不思議な金魚
「隊長、ちなちゃん達と遊んでくれる人はあの人です?」と千夏は雪斗の背中を指さし言った。
「俺達よりおっきいです」
「ああ、あいつだ。会田雪斗だ」
宮木は咲間が戻って来たのに気づく。咲間の足に引っ付いている双子を見て、宮木はゲッと嫌な顔をした。双子はいい反応をくれる宮木によくいたずらをする。だから、宮木は双子が目に入った瞬間嫌な顔をしたのだ。
「「みゃーきだ!!」」
「出た、いたずらツインズ……」と宮木はボソッと苦虫を嚙み潰したような声で呟く。
雪斗は後ろから幼い子どもの声がし振り返ると、顔がそっくりな双子が目に入った。何でこんな幼い子達が八咫烏の制服を着て、咲間と一緒にいるのか雪斗は不思議に思う。
振り返った雪斗の顔が見えた千夏は、「美形です!!」と言い雪斗の方に走って行く。
「え?」
千夏は雪斗が戸惑っているのを無視し、雪斗の足にギュッと抱き着いた。千夏に抱き着かれた雪斗は、どうすればいいのか咲間に視線で助けを求める。
「お、さっそく懐かれたな。今、雪斗に抱き着いてんのが千夏でこっちのが千尋な」
いや、自己紹介の前にこの子どうにかして?!と雪斗は瞬時に思った。
千夏はニパッと笑い「雪くん、ちなちゃんのことはちなちゃんって呼んでです!」と明るく言う。続いて千尋も「俺、千尋です!ちなちゃんの兄です!」と元気に自己紹介をした。
「あ、うん。よろしく……えと、ちなちゃん?離れてくれるかな?」
他人が苦手である雪斗は早く千夏が足から離れてくれないかなと思った。千夏も美少女だが、幼い子に抱き着かれても雪斗はドキッとはしない。
「嫌です!」
離れるのを拒否した千夏を咲間は首根っこ掴み、「今は離れろ」と引きはがした。唇を尖らせ千夏は不服なのを態度に現した。でも咲間はそれを気にせず喜馬を見る。
「で、訓練は?」
「結界は試験絵に有利ですが、一瞬しか張れないとのるとあまり役に立てないと判断し、式神を増やすのも並行してやったのですが……」とチラッと雪斗の頭の上に喜馬は視線を向けた。
喜馬の言葉でやっと雪斗の頭の上をふよふよと浮いている、三匹の淡く光っている金魚に気付いた。
雪斗は生き物が好きなので、チラチラ見て内心喜んでいる。
三匹の金魚は真っ白の土佐錦、コメット、デメキン。そのどれもが普通の金魚と違い美しさが半端ない。
「小さい生き物とはいえ複数の式神を同時に権限させるとは……末恐ろしいな」
「咲間隊長、この金魚は普通の金魚ではないんです!!」と、喜馬と咲間の会話に宮木は興奮気味に割り込む。その興奮状態を見た事情を知らない咲間は、何でこんなただ光っている金魚なんかに興奮しているのか理解不能だった。
「はあ??」
ただの金魚なんかに興奮する宮木を咲間と双子は戦闘の役に立たないのにと内心呆れていた。戦闘の役には立たないが、式神の複数同時顕現をさせた雪斗に双子は強い関心を寄せる。
「あのですね!小生物系の式神だから役に立たないと私も風虎さん思っていたんですが、そんなことなかったんです!」
「会田君、さっきやったの見せてあげて」
指示をされた雪斗は「小雪、ルキ、クロ」と呼ぶと、金魚が不思議な能力を使い始める。
真っ白の土佐錦が小雪、コメットがルキ、そしてデメキンがクロという名前を雪斗は付けた。
急に舞い散り始めた雪に「わあ!!雪です!!」と双子がキャッキャ喜び触ろうとする。すると、喜馬が「触るな!」と強く静止を掛けた。
雪がヒラヒラと舞い木に当たると、木はにし雪が当たった所からビキビキという音を立て凍ってしまった。双子と咲間はその光景に目を奪われ啞然となる。
「この雪は真っ白の土佐錦の能力です」
喜馬は雪の能力は小雪が使った能力だと説明し、視線を雪斗に向け次をさせる。
雪が消えたかと思うと、この場にいる全員がふわふわと浮き始める。雪斗、宮木、喜馬はこれがコメットのルキが能力を使い浮かせているのを知っているから驚きはしない。でもそれを知らない双子に咲間は再び態勢が少し崩れ驚く。風がヒューと吹き流されそうになると、木の影から黒い鞭のようなものが全員の足に巻き付きこの場に留まらせる。
