渦巻く思惑
咲間が矢が飛んできた方向に走り向かうと、そこにいたのは佐々木だった。
「お前が矢を飛ばしてきたのか?」
咲間は弓を持った佐々木を睨んだ。幾ら子どもとはいえ、雪斗が危険にさらされたから咲間は怒っている。
「す、すみません!!私、弓の訓練をしていて……」
「こんな所でか?」
「は、はい」
佐々木は訓練のていにすれば逃れられると高を括ったが、咲間にはそんな嘘は通用しない。「弓道場があるのに何でここで訓練をする?人が来るかもしれないこの林で弓をやる奴はいない」と淡々と佐々木を詰め寄る。
「弓道場は人が多かったので人のいない所で訓練したくて……まさか、矢が飛んで行っちゃった方に人がいるなんて思わなくて……グスッ」
佐々木はウソ泣きをすれば大人は許してくれると思いウソ泣きをし始めた。佐々木は蝶よ花よと育てられ、周りにも可愛いや美少女と言われていた。だから、美少女の自分が泣けば許されると勘違いをしている。だが、咲間は可愛いとかそういう感覚に鈍いから、佐々木のウソ泣きに騙されはしなかった。
「で?本当の理由は?」
「本当の理由なんか、グスッ、ないです」
「はー……名前は?それと所属も答えろ」
「佐々木優奈、隊員見習いです」と佐々木が言うと、咲間は顔を強張らせた。正隊員試験の妨害ではなく、もしかしたら試験じたいを受けさせられなくするのが目的なのかもしれないと咲間は考える
「もういい、行け」
佐々木は「あ、はい」と返事をして、咲間に軽くぺこりと頭を下げ涙を拭いているフリをしながら走り去っていく。
「……隊員が見習いに手を出すと問題になるから、見習い同士ならただの喧嘩に偽装できるから問題無いとでも思ってそうだな」
深く深呼吸をして、咲間は雪斗達のいるところに戻ることにした。
咲間が雪斗の所に戻ると、「あの、さっきのって……」と雪斗が不安そうな表情をしながら聞く。
「見習い隊員が弓の練習をしていたんだ。林で弓を練習をするなと注意しといたからもう大丈夫だ」
雪斗が安心をさせるように咲間は笑顔で優しく言う。でも、こんなことがこれから試験まで続くだろうと咲間は思った。
「はい」
「結界はどうだ?」
結界の進捗を聞かれた雪斗は咲間から目線をわざとらしく外す。
咲間が佐々木の所にいた時間は二十分程あったのだが、雪斗の結界は少しも成長していなかった。たった二十分だけなのでそんな簡単に結界が張れるようになるわけは無いが。
「喜馬、どうだ?」
「あー……張れるは張れます。でも、一瞬だけですね。一秒も持たず解けますけど」
雪斗はシュンとなって「すみません」と謝る。咲間に褒めて貰いたかったが、失望されるのではないかと思った。
「何で落ち込んでるんだよ。結界は俺も出来ないほど難しいんだからしょうがない」
「隊長の言う通りだよ。一瞬でも張れるのがすごいことなんだ」
雪斗を監視している相馬は成長度合いに内心驚いている。相馬は今まで色んな隊員を見てきたが、こんなにも天才なのは初めて出会った。もしこんな出会いではなければ、相馬は自分の雪斗を弟子にしたかったと思ってしまう。
咲間は今も相馬に監視されているのを分かっているから、「暗転結界を張れ」と喜馬に小さい声で言った。指示を受けた喜馬は小さく頷き赤い色の旧字体で暗転結界と書かれた式札を、「暗転」と呟くと結界がスッと張られる。この暗転結界は結界外にいる者に目の前が一瞬真っ暗になり、人がいなくなった状態の通常の景色を見せ結界の中に入れなくする効果があるのだ。
