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そろそろお暇させていただきます。3

『自殺』に関する物語です。

 思うところのある方は、読まないでください。


『漠然とした希死念慮をお持ちの方は1を。投げやりな方は2を。捨て鉢な方は3を。万策尽きている方は4を入力してください』



 ……『投げやり』と『捨て鉢』の差とは?


 『万策尽きてる』はちょっと前にあった『万事詰んでる』と被ってないか?



 誰とも関わらずに生きて行けば傷つくことも、知らずに誰かを傷つけることもないと考え着いた奥さん。


 ずいぶん長いことひきこもりをしていたが、ひきこもるにしたって親兄弟とは否応なしに関わるわけで。


 早く働け、社会に出てないおまえはごくつぶしだの役立たずだの、プレッシャーはすごかった。


 でもそのプレッシャーにも負けず、実家にひきこもり続けた奥さんの根気もすごかった。


 なぜなら、奥さんにしてみれば、外に働きに出たところで役には立たないバカだし、顔も性格も、いじるのにも無視するのにもちょうどいいブスなので、むざむざ傷を負いに危険な外には出たくない。


 だったら、どんだけプレッシャーかけられても、こんな役立たずを世に産み落としたこの家に責任取ってもらおうと。


 とんだ屁理屈に聞こえるでしょうがね。


 奥さん、当時はいたって真面目にそう考えていた。


 必死にそう自分に言い聞かせていた。


 もうすぐ死ぬから。ちゃんと死ぬから。こんな役立たずのごくつぶし、すぐ消えるから。


 それまで。どーかそれまで。


 面倒見てください、お父さん、お母さん。


 夜、暗くなって。人通りが少なくなって。近所の人に見られない時間になってから、そっと家を抜け出して。


 毎日毎日、あっちの薬局、こっちの薬局から薬を買ってきて。


 大量に薬を溜め込んでいた。


 ひきこもっているときに奥さんがやった最大の努力。


 死ぬ準備。



 まあ、これもね。結局、薬なんて一度に大量に飲めるわけないんでね。失敗に終わるわけですけど。



 なんにしろ後遺症が残らなかったのが不幸中の幸い。


 これがきっかけで家族は「早く働きに出ろー」なんてプレッシャーはかけなくなったわけですが。


 その代わり、何にも言わなくなって、奥さん、すっかり家族の腫物になった。


 お荷物から腫物。


 ちょっと重さは軽くなった。


 軽くなったけど、症状は重い。


 ここで奥さん、開き直って実家に居座るのかと思いきや。


 奥さん、いよいよ家にも居場所がなくなって、とにかく早く死にたいけどいい方法が見つからない。


 あれやこれややろうにも、家族にすぐ見つかるような場所では成功しないので、どっか人気のないところに行こうにも、お金を持たない。


 仕方がないので奥さん、とりあえず交通費を稼ぐために、場当たり的に外で働くことにした。


 あんなこともあったけど、逆によかったのかもしれないと胸をなでおろす家族とは反対に、奥さんは必死。


 とにかくどうせすぐ死ぬからと、苦手な対人関係も仕事も、あんまり真面目にやらずにいたら、結構続けられた。


 さらにどうせすぐ死ぬからと、死ぬ前になんかやっとくことないかなと考えて、そうだ、セックスしとこうと思いつく。


 奥さん、人付き合いなんかできない人だったので、もちろん彼氏なんかいたためしもなく。


 だが、彼氏になってもらうわけじゃないので、なんとか相手も妥協してくれるんじゃないかと。


 そうと決まれば断り続けてきたバイト先の飲み会に、義理で誘われた日に限って突然参加。

 どうせすぐ死んだから、イヤな顔されたって別にいい。


 さらに解散時に、彼女がいないという男を攫ってホテルへ直行。

 どうせすぐ死ぬんだから、相手は特別イイ男でなくていい。


 そしてめでたく処女喪失。



 ところがおめでたい話は続くもので、


 なし崩し的に週末ごと、その男とデートとセックスを繰り返しているうちに、なんとご懐妊。


 男もまた律儀なもんで「じゃ、結婚しよう」のプロポーズ。


 あれよあれよと奥さん、死ぬタイミングを失っていきました。 処女と一緒に。



 剛毅果断のこの世におさらば計画が失敗して、予定してなかった人生が始まった、奥さん。


 それでも。

 

 今またここで『万策尽きて』4を入力しているわけでございます。

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