密室の納め時
映像は切り替わり、洋一は面談室で捜査一課の陸奥と向かい合っていた。陸奥の隣にはメモ役の土屋もくっついている。
陸奥が口火を切った。
「我々にご連絡くださったということは、何か思い出されましたか?」
洋一は首を振る。
「いえ、そういうわけではありません。それより捜査の方は進展していますでしょうか」
すると、陸奥は肩をすくめた。
「あいにくです。大変申し訳ありません」
「そうですか。ではまた話が変わりますが、荻窪コーチは『水無月葵がプールで溺れるとは思えない』といったような話をしていましたか」
陸奥は片眉を上げて訝しがった。
「そのような話はしていらっしゃいましたな。……この際なぜそのことをご存じなのかは置いておきましょう。そのことがどうかしました?」
「私はその点を解消し、かつ密室状態を生み出す方法を発見するに至りました」
「ほう。お聞きしてもよろしいですかな?」
「その前にお伺いしたいことが複数あるのですが、お答えいただけますか?」
「それはご質問の内容によりますね」と陸奥は少し眉を寄せた。
「私が伺いたいことは二つです。一つ目は、変温器の温度を変えるためのダイヤルには誰の指紋が付着していたか。二つ目は、現場となったプール場内に葵をプールに落とすような装置、または装置があった痕跡があったかどうかです」
陸奥は質問内容が想定外だったようで、土屋と顔を見合わせた。土屋が何やら耳打ちしたのに頷いてから、陸奥は口を開いた。
「もう一度確認ですが、その二つに答えたら、お考えの密室の解決方法を話していただけるのですね?」
「ええ。約束します」
「いいでしょう。まず一つ目についてですが、単刀直入に言えば指紋は水無月葵さんのものしかついていませんでした。四日前に守衛の酒井さんがプール内を徹底的に掃除したそうで、その際に変温器のダイヤルも拭いたようです。普段はずっと27℃に保っているそうで、誰も触れる機会はないようです。水無月葵さんがいつ触れたのかについては不明です」
「分かりやすくありがとうございます」
「二つ目ですが、我々もその点は詳しく捜査を行いました。ですが残念ながら、これといった手がかりはなかった、というのが答えになります。これでよろしいでしょうか」
「ありがとうございます。では約束通り、密室についての私の考えをお話ししましょう——」