咲間が喜馬に暗転結界を張らせた理由は、訓練を見せ手の内を晒すと雪斗が試験で不利になるから。
「雪斗、すまない。俺のせいで試験の難易度が上がるかもしれない」
「え?」
「相馬の手の者が試験を確実に妨害する」
雪斗は先ほどのこともありなんとなく理解はしていた。加茂にも再会したから確実に何かしてくると雪斗は思っていたが、相馬にも妨害されるとなると自分が受かるか不安になってくる。
「兄がごめんね」
「喜馬さんは何も悪くありませんよ」
「相馬さんに何かされたら私に教えてね!」と宮木が胸をエッヘンと張り雪斗に言う。雪斗は宮木は相馬より下なのに何でそんなことを言うのか理解出来ていなかった。
「こう見えて宮木は五大名家の直系なんだぞ」
「五大名家ですか?」
「五大名家は八咫烏に昔から仕えていて偉い家なんだよ」と宮木が雪斗に説明すると、雪斗は「え、宮木さんが?」と怪訝な表情をした。宮木は良くも悪くもフレンドリーだからよく五大名家の直系とは見えない。だから、皆一回は宮木が本当に五大名家か?と疑われる。
「何で皆私が五大名家の直系だって疑うんですか……」
宮木は雪斗にさえ、五大名家の直系だと疑われしょんぼりとした。
「宮木はフレンドリーだから五大名家に見えないんだろう」
「そうそう、まおは天真爛漫だからね」
咲間と喜馬は落ち込んだ宮木を励ました。喜馬が宮木をまおと下の名前で呼んだのは幼馴染だからなのと、宮木の兄とも仲が良いから。
「相馬も五大名家だ。だから、こそ宮木に言うといい。俺も出来ることはするが」
「あ、因みに五大名家は本当は六大名家だったんだよ」と復活した宮木が雪斗に教えた。雪斗は減った理由が気になり真剣に聞く。
「え?何で減ったんですか?」
「直系が駆け落ちして、後継ぎがいなくなったからだよ」
「親戚の人が継げばいいんじゃないんですか?」と疑問を雪斗は聞いた。親戚の人が継げば何の問題も無いと思ったから。
「神楽家……その名家だけは分家の者では駄目なんだ。ある一族が式札を生産しているという話は覚えているか?」
「あ、はい」
「式札を生産しているのが六大名家だった神楽家なんだ。直系にしか使えない術で式札の紙その物を作る。その後に神楽の一族皆で文字を書いて式札は完成される。後継ぎが消えたことにより、神楽の当主は式札作成に集中しなくてはならなくなって五大名家になったんだ」
雪斗は「へー」とそんなことがあったんだと咲間の説明を聞きいる。駆け落ちをした神楽家の跡継ぎは何で駆け落ちをしたんだろうと疑問に思う。
「とりあえず、相馬に何かをされたら俺に言いずらかったら宮木に言うといい」
「私がっていうより兄がなんだけど、なんとかしてくれるから!」
「分かりました」
喜馬は雪斗に申し訳なく思っていた。自分の兄がどんどん非道な行いをするのを、間近にいて阻止も出来ないなんてと。そんな喜馬を咲間は「お前は何も悪くない。それは皆分かっている」と励ました。続けて咲間は喜馬に「雪斗の結界の修得はいつ頃になりそうだ?」と聞く。
「そうですね……正直、試験までに使いこなせない可能性の方が高いです」
喜馬は顎に手を持っていき少し考え咲間に正直に話す。
雪斗が喜馬の言葉を聞きシュンとなるのを見た宮木が「一瞬でも張れるのもすごいから落ち込まなくて大丈夫だよ!」と雪斗を励ます。
「でも……」
「雪斗そりゃな結界が使いこなせればいいが、別に使いこなせなくても大丈夫だ。落ち込むより訓練をするぞ」
「……はい」
