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影法師の咆哮

 魔王城の前にやってきた男たちの前には巨大な城門が立ちふさがっていた。その高さは常人が使うにはあまりにも巨大。見上げるほどに巨大で、そして頑強さを感じさせた。


 「魔王ーぶっ殺しに来たぞー」


 男は城門を蹴飛ばす。城門は変形し吹き飛ばされる。


 「ちょ、ちょっと!そんなことしたら侵入したのバレるじゃん!」

 「今更だろ……なにせこっちは庭を焼いた上に、自宅に木をぶち込んでんだからな」


 城門をくぐると、視界いっぱいに荒廃した広場が広がっていた。かつては中央に壮麗な噴水がそびえ立ち、その周りを上級魔族の館や魔族騎士の宿舎が厳かに囲んでいたのだろう。だが今は、男が投げ込んだ巨木がそれらを容赦なく薙ぎ払い、見る影もない。粉々に砕け散った石材や、無残に折れ曲がった鉄柵が、嵐の過ぎ去った後の荒野のように、無秩序に散乱している。変わり果てた城の姿は、男の並外れた膂力を物語っていた。

 そんな見る影もない広場に、男は敵の気配が来るのを感じた。


 「お、来た来た」

 「ゆう……しゃ……か……!魔王軍将軍……こ、こに……がふっ」


 それでも懸命に侵入者を撃退しに来た将軍を名乗る敵。だがそれも、息絶え絶えであり、名乗りを上げた瞬間、力尽きたのか倒れた。

 男は無言で倒れた敵の横を走り去る。


 「え、えぇ~これマジでいけるヤツ?今までと全然違うじゃん……」


 今までの勇者たちは魔王にたどり着くまでに数多の魔王軍幹部との死闘を繰り広げていた。それだけではない。魔王城に張り巡らされた罠の数々……犠牲になっていく仲間たち……かくして勇者たちは魔王の元へとたどり着いていた。だというのに……


 「ん?これ罠か?何か矢が飛んできたけど」


 男は罠として発射された矢を素手で掴む。突如地面に現れたトゲの上を平然と歩く。落とし穴に落ちようものなら空中で落ちていく瓦礫を足場にして平然と落とし穴から登っていく。毒霧、麻痺罠、転送罠……全て男には通じなかった。


