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公開処刑

 「乞食か。悪いがやる金はないぞ」

 「はぁぁぁぁああ!!?よくそんなこと言えますねぇぇぇ!!?そうだよなぁぁぁ!そんなイカレ野郎じゃないと、人の生首ぶっ飛ばした挙げ句、衣服を剥いで、土の中に埋めるなんてできないよなぁぁぁぁぁ!!?」


 男は思い出した。あれは先ほど殺した女だった。


 「何だお前、ゾンビの類だったのか?とりあえず塩まいとくか」


 塩味の干し肉を女にぶつけるが、効果はない。アンデッドには塩と古来から相場で決まっているが、やはりちゃんとした塩でないと効果はないか……と男は後悔した。


 「ゾ、ゾンビ……?よ、よくも神の一柱である私にここまでの無礼を……。とりあえず服!返してください!」


 シュブは女神なので、男の一撃で死んだりはしない。しかし、衣服は神器であり、彼女にとって重要なものだった。衣服を失ったシュブは、慌てて仮の服を作り出した。


 「それなら売ったぞ。良い金になった」

 「……は?う、売った……?か、神の衣服を……?神器を……?ど、どこにですか!早く取り戻さないと!」

 「あっち」


 シュブは走った。男に言われて衣服を売ったという質屋の元へと!


 「おらぁぁぁ!!腐れ人間ども私の服返せやぁぁぁ!!」

 「うわぁぁぁぁ!?なんだこの女!!?突然やってきて何してんだ!!?」


 質屋の商品を店長を無視し漁る。だが見つからない。


 「さ、探しものかよ。嬢ちゃん、今日は店じまいだから明日……」


 物凄い剣幕でやってきたシュブに面食らっていた店長だったが、客であることを察し応対する。外はもう暗く店じまいをするところだったのだ。


 「うるせぇぇぇぇぇ!!人間風情がこの私に指図するんじゃねぇぇぇぇぇ!!あたしの服返せぇぇぇぇ!!」


 しかしそんな理屈はシュブには関係なかった!何が何でも神器を取り戻さなくてはならない。その一心なのだ!


 「店長、そいつ頭おかしいんだ。俺が売った服が見たいんだとよ」


 シュブを追ってやってきた男の言葉に店長はようやくシュブが探し求めていたものが何か分かり、二人を奥へと案内した。


 「良かった……あれがないと私、神界に帰れなくて……本当によかったよぉぉぉ……!」


 涙を流し、安堵するシュブ。流石に男もそんな情けない姿を見せられると少し悪いことをしたのかもしれないと反省した。


 「こんな豚小屋みたいな底辺どもが集る世界なんていたくないよぉ……」


 前言撤回。男は確信した。この女はクズだ。殺して正解だったし、良く考えたらこの女のせいでこんな面倒なことになってるんだから、今すぐ殺すべきだと思った。


 「ほら嬢ちゃん。もうじき完成するけどそんなに見たかったのか?」


 店長が指を差した先には大型の機械のようなものがあった。音を立てて動いている。凄い振動だ。


 「あ、店長!この布切れマジで硬いっスよ!たく、どこでこんなの……」


 そして機械には彼女の衣服が突っ込まれていた。少しずつではあるがズタズタに粉砕されている。恐るべきは神器としての布の耐久性だろうか。


 「わ゛だじのふくがッッッ!!!」


 シュブは慌てて突っ込む。引き裂かれていく衣服に手を伸ばす。


 「おいバカやめろ!また死ぬぞ!!流石にミンチになるのはやばいだろ!!」

 「離せぇぇぇぇぇ!!あぁぁぁぁぁああ!!!!」


 男は咄嗟にシュブを取り押さえる。哀れシュブは機械に手を伸ばすも届かず、ミンチにされる自分の衣服をただ見ることしか出来なかった。


 「あ……あぁ……」


 シュブはミンチにされた衣服を前に呆然としていた。


 「おいあんたの連れ……何かえらい憔悴してるけど……何かあったのか?」

 「分からん……お気に入りの衣服だったんじゃないか?あと連れではない」


 ミンチとなった衣服は錬金術と呼ばれる技術の素材として優秀らしく、価値のあるものだと店長は告げる。男は高い買取金額も納得のいくものだと思った。

 質屋と別れを告げて男は夜の街を歩いていた。ふと騒ぎに気がつく。まるで祭りの喧騒のような人々の賑わい、楽器の音?そして紅い光。炎の煌めきである。


 「なんだなんだ!今夜は祭りがあったのか!ちっ、タイミングわりぃぜ!」


 祭りといえば、豪華な食事に酒がつきものである。男はつい先程、酒場で腹を満たしたのは失敗だったと後悔した。

 だがそれはそれ!まだ腹に余裕はある。男は意気揚々と、遠く見える炎の輝きに誘われるように向かった。

 男は祭りが好きだった。その時だけは、身分の差がない。差別もなく、分け隔てなく平等に幸福を享受できる。例えその一晩の泡沫の夢だと分かっていても、明日になれば現実に戻ろうとも、男は僅かな安息がとても心地よく、そして大好きだった。


 「いいぞー!殺せー!」「リリスさまー!最高ー!」


 だが、男が見た光景は、決して彼が愛した光景ではなかった。

 目に入った瞬間、鼻をくすぶる匂い。男は知っている。男の強面に深いシワが刻まれる。

 そこは広場の中央で、群衆たちが一人の女性を取り囲んでいた。群衆たちの歓声から、彼女の名前は「リリス」であると、男は推察する。

 群衆たちは、皆、恍惚な笑みを浮かべていた。広場中央、リリスの背後では、大きな炎が燃え上がっている。


 「リリス様!このガキです!ヴェスタ様を殺した奴と一緒にいた!」


 酒場の主人だった。彼は、パン屋の少女の髪を引っ張り、広場の中央に立つリリスに連れてきていた。


 「いい子ね、後でご褒美をあげる」

 「り、リリス様の為ならなんだってしますよ!うへへ、おらっ!このクソガキ……!」


 酒場の主人はだらしない声をあげて答える。そして、少女を前へと突き出した。


 「死ね!リリス様を煩わせるなんて!」「あのクソオヤジ同様に娘も殺すべきだ!」


 少女は明らかに怯えていた。街の大人たちが皆、表情を変えて彼女を罵倒する。だが、それ以上に、罵声の中に彼女が気になる言葉があった。


 「パ……パ……?」


 炎の中には、人影があった。少女が連れてこられるより前に、すでにそれは行われていた。


 「……処刑か」


 遠巻きで見る男は呟く。為政者に逆らった者の末路。火あぶり。

 男がこの広場に来た瞬間、感じたもの。生きた人間が焼かれる匂い。何度も見たことがある、吐きそうになるくらい反吐の出る臭い。


 「パパを……どうしたんですか!?お姉さんはだぁれ!?みんな、どうしてこんなひどいことを言うの……?」


 この場で真実を知らないのは少女だけ。広場で木霊する虚しい叫び。


 「少女だからかしら、魅了の効きが悪いのね?」


 リリスは黒焦げになった遺体を掴んだ。炎に包まれたその遺体を、いとも容易く掴む。おおよそ普通の人間ではない。否、人の形をした何かであると思わせるには十分か。


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