急襲
「全然水球動いてないぞ。ちゃんとイメージをしろ」
「はい!」
水球が大きく左右に動くようにイメージをすると、雪斗が発動させた水球は大きく左右にゆっくりと移動する。雪斗は注意をされるたびに、アドバイス通りに出来る雪斗はイメージするのが得意なのだろうと咲間は思った。子ども故の想像力の豊かさか、雪斗本来の想像の豊かさなのだろう。
「隊員見習いも任務に同行することが出来る。明後日から任務に連れていく」
「え?まだ、全然戦えないですよ?!」
咲間は試験の為にも雪斗に早めに実践に慣れさせないといけないと判断をする。雪斗は夜喰に殺されかけているから、夜喰を見たら恐怖で動けなくなるかもしれないから。
「大丈夫だ。俺達の戦闘を見学するだけだからな」
「あ、そうなんですね」と戦いはしないことを知った雪斗が安堵した。話しながらも雪斗は水球を維持し、左右に動かしているから成長の進歩が早い。
相馬との話を終えた宮木が庭に戻り、咲間に近づいて小声で先ほどの出来事を伝える。宮木からの報告を聞いた咲間は、相馬が雪斗の試験を妨害する可能性があると思った。
「はあ……まずいな」
「訓練の進み悪いんですか?」
咲間は集中している雪斗を眺めながら「訓練の進みは問題無い。だが、妨害されたら……」と雪斗には聞こえないよう小さく言った。
「……雪斗君の過去には……相馬の分家が関係しています。本人が言いたがらないので、私はここまでしか話せないです」
「今俺達に出来るのは鍛えてやることだけ、か」
咲間は宮木のさっきの言葉を聞き、雪斗の背中にある酷い傷跡は相馬の分家の仕業と分かった。自分も相馬と揉めたが、雪斗も相馬の分家とはいえその一族と関係があるとはと咲間は思う。
心の中で宮木は心の中で、相馬家の人間が一般人に手を出した可能性を上層部へ報告しなければ、と考えた。
八咫烏には五大名家があり、その中に宮木家と相馬家が含まれている。宗主の由羅も五大名家の一つだ。
五大名家は穏健派と強行派に中立派と分かれていて、相馬家は強行派で宮木家は穏健派でよく衝突をする。
「相馬さんのことは兄に報告しておきます」
「頼んだ。阿組に雪斗の訓練を手伝わせるか」
「……もし、雪斗が受かったらどの組に入れるんですか?江組か於組ですか?」と宮木は咲間に聞く。
阿組、江組、於組は壱盤隊のそれぞれの組名である。阿~呂まで組はあるが、し組だけはない。勿論、四盤隊も無い。
四は死をイメージしてしまう為、必ず安全に帰ってくる為に四を使った組も隊も作らないのだ。
「いや、阿組に配属する。阿組の方が雪斗の才能は伸びる」
「確かに……風虎さんもいますしね」
クラオカミは雪斗の足元にいながら、ずっと咲間と宮木の会話をジッと聞いていた。
式神は人の話を理解するほどの能力を持っている。だが、それは式神の虫や鳥以外の話だ。でもクラオカミは特別なので、話の内容をちゃんと理解をしていた。
おもむろに立ち上がった咲間は、家の中に入り雪斗の昼食の準備を始める。時刻は十三時を回っていたので、そろそろ雪斗のお腹も空くだろうと思って。咲間は一応宮木の分までお昼を準備をしてあげている。もし宮木の分だけ昼食を作らなかったら、「何で私の分無いんですか!!」とギャーギャー騒ぐのは容易に想像出来るからだ。
庭に咲間が作ったハンバーグの匂いが漂うと、雪斗のお腹がぐううと鳴る。
黒色のエプロンを付けた咲間がリビングの窓から「雪斗、飯にするから訓練は中断だ」と話しかけた。
「分かりました!」
宮木はクンクンと匂いを嗅ぎ「いい匂~い!勿論私の分もありますよね?」と、キラキラした目で咲間を見る。
