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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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王である前に

応接室の空気は、いつの間にか少しだけ緩んでいた。


質問は途切れがちになり、誰かが用意したお茶に手を伸ばし、ソラは名残惜しそうに蓮の隣に寄っている。

話し続けていれば、まだいくらでも語れる。

けれど、長旅の疲れが滲み始めているのも、皆が感じ取っていた。


「……そろそろ、解散にしよう。」

静かにそう告げたのは、レナトスだった。

誰も反論しない。

安堵と疲労が、ようやく形になって現れ始めていた。


「今日は、よく話してくれた。皆も、持ち場へ戻って休め。」


ソラは名残惜しそうにしながらも、カイに促されて立ち上がる。

ミレーヌは蓮の手をぎゅっと握り、「本当に……」と言いかけて、言葉を飲み込んだ。


そんな中で、蓮はふと、視線を落とした。


机の木目を見つめながら、思い出す。

あの街の人たち。

名前を呼んでくれた声。

心配そうに見送ってくれた背中。


「あ……」


小さく漏れた声に、ユリウスが最初に気づいた。


「どうしました?」


「ううん、大したことじゃないんだけど。」


蓮は少し首を傾げてから、困ったように笑った。


「アストリアの人たちにも、戻ったって伝えたいなって思って。きっと、心配してたと思うし……」


それは、本当に何気ない一言だった。

帰ってきたから、思い出した。

それだけの、当たり前の感情。


レナトスは、ほんのわずかに視線を逸らした。

そして、何でもないことのように言う。


「直接会わずとも、連絡は取れる。アストラ・リンクを使えば、すぐだ。」


「アストラ・リンク?」

蓮は首を傾げた。


「星の力を媒介にした遠隔通信の術式だ。安全で、確実だ。」

声は落ち着いている。あまりにも自然で、違和感がない。


「明日、こちらで準備を整える。今夜は、長旅の疲れを取ることを優先しなさい。」


その言葉に、ユリウスだけが気づいた。

ほんの一瞬、兄の横顔を見て、苦笑する。


(直接会わせる気は、ないな。)


「分かった。じゃあ、明日お願いします。」

蓮は素直に頷いた。


その返事に、レナトスの肩の力が、わずかに抜けたように見えた。

こうして、応接室での集まりは終わった。


蓮の部屋は以前与えられた部屋だった。

広すぎず、落ち着いた色調。

窓からは城内の灯りが見え、遠くで風の音がする。


「……戻ってきたんだ。」


小さく呟き、ベッドに腰を下ろす。

体は疲れているはずなのに、頭は冴えていた。


その時、控えめなノックが響く。

「……入ってもいいか?」


聞き慣れた声。

蓮はすぐに立ち上がり、扉を開けた。


「レナトス?」


部屋に入った彼は、扉を閉めると、そのまま動かなかった。


何かを探すような視線。

言葉が見つからないような沈黙。

そして次の瞬間。

強く、蓮を抱きしめた。


「……っ。」


息が詰まるほどの力。

だが、痛くはない。

震えているのが、はっきり分かった。


「……心配した。」

低く、抑えた声。

しかし、先ほどとは違い、感情を隠さない。


「戻らない可能性を、何度も考えた。考えないようにしても、頭から離れなかった。」


蓮は驚いたまま、しばらく動けなかった。

そして、そっと腕を回す。


「ごめんね。でも、ちゃんと帰ってきたよ。」


その言葉に、レナトスの腕に、さらに力がこもる。

「……あぁ。」


それだけで、しばらく離れなかった。

やがて、少し落ち着いたのか、レナトスは距離を取る。

だが、視線は外せない。


「……今夜、一緒にいてもいいか。」


問いかけは、ひどく静かだった。

拒まれる可能性を、ちゃんと含んだ声。


蓮は一瞬考えてから、微笑んだ。

「うん。」


それだけで十分だった。

ベッドに一緒に入り、お互いどのように過ごしてきたか、話をする。


アストリアでの生活。

貴族のフリをしていたこと。

勉強が辛かったこと。

庭師のお手伝いをしたこと。

体術を学んだこと。

儀式のこと。

エルフの森で見た空の色。

弓の扱い方。


レナトスは自分の話す番になると、言葉は少なく、間も多い。


だが、沈黙は重くなかった。

やがて、蓮の声が途切れ、呼吸が整っていく。

眠った。


レナトスは、その寝顔をしばらく見つめていた。

指先で、そっと髪に触れる。

「……よく、帰ってきてくれた。」


誰にも聞かれないように、囁く。

そのまま、蓮を抱いた腕を緩めることはなかった。

夜が明けるまで。

朝の光が差し込むまで。

失うかもしれなかったものを、確かめるように。


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