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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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音が一つ減った城で

エリアスが去ってからのフォルトゥナ城は、どこか音が一つ減ったようだった。


人の数が変わったわけではない。

日常も、仕事も、会話も、何一つ止まっていない。

それでも、廊下を抜ける風の通り方や、夕暮れの庭に落ちる影の濃さが、ほんのわずかに違って感じられる。


カイは、その違和感を意識しないようにしていた。

正直に言えば、胸を撫で下ろした部分もある。

蓮のすぐ隣に立つ存在がいなくなったことに、安堵している自分がいた。

だが同時に、蓮の様子が気にかかって仕方がなかった。


笑ってはいる。

普段通りに話もする。

けれど、ふとした瞬間に視線が遠くへ向かうのを、カイは見逃さなかった。


(……行くか。)

理由をつけるほどのことでもない。

気づけば足は庭へ向いていた。

城の庭は、相変わらず手入れが行き届いている。

その一角で、蓮はしゃがみ込み、土に触れていた。

小さな苗を植え替えているらしく、指先が土で汚れている。


「……よ!」

声をかけると、蓮は顔を上げて目を瞬かせた。

「あ、カイ。どうしたの?」

「いや……特に用ってほどじゃないけど。」

カイは近くまで歩み寄り、彼女の手元を見る。


「今日はソラはいないのか?」

「うん。友達と城下町に行ってるよ。」

「そうか。」

それだけの会話のあと、沈黙が落ちた。

気まずい、というほどではない。

だが、言葉が自然に続かない。


風が庭の木々を揺らし、葉擦れの音が二人の間を満たす。

カイは意を決したように、視線を逸らしたまま言った。

「……エリアスが行ってからさ。ちょっと元気ないように見えた。」

蓮の手が、一瞬だけ止まる。

「寂しいか?」

直球だった。

自分でもそう思う。

けれど、回りくどく聞けるほど器用ではなかった。


蓮は苦笑いを浮かべ、土のついた手を軽く払った。

「うん。そうだね。寂しいよ。」

その答えが、胸に小さく刺さった。

予想していたはずなのに、実際に言葉にされると、痛みがある。

蓮は続ける。


「それにさ、十日後にはカイも、ミュリエルも、みんなガランに行っちゃうでしょ?」

「ああ……」

インキュバスとサキュバスたちは、当初の予定通り、ガランへ移住する。

人間と魔族が共に生きる街を築くための、大事な役割だ。


「みんながいなくなるからさ。」

蓮は苗を植え終え、ゆっくりと立ち上がった。

「私も、旅に出ようかなって思ってるんだ。」

「……は?」

思わず声が出た。


蓮は慌てて付け加える。

「レナトスは絶対反対すると思うから、まだ言ってないけどね。」

カイは言葉を失ったまま、彼女を見る。

「私、何の運命か分からないけど……ガランにも行ったし、アストリア国にも行ったし、エルフの森にも行ったでしょ?」

蓮は指折り数えながら、穏やかに続ける。


「そこでね、知らなかったことを、たくさん知れたと思うんだ。でも同時に、まだまだ知らないことの方が多いって思った。」

彼女の声は、静かだが揺らぎがない。


「魔族と人間が一緒に生きていくなら、ここで生活しているだけじゃ足りない気がして。世界を自分の目で見て、ちゃんと知るべきなんじゃないかなって。」

少し間を置いて、蓮は肩をすくめた。

「……まあ、ちょっと格好つけすぎかもしれないけど。」

冗談めかした笑顔。

だが、その奥にある真剣さを、カイははっきりと感じ取っていた。


(……そんなことまで、考えてたのか。)

蓮は、一見ただ守られる存在だと思われがちだ。

危なっかしくて、放っておけなくて。

だが、思い返すと何か大きな変化が起きる時、いつも彼女が最初に行動を起こしていた。

今も、彼女は魔族の未来や人間との在り方を、自分なりに考えている。

胸が、ざわつく。


「……レナトスには、内緒だよ?」

「……ああ。」

「カイなら分かってくれると思って、つい先に話しちゃった。」

そう言って、蓮は庭の奥へ戻っていった。


一人残されたカイは、しばらくその場を動けなかった。

頭の中が、ひどくうるさい。

エリアスの不在。

ガランで待つ、新しい生活。

そして――

蓮が行動を起こそうとし、理解者として旅立ちのことを誰よりも早く話してくれたこと。


その夜。

自室に戻ったカイは、灯りもつけずにベッドに腰を下ろした。


(……どうする?)


守りたい、側にいたい気持ちは、変わらない。

だが、縛るつもりはない。

彼女が進もうとする道を、否定したくもない。

拳を握りしめる。


(中途半端は、嫌だ。)


自分の立場。

自分の覚悟。

何を選び、何を捨てるのか。

カイは、静かに息を吐いた。

彼は一つの決断を下したのだった。


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