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女神殺害

 「……なんだこれは」


 男は気が付き目を覚ますと、そこは平和な世界。緑豊かな草原に寝転がっていた。


 「聞こえますか……私は召喚神シュブ……あなたに生まれ変わるチャンスを与える心優しい女神です」


 光が降り注ぐ。そして光とともにシュブは降臨した。お決まりの登場方法、神界ではこうすることがマニュアルとしてあるのだ。そして先程の蛮行を何食わぬ顔でとぼけながらシュブは慈しみ溢れる女神のように振る舞う。男の転生は無事成功したのだ。


 「さっきのはてめぇの仕業かクソ女ァ!!」


 男は声を荒らげ天からゆっくりと降りてくるシュブに掴みかかる。あまりにも想定外の出来事にシュブは何も出来ず男に掴まれ引きずり降ろされた。


 「ぎゃああああ!!な、何をするんですか!!暴力反対!はんたーい!!」

 「うるせぇヴォケ!人殺しといて暴力もあるか!!」

 「なんのことですかー?証拠とかあるんですかー?私、女神ですよー?そんな無闇やたらと命奪うなんてことできるわけないじゃないですか。ほら証拠ない、妄想おつぅ~」


 完全に舐めた態度でシュブは男に対し挑発的態度をとっていた!事実として、神々の御業を人間が感知できるはずがない。女神であるシュブにとって人間など下等な存在。そんな存在が自分の御業を察知するなどありえないことだった。

 故に男はただ混乱している……自分に起きた不幸、その苛立ちを周りに当たっていると、そう推察したのだ。


 「うるせぇぇぇぇぇぇえ!!しらばっくれんじゃねぇこの殺人売女がぁぁぁぁああ!!!!」


 容赦ない鉄拳!シュブの頬に男の全力の拳がめり込んだ。シュブの頭蓋骨は粉砕!更に脳髄損傷!頭蓋骨及び脳症破裂!すなわち頭部が粉砕された!即死である!


 「ふぅ……悪は滅びた。なんなんだこのクソ女。舐めた態度とりやがって」


 首が粉砕されたシュブの遺体がピクピクと痙攣している。男には動物的直感があった。証拠はなくとも男には分かるのだ。あの奇怪な魔法陣を展開したのはこの女であると。


 『レベルアップしました。』『新たにスキルを獲得しました。』『実績、神殺しを獲得しました。』


 訳の分からないメッセージが突然空中に浮かび上がる。男は困惑した。意味が分からなかった。だが動物的直感でなんとなく理解した。メッセージと同時に活力が湧き上がる。理由は分からないが強くなっていることを実感したのだ。


 「よくわからねぇが……とりあえず金目のものを漁るか」


 シュブの遺体を漁る。衣服を剥がし何か持っていないか確かめた。服の生地は柔らかくて軽く、そして丈夫だ。良い生地なのだろう。血で汚れたが、これは売れそうだと思い、シュブの着ていた服を全て剥がす。

 しかしそれだけだ。舌打ちをする。この女は何も持っていない。高そうな服と、傲慢な態度だけだった。


 「ちっ、自称神の頭おかしい電波女……大方金持ちの箱入り娘ってところか?」


 穴を掘りシュブの遺体を埋葬する。墓を作ってあげたわけではない。経験上死体を放置すると面倒なことにしかならないからだ。よくない獣を呼び寄せたり、流行り病を生み出したり……男にとっては習慣だった。


 「しかし本当にどこだここは……あの隕石みたいなのは何とかできたのか……?まぁ……いいか……とりあえず歩くか」


 男は気ままに歩くことにした。戦場を渡り歩く傭兵。それが彼の日常。それはどこにいても変わらない。

 街に辿り着いた男はとりあえず、シュブの着ていた服を売った。予想どおり高価な生地らしく、しばらくの宿がとれる上に娼婦まで呼べるような大金を得た。だが女を抱く気にはなれない。男は一人、酒場で酒を飲んでいた。


 「まずい酒だ、それに肴もだ。女の趣味も悪い」


 踊り子を見ながら男は愚痴る。そして買った干し肉を齧った。香辛料がまったく効いていない塩だけの味。しかもカビが少し生えている。食えないことはないが、酒場で食うものではない。数ヶ月も秘境を探検している探検家が摂るような食事だ。

 街はそれなりに発展していたが、文化レベルは著しく低いと男は感じた。あえて良い点をあげるなら……治安は良い。男のいた世界ではいるだけで絡んでくるバカだらけだった。


 「よぉ人間、景気はどうだ?」

 「これはこれはヴェスタ様。おかげさまで繁盛しています」


 男の隣に明らかに人の容姿とは異なる存在が座る。ヴェスタと呼ばれたその者は酒場のマスターに馴れ馴れしく話しかけ、マスターはそんなヴェスタに情けなく頭を下げて奥に引っ込み、そして戻ってきた。首輪を付けられた子どもたちを連れて。それを見てヴェスタは舌なめずりをする。


