そろそろお暇させていただきます。4
『自殺』に関する物語です。
思うところのある方は、読まないでください。
『希死念慮が頭にこびりついて離れない方は1を。降って湧いた希死念慮に突き動かされている方は2を。今ひとつ希死念慮かどうか確信が持てない方は3を。振り向けば希死念慮の方は4を入力してください』
……無理矢理だなあ、なんか。
死にたい思いが頭から離れないから電話してんじゃないの。
子供を産んだら、そう簡単にうかうか死んでる場合じゃない。
正直、自分の人生の中で『結婚』だの『出産』だの『子育て』だの想定してなかった奥さん。
だってそうでしょう。
死にたい死にたい思ってる人が、わざわざ誰かと所帯持って人間関係広げますか?
子供なんて産んだ日にゃあ、どのツラ下げて子育てなんてするんです?
「生まれてきたっていいことないよー」とか「生きてたって辛いだけよー」とか。
赤ん坊に言えます?
ただでさえ、死にたい自分の遺伝子受け継いでるんだ。
奥さんとしちゃあ、戦々恐々なわけで。
それでも生んでしまった以上育てなければいけないわけで。
奥さん、世にはびこる「母親になれば我が子はかわいい」伝説を信じて子育てする決心をした。
実際赤ん坊のうちはかわいかった。
泣くばっかりで何言ってんのか分かんないが、赤ん坊なんてそんなもんなので、こっちからなんか世話してやりゃあ、いつかは泣き止むのでそんなことは気にならない。
2歳3歳反抗期になっても、相手はちっこい生き物だし、とにかく世話さえ焼いてりゃいい。食わして大きくしてやりゃあいい。
嘘もごまかしもない、ちょっと大人を試す程度のずる賢さなら、なんと純粋でかわいいもんか。
ただね。
やっぱり子育てなんてひとりでできるもんじゃあない。
なんだかんだ、近所だ幼稚園だ小学校だと、よその子、よそのお母さんとの関係も出てくる。
案の定、おまえ昔いじめっ子だったろ?っていうお母さんもいれば、
こんなお母さんに育てられた方がうちの子も幸せだったろうて、なんてえ思えてくる、うらやましい、大層人間のできたお母さんもいる。
ごめんねー、こんなお母さんで。
ごめんねー、お母さんがお母さんで。
気がつくと、旦那が帰って来るまで子供にテレビ見せて、真っ暗な部屋でぼーっとしてた時もあった。
それでもなんとか死ぬのは思いとどまるわけです。
今、ここで死んだら誰が子供の面倒見るんだ、と。
いや、義父母がいるんですけどね。
母親が自殺したら子供の心に傷が残る、と。
いや、小さいうちの方がすぐ忘れるんじゃね?旦那も再婚しやすいんじゃね?
逡巡しながら奥さん、なんとか子供が成人するまで育て切った。
で、成人した子供を見て思ったわけだ。
失敗したと。
なぜなら。
奥さんそっくり。
1日中家に引きこもってる。
クローンかってくらい。
こりゃあ、バチが当たったんだな、と、奥さん。思った。
「生まなきゃよかった」とか「育てなきゃよかった」とかそんな問題じゃあない。
死んどきゃよかった。早めに。
産む前に。結婚する前に。セックスする前に。
死ぬ前になんかしとこうなんて贅沢なこと考えないで。死んどきゃよかった。
母親になっても人間は変わらない。
希死念慮は簡単になんか剥がれない。
奥さん、1を入力した。