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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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揺れる居場所

アストラ・リンクの光が完全に消え、静寂が戻った部屋の一室で、セリオンは深く息を吐いた。

「……ふう。」

無意識に肩の力が抜ける。

椅子に身を預け、天井を仰いだ。

 

生きていることは、手紙で知っていた。

だが、それと実際に見ることとは、まるで違う。


リンク越しとはいえ、確かにそこに立つ蓮の姿。

穏やかな表情。軽やかな声。

傷もなく、怯えもなく、生き生きとしていた。


(……それで、十分だ。)

 

胸の奥に溜まっていた何かが、静かに溶けていくのを感じる。

これ以上を望めば、それはきっと欲になる。

 

セリオンの隣で、ルシアンはまだ光があった名残を見

つめたまま

「兄上……」

小さな声で呼びかける。


「もう、蓮とは……会えないのですかね。」

しょげたような声色。

感情を隠そうともしない、弟らしい問いだった。

 

セリオンはゆっくりと体を起こし、ルシアンを見る。

「……そこまで望むな。」

静かだが、はっきりとした声。

「彼女が、あの城で、平穏に生きている。それだけでいい。」

 

ルシアンは一瞬、言葉を失う。

「でも……兄上……」


「俺のせいで蓮は命を脅かされた。」

それ以上でも、それ以下でもないというように、セリオンは淡々と言った。

「彼女の安全と幸福を優先する。それだけだ。」

 

その言葉に、ルシアンは何も返せなかった。

ただ、胸の内で思う。

(……兄上は、本当にそう思っているだろう。)

 

けれど。

(それでも僕より、蓮に会えないことが、ずっと辛いはずなのに。)

 

兄の背中は、相変わらず大きく、遠かった。


翌日。

蓮は、久しぶりにフォルトゥナ城の日常へと戻っていた。

高い天井。

柔らかな光が差し込む回廊。

行き交う魔族たちの穏やかな挨拶。

変わらない景色。

 

けれど、一つだけ、以前とは違う点があった。

「……やっぱり、広いな。」

隣を歩きながら、エリアスがぽつりと呟く。

「そう?」

蓮は楽しそうに笑う。

「私はもう、ここにいるのが当たり前みたいになっちゃってるから。」

エリアスは苦笑した。

 

本来なら、森に戻るつもりだった。

そう伝えたとき、蓮だけでなく、城の者たちが一斉に引き止めた。

――命の恩人です。

――せめて少しの間でも。

――どうか、ゆっくりしていってください。

その熱意に、エリアスは根負けした形だった。

こうして、しばらくの間、フォルトゥナ城で生活を共にすることになった。

 

初日は、蓮と行動を共にする。

城の庭で土に触れ、植物の手入れを手伝い。

街の学校へ向かい、子どもたちと一緒に基礎的な学びを受けてみて、懐かしさを感じる。

午後には、護身術の訓練場で、共に実践をしてみる。


「へえ……こんな風に蓮は過ごしてきたんだな。」

「楽しいでしょ?」

そんな会話を交わしながら、自然と周囲との距離も縮まっていった。

 

ソラは好奇心旺盛に話しかけ、

エリアスの森の話に目を輝かせる。

カイも、最初は距離を保っていたが、次第に会話に加わるようになった。


が。

内心は、穏やかではなかった。

(……分かっている。)

エリアスは、蓮を救った恩人だ。

感謝すべき存在だということも、頭では理解している。

 

それでも。

並んで歩く二人。

気取らず笑い合う様子。


(俺の方が、先に……仲良くなったのに。)

そんな感情が、胸の奥に芽生えてしまう。

気づいた瞬間、自己嫌悪が押し寄せる。

(最低だな……。)

 

誰も悪くない。

それなのに、独占欲のような感情が消えない。

「あーあ……」

思わず、声が漏れた。


「なーにー?」

軽やかな声と共に、ミュリエルがやって来る。

楽しそうに、からかうような笑顔だ。

「蓮が戻ったのに、そんなため息ついてるなんて。」


「……別に。」

カイはそっけなく返す。

ミュリエルは肩をすくめた。

「あんた、ちゃんと蓮と話しておかないと。」

「は?」

「もう二週間後には、私たちガランに移住するのよ?」


その言葉が、胸に突き刺さった。

「今みたいに、毎日会えるわけじゃなくなるんだから。」

カイは言葉を失う。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

 

最初は、ミュリエルに言われたから。

ただ、それだけで蓮に近づいた。

 

だが、今は違う。

(……離れたくない。)

そう思っている自分が、確かにいる。

それを自覚してしまった瞬間、余計に苦しくなる。

 

魔王レナトスの、無言の牽制。

ユリウスの鋭い視線。

そして、エリアスの存在。

 


自分の居場所が、少しずつ揺らいでいる気がして。

頭の中が、ぐちゃぐちゃだった。

 

そんなカイの様子を、少し離れた場所から、蓮は見ていた。

(……カイ、どうしたんだろ。)

だが、今は声をかけるタイミングを測りかねている。

 

フォルトゥナ城の空は、今日も穏やかだ。

けれど、それぞれの胸の内では、小さな波が立ち始めていた。


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