咲間は木の影から伸びてきたのを避けようとしたが、コメットのルキに浮かせられているせいで避けられなかった。
「浮かせているのがコメットで、足に巻き付いているのがデメキンの能力なんですよ!」
宮木の説明を聞いた咲間は雪斗に「さすが雪斗だな!」と大声で褒める。褒められた雪斗は照れて顔が赤くなったのを隠すように地面を見た。
ルキは能力を解き全員を地面に戻す。クロも地面に足がしっかり着いたのを確認をするとパッと影を消した。
「さすがちなちゃんの旦那さまです!!」と千夏は雪斗が旦那でもないのに、旦那さま発言をし顔をキラキラさせる。
それを聞いた雪斗はぽかーんとなり、慌てて「僕ちなちゃんの旦那じゃないよ!」と否定をした。
「そうです!雪君は俺の妻です!」
千尋までも雪斗は男なのに妻発言をし雪斗を戸惑わせる。今まで年下の子と関わる機会の無かった雪斗はこの場をどうするか分からずオロオロとしていた。
「はいはい。それは後にして訓練だ」
手をパンパン!と叩き、緩くなった空気を咲間は軌道修正をした。このままの空気だと訓練どうこうではなくなってしまう恐れがあるから。
「隊長!雪くんが遊んでくれる違のです?!」と千夏が咲間に抗議をする。さっき咲間から雪斗が遊び相手と聞いていたから。
「千尋と千夏は雪斗と鬼ごっこだ」
「鬼ごっこ?」
何で訓練で幼い子と鬼ごっこをするのか雪斗は分からなく首を傾げる。双子は雪斗と鬼ごっこができると分かり、顔を見合わせてキャッキャと喜ぶ。
「ただ!霊力の使用ありだ。人を傷付ける能力以外なら何でもありの鬼ごっこで、鬼役が雪斗な」
霊力使用ありの鬼ごっこと聞き、雪斗は四体の式神がごっそり霊力が必要だから不安に思った。金魚達は霊力の好みで拒否をしたりしていたので、今まで顕現されなかった。しかも式神は普通の式札と違い、霊力を使う量がかなり変わる。だから式神達の能力を連発して使うのは不可能。
「それだとちひ君とちなちゃん不利です!」
「お前ら幼くても雪斗より隊員歴長いだろ。これくらいが丁度いい」
千尋と千夏の使用する武器は小型銃で、幼くても持てるように特注で作られている特別性。銃は雪斗を怪我させてしまうかもしれないから、今回の鬼ごっこで双子は使用が出来ない。双子はブーブー言いながら、霊力を足に纏わせ逃げる鬼役の雪斗から準備をする。
喜馬は雪斗のためにこそっとアドバイスをした。雪斗が双子に勝てる可能性が低いことを分かっていたから。
「制限時間は三十分だ。雪斗、双子を二回タッチすること」
咲間の合図で双子はちりじりに、木をすいすいと避け逃げる。霊力を足に纏っているから双子は大人より少しだけ速いスピードで雪斗から逃げて行く。
その光景を見た雪斗は「はやっ」と呟き、ハッとし双子を追いかける。
暗転結界内の端に双子は行き、別々の木の上に隠れた。隠れた木は大人の背を大きく超えている木なので、簡単には双子を雪斗が見つけることは出来ない。
ゼーハーと息を乱しながら雪斗が探してるのを双子は木の上から見て笑っていた。
「ハー、ハア、上から二人がどこにいるか探して」と式神達に命令をする。
このままでは三十分以内に触ることが出来ないと判断し、式神達に上から探して貰うことにした。自分より幼い双子を捕まえられないのは悔しいから雪斗は頭を使う。能力を使わなければ、霊力もそんなに使用しないから体力も余り減らない。
それを見ていた双子は地面に降り、雪斗から距離を取る。
「いた!」
双子が木の上からスタッと降りてきたのを見た雪斗はやっぱり木の上にいたと思った。
双子は目線を合わせコクリと頷きあい、別々の方向に逃げる。
「え?!」とまさか双子が別々に逃げると思わなかった雪斗は驚き声が出た。雪斗は双子なんだし逃げる方向も一緒だろうと、安易な考えをしていたというわけである。
「鬼さん、こっちですー!」
「鬼さーん、こっちらです~!」
