表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/35

神の証明

 「待てやぁぁぁぁぁ!!なにしれっと自分は無関係ですみたいな態度とってるんじゃヴォケぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ドアがまたもや蹴破られる。ついにドアは耐えきれず、蝶番が外れ完全に破壊された。


 「うるせぇぇぇぇ!!俺は寝てぇんだぁぁぁ!!」

 「お前のせいで神界追放されてしまったろうがぁぁぁぁ!!責任とれやぁぁぁぁぁ!!」

 「どこに俺が関係する余地があったんだこの自称神の頭おかしい電波女ぁ!!」

 「はぁぁぁぁ???女神なんですけどぉぉぉぉ!?本物なんですけどぉぉぉ!!?」


 男はうんざりしていた。この女は、頭がおかしいだけじゃなく、不死身らしい。面倒なことになった。


 「くそっ……なら神であることを証明してみろよ」

 「は?人間風情下等生物が神であるこの私を試すの?知ってる?そういうのってサタンって言うの。ひれ伏しなさい、私は寛大な女神だから頭を地面に擦りつけ私の足を舐めたら許してあげてもいいわ」


 蹴飛ばした。男は全力でシュブを蹴り飛ばす。蹴られた音とは思えない衝撃音とともに「おぐっ!」とうめき声をあげ蹴り飛ばされたシュブの臓腑は破裂、更にその勢いで部屋の外まで吹き飛び廊下に叩きつけられた。

 男はしまったと後悔する。衝撃で少し揺れる宿。シュブが叩きつけられた壁を見る……建物に損傷はない。


 「よかった、無事だ」


 思わずため息をついて安堵した。騒ぎを起こし宿から追い出されるのはごめんだったからだ。


 「無事じゃないしぃぃぃぃ!?どうしてそういうことするのぉぉぉ??わたし、女神だよ??崇めなさいよぉぉぉぉ!!信仰の心を持ちなさいよぉぉぉぉぉ!!」

 「うわ、もう蘇るのか。ゴキブリみたいな生命力だなお前……。」


 瞬く間にシュブの身体は修復、そして立ち上がりまた男にすがりつく。神界から追放されたとはいえ彼女は女神。並大抵の方法では死なないのだ。


 「わかったよ、わかったわかった。じゃあこうしよう、お前が女神とかいうことを証明できるなら何でも言うこと聞いてやるよ。ほら神様なんだろ?」

 「この下等生物……!何が何でも言うこと聞くよ。そもそもお前は私に召喚されたんだから、そんな約束しなくても言うこと聞くのが当たり前なのに……!」


 しかしこれはチャンスだとシュブは感じた。今、この男は確かに言ったのだ。「何でも言うこと聞く」と。

 それは本人からすると軽い口約束のつもりなのだろうが、神が相手だと話は違う。古来より人々は神々に祈りを託し、生贄や誓約により神々の加護を得てきた。即ち、神々と人との間で交わされる約束とは特別な意味合いを持つのだ。決して破ることのできない魂の契約。

 ほくそ笑む。もしも女神であることを証明できれば、性格こそは最悪だが、この男を自由に……いいやそれどころか、自分の都合の良い奴隷、玩具にだってできる。迂闊な発言を今更後悔してももう遅い。シュブは今から、男に対してしてやりたいことを思うだけで笑みが溢れた。


 「……おい、大丈夫かお前……」


 そんな女神らしからぬ下衆な笑みは当然男にも見えていた。気味が悪くて思わず心配の声をかけた。


 「良いわ、寛大で心優しく、慈愛に満ち溢れた女神の私はその無礼を許しましょう。女神であることの証明?そんなの簡単よ!ほら、見なさい私の姿を!」


 言われるがままに男はシュブを見た。……見たが、だからどうしたというのだ。


 「この醜いみにく~い人カスとは違う美しい肢体!愛らしい顔!女神としか思えないでしょう?証明?私の存在そのものが女神であることの証明なの!わかったかしら下等存在?」


 男は黙り込んだ。どうすれば良いのか本気で悩む。頭がおかしいだけではない。無駄に自信過剰で自分を女神だと疑わない狂った女を、どうすれば良いのか分からなかった。


 「お前の目的は何なんだ?何で俺につきまとう。もう抱かれたいなら早く言ってくれ……乗り気じゃねぇがそれで解放されるなら抱くから……」


 結論としてストーカー女の類ではないかと男は見た。とにかく自分の魅力をずれた方向でアピールし、自分の宿にまで押しかけてきて帰ろうとしない。愛情表現が著しくずれているのだ。そして不幸なことに自分はこの女に惚れられてしまったのだろうと思うしかなかった。


 「目的ぃ?そんなの決まってる!魔王を倒すの!主神より命じられた崇高な……待てよ」


 そう、魔王討伐は主神の大命であった。此度は召喚神であるシュブがその命を担っていたが、別に召喚神でなくてはならないというわけではない。

 では召喚神以外の場合、いかにして魔王を倒すべく戦力を派遣するか……それが主神特権である。一時的に譲渡されたその力で人々が魔王を倒すのをサポートするというのが本来の目的であった。

 そしてもう一つ、神々の加護を与えてしまった結果、制御の効かなくなった人類を罰する装置でもある。そしてその装置を使用する権利は……まだシュブに残っているのではないかと考えた。

 目の前の男を最後の勇者として導くために。


 「主神特権!発動!この下賤で無礼な男に裁きを!!」


 シュブは手を掲げ叫んだ。その瞬間、男の周囲はとてつもない神気で満たされる。そして神気は具象化し、男を貫いた。


 「がぁッッ!!な、なんだこれは……ッ!!」


 神の裁き、大いなる雷である。全身を駆け巡る雷撃に男は悶える。その姿を見てシュブはニンマリと笑みを浮かべた。


 「ぷ……ぷくすすす!!ざ、ざまぁぁぁ!!女神の私に歯向かった愚かさをその身で味わうといいわ!!うひゃひゃひゃ!!」

 「て、てめぇぇ!よくもやりやがったな……ッ!」


 男はシュブを睨みつけ掴みかかろうと手をのばす。


 「主神特権発動!主神特権発動!主神特権発動!主神特権発動!主神特権発動!」

 「ぐぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!」


 だがその手は届くことはなかった!連打される神の裁きをその身に受け、男は瀕死の状態となる!


