攻撃をくらった」

「え、炭化は?!」

表情を暗くした咲間が「……始まっている」と田中に言う。咲間の返事を聞いた田中は絶句し、ガタッと椅子に力が抜けたように座る。

誰も話さないのでビーカーで薬品を煮ているコポコポ音と、時計のカチカチ音が検査室にやけに響く。

咲間の後ろに雪斗がいるのを気づいた田中が「……何で会田君もびしょ濡れなの?」と聞く。田中は雪斗が常闇ノ庭の外にいたのは知らない。

「常闇ノ庭の外にいたからだ」

「へー……え?何で?」

雪斗はポロポロと涙を流しながら、「僕も、分からないんです。気付いたらあそこにいて……」と答えた。雪斗は加茂達が来た後、落ち着こうと寝る準備をしていた。

「自分の部屋で寝ようとしていたんです」

「だから、パジャマなのか。寝る前までに何か無かったか?」

雪斗は加茂達が渡してきた式札の事を話すべきか迷う。もし、それを言って加茂達から今以上の仕返しをされるのではないかと思ったから。でも咲間は命掛けで守ってくれた恩人だから……と思い、雪斗は加茂達が来てよく分からない式札を渡してきたと話した。

「そうか」

「それ、どう考えても転移の式札だねー」

落ち着きを取り戻した田中はいつもの語尾を伸ばす話し方に戻っていた。

「だな。……雪斗その式札は?」

「いつの間にか無くなっていました。ごめんなさい」

咲間の顔は血管が浮き般若のように怖くなっている「あいつ……ぜってぇ許さねえ」と咲間はぶちギレながら呟く。

「とりあえず、その肩治療するー」

田中は棚から消毒液とガーゼと包帯を取り出す。咲間は半着をガバッと脱ぎ、田中から治療を受ける。

咲間の治療をしながら田中はボソッと「肩甲骨の辺りに炭化が出始めてる」と咲間に伝えた。田中も一応気を遣うことは出来るので、雪斗に聞こえないよう言ったのだ。

「……そうか」

症状が顔にでる場合もあったが、服で隠せる場所で助かったと咲間は思った。今壱盤隊の隊長を辞めるわけにはいかない。

「会田君、怪我はー?」

「無いです」

咲間は半着を着なおしながら「明日からの訓練厳しくするぞ」と言った。雪斗が試験合格の為と命を守る為に。雪斗は「分かりました」と静かに返事をした。まだ灰化の事をよく分かっていない雪斗は咲間がいつ死んでもおかしくないと思っている。だから、お世話になっている咲間の為にも頑張らないといけないと雪斗は決心をした。

「無茶しすぎないようにね」

「分かってる」


咲間と雪斗は検査室から家に戻ってきていた。

「雪斗、先に風呂行って来い」

「いえ、咲間さんから!」

咲間は「夏とはいえ風邪引くかもしれないから、お前が先に行け」と再び雪斗に風呂を譲る。でも雪斗も「任務で疲れていると思うので、咲間さん先にどうぞ」と断った。

「じゃあ、一緒に入るか?」

咲間は冗談で一緒に入るか言ったつもりだった。一瞬キョトンとしたが雪斗は冗談だとは思わず「……はい」と返事をする。

こうして咲間と雪斗は一緒にお風呂に入ることに。



雪斗は湯舟に浸かり、咲間は頭をゴシゴシとシャンプーを泡立てながら洗っている。

咲間は頭を洗いながら、「……背中の傷跡どうしたんだ?」と聞いた。服を脱いだ雪斗の背中をちゃんと見た時咲間は驚いた。以前チラッと見えた時は数個しか見えなかったから、雪斗の背中にある無数の傷跡と生傷は拷問の跡に見える。

「……いえ」

「親、か?」

ザバッと立ち上がり「違います!!」と雪斗は瞬時に親がしたことではないと強く否定をした。

「そうか」

頭を再び洗い始めた咲間はもう背中のことは聞かず、お風呂場にシャワーのシャーという音が響き渡る。しばらくたって雪斗が重い口を開き自分がされてきた事を始めた。

「……背中はいじめられて、できた怪我、なんです。先生も助けてくれませんでした」

「いじめ?その背中を見る限り、いじめじゃなくて拷問だろ!」

「あはは、は」と雪斗は無理やり笑い、笑うのを止め「……ですね」と言った。雪斗自身もあれはいじめの領域を超えているとは思っていた。担任からの「いじめじゃなくてスキンシップよ」とずっと言われ、雪斗はそうなのかもしれないと錯覚する。今やっとあれはスキンシップではなく、いじめだと言えた。

親にもいじめられていたこと言ってないのに、恩人だからなのか咲間にはスルッと話せた。過去の忌まわしい事を、咲間は自分の分まで怒りを出してくれたかもしれない。

「同じ学年か?」

「……あ、はい」

雪斗の煮え切らない態度に何かを察した咲間は「もしかして、俺の知っている奴か?」と確信をついた。

雪斗は黙って何も言わないが、目に見えて顔が強張る。その表情を見た咲間は短く「……そうか」と言う。咲間は加茂達は無理やり相馬の命令に聞いてるのかと思っていたが、そうではないと知り加茂達にも強い怒りを持つ。知り合ったばかりだが雪斗は努力家で他人を気遣えるいい子だから、いじめられる原因は無いと咲間は思う。