「あるから、二人共早く中に入って来い」
雪斗と宮木は庭からリビングに入り、テーブルに並べられたご飯を見て美味しそうだなと感激した。早朝から訓練をしていた雪斗は、練習をすればするほど出来ることが増えていくことが妙な感覚に不思議に思う。もっと出来ることを増やしたくて雪斗は、咲間の作ってくれたハンバーグを「いただきます」と言いバクバクと早食いをする。
「雪斗君、もっとゆっくり食べたら?」
「いえ、もっと訓練したいんです」
「飯食い終わったら、水球を的に当てる練習をする」
雪斗は咲間の訓練は厳しいが、褒めてくれるのが凄く嬉しかった。雪斗が不登校になってから、親からは小言を言われるくらいで褒められることは無かったと思う。
ご飯を食べる手を止めた雪斗は「試験って何するんですか?」と聞く。
「夜喰の最も多くでる地区で三日間夜喰の退治だ」
「しかもその地区は夜が長い地域だから、尚更大変なんだよね」
正隊員試験を過去に受けたのを思い出した宮木は遠い目をする。正隊員試験の会場は深い樹海で行われるので、見通しが悪く夜喰がどこから出てくるか不明で大変なのだ。
「試験をする場所ってどこなんですか?」
「樹海だ。三日間その樹海で行われるから、飯も自分で準備もしなくちゃならない」
「そうそう。試験が始まる前に、三日間分の食料を持って戦闘するから尚更大変」
話しを聞いた雪斗は正隊員試験はかなり過酷なんだと理解したのでもっと訓練をしなくては!と思った。今の雪斗の実力では初日さえ生き残ることも出来ないだろう。しかも、雪斗は妨害をされるから合格する難易度はかなり高いと咲間は思った。
「よし、食い終わったし訓練再開するか」
「はい!お願いします!!」
「着替えてくるからちょっと待ってろ」と咲間は言い残し二階にトントンと足音を立て登っていく。
着替え終わった咲間が「次の訓練は林で行う」と言う。
「え?庭じゃないんですか??」
「次の訓練は庭じゃできないんだ。あ、宮木は喜馬を林に連れて来てくれ」
「了解ですー」と宮木は軽く返事をした。そして、次の雪斗の訓練が何かを察した宮木は雪斗を哀れみの目で見る。次の訓練は今までよりも一番きついのだ。
咲間と雪斗は林に行くために移動をしている。お昼ということもあり人が少し増えてきていた。
新しい道を歩いている雪斗はキョロキョロとめあたらしくしている。
十分ほど歩くと、林に咲間と雪斗は着いた。林は不思議な感じのする木々が沢山生えている。不思議な植物が光を放っていて、林の中でも暗くはない。木と土の匂いがして自然の匂いがするここは心が休まる。
「さて、訓練内容はこの舞い散る葉に水球を当てることだ」
「え?!あの木の葉にですか?!無理ですよ!!」
ヒラヒラ舞い散る葉を見て雪斗は水球を当てるのが難しいのは容易に想像が出来た。葉に当てるなんて軌道を予測も出来ないのに当てるなんて普通はできない。
咲間は「水球」と唱え、ヒラヒラと舞い散る葉にシュパッと貫いた。それを見ていた雪斗は目を大きく見開き驚く。
「どうやって当てたんですか!!」
「まずは、葉がどういう風に落ちるのかを予測する。んで、水球を打つ」
そう言われた雪斗は試しに水球を発動して打った……だが、雪斗の打った水球はノロノロと前に行き木の幹にパシャッと当たり葉にもかすりもしなかった。
「……当たらない」
雪斗は自身が放った水球が木の幹に当たりむっとする。想像ではちゃんと葉に当たっていたのに、何で当たらないんだろうと雪斗は不思議に思った。
「あっははは!」と咲間は雪斗が放ったノロノロの水球を見て大笑いをした。
