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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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面会の日

蓮の額の傷は、少しずつ癒えていた。まだガーゼは取れないが日常生活を送るのに問題はなくなっていた。

それでも、その日の夜――聖職者エセルテ・ルナドとの面会を翌日に控えた夜は、なかなか寝付けなかった。


(ついに、か……)


天井を見つめながら、ゆっくりと息を吐く。

相手は、魔族に強い忌避感を持つことで知られる聖職者。しかも、サラの親戚。

面倒で、厄介で、曲者なのは間違いない。


(……なるようになるしか、ないよね。)


腹をくくるしかない。

元の世界に還ると決めて、この場所に来たのは、自分自身なのだから。


翌朝。

蓮はいつもより早く目を覚まし、身支度を整えた。

動きはまだ慎重だが、歩調はしっかりしている。

鏡に映る自分の顔を見つめ、深く息を吸った。


「……大丈夫。」


小さくそう呟く。


別邸の応接間で待っていたセリオンは、そんな蓮の様子を一目見て、何も言わずに頷いた。

彼自身もまた、内心では気を引き締めていた。


今回の面会は、極めて慎重に進めなければならない。

秘密裏に動く以上、護衛としてリードを同行させることはできない。

蓮が異世界から来たことは、誰にも知られてはいけない。


(……こちらの出方次第、か)


面会の内容によっては、その場で交渉を切り上げることも想定している。


それでも、蓮にとって、今日が一つの分岐点であることは間違いなかった。


馬車は人目を避けるように裏道を進み、静かな一角にある小さな礼拝堂の前で止まった。

石造りの建物は質素だが、どこか近寄りがたい雰囲気を放っている。


「……ここが?」


蓮が小さく呟くと、セリオンは短く答えた。

「ああ。中でもう待ってるだろう。」


この場所は、エセルテ・ルナドの思想そのものを表しているようだった。

魔を排し、清浄を尊ぶ。極端なほどに。


礼拝堂の奥に設けられた応接室は、驚くほど簡素だった。

白い石壁に、長机と椅子が三脚。

余計な装飾は一切なく、清浄さだけが強く意識された空間だ。

 

先に腰を下ろしていた男、聖職者エセルテ・ルナドは、二人が入室すると静かに立ち上がった。

「お久しぶりです、セリオン殿下。」

深々とした礼。形式としては完璧だが、どこか距離を測るような間がある。


「エセルテ・ルナド殿。本日は時間を取ってくれて感謝する。」

「ええ。……そして」  

視線が、次に蓮へと向けられる。

「……そちらが?」


「こちらは、アムレーナだ。今回の面会の当事者でもある。」


エセルテは一瞬、蓮をじっと観察した。しかし露骨にならぬように。


「……あなたが。」

小さく、意味深な声を漏らす。

「思っていたよりも、ずっと普通のお嬢さんだ。」


蓮は、内心で身構えながらも、表情を崩さなかった。

「はじめまして。今日はお時間をいただき、ありがとうございます。」


丁寧な礼。

それに、エセルテは満足そうに頷いた。


「……聞いていたより、礼儀正しい方のようだ。」

 

蓮は内心で思う。 (やっぱり、サラさんから聞いてる……)

 

セリオンが話を引き取った。

「本日の面会は、顔合わせが主だ。この者を“還したい”。その意思確認のために来た。」

 

はっきりとした言い切り。

回りくどさはない。


エセルテは椅子に腰を下ろし、指を組んだ。

「ええ。私も、そのつもりでおります。」


その言葉に、蓮は思わず瞬きをする。


エセルテは淡々と続けた。

「異界より来た存在。さぞ帰還を望んでいることでしょう。そして、殿下も強くそれを願っていると。

困っている方が助けを求める以上、手を貸さないわけがありません。」


視線が、再び蓮へ向けられる。

「アムレーナ。確認ですが、あなたは、この世界ではなく元の世界で生きたいのですよね?」


試すような問いではない。

逃げ道も、含みもない、まっすぐな質問だった。


蓮は背筋を伸ばし、正面から答えた。

「帰りたいです。」

即答だった。

その答えにセリオンは誰にも分からないように、奥歯をかむ。


「元の世界に、大切なものがあります。」  

一瞬だけ、言葉を選び、それでも続ける。

「……ここで出会った人たちも、大切です。だから、すごく悩んだんですが。」


エセルテは黙って聞いていた。

遮らず、眉も動かさない。

「還るべきだと思っています。」  

最後は、静かな声だった。

 

しばらくの沈黙。

 

やがて、エセルテはゆっくりと息を吐いた。

「……なるほど」  

そして、小さく頷く。

「あなたが“自分の意思で”そう言うなら、問題はありません。」


蓮の胸が、わずかに軽くなる。


「ですので」  

エセルテは姿勢を正す。

「私としては、条件はすでに整っていると判断しています。本日の確認事項は、ただ一つ。」

指を一本立てる。


「具体的な日程のみです。」

 淡々と、しかし明確に。


蓮は思わず、セリオンを見る。

(……思ったより、スムーズに進んでいる。)


セリオンもまた、わずかに目を細めた。

「では最短でお願いしたい。」  


「承知しました。」  

エセルテは懐から書面を取り出す。

「最短で――七日後に、本儀式が可能です。」


その数字に、蓮は小さく息を呑んだ。

(……本当に、近い)


「問題ありません。」  

セリオンは即座に答えた。

「その日程で進めよう。」


エセルテは満足そうに頷いた。

「では、その日までに準備を整えておきましょう。」


立ち上がり、蓮へと向き直る。

「アムレーナ」  

穏やかな声。


「あなたは、還るべき場所へ還ります。それは、聖なる理に反しません。」

その言葉は、許可であり、宣告だった。


「……ありがとうございます。」  

蓮は深く頭を下げた。


礼拝堂を出た後。

外の空気は、思った以上に澄んでいた。


「……なんか」  

蓮がぽつりと言う。

「拍子抜けするくらい、ちゃんと話が進んだね。」


「ああ、それこそ予想外だった。」  

セリオンは淡々と答える。


「うん。」  

蓮は小さく頷く。


不安が消えたわけではない。

けれど、道筋がはっきり見えた。

それだけで、胸の奥にあった霧が、少し晴れた気がしていた。


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