「あの、咲間さんの目の怪我の跡……って……」

咲間は左目の切り傷の跡を触り、「弟を守ろうとして、な」と悲しげに言った。雪斗は咲間の弟はこの世にいないことに表情で気付く。自分なんかより悲しい過去があるのに、咲間がああして前を向いていられることが凄いなと雪斗は思う。

咲間も湯舟に浸かろうとした時、雪斗の両目に咲間の背中が映った。咲間の肩甲骨辺りは灰色の石のようになっている。

「あ、」

「大丈夫だ。別にすぐ昇天するわけじゃない。だから、そんな顔するな」

咲間は大丈夫だと言うが、雪斗は全然大丈夫ではないことに気づいていた。死へのタイムリミットがあるのに大丈夫なわけがない。咲間もあの灰になり彼岸花が咲く想像したら、雪斗の目からポロリと一粒の涙が流れた。

「僕なんかを庇ったせいでごめんなさい」

「雪斗、自分をなんかとか言うな。まだ自覚ないだろうが、俺より強くなれる才能を持っているんだから」

自身がそんなにすごい才能を持っていると言われた雪斗はポカンとした。

咲間はザバッと立ち上がり、「先出てるな」と言い浴室から出ていく。浴室の扉の前でピタッと立ち止まり、咲間は「ごめんよりありがとうの方がいい」と言い残す。ガラッと扉を開け浴室を出ていく咲間の背中をジッと見つめた。

謝るのはもう止めようと雪斗は決める。いつまでもメソメソしていても、起こってしまった事は変わらない。なら、先が良くなるよう考え動くのが大事だと雪斗は決心をする。


この時雪斗はなんか一瞬身体が暖かくなった気がしたが、それはお風呂に浸かっているからだと思った。



先に湯船から上がった咲間はソファーに座りボーと天井を見つめている。雪斗に大丈夫だと言いはしたが、何も大丈夫ではないから。

「はあ……」

後自分はどれくらい隊長としていられるかや、雪斗を守っていけるかと咲間は不安がどんどん押し寄せて来る。咲間がどんどん嫌な考えになってきた時、突如ピンポーンとインターホンが鳴った。

「はい」と咲間が出ると、インターホンから「開けろ」と影浦の声が。

咲間は頭を拭いていたタオルを首に掛け、玄関に行きドアを開けた。ドアの向こうには腕を組み仁王立ちした影浦が、ドアを開けた咲間を睨んでいる。

「えと、影さん?なんでここに?」

任務を任せたはずの影浦が般若のような顔をしていることに咲間は嫌な予感がした。影浦は咲間が壱盤隊の隊長をする前から副隊長を勤めている。だから咲間のことをよく知っていた……だからこそ、咲間が夜喰の攻撃を受け怪我をした事が信じられない。

「夜喰も減って俺がいなくても平気だから来たんだよ!肩のやつ説明しろ!!」

「あー……はい」

咲間は影浦を家に招き入れ、客間でお茶の入ったコップを渡す。貰ったお茶を一口飲んだ影浦が「説明」と口を開く。

咲間もお茶をゴクッと飲み、「ふう」と軽く息を吐き説明を始めた。

「相馬のせいであの場に飛ばされた弟子を庇い灰化になりました」

「……お前が庇うほどの……いや、何でもない。失言だ」

咲間は浴室の方に視線を向け、「影さん、あいつは……雪斗は俺より才能が溢れているんです」と言った。影浦は黙ったまま、ジッと目の前にいる咲間を見つめる。

「訓練を見てこいつは将来俺より立派な壱盤隊の隊長になるって分かったんです」

「だから何だ!俺はそのガキを知らない!俺は、お前のほうが……っ」

影浦は悲痛な声で話している。こうして話して何か変わるわけでは無いのは影浦はちゃんと理解していた。でも、理解はできても咲間が死ぬことに納得ができてるわけでない。

「影さん、そんなすぐ昇天じゃないですよ」と軽く笑い影浦を励ますように咲間は言う。いや、自分自身に言い聞かせているのだ。

「長い奴でも三ヶ月、短い奴は一か月で昇天すんのがすぐじゃないだと?!」

影浦の声はどんどん大きくなっていき、浴室にいる雪斗の所まで届いていた。全てが聞こえていたわけではないが、雪斗は咲間の残り時間が短いと知ってしまう。

「声抑えて下さい。三か月は持たせますよ。……やるべきことがあるので」

影浦は「……ちっ!」と舌打ちをして立ち上がった。「え?影さん?!」と咲間の声を無視しそのままドスドスと玄関の方まで歩いて行く。浴室から出てきた雪斗と影浦は遭遇。雪斗をギッと人睨みし影浦は咲間の家から出ていった。

睨まれた雪斗は怒鳴られると思っていたのに、何も言われなかった。それが逆に雪斗の罪悪感を強くした。

影浦の後を追った咲間は雪斗が浴室から出てきたのを知り、「もしかして、聞こえていたか?」と咲間は小さくためらうように問いかけた。

「……はい」





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