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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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フォルトゥナ城への帰還

三日目。

朝の仕込みが始まる頃、蓮は店主に呼び止められた。


「今日は、配膳の順序を任せる。」


一瞬、聞き返しそうになって、蓮は言葉を飲み込む。

「……はい。」


客の入りは読めない。

魔族の街特有の、不規則な流れ。

武装した者、商談帰りの者、短気な者。


間違えれば、怒鳴られる。皿を投げられる。

最悪、ケガをしてもおかしくない。


それでも、蓮は客席を見渡した。


(大丈夫。今まで、ちゃんと見てきた。)


誰が先に料理を受け取るべきか。

どの卓が急いでいるか。

どの客が苛立ちやすいか。


視線と動きで判断する。

迷えば一拍だけ止まり、すぐ次へ。


「次、右奥。」


厨房に短く伝え、皿を受け取る。


「遅れるな。」


低い声が飛ぶ。

だが、昨日までのような棘はない。


蓮は頷き、無言で客席へ出た。


「……まぁいいだろう。」


小さな呟き。

褒め言葉ではない。

だが、拒絶でもなかった。


昼時のピーク。

一瞬、配膳が詰まりかける。


「蓮。」


店主の声がかかる。


「先に三番、次に二番だ。」


即座に理解し、動く。


「失礼します。」


声は落ち着いていた。

手も震えない。


皿を置き、空いた器を回収し、次へ。

客と目を合わせすぎない。

だが、無視もしない。


ただ、仕事をする。


一人の客が、無言で通路を塞いだ。


通れない。


蓮は一瞬だけ足を止め、低く頭を下げた。


「恐れ入ります。」


それだけ言って、待つ。


舌打ちが一つ。

それでも、客は道を空けた。


エリアスは、その様子を遠くから見ていた。



昼の忙しさが引いていく。

最後の皿を下げ終えた時、蓮はようやく息を吐いた。


厨房から、店主が出てくる。


「……使えないわけじゃなかったな。」


それは、蓮にとってこの街での最大限の評価だった。



仕事を終えた夜。

宿の部屋で、蓮は深く息を吐いた。


「あ~、怖かった。」


「ふっ、だろうな。」


「でも……ここまで来たんだって、実感した。」


エリアスは何も言わなかった。

だが、その背中を見る目は、以前よりも静かだった。


それから先の街や村でも、同じだった。


人間はいない、魔族が増える。

働くことは簡単ではない。


それでも蓮は、諦めなかった。


また、エリアスも“待つ側”に留まらなくなった。

力仕事。

護衛の代行。

道具の修繕。

頼まれれば応じ、必要とあらば引き受ける。


理由はいつも同じだ。

「待っている時間が勿体ない。」


だが、それだけではなかった。

働くことで、見えるものが増えた。


街の流れ。

商人の駆け引き。

暮らしの重さ。

森では知り得なかった世界が、蓮という人間が、少しずつ輪郭を持っていく。


(……人間は、脆い。)


同時に、しぶとい。


壊れやすいのに、何度でも立て直す。

守る力は弱いのに、続ける意志は強い。


エリアスは、なぜ魔王や人間が蓮をのために動くのか、少しだけ分かった気がした。


そして旅は、終わりへ近づいていく。


街道の先に、白い影が見えた日。

それは最初、雲の切れ間のように見えた。


だが、近づくにつれ、それが“城”だと分かる。

高い城壁。 陽光を受けて、淡く輝く石造り。


「……あ、あれ。」

蓮の声が、かすかに震えた。


「フォルトゥナ城だ。」

エリアスはそう告げた。


街道は次第に整備されていく。

行き交う馬車。

正装の使者。

城下へ向かう魔族の波。


森の静けさとは、まるで別の世界だ。


城の正門前に立った時、蓮は、思わず足を止めた。


「……もうすぐゴールだね。」


「あぁ。」

短い答え。


だが、その一言に、これまでの時間が詰まっていた。


エリアスは、ふと視線を逸らし、城壁を見上げる。


(ここから先は、俺の役目の外だ。)


そう思ったはずなのに、胸の奥がわずかにざわついた。


蓮は、城を見つめたまま、深く息を吸う。


森を出て。

働いて。

歩いて。

選び続けて。


ここまで来た。


「……ありがとう、エリアス。」

彼女の声は、以前よりも、確かだった。


エリアスは一瞬だけ黙り、それから言った。

「礼は要らない。」


それでも。

城門の前に立つ彼女の背中を見ながら、彼は思う。


(この旅で、広がったのは蓮だけじゃない。)


世界は、思っていたよりも広く。

そして、自分は、思っていたよりも外を知ってしまった。


城門の前で、門番達は二人を制止した。

形式的な動きの、はずだった。


だが、蓮の顔を見た瞬間、門番の動きが止まる。


「……まさか。」


視線が、信じられないものを見るように揺れた。

蓮を、もう一度。

その隣に立つエリアスを、確認する。


「ただいま。覚えているかな。」


「れ、……」


名前を呼びかけかけて、門番は言葉を飲み込んだ。

代わりに、深く息を吸う。


「……失礼いたしました。」


それは、門を守る者の態度ではなかった。

一段、重みのある声。


「少々、お待ちください。」


蓮が何か言う前に、門番は踵を返した。

歩調は早い。

決して走ってはいないが、明らかに“急いでいる”。


城門の内側へ消えていく背中を、蓮は懐かしさと共に見送った。


「……知り合いか?」


エリアスが小さくそう聞くと、蓮は答えた。


「この城のみ~んな、知っているよ。」


蓮は、胸の奥がきゅっと縮むのを感じた。

帰ってきた。

その言葉が、静かに胸にしみわたる。


城の奥で、何かが動き始めている気配がした。


それは迷いのない反応だった。

城は、答えを知っていた。


フォルトゥナ城は、

彼女の帰還を、ずっと待っていたのだから。



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