「咲間さん、笑いすぎですよ!初めてなんだからしょうがないじゃん!!」
「はー、悪い悪い。まず、スピードを上げろ」
「どうやってですか?」
咲間は木の下にドカッと座り、「自分で考えろ」と言い咲間はお昼寝を始める。それをみた雪斗はえ?!教えてくんないの?!と内心驚く。
自分で考えろと言われた雪斗は試行錯誤して水球を放つが、全て葉にかすりもしない。
「何で……」
水球をばかすか放つが雪斗の水球は全然当たりはしない。それを咲間は片目を開け、「まず、スピードをなんとかしろ。当てるのはそれからだ」と雪斗にアドバイスし再び寝る。
「スピードを上げる……今も早いのに?」
雪斗の水球は先ほどよりもスピードが上がり、かなり早くなっていた。
「ヒントは形だ」
咲間は目を閉じたまま雪斗に軽くヒントを出した。雪斗の成長を促すために軽くしかヒントを出さなかったのだ。
「形」と小さく呟き雪斗は考え始める。スピードを上げるためには風の抵抗力を下げなければ早くならない。
雪斗は弾のイメージをし、水球の形を丸から弾の形に徐々に変わっていく。それを見ていた咲間はさすが雪斗だなと思った。咲間の形だというヒントだけで、弾の形の正解にいくとは考えが柔軟な子どもは面白いとほくそ笑む。
弾の形の水球を撃つと、雪斗の放った水球は葉に当たりはしなかったが木の幹が大きくへこむ。
その威力を見た雪斗は「え?!」と驚いた。形を変えただけで、スピードも威力おこんなに変われば驚きもするだろう。
「次は風がどんな風に吹いているか意識して、葉に水球に当たるようにしてみろ」
「分かりました」
風を意識する為に雪斗は一旦水球を解く。水球を解いて目を閉じ風に集中すると、雪斗の耳にサアアという風の音が大きく聴こえた。
目を閉じたまま「そうか……風の流れをよく予むことが大事だったのか」と小さく呟く。
自然と雪斗は人差し指と中指で挟んだ式札を腕ごと前に伸ばし「水球」と唱える。すると、シュパッ!と水球がヒラヒラと落ちていく葉を貫いた。
「やった!成功だ!」
「お、もうちょいかかるかと思ったが案外早かったな。よくやった」
いつの間にか雪斗の横に来ていた咲間が雪斗の頭をガシガシと撫でて褒める。こうやって褒められると雪斗は少しだけだが自分の頑張りを認めるようになってきた。咲間は雪斗に式札のことで教えなかったことがある。それは、自信を持つことだ。自信がある者と無い者では威力もスピードも違う。だから、咲間は雪斗に少しでも自信を持ってもらう為、普段ならしないような褒め方をする。隊員には褒めることはあまりしないが、雪斗の場合は一々褒めてやり自信を増やすのが大事だ。
「次はこれだ」と言い、咲間はヒラヒラ落ちる葉を蛇のように水球が動き何枚も貫いていく。
「凄い!!」
「スピードは落とさず俺がやったみたいにやれ」
「はい!!」
雪斗は先ほどのお手本のように水球を動かすが、一枚目はすんなり当たるのに二枚目からが苦戦をする。
風の流れを深く読むのに集中してか、雪斗の額には大粒の汗が湧き出てきていた。今まですんなりいっていた雪斗も、今回ばかりはイメージをしても二枚目以降が全然当たらない。
一時間も雪斗は挑戦し続けているが、ヒラヒラと落ちる葉の二枚目に水球はかすりもしないでいた。
「咲間さん、ヒント教えて下さい」と助けを懇願する。どうイメージをしてもその通りに水球が動いても当たりはしない。
「今回は自力で頑張れ」
「え?!咲間さん、僕の師匠なのに教えてくれないんですか!」
「何でもかんでも教えるもんじゃねーの」