雪斗は別々の方向から煽られて少しムカッとし、千尋から捕まえることにした。さすがに女の子から捕まえに行くのは、千夏に可哀想かなという雪斗の配慮だ。とういうか、千尋の方がかなり煽っているように感じたから、雪斗は千尋から狙うことにしただけである。
雪斗もまだまだ子どもなので、煽られたらムキになるくらいはする。
「絶対捕まえる」
雪斗は千尋を追いかけるが距離は一向に縮まらない所か距離が広がっていく。それを遠くで見ていた咲間が、大声で「必要な個所に霊力を纏わせろ」とアドバイスをした。
咲間のアドバイス通りに足に霊力を纏わしたが、雪斗の走るスピードは変わらず首を傾げる。ちゃんと足に纏わせたのに早く走れないのは何でだろうと雪斗は不思議に思う。
宮木は雪斗が悩んでるのを感じ、腕に力こぶを作りヒントを出す。だが雪斗はそれを見て尚更分からなくなりテンパる。
「速く走るには足全体に霊力を纏わせる……」
宮木が力こぶを作ったから、もしかしたらと筋肉に纏わせるイメージをした。すると、雪斗はビュンッとスピード出て一気に千尋の背後に追いつく。
一気に近づいてきた雪斗に気付いた千尋が「え?!」と驚きの声を出し転びそうになる。
「捕まえた!」
態勢を崩し千尋の隙ができたのを雪斗は見逃さず、腕を伸ばし背中にタッチをした。
「むー!!隊長が口出しするからですー!!」と頬を膨らませ千尋は咲間に怒りを向ける。そんな千尋を気にせず、「残り二十分」と咲間は淡々とタイムリミットを告げた。
雪斗は次に千夏を見つける為、小雪を除いた式神達を空から千夏の捜索を命令した。小雪以外なのは、千尋を監視しどこにいるか分かるようにする為。
「ちなちゃーーん!!雪君そっち行ったですー!」
千尋も幼いが八咫烏で訓練をしていたので作戦を立てることはできる。大人のような緻密な作戦を練ることは無理だが。
大声で千夏に向かっていることをバラされた雪斗は立ち止まり、懐から気配消しの式札を取り出す。雪斗はこれは鬼ごっこというより、隠れ鬼だと思っていた。だって自分が逃げる側だったら、鬼から隠れ逃げるからと雪斗は気配消しを「隠」と唱え発動させながら思う。
気配消しの式札を使ったことにより千夏は雪斗がどこにいるのか分からなくなり、音で気配を探ることにした。ただ千夏は細かく霊力を操るのを苦手だから、顔をくしゃっとして耳に霊力を頑張って集める。
「……あー!もう!」
耳に霊力を集めるのにイライラして千夏は不機嫌な声を自然と出してしまう。
雪斗はにっこりと「捕まえた」と、木の上に隠れていた千夏の肩をポンと優しくタッチをする。千夏が細かい霊力を操るのを苦労している隙に、雪斗の式神が空から見つけていたのだ。
タッチをされた千夏はまさかこんなに早く自分を見つけるとは思わず、雪斗の顔を見てポカンとしてしまう。雪斗は気にせず千夏をそのままにして、千尋がいるところに向かう。
一連の流れを見ていた咲間達は、雪斗が勝つか双子か勝つか話していた。
「喜馬、始まる前雪斗に何を言ったんだ?」
「んー、がむしゃらに追いかけるだけでは勝てないからね、とだけですよ」
喜馬は千尋を二回目のタッチしている雪斗を見て、ボソッと「末恐ろしいな」と呟く。ついこないだまで普通の高校生だった雪斗がしっかり作戦を立てているのは異常だから。でも雪斗は不登校だったので、暇で一日中戦闘ゲームをしていたから図らずも鍛えられていたのだ。雪斗からすると楽しく遊んでいただけだが。
式札のような才はゲームには無かったが、集中力は他人よりあった雪斗は戦闘ゲームにのめり込んでいた。
「雪斗君、普通に戦闘スキルもあるとかすごいですね」
宮木はほぉと雪斗の作戦に関心をしていた。身体の動かし方はまだまだだが、一般の隊員と同じくらい作戦を立てられるのはすごい。
「あれなら阿組に入れてもなんとかやっていけそうですね」
「それは、阿組副組長としての言葉か?」
喜馬は一瞬の沈黙の後に「はい」と答える。実は阿組に入れても問題ないかのテストを雪斗は極秘にされていた。咲間は幾ら弟子でも優遇をするつもりはない。雪斗の保護者である前に咲間は壱盤隊の隊長だから、厳しく所属を決めることが必要だから。




