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魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!<運命の選択編>  作者: ここば


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語られた召喚

朝食を終え、食器を片付け終えた頃だった。

エリアスが静かに口を開いた。


「……この森に人間が入った以上、長老に報告しないわけにはいかない。」


蓮は箸を置き、背筋を正す。

予想はしていた。むしろ、避けて通れるとは思っていなかった。


「ご迷惑をおかけします……。」


「迷惑かどうかは、長老が決める。」

淡々とした口調だが、拒絶ではない。


リュミエがぱっと顔を上げた。

「じゃあ、私も行く!」


「余計なことは言うなよ。」

釘を刺す兄に、少女は舌を出して笑った。


森の奥へと続く小径を進むにつれ、空気が変わっていくのを蓮は感じていた。

音が、より澄んでいく。

木々の葉擦れさえ、一定の律動を刻んでいるように思える。

(……ここ、森というより……生き物みたい。)


やがて辿り着いたのは、ひときわ大きな古木の前だった。

幹は広く、根は地面を割るように張り巡らされ、その根元に半ば溶け込むように建つ建物がある。


長老の家。

自然石と木で組まれたその建物は、威圧感よりも、圧倒的な「存在感」を放っていた。

ただそこに在るだけで、森の中心だと理解させられる。


扉の前には、数人のエルフが控えていた。

その全員が、驚くほど整った容姿をしている。

(……美男美女しかいない……)

思わずそんな感想が浮かび、蓮は慌てて意識を引き締める。


ここは観光地じゃない。

エリアスが一歩前に出て、静かに名を告げる。

「エリアスです。人間を保護しました。」


扉が、音もなく開いた。

中は外よりも明るかった。

天井近くまで伸びる枝葉の隙間から、柔らかな光が差し込んでいる。

そして、そこにいた人物を見た瞬間、蓮は言葉を失った。


(……え。)

長老と聞いて思い浮かべていた、白髪で皺深い老人の姿は、そこにはなかった。


そこにいたのは、壮年の男性だった。

白銀に近い淡い髪を肩口で束ね、整った顔立ちに刻まれた皺は、老いではなく「重ねた時間」を思わせる。

深い翠の瞳は静かで、しかし底知れぬ光を宿している。


美しい。

それも、ただ整っているという意味ではない。

(……イケオジ……)

場違いな感想が一瞬よぎり、蓮は再び内心で自分を叱る。


「……人間か。」

長老の声は低く、穏やかだった。

だが、その一言だけで、場の空気が引き締まる。

「名を。」


「は、はい。」

蓮は一歩前に出て、深く礼をする。


「蓮と申します。」


「そうか。」

長老は頷き、しばし蓮を見つめた。

その視線は、先ほどまでとは質が違った。


服装でも、態度でもなく、もっと奥。

存在そのものを測られているような感覚。

「……なるほど。」

その一言に、蓮の胸が微かにざわつく。


「この森に自ら入ったわけではない。」


「……はい。」


短いやり取り。

だが、一つ一つが試すようだった。


長老は軽く頷き、次に視線をエリアスへ向ける。

「エリアス。お前が見つけた時、この者はどういう状態だった?」


「夜の森で、獣に囲まれていました。」

簡潔に、事実のみを述べる。


「単独か。」

「はい。武装も、護衛もありませんでした。」


長老の眉が、ほんのわずかに動く。

それだけで、蓮の胸がざわついた。

「……無謀だな。」

それは非難ではなく、評価だった。


「人間が、夜のこの森を一人で歩く理由など、そう多くはない。」

長老は再び蓮を見る。

視線は鋭いが、冷たくはない。


「道に迷った、と言っていたな。」


「……はい。」


「ならば、なぜ焚き火を焚いた?」


蓮は一瞬、言葉に詰まった。

「……獣除けと、体温維持のためです。」


「正解だ。」

即答だった。


「森を知らぬ者の判断ではない。誰かに教わったな。」


胸が、きゅっと縮む。

(……鋭い。)

「……少し……学ぶ機会がありました。」


「……なるほど。」 

長老は、それ以上は追及しなかった。


再び、蓮を見る。

「フォルトゥナ城へ行きたい、と言ったそうだな。」

「はい。」

「理由は?」

「……個人的な事情です。」

「ガランの名も出した。」

「……はい。」

「なぜだ。」

一つ一つ、逃げ道を塞ぐような問い。


蓮は慎重に言葉を選ぶ。

「どちらも……私にとって、戻るための手がかりになる場所だからです。」

嘘ではない。


長老は、しばし沈黙した。

その沈黙が、重い。

「……ふむ。」

椅子に深く腰掛け直し、指先で肘掛けを叩く。

「そなたは、答えているようで、答えていない。」

穏やかだが、はっきりとした指摘。

「嘘はついていない。

だが、本当の理由は伏せている。」


蓮の喉が鳴る。

「それは…」

言いかけて、言葉が止まる。


長老は、その様子を見逃さなかった。

「無理もない。」

声が、少しだけ柔らぐ。

「そなたが、我らに本心を晒す理由はない。

ましてや、魔王が絡むなら尚更だ。」


その一言で、エリアスの目が僅かに見開かれた。

「……やはり、関係しているか。」

蓮は、何も言えなかった。


長老は、ゆっくりと立ち上がる。

そして、周囲のエルフたちに視線を送った。

「ここから先は不要だ。」

その一言で、空気が変わる。

控えていたエルフたちは何も問わず、静かに下がっていった。

扉が閉まり、足音が遠ざかる。


残されたのは、四人だけ。

「……本音で話そう。」

長老の声は低く、しかしはっきりと響いた。

「この森は、嘘を拒む。だが、真実を語る者を、頭ごなしに排することはない。」


エリアスへ視線を向ける。

「エリアス、リュミエ。お前達も知りたいだろう。」

「……はい。」

リュミエも、珍しく何も言わずに頷いた。


そして、長老の視線が、再び蓮へ。

「我らはお前の敵ではない。ここで一度、何があったか話してみなさい。力になれるかもしれない。」

静寂。

蓮は、胸の前で手を強く握りしめた。

逃げ場は、もうない。

ゆっくりと息を吸い、顔を上げる。

「……分かりました。信じていただけないかもしれません。でも……」


一度、言葉を切る。

「私はこの世界の人間ではありません。別の世界から召喚されてきました。召喚したのは、魔王レナトスです。」


その言葉が、静かな室内に落ちる。

誰も、すぐには口を開かなかった。

蓮は意を決し、続ける。


「私は元の世界に戻ることを望み、魔王は了承しました。そしてアストリア王国の皇子に手伝ってもらい、元の世界に戻る儀式を行いました。」

視線を下げ、そして、再び前を見据える。


「ところが……その術者の手によって、ここに飛ばされたようです。私の意思でここに来たわけではありません。」


その瞬間、空気が、確かに変わった。

長老の目が、細くなる。

エリアスの表情が、わずかに強張る。


蓮は続ける。

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