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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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光の消えたあとで

アストラ・リンクの光が完全に消え、レナトスは深く息を吐いた。

重厚な石壁に囲まれたこの部屋は、魔王である彼が唯一、誰の目も気にせず感情を表に出せる場所だった。

(……任せた、はずだった。)

人間の王子。

理性的で、責任感が強く、何より蓮を大切に思っている男。

だからこそ、託した。

自分が手を出せない領域で、彼女を安全に帰す役目を。


セリオンが意図的に蓮を危険に晒すなど、あり得ないことも理解している。

(それでも、結果はこれだ。)

後悔が、胸の奥を締めつける。


魔族の地へ飛ばされた。

そう聞いた瞬間、胸の奥が冷たく締めつけられた。

理性では「魔族領ならばまだ望みはある」と判断できる。

だが、感情はそれを許さなかった。


 ――もし、怖い思いをしていたら。

 ――もし、独りで泣いていたら。

 ――もし、見つからなかったら。


思考がそこまで及び、レナトスは拳を強く握りしめた。

爪が掌に食い込む痛みが、かろうじて彼を現実につなぎ止める。


「……蓮。」

名前を呼んだ瞬間、声がわずかに震えた。

感情を表に出すまいと、長年培ってきた魔王としての仮面が、一瞬だけ揺らぐ。


アストラリンク越しでは、必死に平静を装ったつもりだった。

セリオンに余計な重圧を与えてはならない。

彼自身が最も責任を感じているはずだからだ。

それでも、抑えきれないものは確かにあった。


「……必ず、見つける。」


誰に誓うでもなく、レナトスはそう言い切ると、外套を羽織った。

私室を出る前、ふと振り返る。

そこには、蓮がよく座っていた椅子がある。

一瞬だけ視線を留め、すぐに踵を返す。

立ち止まっている暇はない。


玉座の間に到着すると、空気が一変した。

魔族たちの視線が一斉に集まるが、レナトスはそれを気に留めない。


「総員、聞け、命令だ。」

低く、しかしよく通る声で告げる。


「現在、我が魔族の領内にて、人間の娘、蓮が行方不明だ。」


その言葉でざわめきが強くなる。この城内で蓮を知らないものはいない。

皆が心配を口々にする。


「事故に巻き込まれた可能性が高い。直ちに捜索を開始せよ。」

 

あくまで、そういうことにする。

人間によって飛ばされたという事実は伏せたままだ。

魔族の中で、彼女は確かに好意的に受け止められていた。

だがそれは、あくまで「例外」だ。

人間に良い感情を抱く者は少ない。

まして、人間の策略で危険な地に放り込まれたと知れれば、

怒りは矛先を誤りかねない。

(……彼女を守るためだ。)


「各地に捜索隊を派遣しろ。森、山、境界付近、すべてだ。痕跡を一つも見逃すな。」


「はっ!」


即座に返る声。

その様子を、玉座の間の柱の影から、険しい表情で見つめていた者がいた。


「兄さん……」

 

呼びかける声には、怒りと悔しさが滲んでいた。

真実を知る数少ない存在として、ユリウスは人間への不信を隠そうともしない。


「私も行く。」


それは願いではなく、決意だった。

「……独断専行はするなよ。」


「分かっているよ。」


短く答え、ユリウスは背を向ける。

その背中からは、蓮を案じる気持ちと、騙されたことへの怒りが混ざり合った感情が、はっきりと伝わってきた。

 

さらに、カイとソラも一歩前に出る。

「俺たちも行きます!」

「蓮を見つけるなら、少しでも人手があった方がいい!」

 

レナトスは一瞬だけ目を閉じ、静かに頷いた。

「……頼む。……必ず、連れ戻してくれ。」


その一言には、魔王としてではなく、一人の男としての本音が込められていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一方その頃――。

蓮は、見知らぬ森の中を一人で歩いていた。

空気が澄んでいる。

木々は高く、枝葉が幾重にも重なり合って、陽光を柔らかく遮っていた。

地面には見たことのない草花が生え、風が吹くたび、ささやくような音を立てる。


「……ほんとに、元の世界じゃないんだよね」

独り言が自然と口をつく。


時間の感覚が、どこか曖昧になる空気。

それでも、無闇に動くのは危険だと分かっていた。


木の根元に、小さな実がなっているのを見つける。

赤紫色で、どこか見覚えがある。

(……これ、食べられるやつだったはず。)


この世界に来てから、教わった知識。

ユウリが話してくれた植物の話。

レナトスの城で見た、保存食。

念のため、数個だけ採集し、布に包む。

空が、ゆっくりと色を変え始めていた。


「……サバイバル力、ほんと上がったよなぁ。」

苦笑しつつも、手は止まらない。

この世界に来てから学んだことが、こんな形で役に立つとは思っていなかった。


日が傾き、森の奥が薄暗くなってくる。

これ以上歩くのは危険だと判断し、蓮は少し開けた場所で足を止めた。

「今日は……ここまで、かな。」


野宿は、初めてではない。

それも、この世界に来てから覚えたことだ。

乾いた枝を集め、火打ち石を取り出す。

何度か失敗しながらも、ようやく火が灯った。


ぱちぱちと、小さな音。

「……できた。」

暖かさに、ほっと息を吐く。

(こういうのも……教わったな。)


「……よかった。」

暖かさに、肩の力が抜ける。

火を見つめながら、自然とあの城での日々が思い出された。

レナトスの低い声。

セリオンの真剣な横顔。

皆の顔が、胸に浮かぶ。

「……ちゃんと、戻れるよね。」


うとうとと、意識が沈みかけた、その時。

自分に言い聞かせるように呟き、蓮は火のそばで身を横たえた。

疲労と安心感が重なり、意識がゆっくりと沈んでいく。


そのとき。

低い唸り声が、闇の向こうから聞こえた。


「……え?」

はっと目を開ける。

炎の向こう、木々の間に複数の影が揺れていた。

狼に似ているが、どこか違う。

体は一回り大きく、目が異様に光っている。


「……うそ、でしょ」

喉がひくりと鳴る。

手元を探るが、あるのは木の枝と小石だけ。

(まずい……)


護身術はある。だが、それは人相手の話だ。

獣の群れを相手にして通用するものではない。

 

唸り声が近づく。

一歩、また一歩と、確実に距離が縮まっていく。

逃げるべきか、立ち向かうべきか。

判断する間もなく、一匹が前に出た。


「……っ!」

息を呑んだ、その瞬間。

影が一斉に動いた。


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