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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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離したくない

午後の議題は、第二皇子ルシアンの提案した「交流所」設立についての具体的な検討に移った。

各地の物流、監視の配置、人間と魔族の立ち入り制限――重苦しい空気の中にも、わずかな希望の光が差すような議論が続いた。


蓮はただ静かに、隣で意見を交わす彼らを見つめていた。

それがこの国にとって、どんな意味を持つのか——まだすべてを理解しているわけではない。

けれど、目の前で未来を語る彼らの姿には、どこか希望のような光が差していた。


結論こそ出なかったが、誰もが感じていた。

あの一言がなければ、この会談は血の匂いで終わっていたかもしれないと。


やがて夕刻、会議は一旦の閉会を迎える。

空には薄紅が溶け、夜の帳がゆっくりと降りていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


その夜。

蓮はひとり、自室のバルコニーから庭を見下ろしていた。


「……蓮」

振り返ると、レナトスがいた。

その眼差しは柔らかく、昼の厳しい表情とはまるで違っていた。


「今日も、無理をさせたな。」


「大丈夫です。……皆さん、真剣でした。見ていて少し胸が熱くなりました。」


蓮がそう微笑むと、レナトスの目がわずかに細まった。

ほんの少し近づき、彼は低く囁く。


「ここで、昼のことを考えていたのか?」

「はい。あの交流所のことを。」


蓮が答えると、レナトスはゆるく頷く。

その目には、どこか遠くを見つめるような光があった。


「人間の中にも、あのように“魔族の視点”を考える者がいるとは思わなかった。

 ――少し、嬉しかったのだ。」


レナトスの声が、夜風に溶ける。

その響きには、長く続いた戦いの果てに見た、わずかな希望のような温度があった。


「第二皇子の護衛から報告を受けている。

 昨日、お前が彼と話したそうだな。……その会話が、彼に勇気を与えたのだろう。」


蓮は驚きに目を見開いた。

まさか、そんなところまで伝わっていたとは思っていなかった。


「私はただ……彼の中に迷いが見えたから。戦いを望まないなら、それを言葉にしてもいい、と伝えただけです。」

「それで充分だ。」

レナトスはやわらかく笑う。

「お前の言葉は、戦を止めかけた。剣よりも強い力だ。」


「……蓮がいると不思議と全てがうまく回り出す。

 停滞していた歯車が、おまえの一言で動き出すように——

 気づけば、俺の世界までも整っていく。まるで、長い冬に差す春の光のようだ。」


「そんな……私なんて、何もできていません。」


「できていない、と思うのはおまえの優しさだ。だが——」


言葉の途中で、レナトスは彼女の頬に触れた。

指先がかすかに震えているのが伝わる。

蓮は驚いて息を呑んだが、拒むことはできなかった。


「——俺は、おまえに救われている。」


その一言に、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。

沈黙の中、ふたりの距離がわずかに縮まる。


蓮は少し顔を伏せ、静かに息を吐いた。

「……レナトス。私、思ったの。

 もし本当に交流所を作るなら、人間側の代表にはルシアン殿下がふさわしいと。

 そして――私も、そこへ行って、人と魔をつなぐ手伝いができるのではないかと。」


その言葉に、レナトスの瞳が一瞬だけ強く揺れた。

風が止み、静寂が落ちる。


「……お前が、ガランに?」

「はい。戦を止められるなら、怖くはありません。」


レナトスは何も言わず、蓮を見つめた。

その視線の奥は、王としての理性と、ひとりの男としての感情がせめぎ合っていた。


やがて、彼は小さく息を吐き、低く囁いた。

「……蓮、抱きしめたい。」


その声は、かすかに震えていた。

次の瞬間、レナトスの腕が蓮を強く抱きしめる。


蓮は驚きつつも、彼の胸に腕を回した。

肩越しに見えるレナトスの瞳――琥珀と藍が混じる光が、揺らめくように切ない。


「レナトス……どうしたの?」

「分からない。ただ……こうしていないと、落ち着かない。」


蓮はそっと彼の背を撫でる。

大きな体の奥で、鼓動がわずかに早く打っているのが伝わった。


「私は蓮と片時も離れたくない。放したくない。

 だが――未来を考えるなら、お前がガランへ行くべきだとも分かっている。

 王としては、そう決断すべきなのだろう。」


レナトスは目を閉じ、深く息を吐く。

そして、胸の奥に隠していた想いを絞り出すように言った。


「……それでも、私は誰にもお前を取られたくないのだ。」


蓮は目を見張り、ゆっくりと顔を上げる。

レナトスの頬に指を伸ばし、静かに囁いた。


「……大丈夫です。私は、どこにいても陛下の隣にいます。」


その言葉に、レナトスの表情がわずかに緩む。

彼は蓮の額に口づけ、静かに囁いた。


「ならば……もう少し、このままでいさせてくれ。」


夜は静かに、更けていく。

ふたりの間に流れる温度だけが、確かにそこにあった。

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