 「く、くふふ……気持ちいい……!!ほらほら、どうしたの?下等生物ぅ~なぁにが女神であることを証明しろよぉ?所詮は存在としての次元が違うの、おーわーかーり?ざぁこ、ざこざこ!」


 倒れて伏せる男に容赦ない罵倒を浴びせる。しかし男の闘志は消えていなかった。神の雷を受け続け神経はズタズタになりながらも立ち上がる。

 そう、忘れてはならない。彼は英雄と呼ばれるものたちと比肩する実力者!この程度で倒れるのは……英雄ではないのだ!


 「まだ立ち上がるんだ、マジで受ける~徹底的に調教してあげないと分からないかぁ……神に逆らう愚かな存在にはねぇ!主神特権!!」


 その瞬間、シュブの周囲を神気が満たす。シュブの神気ではない。これは先ほどから男を痛めつけている主神の神気。

 「え?」そう呟いた時には既に遅かった。神気は具象化し、シュブの肉体を主神の雷が駆け巡る。情けない悲鳴をあげて、シュブはその場に倒れた。


 「ど、どぼじて……ひ、ひぬぅ……」


 その一撃はシュブに致命的な損傷を与えた。女神である彼女の命を奪うのは困難だ。だが主神の一撃はそれを容易く無視する。もはやその命は風前の灯火だった。

 光が降り注ぐ。先ほど現れたフレイヤという女神が再び降臨してきた。


 「主神特権の濫用は禁じられています。度が過ぎるようですと今のように跳ね返るので、注意してくださいね……」


 それだけ伝えて、また天へと帰っていった。シュブはよろけながら立ち上がり、ふらふらとした足取りで男に近づく。


 「ふ、ふふ……見たか……これが神の証明……お前たち人間なんぞとは比べ物にならないっての思い知ったかぁ……?」

 「マジかよこいつ、まだそこに拘るのかよ……あ、あぁ……分かったよ……確かに今の理解の範疇を超えた一撃……人の技ではないな……しかし、神?ったくそんなもんが実在するなんて思いたくなかったなぁ……」


 男は知っている。数多の戦場を。不条理に傷つく人々を。そして自らの人生の不幸を。神に祈る人々をたくさん見てきた。だがその願いは決して届くことはなかった。だからこそ、神の存在など認めたくはなかったのだ。

 だがしかし……立て続けに起こり続ける不可解な出来事には認めざるを得なかったのだ。神でなくては説明のつかない異常事態。

 そう思った瞬間、男の周囲が淡く光りだした。何事かと男は自らの身体を見る。


 「よっしゃぁぁぁぁぁぁあああ!!言質とったぞおらぁぁぁぁぁ!!お前今日から私の奴隷決定なぁぁぁぁああ!!ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 突然、テンションマックスで叫びだすシュブに男は戸惑いを隠せなかった。

 そう、神々との約束は絶対。男は約束していた。「神だということを証明したら何でも言うことを聞く」と。その契約が今、成立したのだ。


 「よくわからんけど、とりあえずもう明日にしねぇか?あーくそ今の話だと帰る場所もねぇのか?神様ってのが本当なら俺も聞きたいことあるし……ほらよ」


 シュブに男は毛布を投げつけた。


 「しょうがねぇから今日は泊めてやるよ」

 「ふん……下僕の自覚が出てきたのかな?その態度はいずれ改めさせるとして……確かに今夜はもう休むことには賛成ね」


 そう言って毛布を持ち、シュブがベッドで横になろうとしたところを、男は首根っこを掴み止める。


 「いや何、堂々と一つしかないベッドを取ろうとしてんだお前。この宿は俺名義で取ったんだぞ?床で寝ろ床で」

 「え?いや下等存在風情が私を床で寝させるなんてありえて良いと思ってるの?」


 男は無言でシュブを地面に転がしベッドに横になった。


 「こ、この……何でも言うこと聞くんでしょう!ほらそこをどきなさいよ!下等存在は床で寝るのがお似合いなの!!」

 「常識の範囲内でに決まってんだろー」


 シュブの訴えはまるで男には通じなかった。「どーきーなーさーいーよー!」と男を揺らすがまるで反応がない。もう完全に無視を決め込む様子だった。考えてみれば明白だった。そもそも召喚主と被召喚者の関係だというのにまるで命令が通じない。だというのに今更、約束事に強い強制力など発生するはずもないのだ。

 不貞腐れたかのように、シュブは仕方なく毛布に身を包み、横になった。硬い床、柔らかい枕はない。劣悪な環境に、ただただ涙するしかなかった。なぜ女神の自分がこんなことに……と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、レビューなどを頂けると作者の私は大変うれしいです。
更新報告用Twitterアカウントです。たまに作品の内容についても呟きます。
https://twitter.com/WHITEMoca_2
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