咲間は地面に座ったまま雪斗にもう一度お手本をして見せた。だが、雪斗はそれを見ても正解が分からず頭を抱える。
その時、宮木が喜馬を連れて林に来た。喜馬が着いたばかりで状況が読み込めず、「会田君、何で頭抱えてるの?」と雪斗に聞く。質問された雪斗はもしかしたら喜馬がヒントだけでもくれるかもしれないと、訓練の内容を話す。
「……雪斗君に抜かされた」と宮木は口を半開きにしたまま固まり、視線を泳がせた。
「なるほどね……。当てるイメージだけでは足りない」
「え?」
ヒントを貰った雪斗は尚更どうすればいいのか分からなくなり再び頭を抱える。宮木も雪斗に何か教えて上げたいと思ってはいたが、自分はもう雪斗よりも式札の使い方は下手くそなので教えられなくなっていた。
雪斗は水球を解き、地面に胡坐をかいて舞い散る葉を観察する。だが、観察はさっきもたくさんしたからあまり意味がないのは雪斗自身も分かっていた。葉の形もイメージをするのが大事なのかと、雪斗は地面に指で葉を描いている時に閃く。クラオカミは少し離れた木の下で気持ちよさそうにお昼寝をしている
「そうか!進む順路もイメージしないといけないのかもしれない!」
バッと雪斗は立ち上がり、式札を持っている右手を伸ばし軌道を細かくイメージし「水球」と唱える。すると雪斗の放った水球は、先ほどの咲間の水球のようにヒラヒラと落ちる葉を四枚貫いた。
「出来た!!!咲間さん!見てましたか?!僕、出来ました!」
普通の子どものようにはしゃぐ雪斗を見て、大人達は安心をした。まだまだ子どもの雪斗があまり喜びを出さないから、大人達は雪斗が無理をしすぎていないか心配をしていたのだ。
「見てた見てた。上出来だ。よし、これで攻撃はマスターしたな」
「え??」
「他の攻撃系の式札それの応用だからこれでマスターしたんだよ」
雪斗は咲間が嘘を言っているのではと思い、喜馬に振り向くと「隊長は噓言って無いよ」とニッコリと笑った。こんな簡単に攻撃系の式札をマスターするとは思わず雪斗は拍子抜けをする。
「多分雪斗君は簡単に進み過ぎて疑っているのかもしれないけど、喜馬さんは壱盤隊阿組の組長だから本当だよ」
「阿組??」
喜馬がよく分かっていない雪斗に「隊の中にも組でいくつか分かれていて、阿~於が壱盤隊なんだ」と言う。続けて宮木が「あいうえお順になっていて、順番が前の方が強い組なんだよ」と説明をした。
「え?じゃあ、本当に僕攻撃系をマスターしたん、ですね」
雪斗はここで初めて自信を付けた。今まで何かを熱中して取り組んだこともなく、すぐ飽きていたのにこんなにも熱中したものはなかった。
「まだ時間に余裕があるから、明日しようと思っていた結界の訓練をするか。喜馬、頼んだ」
「はい。会田君、これが結界の式札ね。結界の式札は他の式札と違い消費が激しいから気をつけてね」
「使い終わるとその式札ってどうなるんですか?」
「こうなる」と言い喜馬は式札を一枚取り出し、風の盾の式札を発動させた。喜馬の持っている式札は効力がなくなり赤い文字がスッと消える。
「文字が消えた」
「文字が消えると式札はただの紙になるってわけだ」
喜馬が雪斗に説明をしていると、矢が雪斗に向かって急速に飛んできた。
「結界!!」と喜馬が結界を展開すると、飛んできた矢は結界にバンッ!!と当たり雪斗に当たりはしなかった。
雪斗は後ろから矢が飛んできていたのも気づいていなかったから、急に後ろからバンッ!!という大きな音が聞こえてビクッとする。
「誰だっ!!」と言い咲間は立ち上がり矢が向かってきた方向に走っていった。