 「クク……やはり人間はガキに限る。柔らかい肉、若々しい精気」


 人身売買か。

 男はその様子を眺めていた。よくあることだった。子どもたちの目に生気はない。薬物か何かで意識が混濁しているのだろう。


 「酒場さん、お待たせしました!今日のパンの配達に……ひっ!」


 酒場に似つかわしくない少女が入ってくる。白いエプロンに頭巾を被って荷物を抱えていた。焼き立てのパンの匂いがして香ばしい。おそらくは酒場にパンを納めているのだろう。少女はヴェスタの姿を見て酷く怯えた。初めて見たのだろう。今まで遭遇しないように時間をずらしていたか……。

 マスターを見る。少女から気まずそうに目を逸らしていた。

 なるほど。そういうことか。


 「なんだぁ……?ヘヘ、おい人間……美味そうなのがまだいるじゃねぇか」

 「ひっ……な、何をするんですか!?や、やめてください!」


 ヴェスタは下衆な笑みを浮かべ、パン売りの少女を掴んだ。両手一杯に抱えていたパンは地面に転がる。嫌がる少女のことなどまるで無視して連れ去る様子だった。周囲を見渡す。そこには警備兵もいた。

 だが、少女を誰も助けようとしない。少女は周囲に助けを求めるが、誰も目を合わせようともしなかった。まるで、そこには誰もいないかのような扱いだった。ただ少女の悲鳴が酒場には響き渡る。


 「───うるせぇぞ。さっきから、ただでさえまずい酒が更にまずくなる」


 酒場は静まり返った。ヴェスタは驚いた様子で声の主に視線を向けた。男がカウンターで一人酒を飲んでいる。初めて見る顔だった。種族は人間……何も知らぬ旅人か。


 「よく聞こえなかったなぁ……?なんだって?俺が誰だか分かってるのか?魔王軍将軍ヴェスタ、あのテュポン様直々の部下を!」


 声を荒らげるヴェスタに対して男はグラスを持ち、ヴェスタに酒をぶっかけた。


 「アルコール消毒って知ってるか?これで多少はその汚い精神性も落ちりゃ良いんだがな」


 男の言葉に怒り狂ったヴェスタは手を出す。人間如き、魔王軍将軍のヴェスタには敵ではなかった。まるで赤子の手を撚るように叩き潰す。そのつもりだった。


 「がっ!ぐぎっ!!ぐごごごこごッッ!!」


 その手が男を掴むよりも早く、男の手がヴェスタの顔を掴んでいた。とてつもない握力だった。何かが割れる音がする。初めて聞く音だったが痛みから確信する。この男は素手で頭蓋骨を握り潰そうとしている。骨が割れていく音なのだ!


 「や、やめ……ッ!」


 その言葉は届くこと無く、ヴェスタの頭部は破裂した。脳漿が炸裂し周囲に散らばる。完全な即死である。


 「雑魚が。手下であることを誇示する犬など駄犬以外のなにものでもない。弱い犬ほどよく吠える」


 少し気分がすっきりした男は何食わぬ顔でグラスに口をつける。勝利の美酒とは美味いものだが、今のは戦いですらない。ただの日常の延長線だ。


 「あ、あんた……なんてことしてくれたんだ!出て行ってくれ!!あぁ終わりだ……魔王軍の将軍様を殺してしまうなんて!」

 「あ?んだてめぇ、まずい酒を出す上に客まで選ぶのか。上等だ!その喧嘩買ってやるよ!」


 酒場のマスターを睨みつけ立ち上がり殴りつけようとした時だった。何かを踏んづけた。足元を見ると先程のパンが転がっている。振り向くと少女が今にも泣きそうな顔をしている。


 「……くそ。おいガキ、このパン買った。ほら料金だ、これだけありゃ十分だろ。だから泣くな!くそったれ!」


 逃げるようにパンと買った干し肉を手に男は酒場から立ち去る。

 外は気づくと月が出ていた。真夜中だ。奇妙な夜だった。月が二つある。そして巨大な月だった。星読みの知識は多少はある。星を読めなくては旅はできない。しかし今、夜空に広がる、星々が彩る景色は、男にはまったく未知のものだった。


 「どうなってんだよこれは……」


 パンをかじりながら男はぼやく。状況がまるで分からない。


 「あぁぁぁあ!!ようやく見つけたぁぁぁ!!この変態!!強盗追い剥ぎ!!性犯罪者!!」


 甲高い女の声がした。振り向くと泥まみれの小汚い女が立っていた。

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