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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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見えない旅路

布で目を覆われたまま、蓮はエリアスの背で揺られていた。

足音は一定で、森を進んでいる時と変わらないように思えたが、やがて、違う音が混じり始める。


硬い地面を踏む感触。

靴底が石を擦る音。

どこかで金属が触れ合う、軽い響き。


(……森、抜けた?)


だが、問いかける前に、周囲がざわめいた。


人の声。

言葉ははっきり聞き取れないが、数が多い。

笑い声、呼びかける声、荷車の軋む音。

鼻先をくすぐるのは、木の匂いではなく、火と食べ物の匂いだった。


「……街?」

「小さな宿場だ。」


短く答えて、エリアスは歩みを止めない。

人の気配が近づいても、誰も声をかけてこない。

視線だけが、一瞬、こちらに向けられる気配。


再び、音が遠ざかる。

また土の道。

また風と草の音。


それが一度きりではないことに、蓮はすぐ気づいた。


次に聞こえたのは、水音だった。

川に架かる橋を渡る音。

その向こうで、鍛冶の槌が鳴る。


さらにその先では、家畜の鳴き声。

朝市のような、活気あるざわめき。


(……いくつも通ってる。)


目隠しをしたままでも分かる。

森から直接城へ向かっているのではない。

意図的に、遠回りをしている。



「……これ、全部…」

「分からなくするためだ。」


遮るように、エリアスが言った。

「距離も、方角も。」


蓮はそれ以上、何も言わなかった。

音だけで世界を感じるこの時間が、不思議と嫌ではなかった。


どれほど歩いたのだろうか。

空気が変わる。

湿り気が減り、風が乾く。


最初の夜は、宿だった。


「……着いた。」


低く告げられ、戸が閉まる音がする。

外の気配が完全に遮断されたのを確認してから、エリアスは布を外した。


「目、慣らせ。」


薄暗い部屋だった。

小さな窓、簡素な寝台、木の匂い。

どこにでもある、街道沿いの宿。


「ここでは外していい。明け方には、またつける。」


「……分かった。」


それだけの会話。

だが、布を外した瞬間、蓮は自分でも驚くほどほっとしていた。


夜の間、窓の外から人の声が聞こえた。

酔客の笑い声、子どもを叱る声。

確かに、どこかの街だ。


翌朝、再び目隠し。

宿を出る音、馬のいななき、荷車の軋み。

人の往来がある場所を、何度も通り過ぎる。


昼過ぎには、村。

夕方にも、また別の村。


そのたびに、音だけが蓮に残された。


二日目の夜は、野営だった。


「今日は、ここだ。」


風の音が強い。

焚き火のぱちぱちという音。

人の気配は、ない。


布が外されると、夜空いっぱいに星が広がっていた。

森よりも、ずっと冷たい空。


「……静かだね。」


「街道から外れている。」


簡単な食事を済ませ、焚き火のそばで眠る。


三日目。

また宿。

また村。

また街。


目隠しをしているからこそ、分かることがあった。

人の多さ、文明の濃さ、その土地の匂い。


そして、四日目の朝。


「……ここから先は、外していい。」


布が外される。


そこは、小さな村だった。

だが、今までと違う。

人間の街だ。


石の道、煉瓦の家、井戸。

エルフの集落とは、まるで違う景色。


「……フォルトゥナ城の近く?」

「いや、まだだ。だが、ここは、どこからでも来れる場所なんだ。」


蓮は、深く息を吸った。


目隠しを外した世界は、少し眩しかった。

けれど、不安はない。


森は、もう見えない。

だが、数日分の時間と距離が、それを“ちゃんと遠くに”してくれていた。


「ありがとう、エリアス。」

「……礼は、要らない。」


そう言って、彼は少しだけ視線を逸らした。


「無事に着けば、それでいい。」


蓮は頷き、次の行先の方角を見た。


新しい場所へ向かう足取りは、思っていたよりも、軽かった。

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