表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!  作者: ここば


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/87

閉ざされた塔に射す光

次の日。

蓮は冷たい石床に背を押しつけられながら、壁や天井へ素早く視線を巡らせる。窓はなく、錠のついた鉄格子と湿った空気だけがある。どこにも脱出の糸口は見えない。壁を叩いて脆いところを探してみたが、どこもびくともしない。仕方なく、この状況で出来ることをひたすら探してみる。


そんな蓮の動きを知ってか知らずか、隣の独房から低い声がした。

「人間が何をしたところで無駄だ。」

その声に続き、複数の気配が小さく唸る。魔族たちだ。敵意が鋭く刺さる。


蓮は深呼吸し、独房越しにゆっくりと言葉を選んだ。

「信じなくて構いません。でも……脱出するまでの間だけでも、力を貸し合えませんか?」


しばらくの沈黙。鉄格子の向こうで誰かが鼻を鳴らした。

「人間と? 冗談じゃない。」

「だが、このまま腐るのも御免だ……」

囁き合う声がやがて静まる。


重苦しい間を経て、ひとりが短く言った。

「……一時だけだ。裏切れば、その時は終わりだ」

「ありがとう。」

蓮は小さくうなずく。


その瞬間、階段の下から規則正しい足音が近づいてきた。

石を叩く硬い靴音が、塔の薄暗い空間に不吉な響きを残す――。


コツン、コツン

収容塔の階段から軋む音と足音が近づき、独房の中が緊張で固まった。


(聞かれてしまった!?)

蓮は胸が跳ねるのを必死に押さえる。

周囲の魔族たちも息をひそめ、石壁越しに殺気を帯びた視線が交錯した。


やがて鉄格子の向こうに、ひょこっと小さな影が現れた。

子ども――昨日、蓮が人間兵の暴力からかばったあの魔族の少年だった。


「お姉さん!」

あどけない声が塔内に響く。

魔族たちが驚きにざわめく中、少年は無邪気に蓮を見つめた。



---


数時間前。

レナトスたちは表情を変えず兵としての仕事をこなしながら、蓮の救出につながる情報を探っていた。

その背後に、小さな足音がそっと近づいてくる。


「お兄さん。」

振り返ったレナトスの視線の先に、昨日の魔族の子が立っていた。

どうやらまた広場から抜け出してきたらしい。


「昨日、僕を助けてくれたお姉さんと一緒にいたよね?お姉さんにお礼を言いたくて来たんだけど。」

レナトスは一瞬だけ目を細め、低く答える。

「蓮のことか。……彼女は、塔に収容された。」


「ええっ……」

少年の顔に不安が広がる。


レナトスはさらに声を落とした。

「その塔について、何か知っていることがあれば教えてくれ。」


「僕はあまり分からないけど……」

少年は小さく唇を噛み、やがて言った。

「もしかしたら、長老様なら知っていたかもしれないけど、塔に幽閉されているし…。その息子さんなら広場にいるけど。」


レナトスは短くうなずく。

「何か知っているかもしれない。案内してくれるか?」


「うん。」


こうして、レナトスたちは魔族が集められている広場へ向かうことになった――。


---


「……無事で良かった!」

鉄格子の前で、助けた少年ソラはホッとしたように立っていた。

驚く蓮の前に、彼は小さな胸を上下させながら言葉を繋ぐ。


「レナトスさんたち、見張りの人と入れ替わって長老の息子さんと話したんだ。やっぱりこの塔のまわりには“魔族避け”の術がかかっていて、中に入るのも出るのも、普通の魔族じゃぜんぜん無理みたい。何度か試したけど、ぜんぶ駄目だったって。」


独房の奥で耳をそばだてていた魔族たちが、息を呑む音が重なる。

「まさかソラが来るとは。」

「魔王様も本当に来ていたのか。」

「魔族避けだって?出られないじゃないか。」

蓮も自然と眉を寄せた。


ソラは小さく拳を握り、続ける。

「だから、みんなを助けるには術をかけた人間の術者を見つけて、その術を解くしか方法がないって。

 それを伝えるために、ぼくがここに来たんだ。」


 蓮は思わず問い返す。

「でも……どうやって来れたの?魔族避けがあるんだよね。」


 ソラは少し視線を落とし、ためらいながら口を開いた。

「ぼく……人間とのハーフなんだ。

 だから魔族ほど強くはないけど、人間ほど普通でもなくて……。

 痛くて苦しいけど、耐えればここまで来られる。

 レナトスさんたちが言ってた。

 “君だけが頼みの綱だ”って」


静かな塔の空気が一瞬揺れる。

独房にいる魔族たちは驚きと戸惑いを隠せず、

その複雑な視線がソラに集まった。


蓮は鉄格子に手を添え、真っすぐ少年を見つめた。

「ソラ……来てくれてありがとう。あなたがいてくれて、本当に助かる。」


その声に、少年は小さくうなずき、

「レナトスさんたちは、人間の術者を見つけるから、お姉さんは、塔の中に術を施してる印とか仕掛けがあるはずだから、それを探してほしいんだって。」


ソラはさらに言葉を続けた。

 「それと、塔に幽閉されてる長老さんに聞いて。ここが元々ぼくら魔族の地だから、何か知ってることがあるかもしれないって。魔族避けの仕組みとか、弱点とか……全部、集めてほしい。」


囚われの魔族たちがざわめく。

蓮は小さく息を整え、ソラに頷いた。

 「……わかった。みなさん聞こえた通りです。長老さんはどちらにいらっしゃいますか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