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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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待つ者から、並ぶ者へ

数日後。

街道を進むにつれ、周囲の景色が少しずつ変わり始めた。


人影が減る。

代わりに増えたのは、角や翼、異形の影を持つ者たちだった。


建物の造りも、人間の街とは違う。

石は荒く、装飾は少なく、実用性だけを突き詰めたような無骨さがある。


「……ここ、今までと違うね。」


蓮の声は、自然と小さくなった。


「魔族の街だ。」

エリアスは淡々と言う。

「フォルトゥナ城に近づいている証拠でもある。」


行き交う者たちの視線が、蓮に向く。

好奇の色はない。

あるのは警戒と、明確な線引き。


人間。


それだけで距離を置かれる空気だった。


宿と食堂が並ぶ一角に辿り着いた時。

蓮は少し迷ってから、口を開いた。


「……エリアス。ここでも、少し……働けるかな?」


彼は彼女を見た。

一瞬、返答に間があった。


「またか。」


「“また”だね。」

蓮は苦笑しつつも、視線を逸らさない。

前回のような遠慮はなかった。


「……覚悟はあるか?」


「うん。」

短いが、迷いのない返事だった。


店に入ると、空気はさらに冷たくなった。

店主と思しき魔族は、蓮を見るなり眉をひそめる。


「人間は雇わない。」

即答だった。


「短期間でも?」

蓮は食い下がる。


「なおさらだ。信用できない。」

視線が、まるで厄介事を見るようだった。


その時、エリアスが一歩前に出た。

「彼女の責任は、俺が持つ。」


店内の空気が、ぴたりと止まる。


「……そっちの兄さんはエルフか。」


店主の声色が変わった。

完全な好意ではないが、無視できない存在としての認識。


「三日だけだ。」

エリアスは続ける。

「問題が起きたら、俺が対処する。」


沈黙の後、店主は短く息を吐いた。


「……皿洗いと配膳だけだ。失敗は許さない。」


「ありがとうございます。」

蓮は深く頭を下げた。


だが、仕事は今までとは明らかに違った。


言葉は荒く、指示は雑。

少しの遅れにも、容赦なく声が飛ぶ。


「遅い。」

「無駄な動きが多い。」

「人間は要領が悪いな。」


冷たい言葉が、何度も向けられる。

それでも蓮は、手を止めなかった。


皿を洗い、運び、覚え、次は失敗しないよう工夫する。

指摘されたことを、ひとつずつ飲み込んでいく。


エリアスは、店の隅でその様子を見ていた。


(……折れないな。)


人間の街での「優しさ」とは違う。

ここには、甘さが一切ない。


それでも蓮は、逃げなかった。


二日目の昼時。

店内が最も忙しくなる時間帯。


蓮が配膳に出ると、露骨に視線を逸らす客がいた。


「……人間かよ。」


小さく、だがはっきり聞こえる声。


別の席では、置いた皿に手もつけず、舌打ちをされる。

注文を告げる声も短く、刺すようだった。


「触るな。」

「余計なことをするな。」


言葉は少ないが、拒絶の意思だけは明確だった。


蓮は一瞬だけ、指先を強く握る。

だが、俯かなかった。


「失礼しました。」


そう言って皿を下げ、次の卓へ向かう。

動きは、崩れない。


エリアスは、客席の端でその様子を見ていた。


(……限界だ。)


立ち上がりかけた、その時。


「お待たせしました。」


蓮の声が、少しだけ強く響いた。


冷たくされた客の前でも、態度を変えない。

過剰にへりくだらず、かといって挑発もしない。


ただ、淡々と“仕事”をする。


「……料理、冷める前にどうぞ。」


それだけ言って、蓮は背を向けた。


客は何も言わなかった。

だが、しばらくして、皿は空になっていた。


エリアスは、驚いていた。


助けを求める視線は、一度もこちらに向かなかった。

耐えたのではない。

受け止めて、流したのだ。


(……そういう乗り越え方か)


自分なら、力で排除していた。

言葉で黙らせていた。


だが彼女は、違う。

人間として、この場所に立ち続けた。


その時だった。


「……あんた、暇そうだな。」


店主の何気ない一言が、彼を現実に引き戻した。


「待ってるだけだろ?どうだ、手伝わないか?

あんたなら、見た目がいいから、配膳係にピッタリなんだが。」


エリアスは返事をしなかった。

代わりに、蓮のほうを見る。


忙しそうに立ち回る背中。

真剣な横顔。

自分が座っている間も、彼女は動き続けている。


「……俺は前に出るのが好きじゃない。裏で、手伝えることはあるか?」

自分の口から出た言葉に、エリアス自身が一瞬、驚いた。


「お、やる?」

店主は笑った。


こうして、エリアスは“待つ側”から、一歩外れた。

「倉庫の荷が多くてな。人手が足りないんだ。」


「案内してくれ。」


倉庫は狭く、埃っぽかった。

木箱を積み替え、数を数え、荷札を揃える。

単純な作業だが、体は動かす。


(……妙だ。)


エリアスは、自分の内側に生じた違和感を自覚していた。


仕事は慣れている。

森から出て、様々な村で警備、訓練、討伐などを請け負ってきた。

だが、これはどれとも違う。


命のやり取りもない。

責任の重圧もない。

ただ、人の生活を支える一部になるだけだ。


汗をかき、埃にまみれ、作業を終える。

それだけのことなのに、胸の奥に、奇妙な静けさが残った。


「助かったよ!」


店主の言葉に、エリアスは短く頷いた。


その日の夜。

宿の部屋で、蓮が不思議そうに彼を見た。


「エリアス、今日……一緒に働いてたよね?」


「あぁ。」


「どうして?」


彼は少し考えてから答えた。


「……そういう気分だったから。」


蓮は一瞬きょとんとし、それから、くすっと笑った。

「なんだか、変な感じ。」


「何がだ。時間ももったいないだろ。」


「ふふ、保護者じゃなく、仲間って感じがするね。」


エリアスは何も言わなかった。

だが、その夜、眠りに落ちるまで、妙に目が冴えていた。



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