密室を食らわば皿まで
ピンポーン、ピンポーン——。
洋一が目を覚ました。どれくらい経過したのかは分からない。しきりにインターホンが鳴っている。彼は目をこすりながらインターホンに出た。画面には高校生くらいの女の子の顔が映っていた。洋一は通話ボタンを押した。
「どなたですか」
『久石紗世といいます。あの、お花、菊を持ってきたんですけど、お供えしてもよろしいですか』
「葵の友人ですか」
『そうです。こずえと一緒に仲良くさせていただいてました。こずえは今日来られなかったんですけど、私だけでもと思って……いや、ご迷惑でしたら構いません。このまま帰ります』
「ああいや……少し待ってください。今向かいますんで」
洋一は通話を切り、玄関へと直行した。ギギギギと音を立てながら玄関扉を開ける。そこには菊の花束を抱えた紗世が立っていた。透明なビニールに包まれている。
紗世はしっとりとした質感の声で言った。
「こちら、町の花屋さんで買ってきたものです。良かったらどうぞ」
「ありがとう」と洋一が受け取ると、紗世が再び口を開いた。
「さっき警察に呼び出されて事情聴取をされました。そこで葵が亡くなったことを知りました。私は昨日『青葉スポーツワールド』でバドをしてたので何か知っているのではないかと思われたみたいです」
「なるほど、そういう経緯で。外で話すのもなんなのでどうぞ上がってください」
洋一は家の中に手招きした。
「いいんですか。失礼します」
紗世が家に上がった。洋一は物置から花瓶を引っ張り出し、リビングの食卓に置いた。そこに菊を生ける。二人は菊を挟むように向かい合って腰を下ろした。
洋一が切り出した。
「実を言うと、私は現在、葵を殺した犯人を探っています。調査に協力してもらえますか?」
紗世の物悲しげな瞳がわずかに輝いたように見えた。
「私などでよければ何でも」
「まず、昨日の夜の行動について可能な限り正確に説明してください」
「私とこずえは15時以降で予約してたので、二人で15時前に着くように『青葉スポーツワールド』に行きました。使ったのは電車です。入場の手続きをしてから顔なじみの守衛さんにゲートを開けてもらって、体育館でずっとバドをしてました。退出時刻は17時半なんですけど最近ルーズになっちゃってて、17時半までバドやってました。で、私、実は昨日が誕生日だったんですけど、誕生日パーティーするから早く帰ってこいと母からラインが来てたので、後片付けをこずえに頼みました」
「それで君だけ先に帰ったわけですね」
「はい。普通に守衛さんにゲートを通してもらいました」
「昨日の一連の動きの中で、何かいつもと違うようなことはありましたか」
「うーん、特には。バド始める前にこずえにスマホの充電器貸してって言われたので貸したんですけど、返してもらうの忘れてましたね。……ってこんなの何の役にも立ちませんよね、すみません」
「いえ、些細なことでも教えてもらえる方がいいです。他に特にないのであれば、今日の朝の行動を説明してもらえますか」
「9時半ぐらいに起きてずっと家でゴロゴロしてただけです。日曜は学校も部活もないので特にやることがないので」
「分かりました。——今日は娘のためにわざわざ来てくださってありがとうございました。娘も天国で喜んでいるはずです」
そう言って洋一は深々と頭を下げた。紗世は慌てたようにかぶりを振った。
「そんな、顔を上げてください。お父様も大変だと思いますけど、頑張ってください」