 「む、無茶苦茶すぎる……ううん、違う……これが"英雄”の器……!」


 その全てを成し遂げる最たる理由は、男は紛れもない『英雄の器』だからである。その人間性に問題があり、決して神には認められない歴史の影法師。

 だが、その実力は引けをとらない。かつて主神が配下に収めたヘラクレスと呼ばれる英雄の話をシュブは知っている。

 あらゆる脅威をものともせず、突き進む男の姿が、シュブは話に聞くヘラクレスと重なったのだ。


 「く、くふふ……!そしてそんな英雄を召喚し、所有物としてる私は……主神級……!」


 シュブは涎を垂らしながら、恍惚の表情を浮かべていた。


 「こいつホント、定期的に気持ち悪い顔するよな……」


 そんな様子を、男は眺めながらも進む。魔王の玉座へと。

 やがて重厚な扉を前にする。それは城内の最深部に位置しており、いかにも玉座といった場所だった。

 扉を蹴り飛ばす。同時に男は構える。この扉の先にいるのは魔王。言うならば一番の強敵。男の緊張感はピークに達し、臨戦態勢を取らせる。


 「なっ」


 蹴破られた扉の先が視界に入ったのと同時に、衝撃波が男を襲う。気がついた時、壁に叩きつけられていた。


 「え?ちょっと……なに……してんの?」


 シュブは困惑していた。

 無敵の英雄だったはずなのに、傍若無人、荒唐無稽、傲慢不遜……そんな言葉を擬人化したような男が、今、地に膝をつき倒れているのだ。


 「此度の勇者は……随分と暴れてくれたな……!」


 魔王テュポン。

 この世界に君臨し、その実力は圧倒的。主神すらその圧倒的な力の前に迂闊に手を出さない最悪の魔王。


 「傍らの女は……神性……?そうか、女神が直接、やってきたというのか」

 「そ、そうよ!でもどうしてもというなら許してあげても良いわよ?私は慈悲深い女神として神界では評判なんだから」

 「女神なら、いい苗床になりそうだ」


 魔王が指を鳴らすと、彼の背後に無数の触手が現れる。繁殖特化型の魔族。生物に寄生し、同胞を増やすことに特化した化け物である。


 「え、ちょっと?いや待って?私、女神ですよ?戦闘員じゃないわけ、再挑戦!再挑戦を希望!」


 シュブに戦う手段はない。

 故にその触手型の魔族を見た瞬間、血の気が引いた。彼女は死ぬことも出来ない。永遠に再生し続ける。あれに捕まるということは、永遠の地獄、神罰さえも生ぬるく感じるほどのもの。


 「命乞いをし、服従を誓うなら他所は慈悲を見せても良いぞ?」

 「え、マジで?」


 それは魔王の提案。女神が神界を裏切り、魔王に与するというのなら、苗床による生き地獄は"多少”は多めに見るということ。

 だがシュブは理解していない。結局のところ女神は魔王にとって最上のエサ。強力な同胞を作るための、種でしかないのだ。


 「そうだ諦めろ、矮小な人間どもを勇者に仕立て上げたところで、敵う道理などない。そこの勇者も、同じだ」


 だが、失言だった。

 不用意な魔王の発言が、シュブの心の片隅に残っていた神性を刺激する。


 「はぁぁぁ!?私の勇者は最強なんですけどぉぉ!あ、あんたなんかクソ魔王より!絶対に強いんだから!!」

 「そうか、ならば……」


 触手が怪しく動き出す。伸縮し、狙いを定める。狙いは無論シュブである。


 「う、うぅぅぅ……!私の勇者は無敵なの不死身なの最強なの!!負けてない負けてない!!」


 嘆きとも言えるシュブの言葉。決して服従の言葉は欠片もない。そこにあるのは、召喚神として、自身が召喚した男への信頼か、あるいは錯乱か。

 魔王にとってはもはやどうでも良かった。ただそこにいるのは、惨めに叶わぬ夢を叫ぶ、哀れな女にしか見えなかったのだ。


 「これで勇者などという鬱陶しい連中も、来なくなるということだな」


 放たれる触手。真っ先にシュブへと向かっていく。

 その時だった、シュブの身体を覆う影が一つ、乱暴ではあるが力強い熱が、そこにあった。


 「お前が魔王か、不意打ちとはやってくれるじゃ……ねぇかよぉ!!」


 それは、シュブがこの世界に召喚した男であった。


 「ヒトカスぅ!」


 男はシュブを庇うように前に立ち、そして放たれた触手を掴んでいる。その力強さは触手の動きを完全に封じていた。

 否、それだけではない。


 「ぬめぬめと……気色わりぃンだよ!!」


 男は思い切り触手を引っ張る。

 瞬間、触手型魔族は床に張っていた根ごと引き剥がされる。そして、振り回す。まるで鎖付きの武器のように。


 「てめぇの部下だ!てめぇで始末つけろ!!」


 そして叩き込む!魔王テュポンへと!瞬間、凄まじい轟音が響き渡った。

 魔物を武器として使うという意表。そこをつかれた魔王は直撃を食らうことになる。触手型魔物は魔王に接触した瞬間爆発四散。即死である。その衝撃波は、魔王にダイレクトに入った。


 「無茶苦茶な……なに?」


 魔王の鼻から僅かに血が溢れる。

 数多の異世界転生者、勇者たちがいかなるチート能力やチート装備を行使しても傷一つつけることができなかった魔王テュポン。

 今、その圧倒的存在に、初めて傷がついたのだ。


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