そろそろお暇させていただきます。5
『自殺』に関する物語です。
思うところのある方は、読まないでください。
『力任せに希死念慮を遂行したい方は1を。大事に温めてきた希死念慮が孵化したと思う方は2を。むしろ希死念慮と付き合っていくことに疲れた方は3を。希死念慮は人生を賭したライフワークであるという方は4を入力してください』
……哲学なのか、煙に巻かれているのか。
結局、全部同じことを言ってるような気がする。
あと何年人生は残っているんだろう、と奥さん、朝起きるたびにうんざりする。
外に働きに行けるわけでもない。
子育ても結局失敗した。
家事なんてやらないよりマシな程度。
もう、いいんじゃないかなーって。
哺乳類なんてものはね、閉経すればお役御免なわけですよ。
たまーに集団で生活するシャチなんかがね、閉経しても孫の世話してたりしますけどね。
まあ、でもあそこも、娘の孫は面倒みるけど、息子の孫の面倒は知らん顔らしいですよ。
息子の孫っていうか、まず良い年した息子は集団から追い出すから、息子の方の孫なんて知ったこっちゃないんでしょうけどね。
なんぞ誰かの役に立つわけでもなし、やりたいことがあるわけでもなし。
子供のころから、何しに生まれてきたのやらと思っていたのが、
ついうっかり子供を産んでしまったもんで、
あ、種の保存に役立ったんだわ私も、なんて勘違いしてみたものの、
別にいてもいなくても世の中にはなんの影響も及ぼさない母子ですし。
かといって、ひきこもりとはいえ、若い我が子はいつかどこかで外に出て行く覚悟ができるかもしれませんし。
自分の足で歩けるうちに、姥捨て山に登ろうってわけですよ、奥さん。
ライフワークかってくらい長ーいこと温めてきた希死念慮。
そろそろ付き合うのも疲れてきたので、いよいよ終わらせようと思うわけで。
奥さん、深ーくため息をつく。
今さらここでね、オペレーターさんが出て来て、奥さん、早まっちゃいけない。人生探せば楽しいことはいっぱいあるんだから、生きなきゃいけない。一人で家の中いるから余計なこと考えちゃう。ほら、行政に繋がって。心療内科に繋がって。
なんて説教されてもねえ……。
あるいは、まあ、そう、大変だったわねえ、そう、うん、うん、そう、うん。
なんて、話聞いてくれるタイプの人だったとしても、なんかここに来るまでさんざんいろんなこと考えて、これと言って話したいこともねえ、ないし。
奥さん。さっきまで『遂行』の1を入力しようと思っていたのだけど、変に説教されても嫌だなあと思い、ちょっと悩み始める。ていうか、本当に人に繋がるのかな、この電話。
『疲れた』とか『ライフワーク』とかの段階は越えてるから、『孵化』かな。
かな?
いいのかな?
なんでこんな時に限って『それ以外の方』って選択肢がないかなあとか思いつつ、
2を入力。
『ただいま、あの世が大変混みあっております。もう一度、そこから人生やり直してください』