雪斗は加茂のことを考えた。なんとなくだが雪斗は今回の矢は加茂の仕業なのかもしれないと分かっていた。そこまで雪斗も馬鹿じゃないのでこの前加茂と出会い、さっきあんなことがあれば簡単に結び付く。
「俺はちょっと行くとこあるから、喜馬頼んだぞ」
「はい」
咲間は雪斗の訓練相手を連れて来るため、歩いて壱盤館に向かった。壱盤館は壱盤隊所属の者のみが利用できる建物で、その他の隊も専用の館がある。お昼を過ぎた辺りから館を利用する者が増えて来るから、咲間は目当ての人物達を探しに来たのだ。
「咲間隊長、お疲れ様です!」
「おう、お疲れ。なあ、千尋と千夏見なかったか?」
壱盤隊所属の男性の隊員はげんなりした顔で「いたずらっ子達なら訓練室で騒いでいますよ」と言った。それを見た咲間は苦笑いしながらまた「お疲れ」と部下を労う。
目当ての人物達が壱盤館の訓練室にいると聞き向かってみると、目当ての人物達がいたずらをして騒ぎを起こしていた。
「千尋!千夏!訓練室ではいたずらすんなって言ったろ?」
「だって、遊んでくれないあいつらが悪いです!」
「ただちょっと、あいつらにこちょこちょしただけです!」
咲間の目当ての人物は兄の結城千尋に、千尋の双子の妹千夏だ。この双子はまだ七歳と雪斗よりも子どもなのだが、立派な八咫烏の隊員である。
双子はいたずら好きで壱盤隊の隊員をからかったり、いたずらをする相馬とは違う意味での問題児達だ。
「お前達はまだ幼いから任務が免除されてるけど、他の奴らは忙しいからいたずらはやめるよう言ったよな?」
千尋と千夏は咲間に怒られしょんぼりと「……はいです」と返事をした。落ち込みはしたが双子は子どもなので、少し経つと怒られたのを忘れてまたいたずらをする。それでまた咲間に怒られとループをするのだ。
「今日学校は?」
「「創立記念日で休みです」」
「そうか。遊びたいなら着いてこい」と千尋と千夏を連れて壱盤館から出る。
千尋と千夏は咲間に遊んで貰えると勘違いし、テンションが上がりルンルンと咲間の後ろを歩く。咲間は遊びたいならと言っただけで、決して遊んでやると言っていない。
「隊長、何で林向かってるです?」
外があまり好きではない千夏が林に向かっているのが不満で咲間に聞く。千尋は外で遊ぶのが好きなので、千夏と違い不満が無い。
「お前らの遊び相手がいるからだ」
ここでやっと双子の勘違いが正され、「隊長が遊んでくれるじゃないのです?!」と大きな声を出し驚く。「俺は遊びたいならと言っただけで、遊んでやるとは一言も言ってない」と咲間はあっけらかんと双子に言う。
「俺達だましたです!」
「ちなちゃんを騙してひどいです!」
双子は大人達の使う敬語に何故か憧れ「です」を使えば敬語と思っている。そのせいで喋り方が双子は変わっている。因みに千夏の一人称は私ではなく、ちなちゃんが一人称だ。ちなちゃんが一人称の理由は可愛いからというだけ。
「比較的お前らと歳の近いから楽しいと思うぞ?」
咲間は何としてでも双子に乗り気になって貰わないと困るので、若干騙し気味で喋る。
「誰が遊んでくれるです?」
「優しいです?」
歳が近いと聞いた双子は興奮してきた。八咫烏の隊員は二十歳を越えた大人達ばかりなので、双子は友達が欲しかった。
「優しいし、顔も綺麗だぞ」
顔が綺麗と聞いた千夏が急にテンションを上げ、「隊長!早く行くです!ちひ君も早くです!!」と急かし始めた。
「はいはい」
この時雪斗は自分に起こる事態に身震いをしていた。
双子が大騒動を巻き起こし、雪斗はそれに巻き込まれてしまうから……。




